年末企画です。即興で1時間で執筆してます。定例での参加は通常通りです。即興で参加されても、通常の参加はOKです。この場合の加筆、修正もOKですが、即興の作品はそのままでお願いします。ではよーいどん。 って出遅れですがね。 ---------------------------------------------------------------------------- ●基本ルール 以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。 ▲お題:『手作り』『電球』『ニュージーランド』 ▲任意お題:なし ▲表現文章テーマ:なし ▲縛り:なし ▲投稿締切:1/4(日)23:59まで ▲文字数制限:6000字以内程度 ▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません) しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。 ●その他の注意事項 ・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要) ・お題はそのままの形で本文中に使用してください。 ・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。 ・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。 ・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。 ●ミーティング 毎週日曜日の21時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。 ●旧・即興三語小説会場跡地 http://novelspace.bbs.fc2.com/ TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。 -------------------------------------------------------------------------------- ○過去にあった縛り ・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など) ・舞台(季節、月面都市など) ・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど) ・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど) ・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど) ・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など) ・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など) ------------------------------------------------------------------------------
友人が長期滞在していたニュージーランドから帰ってきた。 季節が日本と真反対の国から帰国してきた彼は日によく焼けていた。「これ、手作りらしいぜ」 彼がそう言って何かが入った小さなクラフト紙の箱を私にくれた。「なんだい?」 私が聞くと、彼は「で、ん、き、ゆ、う」と答えた。 電球? エジソンでもあるまいし、誰が作ったというのだ、とばかりにクラフト紙の箱を開けてみると紛れもなく電球が入っていた。 しかもご丁寧に英語で書かれた手紙まで添えられている。それを読むにはわが語学力では不可能に近い。 友人にその手紙を渡して、読んでもらうと、大体はエジソンが最初に白熱電球を発明したような造りらしい。「灯してみようぜ」 友人が言う。「そうだな。でも規格が合わないからな」と私。 いろいろ考えて、リード線をはんだづけして、カーバッテリーで点灯するかやってみた。