私がしばらく土曜日にチャットにこれない可能性が高いので、しばらくミーティングを日曜の21時に変更します。 -------------------------------------------------------------------------------- ●基本ルール 以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。 ▲必須お題:「蚊取り線香」「蕎麦」「風呂」 ▲縛り:「熱帯夜の情景を出す」「扇風機が回っている描写をいれる」「登場人物に上着を脱がせる」 ▲任意お題:「淫行軍人」「巾着袋」「エロいのはいけないと思いますっ」「しわぶき」「やぶ蚊」「鈴木! 鈴木! 佐藤! 佐藤! そして、」 ▲投稿締切:7/10(日)23:59まで ▲文字数制限:6000字以内程度 ▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません) しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。 ●その他の注意事項 ・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要) ・お題はそのままの形で本文中に使用してください。 ・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。 ・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。 ・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。 ●ミーティング 毎週土曜日の22時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。 ●旧・即興三語小説会場跡地 http://novelspace.bbs.fc2.com/ TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。 -------------------------------------------------------------------------------- ○過去にあった縛り ・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など) ・舞台(季節、月面都市など) ・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど) ・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど) ・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど) ・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など) ・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など) -------------------------------------------------------------------------------- 三語はいつでも飛び入り歓迎です。常連の方々も、初めましての方も、お気軽にご参加くださいませ! それでは今週も、楽しい執筆ライフを!
「鈴木! 鈴木! 佐藤! 佐藤! そして、――山田? 山田ぁぁぁぁぁ! まさか、お前もか! どこだ! 返事をしろ!」 すぐ隣にいたはずの右腕の山田の気配さえなくなっている。暗闇の中、誰の返事もない。扇風機の回る音がうるさい。その扇風機は蚊取り線香の煙を部屋中に充満させて、息苦しさを感じる。「く、視界がかすむ……ここまでか」 ふらふらになりながら、何とか窓際まで行き着く。「都会の熱帯夜が懐かしいぜ」 カーテンの向こうから、ぽつんと立つ街灯の淡い光が差し込んでいた。遠くに、牛蛙の低い鳴き声が聞こえる。「一体、誰だったっけ? 田舎のほうが生きやすいと言ったのは?」 高橋はもはやここまでと、自嘲気味に笑って、月を見上げる。