Re: 即興三語小説 ―「装着」「ミックスフリーインク」「初冠雪」 ( No.1 ) |
- 日時: 2016/11/09 19:16
- 名前: マルメガネ ID:hjW.Rhew
アート作品
それは緻密で、また繊細に描かれる。 さらさらと紙の上を走るアートペン。アートペンに装着されたコンバーターにはミックスフリーインクをブレンドしたオリジナルインクが入っている。 そうしたペンが何種類も用意されていて、それぞれにはブレンドの割合を記した紙がセロハンテープで貼り付けられ、またそれぞれにはそうして作られたインクが入っていた。 使い手のアートペン絵画作家は初冠雪した山岳の絵を描く。色鮮やかに発色するインクを重ねつつ一つの作品に仕上げるのだ。 それは数時間で終わるものから数日かかる大作までまちまちだが、根気よくそれなりの手法を変えて描いてゆく。 その絵画が完成すると、彼はネットで尽きたインクの色を発注した。届くまでの何日かは構想を練り、アートペンの手入れをし、インクが届くとブレンドを楽しむ。 そして次の作品にとりかかる。 それは緻密で、また繊細に描かれる。
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今回は難しいなぁ。なんだかよくわからない作品になったがこれが精いっぱい。
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Re: 即興三語小説 ―「装着」「ミックスフリーインク」「初冠雪」 ( No.2 ) |
- 日時: 2016/11/27 19:35
- 名前: みんけあ ID:8GkPwlOo
▲必須お題:「装着」「ミックスフリーインク」「初冠雪」 ▲任意縛り:最初の一文と最後の一文を同じにする
僕は消える
彼女の温もりを忘れずに僕は消えるとしよう。 みんなとの思い出が心地いい。
「やりましたね。家電話さん」 「ありがとうございます。いやはや、久々にびっくりして声が裏返る所でしたよ」 「格好良かったぜ」 僕たちは家電話さんの活躍を称える。足があったら総立ちで、手があったら拍手喝采だろう。 「いいな、俺も最後にミックスフリーインク装着されたのいつか覚えてないや」 万年筆君が愚痴をこぼす。そう、僕たちは使われる事に生きがいを感じる。 「これも時代の流れというやつですかね」 家電話さんが嘆いては呟く。時代の流れ、悲しきかな人間は新しい物好きで、必要の無い僕たちの事は気にも留めず放置する。携帯電話と言う物が出来てから、家電話さんの活躍は少なくなった。最近じゃスマートフォンが人間の必衰アイテムとなっている。 羨ましく思っても、僕達は疎ましく思ってはいない。新しく来る彼らは入れ替わりが早い。使用頻度、消耗が激しいとその分僕達の寿命は縮まる。それでなくても人間は勝手に僕達の寿命を決めては使い捨てる。年に一回、大掃除という日に使われていない物達が無残にも処分される。愛着が無い物は感謝の言葉も無くゴミと化す。 人間は知らない。僕達にも命があることを。何も訴えず、決して自己主張しない僕達の事を。 「それにしても格好良かったぜ、うちの旦那がいなきゃ惚れてるぜ」 近くの山で初冠雪だと言うのに彼女のテンションは高い、暖かい日が続いたからだろう。 「恥ずかしいので、これ位で勘弁して下さいね」 「まだまだこれからだぜ、こんな目出たい日は久しぶりだからな、盛大に祝おうぜ」 僕の彼女は温度の変化で口調が変わる。彼女は温度計。湿度計の僕と隣り合わせだ。夏の蒸し暑い時や、冬場の乾燥した時ぐらいに見られるだけで丁度いいと僕達二人は納得している。その日は彼女のテンションが下がる夕方まで、みんなで家電話さんを褒め契った。 人間がいなくなると、他愛もないことで一喜一憂する僕達。そんな日がいつまでも続くものだと僕達は思っていた。
