Re: 即興三語小説 ―「複合」「傷口」「ひなた」 〆切を4/15に延期します ( No.1 ) |
- 日時: 2018/04/15 17:03
- 名前: もげ ID:o8OAlW4s
こんにちは。 なんだかここのところ投稿が私だけなのでご迷惑になっていないか心配です……。 ……が、とりあえず書いたので投稿します。 ---------------
獣がうなるような音が聞こえたが、ザザはなるべくそれを聞かないふりをして傷口の縫合にあたった。 弾丸は貫通して残っていなかったのが幸いした。傷は酷かったが、適切な治療をすれば命に別状はない。 ただし、麻酔が無かったので奥歯を砕かぬように猿ぐつわを噛んだロゼにとっては、死ぬほどの苦しみかもしれなかった。 いっそ気を失った方が楽かもしれなかったが、気丈な少女は目を見開いて息絶え絶えながらも苦痛に耐えていた。 「もうちょっとで終わるからな」 さすがに傷口を見たら意識を保てる自信が無かったので、中空を睨み付けていたロゼだったが、その声に少しだけ視線をザザの方へ向ける。 目をやると、ザザはロゼの左足を跨いで座り、こちらに背中を向けていた。ザザの後頭部を見て、それがロゼに傷口を見せないようにする気遣いだと知った。 オーバーオールを着た、5歳の少年ほどの大きさの背中。ヘルメットをかぶっているが、そのヘルメットの上部左右は大きく穴が開いており、そこからぴくぴくと動く毛むくじゃらの大きな耳が生えている。 ザザは猫と人の複合体だった。 人類が造り出した禁忌の存在、それがザザだった。 いったいその毛むくじゃらの手でどうやって、と思うが、彼の手は見た目によらず大変器用だった。 「よし……っと」 ぷつん、という微かな反動が痛みと共に感じられ、縫合が終わったことを悟った。 続いて冷たい感触が傷の周りを拭い、包帯が巻かれていくのを感じる。 ようやく苦行が終わったことを察して、強張った顎から自分でねじ込んだ猿ぐつわを外した。 大きく息を吸い、長い息を吐き出す。 緊張を強いられた全身を弛緩させるように何度か呼吸を繰り返してから、ロゼは口を開いた。 「……ありがとう、助かった」 辺りに散った血液を拭い、道具を片付けなから、ザザは少々照れ臭そうに髭を鼻に寄せた。 「悪かったな、ろくに道具も無いところで」 ロゼは首を横に振ったが、思った以上に体力を消耗していたようで、きちんとジェスチャーが伝わったかどうかはわからなかった。 安心したのか、急に睡魔が意識を蝕み始め、夢とうつつの狭間をさ迷う心地よさが全身を包んでいく。 瞼が重くなり、目を開けているのが困難になってきたが、気配でザザが頭のそばに座ったのが分かった。 「……ねぇ、神様はいるのかなぁ」 我ながら幼児のような質問だと思ったが、死の間際に立って率直な質問が口をついて出た。 もう目を開けていることは出来なかったが、ザザが身じろぎをして、額に冷たい感触が落ちてきたのを感じた。 気持ちのいい感触。多分、肉球だ。すぐに離れて残念に思う。 「……創造主って意味ならオレの神様は目の前にいるけどな」 しばらくザザの言葉の意味を飲み込めずに言葉を舌の上で転がしていたが、ふいに、そうかという思いがした。 「ザザにとっての神様が人間だとして、人間にも神様がいるとしたら、その神様にだって神様がいるかもしれないね」 しばらく沈黙があって、思わずうっすら目を開けると、ザザはとても複雑な表情をしていた。 意訳すれば、何を言ってるんだこいつ、という顔だ。 思わず頬が弛む。 「そうか、カミサマも私達みたいに、完全な存在ではないかもしれないんだね。だから誰も救えない。救わないんじゃない、救えないんだ」 ロゼはこの考えがとても気に入ったようだった。 何度か満足そうに一人で頷いて、再び目を閉じた。 「全部が終わったら、何をしたい?」 独り言のように小さな囁きだった。 もしかすると自分に向けて言っているのかもしれなかった。 しばらく沈黙があってから、ザザは仕方なく口を開いた。 「オレは日がな一日ひなたぼっこをしていたい」 もはや聞いていないと思っていたが、顔を向けるとロゼは目を開いてきょとんとした顔をザザに向けていた。 「猫っぽいだろ」 ザザが鼻をかきながら言うと、ロゼは破顔した。 「最高。いいね、私も青い空の下に寝転んで大の字で寝てみたい。うん、いいね。すごくいいよ」 こんなに屈託のないロゼの笑顔は初めて見たとザザは思った。 ぽふぽふと、肉球で頭を叩いてやると、ロゼはくすぐったそうに笑い、すぐに子供のように眠りに落ちた。 ザザもその傍らで目を閉じ、日だまりで丸くなる様を想像しながら眠りに落ちていった。 (おわり)
|
|