Re: 即興三語小説 ―ポッキーとは何か― ( No.1 ) |
- 日時: 2014/02/15 07:08
- 名前: 苗穂乂 ID:iXhXjbno
飛び入り失礼します。今温めている拙作のアイディアが流用できそうだったので、20分ほどででっち上げてみました。6000字の十分の一程度の掌編ですがお目汚しお許しください。 --- 或る老頭兒の独白 私は日本にいたころから、ずうっと同じものだけをつくり続けてきた。日本ではもっと若くて仕事の速い奴に仕事は奪われ、私はお払い箱になってしまった。それで、この湿気の高い密林の広がる国に払い下げられ、今でも同じものをつくり続けている。 国は違っていてもいつも私がつくったもので子供たちが喜んでくれるから、それでいい。私は、この国でまた子供たちや母親との物語を紡ぐことができるのだから。 それでも、私の終の働き場となるこの国にたどり着くまでは長かった。秋に日本の職場を追われ、引き取り手が見つかるまで日本海側の港の倉庫に放置され、やっと行き先が決まったのは雪の舞う冬。冬の時化た甲板では寒中水泳でもしているように体がしびれて体中に氷がまとわりついた。対馬海峡を抜け、ようやく南シナ海にさしかかる頃には、体中にはすっかり錆が浮いていた。 そんな体たらくでこの国の建屋に収まったときには、制御系もオーブンのヒーターもコーティング槽もぼろぼろになっていた。 この国のエンジニアの技術は未熟だ。そんな錆だらけになった私の制御系を修理しようとして、基板に山ほどの天麩羅半田をこしらえた。 技術は未熟だが熱意はある。自分の国の子供たちの喜ぶ顔を見たいのは、私と同じだ。やがて、修理の腕もあげ、私は日本にいた頃と同じように、いや、それ以上に快調に仕事ができるようになった。それはそうだ。日本では、コーティングにも、チョコもあれば、抹茶もあったり、ムースもあったり。それが、この国では単純なチョコだけでいいのだから。 そう、私はかつて、ポッキー製造マシーンと呼ばれていた。そして、この国でいま、「チョッキー」とか「ホッキー」とか呼ばれている菓子を作っている。
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Re: 即興三語小説 ―ポッキーとは何か― ( No.2 ) |
- 日時: 2014/02/24 04:01
- 名前: 1 ID:KkVtuE8U
飛び入り感想です。さらっと読んでいただければ幸い。
一言でいうなら、ミスディレクション擬人化話、でしょうか。 擬人化ものであるとは終盤まで明かさず、最後に驚きをもって、それまでの内容をひっくり返すもの、といった感じかな。 その良さは出ていたと思います。前半は、それこそ現実に打ちひしがれた老人が、外国でなにかの仕事をしていると思っていたので、中盤以降、おいおい、一体どういうことになっているんだい、と思いつつ読めたので。作者の企みが良いな、と。 また、輸送されるあたりの表現は、よく書けているなと思いました。
さて、これだけで終わっても良いのですが、ちょっと難癖つけてみますね。参考になるかはわからないのですけれど。
まず第一に、「ポッキー」製造機である、という描写を前半部分でもうちょっとしっかり描いた方が良いかなと。もちろん、直接的にではなく、暗に書くわけですが、それが前半で描かれているほうが、より驚きが増したと思います。当然、ばれないように書かなければいけないので、リスクも増すのですが、最後の驚きをより大きなものにするには、効果的だと思います。
続いて、細かい指摘。 >私は、この国でまた子供たちや母親との物語を紡ぐことができるのだから
ここは、小説家の独白にも読めるので、もうちょっと良い表現が欲しいです。お題を消化するために、無理をした表現になってしまったという感じ。
苗穂さんのは、今のところ「昆虫食」を読んだだけですが、やはりある種の企みといったものが好きな書き手さんなのだなとあらためて思いました。これからも頑張ってくださいね。 あ、それと、前よりずいぶん読みやすかったです。それではー。
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感想です ( No.3 ) |
- 日時: 2014/02/24 22:21
- 名前: 苗穂乂 ID:97rsoqsY
- 参照: http://gaisarchives.wordpress.com
1さま 狙いをご理解いただき、楽しんでいただけたようで嬉しいです。やっぱり、驚きとか清涼感とか怒りとか嫌悪感とか、何かしら書いたものが触媒になって読んでいただいた方に一瞬でも化学変化を起こしたいと思いながら書いています。後ろ二つの反応は怖くてまだ難しいですが。小心者です…… 空間座標なら三つパラメーターが決まると一点に固定されてしまいますが、三つの言葉が指定されていても言語空間では物語は無限に展開できるところが面白くもあり、難しくもあり。だから三語をしっかり活かそうとするのですが、【寒中水泳】と【天婦羅】に手こずり、簡単そうにみえた【物語】を軽く流してしまったことをしっかり見透かされてしまいました。精進します。 実は天婦羅と寒中水泳のお題から、ずっと、永井豪の「あばしり一家」の連想が頭を離れなかった心の濁った大人です。そんな訳で、天婦羅をいかに食べ物から引き離すかが大きな課題でした。
読後感想 RYOさま 心の中では一瞬菜箸が止まりそうになりながらも、手元では確実に油を切っている熟練した天婦羅職人の姿が目に浮かぶような佳品でした。
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