都会にいたときよりも、美しく見えるのは、ここの空気が綺麗だからなのか、それとも、もう長くないからなのか――。「隊長、エロいのはいけないと思いますっ!」 そう真剣な目で山田の意見に異議を申し出てきたのは、まっすぐな性格の鈴木だった。「いやしかしだな。このひと夏の思い出に、大人になった記念にこれは譲れないだろ? もっと正直になれよ」 鈴木は山田に向かって、いやらしく微笑む。「お前と一緒にするな!」 鈴木が苛立って、山田に食ってかかる。「なんだと! 隊長の腰巾着のくせしやがって」 山田も負けていない。鈴木に顔を近づけてにらみ合う。「誰が、隊長の巾着袋でもかまわないさ。そんなことより、本当に大丈夫なんだろうな? 淫行軍人さんよ」 そう混ぜ返すしたのは、佐藤だった。「それはほめ言葉だぞ。たしかな筋からの情報だ。間違いない。隊長どうします? 俺はずっとここにいても、ジリ貧だと思います」 山田が高橋をじっと見る。高橋の部隊に静寂が訪れ、高橋の次の言葉を待った。 山田の言いたいことは分かる。目的がなんにせよ、確かにずっと都会にいても、たかがしれている。どうせ、皆この夏で燃え尽きる命、はだけた健康的な白い柔肌にこの逸物を突き立てても、罰は当たるまい。「ここは確かに、我々には生きにくい。熱帯夜こそ、我々の生きる世界のはずが、あいつらと来たら、今では無味無臭の毒ガスまで仕掛けてくる始末。残念ながら我々には、それを防ぐすべはない。ここは戦略的撤退、あるいは生きることへの勝利を信じて突き進むのも悪くない」 高橋は自らの言葉に深く頷く。「俺は風呂上りを狙う。あのほてった身体に俺の印をつけてやるのさ。たまんねぇな」 山田が今日一番エロ顔をする。そんな山田に鈴木が気に食わない表情をしてみせるが、山田は気にも留めない。「佐藤は何を狙う?」 山田が佐藤に尋ねる。「飯でも食ったあとだな。無防備になったところをいきなり襲ってやるよ」「そんなこといって、またこの前みたいに、はたかれて蕎麦の麺つゆに顔から突っ込んでいかないでくださいよ」 鈴木が混ぜっ返す。「うるさい。あれは手痛い反撃を食らっただけだ。いつもの俺ならだな、あんな攻撃を華麗によけてだな――」「佐藤、それくらいにしておこう。よし話はまとまったな。これより我々は、魔都、東京を脱出する。鈴木、佐藤、山田、準備はいいか?」『はっ』 それぞれに見合い、頷く。「それでは、我に続け!」 熱帯夜――東京の濁った大気の中、ぼんやりと光るネオンと月の光の中で、高橋たちは飛び出したのだった。「俺の判断が間違っていたのか?」 高橋は独白する。「いや、そんなはずはない。確かにターゲットは無防備だった」 暗視スコープよろしく、高橋の目に映ったターゲットの意識はなかった。熱帯夜のあまりの暑さに、上着のボタンをはずして、白い胸元に露にしたくらいだ。あれをチャンスを言わないで、なんと言う。いや――、「まさか、誘われた? 罠だったのか?」 ターゲットが時々使う手段だ。無防備と見せかけて、のこのことやってきた連中を一網打尽にする。だとしたら――。「あのときしわぶきしてしまった私は……」 高橋は咳した自分を責めた。一斉攻撃を指示した自分はなんと浅はかなのか?「た、隊長……」 近くで声がした。「そ、その声は、佐藤か! どこだ?」 高橋はあたりを見渡す。が、佐藤の姿は見えない。「隊長は逃げてください。これは俺たちの手に負えるミッションじゃなかったんですよ」「佐藤、どこだ!」「こんなことになっちまうなんて、思ってなかったですけど、今まで楽しかったです。ありがとうございました」「佐藤?」 わずかに差し込む月明かりの中、やっと佐藤を見つける。高橋はふらふらで思うようにならない身体で、扇風機の風をよけてなんとか佐藤に寄る。「なあに、ちょっとだけ早く先に逝くだけですよ。またすぐ会えますよ。あいつらも多分、先で待ってますから。一人にして、すいません」「佐藤、まだ逝くな、佐藤、まだ……」 佐藤が再び起きるあがることはない。「くっ! こうなったらせめて、一太刀でも浴びせないと、死んでいった部下たちに合わせる顔がない」 高橋は最後の力を振り絞って、強く足を蹴って、その身を宙へ浮かせた。幸いなことに扇風機は首を振ってくれている。「無能な指揮官で申し訳ない。しかし最後まで悪あがきだ。皆、見ていてくれ」 高橋は一直線にターゲットの胸元に向かう。