秋祭り ( No.1 ) |
- 日時: 2012/10/21 18:50
- 名前: マルメガネ ID:fAzEILbM
小高い丘の上のお宮から、笛と太鼓の音が微かに聞こえる。 参道には露店が並び、秋祭りの雰囲気が出て、参拝する人たちが行き交って活気に満ちていた。 その参詣人に混じって、隻眼の龍騎と千穂と辰美は石段を上りながら、帰りは何を食べようかとあれこれ考えていた。 喫茶店でシロノワール。餃子の王将でセットメニューにするか。 秋はまた食欲の秋でもあって、これには誰しもが勝てない欲望である。 石段を上っていると腹の虫が鳴いた。 誰からだろうと、辺りを見回すと石段を上っている龍騎からだった。 「は、腹減った」 龍騎がつぶやく。 朝から何も食べずにいたらしい彼は、参道の露店で何かを買って食べていたが、それでも足りないらしい。 お祓いを受けて、お宮から神輿が出た後、三人はまた石段を下りた。 参道からは、喫茶店で食べるシロノワールより餃子の王将に行くよりも、露店から漏れ流れている匂いがさらに腹の虫の鳴き声をひどくした。 それぞれに屋台に駆け込み、神輿が戻ってくるまでに、それぞれに好きなものを買って食べる。 よく晴れた、深まってゆく秋の空の下の賑わいはまだ続いていた。
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餃子の精 ( No.2 ) |
- 日時: 2012/10/22 23:40
- 名前: もげ ID:HL7UpBFQ
彼女は甘党だ。好物はクリームたっぷりのシロノワール。さくらんぼは最後に取っておく派で、機嫌を損ねたくばそれをつまんで口に入れてしまいさえすれば1ヶ月は根に持たすことが出来る。 僕は別にさくらんぼが好きなわけではないが、彼女の膨らんだほっぺたやら子どものように駄々をこねる様子を微笑ましく思っているので、つい手が伸びてしまうのだった。 3日前も同様で、彼女があまりに幸せそうにクリームを舐めているので、僕の嗜虐心がデニッシュ生地のようにむくむくと膨らんでしまった。 一瞬まばたきした間に皿の端によけてあった赤い実を掠めとり、一連の流れで口の中へと放り込む。 彼女がそれに気付いて悲痛な叫びをあげながら赤い軌跡を辿る様子が、今もスローモーションで瞼の裏に完全に再現できる。 『馬鹿なことをしたな』同時に、『たかがそれだけのことで』。 僕は冷めて固くなった餃子を箸の先でもてあそびながら息を吐く。 わかってる。原因はそれだけじゃない。それはきっかけに過ぎない。しかし間違いなくそういったことの積み重ねがお互いの間に亀裂を生んで行ったのだろう。 初めて出会った秋祭り。あの頃はまだ不器用ながら思いやりあっていたのに、時間と共に僕は相手を雑に扱うようになってしまった。 決して愛情が無くなった訳ではなかったが、思いやりをなくしても大丈夫だと変な風に甘えてしまったのだ。 ぐじぐじと餃子をいじめようとした箸先で、急に皿が交換された。 突然現れたホカホカな餃子に面食らっていると、ふと目先が暗くなり、誰かが正面に座ったことが分かった。 「お客さん、いけないな。餃子が泣いてるぜ」 顔を上げてみると、40代半ばかと思われる隻眼の厳つい顔の男が座っていた。 そっちの世界の方かと思わず浮きかけた腰は、しかしそのまま椅子に落ちた。 このまま突然逃げ出した方がよほど怖い目にあいそうだというのもひとつだが、それよりも片方しかない黒い瞳が何故だかとても優しそうに見えたからだった。 「熱い方がうまいぜ」 男は割り箸を歯で割ると、目の前の皿から湯気を立てる餃子を口に運んだ。 眉をしかめてはふはふと口から湯気を逃がす様子は、厳つい顔にあって少し滑稽で愛嬌があった。 ほら食えよと言わんばかりに皿をこちらに押しやるので、食欲はまったくなかったが僕はありがたく餃子を頂いた。 やっぱり熱くてはふはふなったが、それがなんだかおかしくなって思わず笑っていた。男も僕の方を見やってにやりと笑った。 「…すみません。なんだかご馳走になってしまって…」 いつの間にか会計を済まされてしまい、財布を開けようとするのを頑なに固辞するので、僕はしかたなく頭を下げて礼を言った。 「なに、おめぇの為じゃねぇさ。餃子の為だ」 ビールを飲んで上機嫌のような男は笑って言った。 「あの、お名前は…」 「俺は餃子の王将の妖精さ。餃子をおいしく食べてもらうのが俺の使命なのさ」 がっはっはと豪快に笑う男に、僕はつられて笑いながら内心で頭が下がる思いだった。 大切な人にさえ忘れてしまった思いやり。この自称『妖精』は見も知らない僕にさえそれをくれた。 次は間違えない。僕はもう一度、この隻眼の男に頭を下げた。 おわり
------------------------------------------------------------ とてもとてもとてもお久しぶりです。 そして激しく遅刻して申し訳ありません。 締め切りぎりぎりに投稿しようとしたら無線LANちゃんが 反乱をおこしたの。でも言い訳ですね。すみません。 てっきりもうなくなっちゃったのかと。 久しぶりにのぞいたらやってたのでうれしくなっちゃいました。 また参加させて頂けたら嬉しいです。 もげ
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感想 ( No.3 ) |
- 日時: 2012/10/23 00:20
- 名前: もげ ID:C0gKAaVc
>マルメガネさま お祭りの空気感が伝わってきてよかったです。 音とか香りとかちょっとした侘しさやわくわく感がいいです。 彼らは結局何を食べたんでしょうね◎
>自作 なんというか溢れるおやじ愛が全てです。 すみません。 またぼつぼつ参加させて頂けたら幸いです。
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感想 ( No.4 ) |
- 日時: 2012/10/28 20:44
- 名前: マルメガネ ID:eUI4puI6
>もげ様 初めまして、かな? 主人公の悔恨の意と、どこかの中華料理屋 の雰囲気が出ていますね。 僕には書けない描写でした。
>自作 ショートショートの影響が大きくていつも 短い。
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