「おお。やるじゃん」 ほのかにそれは点った。しかし、その電球のフィラメントはすぐに焼き切れてしまい、はかなく消えた。「もうちょっとだったのにな。で、誰だい? この電球を作ったのは?」 私が彼に聞くと「十代にして大学院に行った天才だよ。でもなんだか足りなかったみたいね」「ああ、ガス抜きがうまくいっていなかったようだけど、なかなか」 私はそう評価したのだった。「で、どうするの? その切れた電球」「記念にもらっておくよ。手作り電球の実験をしたという証にね」 私はそのように答えた。 数日後、友人はまた海外へ旅立って行った。 今度は何を持って帰るのだろう。ちょっとした期待と不安を私は感じるのだった。
ラグビー部の部室はプレハブで、何代か前の先輩たちが手作りしたものだった。筋力トレーニング用のダンベルだったりとか、タックル練習用のマットみたいな器具なんかが置いてある。半分ぐらい倉庫の扱いだけど、練習がだるい時は集まってトランプしたりして時間を潰したりもしていた。その部室で、ぼくはアンナと二人きりだ。アンナはニュージーランドからの留学生だ。赤みの強い茶色の髪と灰色の目をしている。時間は二〇時を過ぎている。学校の正門も後門も鍵がかかっているような時間。職員室の光も消えて、校内に残っているのは二人だけだろう。ぼくは英語が得意ではない。アンナは日本語が得意ではない。たぶんお互いの言っていることは半分も通じてない気もする。アンナのことを抱きしめる。首筋に顔をうずめて、片手を彼女のふとももに添わす。夏の夜の人間のにおいがする。アンナの手が、ふとももに添わせたぼくの手に重なる。そのままスカートのなかに誘いこまれる。うめくような声が漏れる。これからすることについて興奮している。暗闇のなかでアンナの顔をみた。白い肌が赤くなっているように見える。小さな唇に引き寄せられていった。前歯がぶつかるぐらい激しく舌をからませた。唇を押しつけあう、唾液をまぜ、呼吸を交換する。スカートのなかで絡めた指がそのまま下着中に入っていく。やわらかな感触。ふとももとは違ってどこまでも指が沈んでいきそうなやわらかさがある。唇を離す。アンナは下着を脱ぐ。ぼくはズボンを下着ごと下ろす。アンナが部室のマットのうえに腰を下ろして、スカートをたくしあげる。暗くて細部は分からない。部室の窓から差しこむ外灯の光ぐらいしか光源はない。アンナが、ささやくような小さな声で何かを言う。※ ※ ※電球を点けた。切れかけで、ときどき点滅した。アンナは乱れた服を直していた。ぼくは後始末に使ったティッシュを地面に埋めていた。衣擦れの音がやむ。足音が近づいてきた。手を握られる。ふり向くとアンナの顔がある。ぼくは英語でアンナに好きだ、と言う。アンナは首を傾げる。ぼくは日本語で言い直す。アンナは笑って、ぼくの頬に唇を押しつけた。「ことばはふべんだ」アンナの片言の日本語に、ぼくは頷いた。
「ニュージーランドで羊飼って暮らしたい」 と祐輔が言い出したのはいよいよ暮れも押し迫る十二月二十九日の深夜、いい肉の日じゃないけど肉の日だから格安焼き肉食べ放題に突撃しようぜ、とかなんとか言いながら目を開けて夢を見ている後輩(二十六歳)を蹴り倒しながら実咲が自分のデスクから引き出しを引っこ抜いて逆さまにした、まさしくその瞬間のことだった。完全に目が据わっていた。遠くを見ているとかいうレベルではなかった。おそらく人間が見てはいけない領域の何かを見ていた。 オフィスの電灯は皓々と点り、机周りは散らかり放題。社員の誰一人として帰宅する気配もない。年明け一番で納品しなくてはならないデータの、大元が入っていたサーバーが唐突にお亡くなりになり、バックアップを入れていたUSBが、そそっかしい新人君のおかげでどこにいったかわからない。 課内のどこかにはあるはずだという半泣きの主張に、一斉捜索活動が展開されて早五時間、そっと抜き足差し足で帰ろうとしていた後輩は襟首をひっつかまれて、気の毒にも、明日朝の飛行機のキャンセルを余儀なくされていた。この時期の沖縄行きの金額は、薄給の身にはしゃれにならないだろう。 納期というのは余裕をもって設定するのが世間一般の常識、大人の知恵というものだ。