扇風機が首を止めて、反転してくる。 間に合うか? あと少しなんだ。あの風を食らってしまっては、もう――」 高橋にはこれが最後のチャンスだと分かっていた。高橋は一気に急降下する。扇風機の風が、大気を動かして、思いもしないところから風がくる。 く、ここまでか。 高橋が力なくふらっと落ちていく。「うーん……」 ちょうどターゲットが寝返りを打ち、高橋は運よく胸元に落ち、その上を強いが風が通りすぎていく。「ははは。やった。やったぞ。皆。まさかあちらから、私のところに来てくれるとは思いもしなかったぞ。東京のようにベープとか水性リキッドとかいう毒ガス攻撃はやらはないやらはないと思っていたが、まさか蚊取り線香とはな。しかし、それもここまよ」 高橋は、勝利を確信する。「さあ、心行くまで堪能しようではないか。ここまで幾多の苦難の連続だったが、それもこの瞬間があればこそ、報われるというもの」 高橋はあごを引いたかと思うと思い切り、その白い柔肌に突き刺して、そこにある血を啜る。 ああ、この瞬間のために、俺は、いや、俺たちは生きてる。 高橋の腹がみるみる赤くなっていく。 どうせ、この夏のまでの命。そのときまで、生き血を啜るまでよ。 と、そのとき何かが高橋の頭上を横切ったかと思うと、高橋の意識は途絶えた。「きゃー、なにこれ?」「まったく朝からうるさいわね」「ちょっと見てよ、おかあさん。私のおっぱい、何か赤く汚れてる」「蚊でもつぶしたんじゃない? あんたさっき、蚊がうるさくて寝れなかったって言ってたでしょ」「ああ。そっか。お母さん、うちも蚊取り線香じゃなくて、ベープとかに変えようよ。蚊取り線香じゃダメよ」「そうしようかね」 たとえば熱帯夜に、そんな戦場があったとして、そんなやぶ蚊がいたとして――。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――2時間くらいです。どうしてこうなった?っていうか、投稿が私だけというは勘弁してね
すいません。性的描写があります。 最近は七時を回ってから、ようやく夜になる。この頃はじわじわと夜になる。ピンク色の空がどんどん青く暗くなっていって、その空の中を暗い影を持つ鳥が何処か俺の知らない場所に向かって、じりじりと夜を行く。 何もしていなくても体には汗がにじんでいる。ベッドのシーツからは汗のにおいしかしない。扇風機が音を立てながら生ぬるい風を送ってくる。水風呂に入ろうかと考えてみる。冬が恋しい。このままではオレは溶けてしまうんじゃないかと思う。どろどろに溶けて、ベッドのシーツに染み込んでしまいそうだ。喉が渇く。冷たい水が飲みたい。冷たい水を浴びたい。 短い眠りにつこうと思いながら自分の体を触ってみると、意外なことに手のひらに感じる温度は少し冷たい。きっと汗が体温を外に逃がそうとしてくれているせいだろう。 自分が、小さな穴をいくつも開けた水袋になってしまったかのような気がする。多分、中の水はあまり綺麗じゃないはずだ。 何もしなくてもオレの体は汗をかいて熱を外に放出していく。次から次へ新しい熱を生み出しながら、体の表面から熱を失っていく。それがオレで、熱を持つ生き物だ。べとべとに湿っていて、もう少し涼しくならないと暑くて眠れそうにない。 眠るのを諦めて台所に向かう。七月のカレンダーにはかわいい子犬の写真が張ってあって、生まれたばかりの口の周りの黒い小さな柴犬がこちらに向かって走っている。 犬って可愛いよな。と思ったけれど、カレンダーの中の子犬には漫画みたいな吹き出しが付けられて、「七月、運動をするときは、水分をこまめに補給してね。熱中症に注意」と書いてあった。子犬なのに、ずいぶん賢いことを言う子犬だなと少しおかしくなった。だけど、犬がしゃべっちゃダメなんじゃないかなとも思った。多分人は、犬とか猫が、しゃべることができないから彼らを愛することができるんじゃないだろうか。鳥かごの中に入れられた九官鳥が、ふと思い出したように「寂しい、寂しい」と呟いていたら。飼い主はそうとう気が滅入るんじゃないだろうか。 熱くて開けっ放しの窓からは、どこからか蚊取り線香の匂いが入って来ていて、隣には暖かい肌を持った女の子がいる。眠る前の彼女の体を触りながら、女の子の体って柔らかいな、とオレは改めて感動していた。 