その日はいつもと違っていた。 「あちいな、なんだ真夏か? サマーか? 常夏か?」 もし、僕達が人間で目の前が海だったら、彼女は水着に着替えずに泳ぎだしたろう。テンションが上がった彼女が真っ先に異常を感じた。 火事だ。逃げる術もない僕達は絶望する。火の手はすぐに上がり、中には発狂し訳のわからない歌を歌う輩もいた。 「いやはや、この間はありがとうございます。一番輝けた時に友に祝ってもらえて最高の一時でした」 家電話さんのすることが何となく分った。 「駄目だ! そんな事をしたら家電話さんの寿命が一気に」 「いいんです。最後に御役に立てれば、これも時代の流れというやつですかね」 家電話さん。力を振り絞り、受話器を落とし、消防署に電話する。 みんな出来るだけの事はした。 蛇口君。ネジを外し水を出しっぱなしにする。 冷蔵庫さん。炭酸水のジュース君達を起こし、消火器代わりに噴出させる。極限まで周りを冷やす。 僕に出来る事は、湿度しか測れない僕に出来る事は、一つだけ、そう一つだけしかない。やれるかどうか分からないけど、どうか、どうか僕に力を、願いを、神様なんて信じてはいないけど、もし、僕に命を下さった神様がいるとするならば、本当にいるとするならば、どうかどうかお願いします。僕の命と引き換えにどうかみんなを助けてはくれないか。 「お前ふざけんな! 畜生! やめろ!」 彼女は僕に訴えかける。僕がこれからする事を知っているかのように、 「そんな事をしたらてめえぶっ殺すぞ! 一生許さないからな!」 彼女の悲痛な叫びが僕に突き刺さる。 「ごめん、今まで一緒にいてくれてありがとう。本当にありがとう」 永遠とも言える寿命を一瞬で昇華する。 気体となった僕に彼女の怒りが木霊する。 悔いは無いとは言えないが、これで良いと僕は思っている。 湿度を極限まで高める事に僕は成功した。 やれるだけの事はした。 家電話さんの最後の思いは届いたのだろうか。 冷蔵庫さん達の行動は果たして成功しただろうか。 蛇口君含め、自己を壊した物達は修理に出され報われるだろうか。 僕がいなくなっても彼女は寿命を全うしてくれるだろうか。 時間の経過も分らない。彼女からの言葉はない、もはや僕に彼女の言葉が届かないだけかも知れない。みんながどれくらい犠牲になったのかも分らず、霧が晴れるように意識は薄れていく。 死の恐怖などはない。ただ漠然と消失していくのだけが分っている。その中で僕は切に願う。消えゆく中で願い続ける事しか出来ない。 誰でもいい、誰でもいいから僕たちの事を分ってもらいたい。何も言わず決して主張せず、ただ使い捨てされる僕達の事を分って欲しい。 生まれ変わりなんてあるとは思えないけど、もしあるとするならば神様、僕達を創造した神様、どうか、どうかお願いします。 そこは日差しが心地いい日曜日、 「よし、結婚するぞ」 彼女の思いつきで僕たちは急遽、庭で結婚式を上げる事になった。 即席で作った純白のウェディングドレスの彼女はベールを上げて無垢な笑顔を僕にみせると、 「死ぬまで愛してるぜ、今度勝手に死んだら許さないからな、一生離さないからな」 僕の誓いの言葉を簡単に奪う。 「二人を祝福します。誓いの口づけをと、いやはや、これも時代の流れですかね」 神父役の家電話さんが言う前に、彼女は僕に飛びつき、唇を重ねていた。恥ずかしいかな熱烈過ぎて回りが囃したてる。 あれ? 寿命を全うした僕の走馬灯だろうか。もうそれすらも理解できない。 意識が混濁し訳が分らず、思考が思考を追い越していく。 全部、今まで僕の妄想だろうか。こうなって欲しいとの理想だろうか。 涙も流せない、狂おしい程の胸が締め付けられる思いも沸き上がらない。それでも僕は、意識が途絶えるその時まで、輝かしい光景を切に思うとしよう。 彼女の温もりを忘れずに僕は消えるとしよう。
大分遅れました。
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