普段だったら社長が土下座でもなんでもして、もう一日待ってくださいと相手先に泣きつくところだ。だが今回にかぎっては緊急の依頼で、どんなに粘ったところで二日の朝が正真正銘のデッドライン、それが間に合わなければ三百万が露と消える。それだけでも吹けば飛びそうな零細企業ではあるが、問題はそれだけではない。相手方が取引の四割を占める得意先中の得意先だということだ。三百万の穴は社長が貯金を切り崩してでも補填するかもしれないが、失った信用を埋めるものは誰にも思い当たらない。 新人はミスをするものだ。真っ青になってがたがた震えながらカバンの中身をひっくり返している気の毒な二十歳の新人に、殺気だったまなざしが集まったのもやむなきことながら、まして、元データを丸ごと消してしまったとでもいうならともかく、念のためで取らせておいたバックアップを、連日の残業続きでふらふらになった中でうっかり紛失したわけだから、それなりに情状酌量の余地はある。間が悪かったのだ。そんなことは新人だけに任せるようなことでもなかったのだし、普段だったら祐輔か実咲のどちらかがちゃんと見ていただろう。別件の納期に追われている最中に得意先から年末の緊急依頼、皆が平常モードではなかった。不幸な事故だった。 ともかくバックアップが出てきさえすれば、あと三日、どうにか間に合わせることもできる。できるはずだ。正月が潰れるのはまあいい、どうせ実咲にも祐輔にも帰省の予定はないし恋人もいない。社長は正月手当をはずむだろう。いい肉だって食べにいける。バックアップさえ見つかれば。「ニュージーランドで羊……」「見つかってからね」 壊れたテープレコーダーのようになった祐輔を(という表現を先日使ったら、その新人君から「テープレコーダーってなんですか」と聞かれて戦慄を覚えたのは余談)、にべもなく一蹴して、出てきたUSBを片っ端からパソコンにさしこんで中身をたしかめる。時計の針は二十三時を回って、実咲はそろそろ終電だ。もうとっくに諦めてはいたが。「次から社用のUSBは、紛失防止で巨大なやつにする。パソコンと同じくらいのサイズがいい。売ってなかったら手作りする……」 反省を即座に次に活かすことができるのは社長のいいところかもしれないが、この修羅場の真ん中で通販サイトを見はじめる現実からの逃げっぷりは、長所を補ってあまりある。それでも人がついてゆくのは人徳なのか何なのか。「ニュージーランド……」「羊って美味しいのかな」「ジンギスカンが北海道民のソウルフードっていうくらいだから、美味しいんじゃないですか」 そもそもなんでニュージーランドなんだろう。二十四時間働かされることもしばしばの零細IT企業と、なんとなく対極っぽい気がするからか。だけど実咲の常識からすると、牧畜というのは零細企業なみのブラックな労働環境なんじゃないだろうかという気はしている。もちろんやり方や規模にもよるだろうし、ニュージーランドの農業の実態を知っているわけでもないのだが。「電気も通ってないような田舎がいい。家電は小さい発電機置いて、電球一つとラジオくらいでさ。そしたら顧客からの電話に捕まることもないし、株価の上下にいちいち振り回されることもないし……」「こいつ株とかやってたのか」「誰か止めといてやってよ、向かないでしょうどう考えても」「お前が言うのが一番きくだろ」「なんで」「情け容赦なくけちょんけちょんにけなすから」 殺気だったオフィスの雰囲気が雑談で少し和らぐ、どころかますますすさみ始めたあたりで、後輩二十六歳が天井を見上げて、「バックアップなんて幻だったんじゃないか」 とか言い出した。電波を受信したような顔つきだ。「バックアップがあってほしい、誰かとっただろう、とったはずだ、とかいうような願望が俺たちの心の中に架空の記憶をねつ造したんじゃないか。そうだ、バックアップなんてなかったんだ!」 三日間の平均睡眠時間およそ二時間のところに起こった大惨事に、とうとう心が耐えられなくなったらしいが、もっともらしく思えてきて恐ろしいから本気でやめてほしい。 だが手を止めてつい与太話に聞き入ったおかげで、ふと実咲は冷静さを取り戻して、「ちょっと飲み物調達してくる」 そう言い置いて、オフィスを出た。