台所のイスには彼女の薄い上着がかけられている。暑いのになんで上着なんか着てきたのか尋ねると、夜は冷えるかもしれないからと彼女は答えた。今日は昼間から夜も蒸し暑くなるのが分かるくらい暑かったから、それで少し彼女をからかった。 彼女が目を覚ますと、二人で蕎麦を茹でて食べた。具なしのただの蕎麦とめんつゆ。暑くて蕎麦ゆで用の鍋から立ち上る湯気で何も作る気になれなかった。 食べ終わるとオレはビールを二本開けて、二人してぼんやりとテレビを眺めていた。動物番組がやっていて、彼女はテレビの中の動物が可愛いだの、芸人が面白かったことなどをオレに報告してきて、オレはそうだね、面白いねと笑って答えていた。もっとしゃべってくれと彼女は膨れてオレに言ったりもした。そのたびに笑ってごまかしたり、冗談を言ったりした。 会話がなくなると、いつの間にかいい雰囲気になっていて、彼女の唇に顔を近づけると、彼女は黙って目を瞑って少し上を向いた。 飲みかけの三本目のビールが、缶の中で泡を立てながら少しずつ温くなっていくのが分かった。 目の前の彼女が大きく見える。汗を吸い取ったシャツが肌に張り付いて気持ちが悪い。脱ぎ捨ててしまいたい。 形の分からない何か湿ったものが俺を何処か遠いところに運んでいこうとしている。 彼女の胸が俺の体に触れる。布越しでもそれが暖かく柔らかいものなのだということが分かる。 それから、キスしたり、彼女の服をずらしたり、色んなところを撫でたり、舐めたりする。 なるべく、優しく。なるべく、スマートに。なるべく、気持ちよく。こういうことはあんまり上手じゃないから、できるだけ丁寧にしなくちゃなと思う。 彼女の名前をよんでみると、「時田君」と言ってくれる。やさしい声でオレをよんでくれる。 彼女の手のひらが胸からおなかへ、おなかから下へと降りていって、あんまり触られると恥ずかしいような情けないような気分になってくるので彼女を押し倒す。彼女はくすくす笑いながらベッドの上にぺたんと倒れて足を開いてくれる。 彼女と付き合いはじめて三ヶ月くらいになるけれど、こういう瞬間になると相変わらず緊張する。うまくやれるだろうかとか、変な顔していないだろうかといろいろ考える。 彼女と付き合う前に、初めて女の人としたときも、いざという時に緊張しすぎで全然だめになってしまった。年上の綺麗な人で、他に恋人がいた。ちゃんと付き合うにはオレなんか全然子供で、仕事のこととか恋人のことで色々悩んでいるようだった。 結局、こういう関係はオレのためにもよくないという理由で、謝られながら一年前にふられた。それから今の彼女と付き合うことにした。初めての彼女は今は仕事を辞めて、実家のほうに帰ってしまったと、たしか人づてに聞いた。その話を聞いたとき、あの時はキリンみたいにスマートで綺麗な人だと思っていたけれど、多分、ぎりぎりのところを片足で踏ん張っているフラミンゴだったんだなと思った。 オレが彼女を追い詰めちゃったんじゃないかな、とも思った。片足で踏ん張っているところに、バカみたいに無遠慮にのしかかってしまったんじゃないかとか。「時田君。時田君」と彼女が言った。 オレは彼女の上で頑張りながら、彼女とは別の女の人のことを考えている。息が荒くなって、犬みたいに舌を出してはあはあいっている。 そんなことを考えていると、彼女に申し訳なくなって、だめになってしまった。「どうしたの?」と彼女が言った。「ごめん、酔いが回っちゃったみたい」 本当に、オレは何をやっているんだ。罪悪感でバカみたいになってしまう。 「かわりにおしゃべりしよう」「なんの話しするの?」「この前面白い小説読んだんだよ。名前は忘れちゃったんだけどさ、ベトナム戦争の帰還兵の話。名前は何だったかな、くそ、思い出せないな」「ねえ、時田君大丈夫なの? 顔色悪いし、あせもすごいかいてるよ。具合悪いんじゃないの?」 本当に酔いが回ってきたのかもしれない。変な気分だ。今はただゆがみたい。軋む音を立ててひずみながら、不思議な心地よさの中で、ばらばらになるその瞬間を待ちたい。オレはもうだめだ。彼女に嫌われたい。「いや、大丈夫だよ。というかむしろ、気分はすごくいいんだ。それで、そう。戦争に行く前、男は将来を期待されたピアニストだったんだ。音楽を愛し、彼も音楽に愛されていた。彼も、彼の周りの人間も、彼のピアニストとしての成功を信じて疑わなかった。