今日は36分三語♪ ( No.1 ) |
- 日時: 2011/08/07 23:59
- 名前: 水樹 ID:TRpI9nSU
RYO様、ご結婚おめでとうございます。
お題は、「結婚式」「見間違い」「アイス・バーグ」です。縛りはハッピーエンドです。
お盆休み、じゃあ、行こうかと妻を車に乗せ、車を走り出す。毎年僕の田舎で親戚が集まる。山奥の田舎にいる間、大人達はビールを飲んで、ダラダラと過ごしていた。 「空港?」 「そうさ、これからヨーロッパさ」 僕は妻の願いを覚えていた。結婚式はアイス・バーグでしたいなと、漏らしていたのを覚えている。ごめんなちょっと遅れたけど。そんな思いを噛みしめ。有名な山脈が連なる国へと到着し、チャーターしていたヘリに乗り、頂上へと向かった。 そこは世界で一つだけの山頂にある教会。夏でも雪景色に目を奪われる。 「あれがチョモランマね。見れて幸せだわ」 見間違いもいい所だ。でも、妻が幸せならそれでいい。 頂上に着くと親戚一同が祝福してくれた。勢いの強いクラッカーの花が谷底へと静かに落ちて行く。 妻と僕はすぐに着替えた。 世界で一番高い所での神聖な誓い、白銀の薔薇の庭園、いつまでも真っ白な心で妻を愛すると僕は誓う。
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カララルクルル ( No.2 ) |
- 日時: 2011/08/08 00:10
- 名前: 片桐秀和 ID:me/KDOio
『――二人だけの言葉を作らない?』
結婚式の招待状を見たとき、澄んだ鈴の音のような声が心に響いた。それはありえないはずの招待状と、忘れていたはずの声。わたしは改めて差出人の名前を見る。 雪村恭子。 思わず名前を疑ってしまう。見間違いではありえない。彼女の名前、彼女の筆跡だ。 遠い昔のある夏休み、都会からやってきた恭子とわたしは友人になった。出会い、共に過ごし、親友と呼べるほどの仲になり、そして夏休み最後の日に別れた。絶交したのだ。 わたしは手紙を手にしながら、居間へと向かう。汗ばんでいるのが分る。心が波立っているのだ。興奮と驚き、そして焦り。ひとまず何か冷たいものを飲もうと思って、廊下を歩いた。すぐに答えを出すことはできない。 居間に接した台所に入ると、冷蔵庫を開けて麦茶を注いだ。火照った体がキュと絞られるように、冷たい感覚が喉を降りていく。ようやく少し落ち着くと、心に浮かぶのはやはりあの声だ。
――わたしたちだけの言葉を作りましょうよ。世界の全部をわたしたちの言葉に変えていくの。
その時のわたしに彼女の言葉の意味を十分理解できていたとは思えない。それでもわたしは頷いた。東京からやってきた彼女は美しく、なにより自信に満ち溢れているようだった。この子と仲良くなれば、わたしは何かべつのものになれるのではないか。わたしも彼女のようになれるのではないか。そう、思えた。 わたしたちは村を回り、野を駆け、川を渡って、夜空を仰ぐ。わたしたちはずっと一緒に行動し、同じものを見、同じものを感じて、そしてその時の気持ちを自分たちだけの言葉に変えていった。
アイス・バーグを二人で見たときの感動は、リリアルッパ。 夜の闇の中で、はぐれた相手を探す時の不安は、サミタミ。
それは全てが魔法の言葉で、わたしたちは自分たちがまるで世界の秘密を知っているように、そうした言葉を使って会話をし、くすくすと笑って楽しみ、そしてまた新しく言葉を作り続けた。それは永遠に続く時間だと信じていた。 だからわたしは、夏休みも終わろうとする頃、彼女が唐突にわたしにそっけない態度をとり始めた時、困惑するよりなかった。どうして? なんで? と問いただしても、ろくな返事は返ってこない。次第にわたしの口調は激しくなり、自分でもわけがわからないままに絶交を告げた。彼女は酷く驚いた顔をしたが、何か言おうとする彼女を振り切りようにわたしは背を向けて歩き出し、振り返らないままに彼女と別れた。
もう一度招待状を見る。そこには、参加の是非を問う以外に、一言書き添えてあった。
カララルクルル。
それは――、それはわたしと彼女が最初に作った二人の言葉。二人が出会えた喜びを、一生忘れないという意味を込めたおかしな言葉。 わたしは小さく笑って、ありがとう、と呟いた。
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