「あいつ逃げるつもりだ! そのまま帰ってこない気だ!」とかなんとかいわれのない糾弾が追いかけてきたが、べつに追っ手はかからなかった。誰にもそんな気力はない。 腹が立って本気で逃げてやろうかと考えないでもなかったのだが、ひとまず隣のコンビニに入って、全員分の軽食と飲み物を調達する。がっつんがっつん脳味噌に聞きそうな、甘ったるいやつ。レシートはあとで社長に押しつけるつもりだった。疲れ切って睡眠不足に空腹で、パニックのまま探すよりも、この際ひと息いれたほうがいい。 風が冷たい。明日は雪の予報だ。星もろくに見えない都会の空を仰いで、自分の息が白くなるのを追いかけてから、コートの襟を立てた。「ニュージーランドで羊、かあ」 エレベーターの中でつい口から独り言がこぼれた。実家は農家だ。子供のころにはさんざん手伝わされていたし、いまも現役で牛を飼っている。羊はまた勝手が違うかもしれないが、やってやれないこともないような気がしてくる。 洗脳されかかっているような気がして、慌てて首を振る。給料取りのほうが生活が安定しているとはいわないが(吹けば飛ぶような零細企業につとめているくらいだし)、動物の世話は向かない。そう思ったから家を出たのに。 真っ暗な廊下を抜けてオフィスに戻ると、皆が頭を抱えて転がっていた。「なにどうしたの、一酸化炭素中毒かなんか起きた? 室内で羊焼いて食おうとした?」「……セル……」 小声すぎて聞き取れず、床に転がる社長の口元に耳を寄せる。「もう……あれいらなくなったって……キャンセル料払うから、悪いねって、電話」 一瞬、脳が話を理解するのを拒絶した。それから、ああ、こんな時間まで向こうも仕事か気の毒だなあ、と考えた。怒りがきたのはその三秒後、「はあ!?」 でっかい声が出た。自宅だったら近所の窓がガラガラ開きそうな勢いだった。「ふっざけんじゃないわよそんなもん納期ぎりっぎりの完成品出来上がる頃に電話してきといて規定のキャンセル料で済むと思ってんの!? いくら零細企業だって舐められすぎでしょそれでまさか引き下がったんじゃないでしょうね社長!」「現物用意できてないのに全額受け取る気だよ……」「女って怖いな」「羊……」「俺には無理だ。皆、すまないがボーナスは……あきらめて……」「それとこれとは話が別でしょ!?」 ぎゃあぎゃあわめいているうちに時計は午前を回り、ボーナスは無理だけど社長が新年会でジンギスカンを全員に奢るというところに話が決着するころには皆がニュージーランドゆきを夢想しはじめていたのも、正月休み明けに発見されたUSBが、なぜだか社長が新人君にプレゼントしたお昼寝枕(ひつじ柄)のカバーの間からひょっこり出てきたのも、まあ余談ではある。---------------------------------------- 時間はオーバーしてるわ話はまとまらないわ…………恥を忍んでそっと残しておきます…… 2014年さようなら。今年も一年お疲れ様でした!
ひと編み、ひと編み思いを込める。 ニュージーランドもまだ深夜。彼はきっと眠っている。もしも今起きているなら、浮気を疑ってやる。 深夜まで起きている両親に合わせて蛍光灯は消して、読書用のLED電球だけつけて、ベッドの中でマフラーを編む。「喜んでくれるかな?」 手作りのマフラー。彼がニュージーランドに留学したのは今年の四月のことだ。突然のことだった。相談はなかった。いつも一人で決める彼だった。そんなところを好きになった。誰にも流されず、自分で決める。自分にはなかった。「美奈子はこれいいでしょ?」「こういうのは好きだったわよね」 友達が言ってきたら、うなずくしかなかった。適当にその場を合わせて、後悔してきた。おいしくないものを、おいしいと言い、あの人かっこいいと思っても、「ダサッ」の一声で、何も言えなくなった。 自分に嫌気が指していた。 そんな自分に、声をかけてくれたのが、彼――隆だった。「無理してない?」 たまたま友達みんなで遊園地に行ったときに、ベンチに腰を掛けていた。隆はやさしく笑いかけてくれた。正直、気が進まなかった遊園地。こんなことがあるなんて、思ってもみなかった。「なんか、気になって」 緊張しながら声をかけてくれた隆に好感が持てた。