でもそうはならなかった。何でだか分かる?」「わかんないよ。時田君、何の話なの?」「うん、ごめん。わかんないよな。こんな変な質問なんて。だけど今オレはこの話がすごい大事なことのように思えるんだ。つまり、彼は戦争で人を殺してしまったということが全てなんだ。彼は純粋に音楽を愛していた。本当に、純粋に愛していたんだ。でもそれが仇になってしまった。それまではそれでよかった。音楽を心のそこから愛せるということが、彼の才能でもあったし、才能も彼の愛に見合った素晴らしい演奏を彼に与えて来た。全てが暖かい温度を持ちながら彼と音楽の間を流れる、小さくて丸い環の中で巡っていたんだ。だけど、戦争が彼を変えてしまった。回りくどくなっっちゃったな。ごめん。彼には、彼なりの音楽の愛し方というものがあって、それは多分彼の音楽における全てだったんだ。音楽に対する哲学ともいえるかもしれない。彼の音楽に対する哲学をオレが語るとするならば、つまり、こういうことなんだ」「音楽は人間だ。良い人間だけが良い演奏をやれる」「こういうことなんだ。人を殺し、心が汚れてしまった自分にはもう音楽を愛する資格は無いし、音楽も自分のことを愛することは無い。だから彼はやめたんだ」「ある日、男が昔馴染みの友人に誘われて彼の家を訪れる。友人は昔からの音楽仲間だったんだけど、今は音楽をやめてしまっていた。自分には才能が無いかっていって。それで、男に再び音楽をやるように説得してくる。お前の才能を腐らせるには惜しいものだ、お前には音楽しかない、とか、思いつく限りの言葉で熱心に説得をする。それで男は一度だけという条件で彼の前でピアノを弾く。その演奏がとても素晴らしいもので友人は感動して男の成功を再び確認するんだ。だけど男は心の穢れた自分がそれまでよりも良い演奏ができているということに悲しくなって、音楽が信じられなくなってしまう。それで男は海に身を投げてしまうんだ。悲しいよな。でもすごい綺麗な話だったんだよ」「何の話なの? わかんないよ。時田君絶対おかしいって。いつもこんな風に喋ったりしないのに。ねえ、本当に大丈夫なの? 絶対おかしいよ。ねえ、大丈夫なの?顔色も悪いよ」 彼女が本気で不安がっている。「そんなひどい顔してるのかなオレ。ちょっと見てくるよ、ついでに顔も洗ってくる」そう言って風呂場の鏡を覗き込んでみる。顔が真っ白で、目が濁っている。嫌な顔だ。見ているだけで胸がむかついてくる。本当に戻してしまいそうになる。「あはは、ごめん。ほんとにひどい顔してた」 大声で風呂場から彼女に向かって言った。返事は無くて、戻ってみると彼女が泣いていた。それでやっと、自分がどうしようもなくバカなことをやっているんだと分かった。「いや、ごめん。本当に大丈夫なんだよ。多分喋りすぎただけ。オレはどうもしてないよ。だけど多分、今までがしゃべらなすぎたんだよ。そういう意味でどうかしていたかもしれない。大切なことはきっと口に出したほうがいいんだよな。この先どのくらい生きるのか分からないけど、多分50年か60年かな、そのくらい生きるとして、その中でたまっていった、色んな形の良くないものをずっと吐き出さずにいたら、オレ多分どうにかなっちゃうと思うんだよ。ほんとに破裂しちゃうかも、水風船みたいに、ぱーんって」 勢いに任せてしゃべりまくった後で、はっと、オレは今ものすごく子供っぽいことを言っているなと気がついて、彼女にあきれられないだろうかと心配になっってきた。すると彼女が、「なんだか今日の時田君子供みたい」と言ったので、ああやっぱりと思った。「ほんとごめん、やっぱりオレ酔ってるんだよ。ちょっと眠くなってきたかも。眠ることにするよ。おかしなことをしゃべりまくるのも、多分今夜だけ。目が覚めたら、またいつものように戻るよ」「最初はびっくりしたけど、今は元に戻ったみたいだね。大丈夫。全然気にしてないよ」 彼女は笑っていて、もう泣きやんでいた。「時田君は多分寂しいんじゃないかな。何でなのかわかんないけど、多分寂しいんだと思うよ」「そうなのかな、オレは寂しいのかな」「うん。私もそういう時あるの」 といって、頭を抱きしめてくれた。 オレの弱いところを、暖かいもので優しく包み込んでもらっているようで、もうちょっとのところで声を上げて泣いてしまいそうだった。だけど、さすがにかっこ悪すぎるかなと思ってこらえてしまった。