Re: 即興三語小説 -今年もラストスパート- ( No.1 ) |
- 日時: 2014/12/23 22:12
- 名前: マルメガネ ID:4A58baOQ
護摩壇に焚かれた護摩木が爆ぜ、炎がゆらめき激しく燃え上がる。 薄暗い道場に設えられた護摩壇の奥には曼荼羅が掲げられ、護摩壇の前に座った円海阿闍梨とその弟子たちが一心不乱に経を上げ、真言を唱えつつ印を結び何かを祈っている。 道場の外は降雪していた。 真っ白な雪がぼたぼたと落ち、瞬く間に白く覆ってゆく。 火桶が欲しく恋しい寒さの中で円海阿闍梨が祈るのは国家鎮護。息を整え、高くもなく低くもない真言の詠唱が薄暗い道場に響きわたる。 山門の静謐さとはかけ離れた洛中では、辻風が起こって家が倒れただの、疫病が流行り多くの人の命が失われ、また戦乱など、まことよからぬことばかり続き往来のきらびやかさは失われ、寂れ果てている。 王朝のきらびやかな洛中のさまと廃れ寂れ果てた洛中のさまの雲泥の差は、諸行無常の理どおりにそれはいたたまれないほどだった。 国家鎮護の祈りを終えて、道場の外に出た円海阿闍梨は、降雪して白く銀世界になった境内の様子を眺め、この雪の如くに災難が打ち続く世の中を覆ってくれればよいものを、と思う。 山深い寺から円海阿闍梨は弟子たちと一緒にそう遠くない村に托鉢にでかけた。 薄暗い山道を通り、村に出て経を唱えながら家々を回る。しかし、打ち続く天災によって、食うものもままならないのか、放棄された家もあった。 村がそんなありさまだったから、洛中はどんなにひどいことになっているのか、ということはなんとなく円海阿闍梨にもわかった。 「お師匠様。どこも無理なようです」 弟子たちががっかりした様子で帰ってきた。 「それは仕方がない。寺に戻ろう」 円海阿闍梨がそう言って寺に戻ることを弟子たちに告げた。 また暗い山道を通り、雪をかき分けて寺に戻ると、稚児たちが湯殿に湯を沸かして入れていた。 それは何よりも馳走とばかりに、それぞれに飛び込む。 雪は夜明けまで降り続き、朝には一尺あまり積もっていた。 円海阿闍梨は弟子を集めると、また道場に籠り、祈り始めたのだった。
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