隆なら、素直に自分の思いが言えるような気がした。隆とみんなでとった写真は机に飾ってある。そっと隆の隣で写った写真だ。 マフラーは半分ほど編みあがった。ひと編みごとに、思いを込めていく。 隆がニュージーランドに留学をすることを知ったのは、遊園地に行ってから間もなくなった。遊園地にいったのが思いで作りだった知ったのは、それから一週間後だった。 空港まで見送りに行った。私を見つけた彼はひどく驚いていた。そんな彼を笑顔で見送った。あの時の彼の顔は今も忘れられない。「やっとここまで」 あっちの真冬までには間に合いそうだった。立ち上がって長さを確認する。私の身長はもう超えていた。二人で巻くにはまだ足りない。 机に置いてあるチケットを確認する。 ニュージーランド行の往復券。マフラーは二人でするためのもの。「こっちが夏でよかった。冬だったら、寒くて、こんな夜中にまで編めなかったもの」 網かけの白いマフラーを首に巻く。その隣に隆がいる。そのことを考えただけでも、幸せな気持ちになれた。 マフラーを編むのは得意だった。これで十本目。記念すべき本数だった。過去のマフラーはなぜかもらってもらえなかった。付き合っていた彼に、せっかく編んだのに。一度もその首には――隆は違うわよね。今までの真とか、隆弘とか、雅彦とか、正一郎とか、孝治とか、純一とか、蒼汰とか、彰とか、庄司とか――そういえば最近はどうしているのかしら。みんな休学したり、心療内科に通院したり、精神科に入院したりしたらしいけど。私とわかれて、変な女にでも捕まったのかしら? 隆がニュージーランドから帰ってくるのは、来年の冬。待っていられない。彼のホームステイ先は、フェイスブックで確認できた。その近くにフェイスブックの友達ができた。少し泊めてほしい理由を伝えると、二つ返事だった。隆とも顔見知りだったらしいから、内緒にしてほしいことをお願いした。こういうことはサプライズにするのは、万国共通らしい。網掛けのマフラーをアップしたら、感動してくれた。こちらの思いもわかってくれて、お互いに涙した。 ニュージーランドに飛ぶのは来週。夜な夜なLED電球の下マフラーを編む。手作りのマフラーを編む。 隆は喜んでくれるかな? 隆は私が来ることを驚いてくれるかな? 私は暗い部屋の中で、期待に胸を躍らせて笑った。---------------------------------------------------------- ストーカーネタでやってみました。 ひどいな。まとまらない。 今年の三語はこれでおしまい。 来年もよろしくお願いします。
DTMの類と較べてギターやピアノなどの生楽器を触りながら作った楽曲は手作りといえるんだろうか、となんだか言葉遊びのような疑問を口にする先輩は、酔っている。たいして飲めもしないくせにウィスキーなんか頼むからいけないのだが、こちとらしこたまかっくらっているから、どーどーと無視を決めこむ。だいたい脳細胞をばんばか殺してゆくときにしち面倒くさいこと考えてなんかいられるものか。 クッションを枕に火燵布団の中に潜った先輩を確認して、水を薬缶にたっぷり溜める。 中途で潰れて帰れなくなった先輩を泊めるのも馴れたもので、翌朝になれば魚か砂漠の砂かという勢いで水をほしがるのは、そーてーの範囲内である。 灯りを豆電球にまで落として、自分も布団に入る。 ――羊を数える夢をみた。 寒いのだから白湯も持てとの御達示に諾々と従っているとまたくだらないことを言い出した。それじゃあいまがその夢の夢のなかですかとなんだか言葉遊びのような返事を口にすれば、あたりき、それァ夢みたいさ、とやや時代がかる始末である。「前世はニュージーランド生まれです」。どうともいいにくい五七五で見得をきり、それから湯呑みに口をつけたが、こんどは熱いと文句を仰る。「なに、それがお判りになるんだったら、これは夢ではないとゆーこと」「そやな。しょーこにやけどしたわい」