体の中には水がたっぷりとたまっていた。 そのままベッドに倒れこんで、彼女に抱きしめてもらっていた。もうずいぶん眠くなって、頭が重い。「今の時田君、すごくかわいいよ」 優しい声で言って笑う彼女のことを、キツネみたいだと思う。ずるがしこそうなやつじゃなくって、優しいキツネ。小学校の頃の教科書で読んだ、子ギツネが手袋を買いに行く話に出てくる優しいキツネ。 明日、目が覚めたら、彼女に謝ってちゃんと好きだってことを伝えなくちゃいけないな。 ああそうだ、今度近いうちに動物園に行くのもいいかもしれない。彼女がいいと言ってくれるなら、彼女もつれて。そこで、オレに似た動物を探すのだ。それは臆病なメガネザルかもしれないし、よく分からない言葉をしわぶき続けている年老いた九官鳥かもしれない。ヨチヨチ歩きのペンギンはすごく可愛いと思う。他にも、檻から外に向かって叫ぶ気のたったクマだとか、遠くでそれを聞いてノイローゼ気味にキャンキャンと吠え立てている小型犬だとか。 夜の動物園でも、動物たちは月を見て意味も無く寂しくなったりするのだろうか? そういう時、彼らはどうやってそれをやり過ごすのだろう。 オレも泣いたほうが良かったのかもしれないなと、眠りとベッドの間くらいで、ぼんやりと思った。 きっと動物園は、様々な生き物の叫び声で満たされていると思う。そのどれもが、純粋で真剣な彼らなりの意味を持つ叫びなのだろう。 おわり わっはっは。四時間位時間オーバーと遅刻しました。…すいません。 エロいのはいけないと思いますっ! …ほんとすいません。ダメそうだったら消します。
のったりした空気が、夜に満ちている。 暑い。風が流れても、その空気の動きはどこか重い。動くにしても、呼吸をするにしても、絡みつくような、自分の体温に近い空気はこんなにももどかしい。そんな熱が空気に重さを与えているよう熱帯夜。 とある森の中をパンダと、狼と、猿が歩いていた。「おい猿の鈴木。俺達……もしかして死ぬんじゃないか?」「あはは、パンダの山田先輩。なんで疑問形なんすか? ……死ぬに、決まってるじゃないすか。ねえ、狼の佐藤先輩」「ああ、これは、死ぬな。百パーセント、死ぬ」 その三匹の獣が、会話を交わす。もちろん、三人とも人間だ。このクソ暑いなか着ぐるみを装備しているのだ。 ただの馬鹿、ということなかれ。 ぜえぜえはあはあ息を切らせながら、男たちは進んでいく。 ただ、生きるために、生き残るために、死に立ち向かうのだった。 いまでこそ着ぐるみの彼らだが、もちろん最初からそんな愉快なナリをしていたわけではない。彼らは大学のロッククライミングのサークルに所属している。今回は、合宿のため女子マネージャーふたりと共にホテルをとって来たのだ。 その初日の夜である。 ことの発端は、山田が「風呂をのぞこう」と言い始めたことだった。 山田の台詞に、後輩の鈴木と同輩の佐藤は、はあとため息をついた。「山田先輩……それは、どうかと思うっすよ」「そうだぞ山田。オレたちも、もう高校生じゃないんだ。ましてやこのホテル、一般のお客さんもいるんだぞ」「そんなことをいいながらものぞきの準備しているお前らが俺は大好きだ!」 ぐっと三人は大変よい笑顔で手を重ねる。「よし、鈴木。ポジションは確保してあるか?」「なめないでください、山田先輩。完璧っすよ。佐藤先輩はどうっすか」「まかせろ、道具の準備は万端だぜ」「よし、それじゃ野郎ども。いくぞぉお!」「「おおー!」」 と、淫行軍人どものそんな姦計は「エロいのはいけないと思いますっ!」「そうね、エロいのは死刑よね」 直後に、ばん、と音を立てて開かれた扉と共にあらわれた女子マネ二人によって一瞬で潰えた。 というわけで、罰として三人は着ぐるみでロッククライミングして来いと送りだされてきたのだ。目標の壁を登ってこないで帰ってきたら「コロスわよ」脅されている。ちなみに着ぐるみは南京錠をがかけられるように改造してあり、紫藤の持つ鍵がないことには決して脱げない。「そもそも冷静に考えようぜ。なぜ、女子二人は合宿に着ぐるみを持ってきたんだよ?」 山田のもっともな疑問に、佐藤は淡々と答えた。「こいうことは紫藤しか考えないだろ。なにしろあいつは、Sの権化だ」 三人がこんな無茶を遂行しようとしているのは、主に紫藤女子マネージャーによるところが大きい。