Re: 即興三語小説 ―銃と芸術- ( No.1 ) |  
- 日時: 2015/04/18 17:44
 - 名前: マルメガネ ID:j72Wobks
 
 点された電気スタンドがコルトガバメントのデッサンを照らし出している。  その奥でスケッチブックに走らせる鉛筆の音がし、男がデッサンを続ける。  彼が描くのはほとんどが銃ばかりで、人物あるいは風景画といったものは少ない。  モデルガンとして置かれたコルトガバメント。しかし、それはあくまでも彼にとって写生の対象であって、武器としての価値観はほとんどといってもいいほどなかった。  しかし、それが覆る事件が起こった。  一発の銃声が轟きわたり、せっせと写生に勤しんでいた彼が負傷したことだ。  犯人は誰なのか。それとも偶発的な事故なのか。  警察や鑑識がせわしなく事件のあった彼の自宅を捜査し、現場検証を行ったが、デスクの上またはその周辺に描き散らかされた絵画、デッサンのたぐいがあるのみで、周辺の聞き込み調査にあっても誰もが納得するような証言は得られず、事件の真相解明には時間がかかると思われた。  負傷した彼の容態だが、幸いにも致命傷にならなかったが、当日のことを知る人物としては、コルトガバメントの写生をしていた男であり、当局は回復を待って事情を聞くこととしたのだった。 「その時、何が起こったのですか? お聞かせ願います」  容態が回復したと聞いた刑事が病室の男を訪れ、事件当日のことを聞いた。 「特に何も。僕は、単にお気に入りのコルトガバメントを写生デッサンしていただけですよ。そしたら、突然撃たれて…」  男は声を詰まらせ、そう刑事に答えた。 「暴発したということですか?」 と刑事が聞き返す。 「いえ、銃の取り扱いはまったく分かりません。物を写生することだけが取り柄ですから」  男が答える。  刑事は頭を捻った。  部屋には男しかいない。  外部からの犯行であれば、何かしら証拠があるはずだ。  刑事は男から聞いた事情をもとに、行き詰った捜査のやり直しを提案した。 「ややっ なんだこれは?」  科学捜査班のメンバーがそろって頭を捻った。  彼の家から捜査物件として押収したモデルガンのコルトガバメントとそれを写生したデッサンを調べていると、描いたデッサンからかすかに煙硝反応が認められたからだった。 「そんなばかなことがあるものか」  分析官が叫んだ。 「モデルガンからの煙硝反応は?」 「ありませんね」 「どういうことだ。絵に描いた銃が暴発した、ということになるのは納得がいかない」  しかし、そこにあるのは事実。  科学捜査班の報告を受けた刑事は思った。  もしかすると、絵に魂が宿り、それによって絵が動き出して彼を撃ったのではないか、と。  結局のところ、この事件の真相は謎に包まれたまま終わり、病院から帰ってきた男はどういうわけかモデルガンのコルトガバメントを手放し、そして銃そのもののデッサンは一切しなかった。  そして当局に物件として押収されていたデッサンが返却されると、彼はそれをことごとく切り刻み焼却して処分したのだった。  事件はこうして闇に消え、ごく普通の日常が戻った。
   
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