目の前の球と、毛糸を見ていると思う。いい加減、潮時かもしれないと。 最近、日がな一日、そう考えている自分に何度も気づかされる。 何が潮時かといえば、恋人健二とのことだ。一言でいって変わり者で、何かをしだすと周りが見えなくなる。特に工作をする際にはそれが顕著となり、自室にこもって何を作っているのか、ろくに会話もしてくれなくなる。それでも、わたしのことを大切に思ってくれているとは信じていたから、これまで付き合ってきた。 だけど、三日前のクリスマスを境に、わたしの気持ちはいっきに冷めていった。 大学を卒業したあとも、定職につかずその日暮らしをしていた彼が、最近かなりきつめの肉体労働に精を出し、ようやく将来のことを考えだしたのかとすこしは見直していたのだが、どうも様子がおかしい。 健二は共に暮らすアパートに帰宅すると、やはり自室にひとりこもって何かをしている。わたしが様子をうかがいにいくと、集中したいからということで追い出される始末で、三日前のクリスマスには、わたしにプレゼントさえ用意してくれなかった。健二は、わたしが腕によりをかけて作ったケーキや料理を急いで食べると、悪いけどプレゼントはもう少し待って、と言い残し、いそいそと自室に戻っていったのだ。健二は、これまで手作りのプレゼントをわたしにしてくれたこともあったから、あるいはそういうものを用意してくれているのかもしれない。だけど、わたしとの将来をどう思っているのか、もうさっぱりわからなくなってしまった。 そして今朝、健二は私に、三日遅れのプレゼントと本人がいう、謎の物体を手渡した。それが、球と毛糸だ。わたしがこれは何? と問うのを制して、健二は、その毛糸を巻いておいてほしい、といいのこし、仕事に出かけていった。わたしが、帰りにジャガイモを買ってきて、というと、背中を向けたままでひとつ頷いて。 健二がわたしに残した球は、バレーボールくらいのサイズで、持ってみるとちょっと重い。一箇所に小さな突起があって、それを押すと、球の表面にうっすらと発行する赤と青の二重線、そして小さな数字が浮かぶのがわかる。それは例えば、615、619といった数字だ。 毛糸のほうは、かなりの長さで、さまざまな色が一本の毛糸のなかに染められているようだった。いったい何をしたいのか、これを巻いたからどうだというのか。 普段事務をしているわたしは、年末年始の休みに入っているから、時間的な余裕はあるにはある。だけど、たったひとりアパートのなかで意味不明の物体と向き合うっていると、ほとほと自分にあきれてしまう。 それでも、他にすることもないので、わたしはこたつに入りながら、球に毛糸を巻きだした。 球の表面に毛糸を引っかける始点らしきものがあり、それをコマに糸を巻く要領で、何周も何周もさせていく。やはり何かしらの柄が浮かぶようにできているらしく、少しも巻くと、ギザギザの模様らしきものが見えてきた。 三分の一ほど巻いてみて、ようやく全体が想像できるようになった。 球に浮かぶギザギザ模様は、どうやら国の形で、つまりこの球は手作りの地球儀だとわかったのだ。だが、いったいなぜ地球儀なのだろう。すべて巻いてみれば何か違った発見があるのだろうか。 半日も書けてすべての糸を巻き終わったが、それはどれだけ見てみても、独自に染め上げた毛糸で巻いたというだけの地球儀でしかない。 まあ、日本から出たことのないわたしは、外国にかなりの憧れがあるほうだから、地図なんかを見ることは好きだ。こんな国々に行ってみたい、などと夢想しては、興味があるのかないのかわからない健二に、それぞれの国の魅力を語った。それを憶えていて、健二はわたしに手作りの地球儀を贈ったのだろうか。でも、本当にそんなことがしたかったのだろうか。 よくわからないままに、グルグルと気球儀をまわしていると、気にかかることがあった。ひとつの国、ニュージーランドの部分が膨らんでいるのだ。そこで、わたしは思い出した。たしか、球にはスイッチがあった。きっとそのスイッチがニュージーランドの真下の部分にあるため、一箇所だけ膨らんでいるのだろう。 そのふくらみを何気なく押してみると、赤と青の二重線と数字が、毛糸に透けてぼんやり浮かんだ。でも、まだ何を意味しているのか、わからない。部屋のなかが明るいから発光がしっかり見えないのだと思い、わたしは灯りを消した。 冬の陽はとうに落ちており、部屋のなかはすっかり暗くなる。だけど、そのかわりに、手作りの地球儀に浮かぶ二重線と数字が、くっきりと見えるようになった。