彼女はやると言ったら必ずやり、殺るといったら殺りねない女なのだ。「あ、いや違うっす。今回のは、紫藤先輩じゃなくて、安中の発案っすよ。この間部室に貼ろうとする時に紫藤先輩と話しあってるのをうっかり聞いちゃたんですけど――」 ――紫藤先輩。着ぐるみってかわいいですよね! ――そうねぇ……あ、そうだ、いいこと思いついた。安中ちゃん。着ぐるみでロッククライミングって、いいと思わない? ――ふわぁ! すごいです紫藤先輩! かわいいのにカッコいいですよ、それ! ――そう。じゃ、今度の合宿のメニューに入れとくわ。適当に体力向上のためとか理由をつけて……そうね。あれ着てたら、クッション代わりになるし命綱もいらないわね。経費削減だわ ……………………そんな会話があったらしい。「おれ、あまりの恐ろしさに部室にはいれなかったっす……!」「お前はわるくない。お前はなにも悪くないぞ鈴木……! 安中さんの天然も怖ろしいが、それを利用する紫藤のS思考が恐ろしいすぎるぜ……!」「ていうか、俺たち別にのぞきとかしなくても着ぐるみでロッククライミングをさせられる予定だったのか……!」 そんな会話をしながらも、行軍は続いていく。 そのままどれだけ歩いただろうか。しばらくして、山田がぽつり呟く。「しかし、いつ着くんだろうな」「紫藤先輩は、真っ直ぐ歩いてればその内つくって言ってたっすけど」「あいつの言葉が真実かも疑問だが、何よりはたして真っすぐ歩けてるかどうかが問題だぜ?」 佐藤の疑問はもっともだ。なにせ着ぐるみを来ている状態なのである。視界は悪いし、汗がヤバくて死にそうだし、何より暑さで三人とも意識がもうろうとしている。こんな状態で真っすぐ歩けているかどうかなど、判断できるはずがない。「この着ぐるみをポジティブに考えるっすよ。これを着てれば、やぶ蚊にさされることもないっす。森の中をけっこう平気で歩いてるのも着ぐるみのおかげっす。完全防備っす」「火事の中の金庫と一緒だけどな」「そうっすね……あれ」 不毛な会話に終始していると、鈴木がふとあらぬ方向を見て足を止めた。「どうした、鈴木」「いや、山田先輩。向こう側に、超絶的な美女がいるっすよ。すげえ艶めかしいっす。あれきっと、クレオパトラっすよ」「おいおい鈴木、大丈夫かぁ?」 呆れたように、佐藤が反論した。「ったく、よく見ろよ。あの川の向こうにいる美女の色香、あれはまさしく傾国にふさわしいぜ。きっと楊貴妃に決まってる。そうだろ山田」「…………ああ、そうだな」 極限状態なのだろう。あからさまに見えてはいけない故人達に招かれてふらふらっと道をそれていく二人に、しかし山田はついていかない。 そんな山田に、二人の着ぐるみは不審げな様子で振り返った。「おい、どうしたんだよ山田? 一緒にあの川を渡って美女たちときゃっきゃうふふしようぜ」「あはは、そうすっよ、山田先輩。あっちは幸せにあふれてるっすよ? いかなきゃ損っすよ。なにも地獄に向かうことはないっす」「……悪い、ふたりとも」 あの二人は、自分を待っている。ついてくるのを疑ってすらいない。 だが、ついていくわけにはいかない。あの気のいい仲間だが、おいていかなくてはいかない。 山田は着ぐるみのしたでぼたぼたともう汗だか涙だか判別できない汁を流しながら、ふたりに背を向けた。「俺は、俺は……俺には、小野妹子しかみえねえんだ……!」 川向うにいるおっさんに手招きされたって、いくわけがない。「ここまで来たら小野小町だろうがよ……清楚な日本美人の小野小町だろうがよう……!」 そんな悔しさで男泣きしながら、山田はふたりの屍を越えて歩き続けた。 どれだけ歩いただろうか。 もう時間も分からない。けれどもけれども。 壁が、見えた。「お、ぉお」 間違いない。厳格でもない。これは紫藤に指示された壁だろう。そう、着いた。着いたのだ。「鈴木! 鈴木! 佐藤! 佐藤! そして、見たか、紫藤のどSがぁあああ! 俺はやったぞ。俺は、やってやったぞぉおおおお!」 あとは、この壁を登るだけだ。これさえ登れば罰ゲームをクリア。無理難題を突破したとして、紫藤の鼻をあかせてやれる。「は、あはははは!」 勝利。勝利だ。紫藤に勝てるのだ。こんな壁、三分で登って見せる。いままで幾多の絶壁を登って見せたのだ。こんな掴むところに溢れている壁、ものの数ではない。 一瞬で登るルートを算出。 