よくあるスキー場でのおはなし ( No.1 ) |
- 日時: 2018/03/05 01:31
- 名前: もげ ID:RSC7.bmc
こんばんは。閉め切りオーバーしてしまいました。すみません。 携帯から投稿しようとしたらなぜかエラーになってしまいました。 パソコンからリベンジ。
2010年頃に投稿させて頂いておりましたもげと申します。 久々に参加させて頂きます。 うまくまとまらず……未消化ですが、久々に小説を書けて楽しかったです。 また機会がありましたらよろしくお願いします。
---------------------------- 一面の銀世界。うるさいほどの静寂と、ほとんど痛みと言っていいほどの寒さ。 楽観的な青空が現実感を欠いていて、人が死ぬ時にはそぐわないシーンだとぼんやり思った。私が映画監督だったら、こんな晴れた日にヒロインの最期のシーンは撮らない。でも、実際はその「らしくなさ」がリアルなのかも知れない。 「ヒロインって柄でもないか」 言って、感覚の無くなった鼻に手袋をした両手をあてがって息を吐く。白い息がほんの少し鼻を暖める。しかしすぐに冷気が押し勝って、余計に冷たさを感じた。 「こういう場合は下手に動かない方がいいのかな」 独り言が増えるのは、不安を誤魔化そうとしてるからだ。落ち着いたような声を出して、その声を聞いて落ち着こうとしている。 「でも夜は越したくないな。明るいうちに人のいそうな方向を目指すか...」 滑り落ちてきた先を見上げてみたが、とても自分の力だけで登れそうな様子ではなかった。 「おぉーーーい」 何度目かの大声をあげてみるが、草木が雪を落とす音しか返ってこない。 はぁ、とため息をついて足元に視線を落とす。レンタルのスキー板。これも脱ぐべきなのか考えあぐねていた。スキーは得意じゃない。というか、まだ数回しか経験がなく、まだ自分のものにできていなかった。怪我のリスクを考えたら脱ぐべきだ。でも、雪の中に足を突っ込むのはとんでもなく冷たいに違いない。機動力が落ちるのも目に見えている。要は勇気が出なかった。 大学のサークルで毎年企画されているスキー旅行に初めて参加した。運動音痴の自分にとってスキーはさほど魅力には感じなかったが、想いを寄せる先輩が参加するとあっては断る理由を思い付かなかった。先輩はこの春卒業する。想いを伝えるにはこれが最期のチャンスだと思った。 でもこんなことなら参加するのではなかった。みんなスキー・スノボの経験者で、自分は全くお呼びでなかった。せめて迷惑にならないよう少し離れて練習していたらこの様だ。曲がるところを曲がりきれずコースアウト。夢中で尻餅をついてなんとか怪我は免れたものの、滑りついたところは人気のないところだった。 「コースからはそんなに離れていないはず。きっと誰かが気付いて救助を呼んでくれる……」 口では楽観的なことを言いつつも、頭の中は悪い想像ばかりが巡っていた。震えているのは寒さのせいばかりではなさそうだった。 「寒い……」 慣れない運動でかいた汗が体を冷やしていく。足先も指先も既に痛みを越えて感覚がなかった。喉の奥がつんと痛み、涙が込み上げてくるのをなんとか唾を飲み込んでやりすごす。ただただその場に佇むしかなかった。 「おねーちゃん、まいご?」 突然、背後から声がした。 びっくりして振り返ると、少し離れたところに男の子が立っていた。振り返ってから、あ、これまずいやつだ、と思う。 男の子はスキーウェアのようなものを着ていて、毛糸の帽子を深く被っていた。スキー板は履いていない。 「みんなとはぐれちゃったの?」 あどけない声がやけに大きく響く。帽子の下から覗く黒い瞳がじっとこちらを見つめている。 こんなところに男の子が一人でいるはずがない。すぅっと背筋に汗が一筋流れる。 「どうしたの?」 「待って」 一歩こちらに踏み出そうとするのを見てとって、思わずそれを制する。 「ま……待ってるの。友達と待ち合わせしてて、それで……」 男の子は足を止めて首をかしげる。 「一人じゃないの?」 「そうなの。もうすぐ皆が来る予定。ちょっと遅刻してるだけで……」 思わず男の子から遠ざかりたい気持ちが、重心を乱した。「あっ……」次の瞬間、天地がひっくり返って雪の上に頭から倒れた。幸い雪がクッションとなって衝撃はさほどなかったが、転んだショックで固く閉じた目をゆっくり開いたところに、男の子の顔が間近にあった。「また今度遊ぼうね」 にいっと笑った顔は二度と忘れられない。私はそのまま意識を失った。
次に起きたところは病院のベッドの上だった。私はあの後無事に救助されたようだった。頭を打って朦朧としていたとのことで、すぐに発見されなければ危なかったとのことだった。 「実は変な手紙がポケットに入ってたんだ」 先輩がそっと打ち明けてくれたことによると、レンタルしたスキーウェアのポケットに子どもの字で「こんや だいじなものを ぬすみにいく 怪盗アール」と書かれたメモが入っていたそうだ。 「意味はよくわからなかったけど何だか胸騒ぎがして。そしたら君がいないことに気付いてさ」 何でだか、その手紙はあの男の子が書いたものだという確信が持てた。 「あとでスキー屋にレンタル品を返しに行くときに噂を聞いたんだけど、4年前の今日、事故で亡くなった子がいるらしいんだよ。その子のイニシャルはR。ね、もしかしてその子が知らせてくれたのかな?」 興奮した様子で話をする先輩をよそに、男の子の顔を思い出して、私は思わず我が身を抱いた。あの子が助けてくれたのは気まぐれだと感じた。あのとき、「一人だ」と言ったらきっと向こう側に連れていかれていたという気がした。四年後の今になってもあの子は仲間を探してさまよっているんだ。 生きて戻れたことが奇跡だと感じた。抱き締めた体が暖かく、愛しくて涙が流れた。 (おわり)
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