どうやら、この地球儀の内部には電球のようなものが仕掛けてあって、ニュージーランド部分のスイッチを押すことで、赤と青の二重線と数字が、地球儀上に浮かぶようになっているらしい。 あらためて見ていると、二重線はニュージーランドから伸びはじめている。そしてそれは、様々な国を経由しながら、地球を一周して日本までつづいている。「あっ!」 わたしはあることに気づき、思わず声をあげた。 ニュージーランド始めとして、日本まで到るまでの国々は、わたしが常々行きたいと思っていたところばかりなのだ。その横に知るされた数字は、六月三日のニュージーランドからスタートし、三か月ほどかけて日本へ帰国する過程で、各国へ旅するための必要日数と滞在日数を意味しているのではないか。 そういえば、わたしは健二にいったことがあった。ハネムーンにゆっくりと世界をまわれたらどんなにいいだろう、と。 たぶん健二はそれを憶えていて、綿密な日程と航路・空路をこの地球儀に記したのだ。六月三日は、わたしの誕生日。その日に式をあげて、二重線で、つまりは、健二とわたしのふたりで、世界を旅する。もしかしたら――、いやきっと、健二が必死に働いているのは、その費用を貯めるためなんだろう。 つまりこの地球儀は彼流の―― わたしがその答えに到ったとき、玄関のドアが開いた。 健二は、ただいま、というと、わたしが手作りの地球儀を抱きしめているのを見る。そして「いままで待たせてごめん。僕と一緒に生きてくれるかい? この指輪をはめてくれるかい?」といい、右手に持つ、赤い宝石がきらめく指輪を差しだした。緊張のためなのか、顔が強張っている。だけど、おかしなことに、健二のもう一方の手には、スーパーのビニール袋が提げられている。わたしが朝頼んだジャガイモを、律儀にも帰宅中に買ったのらしい。 ジャガイモを持ちながら同時にプロポーズをする男。 まったく、これほど手の込んだことを考えながら、肝心なところがものすごく抜けている。 わたしがひとこと「馬鹿ね」といってやると、健二は驚いた顔をした。プロポーズを断られたとでも思ったのだろうか。だからわたしはもう一度、「馬鹿なんだから」といい、そして彼の胸のなかに飛び込んでいった。ーーーーーーーーーーー僕が即興書きしようって言ったのに、また遅くなってしまいました。うまくできない場合が増えてきたなあ。どうしたものか。
ニュージーランド、と呼ばれる幻島の存在が叫ばれたのは第二次世界大戦後の事だった。帝国陸軍大佐がその島の存在を見つけ、海図に記すと、中ノ鳥島よりも有名な幻島として名をはせることになってしまった。チャタム諸島とタスマニア、ニーカレドニアを結ぶ三角の地帯で幾多の船舶、航空機が行方不明となった。第二次世界大戦より○十年後の今、河崎重工のテストパイロットとなった島崎は、四菱重工の社運をかけて幻のニュージーランド島を目指すこととなった。四菱F-60戦闘機にはサイドワインダー等が取り外され、領海内での発砲は禁止された。管制塔より島崎へ。という声とともに島崎は自動運転のスイッチを入れた。高度12000の数値を計器が示す。辺りはガスで覆われており、視界の自由が効かない。その御蔭でレーダーに頼りっきりで飛行しなければならない。別に島崎がそこに乗っていようが乗っていまいが関係がないが、任された任務はこなさなければならない。某空域に入る前に仮眠もしっかりと取ろうと島崎は思った。まぶたが重くなってきた島崎の目の済に奇妙な物体が写った気がしたが、島崎は気にせず眠りについた。管制塔、応答されたし。島崎の無線連絡に応答がない。DoogleEarthですら確認できない超巨大島ニュージーランドの存在は疑うべくもなくそこにあった。島崎の胸中に困惑と同時に奇妙な安堵が訪れた。それは一種のデマに対する情報開示のような印象を受ける感情であった。島崎は何度と無く管制塔に連絡を試みるが、管制塔は応答せず、無線の周波数帯においても全く相手が表示されない。暗号化のパスも確認したものの、パスには間違いがなかった。到着した島の空気は乾いていた。そっけない風が吹き抜け、島崎の頬を他人行儀に通り抜ける。草原には小屋があった。何十年も使われていない小屋のようだった。