そして、いざ。 つる。「あれ?」 ああ。汗だろうか。こんな暑い中、手も更けなかったのだ。木おつけなくてはいけない。「あはは、ま、途中で滑り落ちるよりか良いだろ」 笑いながら、再度掴もうとするが。 つる。 またしても滑る。「あは、あはははは」 いや、分かってる。原因は分かってるのだ。「はははは、あはははは」 何度も何度もつるつると手を壁に滑らせなが、山田はひきつった笑い声をあげる。 そりゃ、そうである。 着ぐるみの手は、動かない。 着ぐるみの手が、壁をつかめるはずもない。「着ぐるみでロッククライミングできるわけねえだろうが、ぶぅぁあああああああか!」 そうして、着ぐるみの最後の一匹が、倒れた。 ホテルの一室。 からからと回る扇風機がぬるい空気を揺らす。窓につるされ風鈴が、時折ちりんちりんと涼しく鳴く。古きぶたの蚊取り線香からは、どことなくなつかしい香りのする煙が揺らめいていた。 そんな『夏を楽しみましょう』という謳い文句でホテルに設置された和室に、女子マネの二人はいた。 畳に座る二人はホテルで借りた浴衣を見につけている。まあ、もちろん下にTシャツと短パンを身につけてはいるのだが。 ふたりは注文した蕎麦をすすっている。「すいません、紫藤先輩。これ、おごってもらっちゃって」「あら、平気よ。わたしが先輩だもの。それにこの(山田のカバンから勝手に借りた)巾着袋の中には、たっぷりお金が入ってるから、気にすることないわ」 まだ何か言いたげだったが、紫藤はこほんと、しわぶきを入れて言わせなくする。先輩の好意を申し訳ないなどと言ってほしくはない。「それにしても」 後輩が何か言うよりも早く、ぐるりと部屋を見る。 たたみ部屋、からから回る扇風機、風鈴、蚊取り線香。これぞまさしく日本の夏だ。 紫藤はつるりと蕎麦をすすりながら後輩に、にっこり笑いかける。「粋ねぇ」「ほんとですね」 女子マネ二人は、ほのぼのと夏を満喫していた。---------------------------------------------------------- RYOさんを一人には、させないんだ……! と意気込んだ三人目です。 執筆一時間半ぐらいですやい。ところどころ適当なのは、ご容赦ください。 久しぶりにお邪魔しました。
RYOさん 短い時間でお題をよくぞここまで。特に鈴木、佐藤のお題はどうにも自然な使い方が思い浮かばず、やられたと思いました。少しずつ彼らの正体のヒントが明かされていく構成もうまいと思いました。 お題の使い方とみんなそれぞれにかっこいいことを言っているのに、全体像を見るとコミカルな構成。見習いたいです。ううむ。 とりさとさん これも短時間でいかれましたね。くそー。コミカルできぐるみの男の子たちとドエスの女の子たちのキャラクターがしっかり立っている。 物語を動かす存在としてのドエスと、コミカルで悲しげな男の子たちの会話、上手いです。しかもお題も。うわー。自分が悲しくなりますね。 二号 時間をかけた割にはまとまっていない。 唯一夏の夜の暑さはかけた気がするのですが、他の要素が上手く繋がっていないですね。感想も付けづらいだろうし、もうほんとだめだ。ごめんなさい。ほんとにとても反省しています。 これからはこういうことがないようにします。すいませんでした。
RYOさん。 やっぱり佐藤、鈴木ときたら山田しかないですよね。 一行目でギャグってわかりますね。ショートショートっぽい作りですけど、 なんだこのハードボイルド共は、って最初で思わせて、徐々に情報が出てくるあたりに引っ張られました。最後にオチを一気に明かすのではないつくりかたが、参考になります。 三語らしく笑える作品でした! 二号さん。 等身大の感情が、さらさらと文面ににじみ出ていますね。なにこの男の子かわいい、みたいな。 こういうことに至る思考ができるなら、彼女さんはしあわせさあ、と思います。弱ってて、ちょっと情けなくて、でも男の子でした。こんなに人間をきちんと書かれると、なんだかとても敗北感を覚えます。 うう……。こういうのが上手く書けない身としては、うらやましい……! とりさと。 どうした、この誤字の量は。ひでぇ。 というのはともかく。書いてる途中、ころころと話が変わって行きました。最初は着ぐるみで正体隠してお風呂のぞきに行くという、そんな平和(?)な話だったんです。