小屋へと歩いてゆく中、台風の目の中のような渦巻き雲が確認された。小屋には少年が居た。親もなく、村人もなく、田畑もなく、インフラもない。その中で少年は黙って家を訪れた島崎にスープを差し出した。島崎がその材料のことを聞くと、少年はただ手作りだと述べるばかりだった。彼は英語も話せたし、日本語も話せたし、東洋的とも西洋的とも取れる顔立ちをしていた。足音がなく所作に生気がない。「では、この島には住人も何もいないと」少年は島のことを小さな声で語った。彼曰く、この島はもうすぐ壊れてしまうのだという。島崎が沈むのではないかと訂正すると、壊れると何度も言い直した。台風ではないのか。台風ではありません。地震災害か、津波か。いいえ、地震ではありません。そのような要領を得ないやりとりを繰り返した後、少年は島崎に向かって一種ねめつけるような、それでいて幽霊の如く揺らめく目線で見つめて言った。「ニュージーランドはそこに存在した島なのです。しかしそこに存在した島ではないのです。ニュージーランドの飛べない鳥も僕の居ないニュージーランドには存在するかもしれない。でも、僕の居ないニュージーランドにはあなたは居ないかもしれない」オレンジの電球の中にある熱源が部屋を点滅させると少年はスープを片付けた。スープ皿は流し台で忽然と消えてしまった。「ほら、みてごらんなさい。このようにこの場所も不安定なのです」少年が言うが早いか、天井が歪む様が島崎の瞳孔に写り込んだ。そこには樹木が茂り、奇妙な鳥が覗く穴が出現した。この場所独特の感覚なのか、島崎はそのことを不思議とも思わなかった。ただ、目の前に起こる出来事を、テレビのだら見のような感覚で見つめる島崎が居た。「ああ、ほら、あの飛べない鳥、この世界には居ない鳥だよ。あなたのあの立派な飛行機も、木にぶら下がる毛糸だらけの動物も」1945年に終戦を伝える天皇の声が聞こえたが、数分でその声はかすれて聞こえなくなった。やむをえぬ事情で東経175度線に迷い込んだゼロ戦はおかしな島に到着した。毛糸だらけのパンダのような動物に飛べない鳥、輸入品でしか見ない派手な色をした植物や鳥。ああ、そういえば昔見た貸本の挿絵にあのようなものがあったな、と少尉は思った。小屋の少年は親切で、食べ物を運び、肉を裁き、明朗快活な表情でシマザキ少尉をもてなした。彼の島への到着はごく僅かな3時間程度のことで、その後運の良いことに海軍への打電が成功し、補給を得ることが出来た。空を飛ぶ島崎の目の中にバラックが写り込んだ。管制塔に答えはなく、対中国に向けた対空ミサイル基地とレーダーも見当たらない。およそ首都圏と思えない情景を見た島崎はその地理と緯度経度を確認した。しかし地上に近づくにつれバラックばかりか、やけに低いビル群や田畑が首都圏上空に見えるのが確認できた。島崎はそれでもあの少年が乗り移ったかのように、ぼんやりとした意識でそれを俯瞰した。結局四菱F-60戦闘機は泥混じりの薄汚い滑走路へと不時着した。島崎は手を振る見慣れぬ衣類を着た東洋人を観て思った。ここに居る誰かも、自分もどこかの自分だ。1945年8月17日、少尉は四菱重工のテストパイロット帰還、という見出しでネットニュースのヘッドラインを飾った。しかし、その表記は少尉ではなく三尉と書かれた。自分の出自を述べても、衣類のこと述べても、質の悪い冗句であると言われるばかりだった。街には硝子の高い建物がそびえ、文学史を紐解けば、太宰治は死んだ人とされた。少尉は時々あの少年のことを思い出した。少年は電球の喩えを用い、光り輝くときにあなたは瞬間的に存在するのだと言った。それは無数に存在しており、因子は小さなものでもよく、爆発は認識されない。そうした手作りの世界、手作りのあなたが沢山いる。そうやって折り紙のようにあなたは存在しているし、あなたは簡単に消されるのだと。だから少尉はなんとなくこの世界のことを遠くに感じなくても済んだ。遠い謎の島は振り向けば僕の背中に存在しているし、遠く追いかけても見つからない。時々上官や妻のことを思い出すが、きっとそれは永遠の瞬間なのだろう。それがとても正しい理解であると思った。---------------------SGウォッチにより計測。10分33秒オーバー