Re: 即興三語小説 ―今年最後の三語ですよ― ( No.1 ) |
- 日時: 2013/12/31 20:10
- 名前: 青空 ID:i3AaGTgU
大晦日。明日は、我が家にお正月がやってくる。 わたしは細い目をして汗をふいた。年末の掃除が忙しかったためである。 「あなた、すみませんが鏡餅をだしてくださいます?」 妻の京子が、お節料理を作りながら声をかけた。 「わかった。母さん、鏡餅はどこにあるんだ」 「さっき、配送の人が来ていたから玄関に置いてあるんじゃないかしら」 私は、縁側から玄関に行こうと思い、窓の方に歩みよる。 娘のサエが、凄い勢いで庭に設置してあるブランコを漕いでいる。天まで届きそうな勢いだ。ブランコに集中して猛然と全力で漕いでいるので、私は大声をかけた。 「なにをしているんだー!!」 「パパぁ。来年は馬年で飛躍の年ーー!! 飛躍漕ぎをしているのー」 私は、磨き上げた廊下と綿の靴下がこすれ、ずっこけそうになった。辛うじてこらえる。 「よ、よかったなーー。ひ、飛躍できるといいなあ。気をつけるんだぞう。新年から怪我したらもともこうもないからな」 「うんっ」 私は、娘の勢いに引け目を感じ、どんどん自分をフェードアウトさせながら、玄関に向かう。
(……………でかい) 大人の身長の1.5倍はある鏡餅が玄関に置いてあった。横幅が玄関を占領して関取が悠然と立ちはだかっているように見える。私は脂汗を掻いた。
ーー私は傷めた腰をさすりながら思った。来年もこの家族と付き合わなくてはならない、と。
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Re: 即興三語小説 ―今年最後の三語ですよ― ( No.2 ) |
- 日時: 2014/01/05 18:53
- 名前: マルメガネ ID:VWicUX..
何かのイベント
大の男が二人よたよたと脂汗を垂らしながら巨大な鏡餅を運ぶ。 鏡餅は紐をつけた大きな木の板に乗せられて縛られ、それに棒をさして担ぎ上げる二人の男がよろけるたびにぶらぶらとブランコのように揺れて非常にあぶなっかしい。 鏡餅の大きさもさることながら重量もかなりある。 彼らが向かう新年の会場からは、特大の大釜で煮たてられている小豆の匂いがしていた。 特大の鏡餅でお汁粉を作るのだ。 「ひーはー 重かった」 担ぎ上げていた鏡餅を下ろした彼らはため息をつき、滲んだ脂汗をぬぐう。 別の担当がその鏡餅を大きな玄能をふりかざして打ち据えて割るが、勢い余って敷いていた大きな板まで割った。 紆余曲折はあったが、砕かれた鏡餅は特大の大釜に放り込まれて小豆入りのお汁粉としてふるまわれたのだった。
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No.2に対する返信 ( No.3 ) |
- 日時: 2014/01/05 21:03
- 名前: 青空 ID:TD/cKvkI
感想ですw。世の中にはしたらあかんってこと沢山あります。でも……しちゃうんですよねw。マルメガネさんの作品のその部分で笑いました。(ネタバレになるのでじっくり読んでくださいね w)
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年の瀬はどこかほの暗く ( No.4 ) |
- 日時: 2014/01/05 22:19
- 名前: RYO ID:vmHa/4cM
夕暮れ。オレンジ色が目に眩しい。風は穏やかでも、空気は冷たい。年の瀬のはずが、まったくそんな気にはなれなかった。地元にでも戻ってくれば何か感じるものがあるかもしれない。そう思って帰ってきたものの、そんなことはなかった。何をしているんだか、と自分を笑う。 「お前がいても役に立たないから、どっかそこらへんで時間でも潰してろ」 早々に大掃除から追い出されたのは、三時間も前のことだ。近所を散歩してみたが、見知った顔には会わなかった。もしかしたら、知っている顔もあったかもしれなかったが、五年振りだ。相手の顔なんて覚えていなかっただけかもしれない。声をかけなかったのはお互いさま。そんな言い訳をする。 「自信がなかっただけか。声をかけたところで、何をいうのか?」 いつ帰ってきたんだ? 今何してるんだ? 結婚は? 想像しただけで、いちいち答えることも面倒だ。 散歩にも飽きて、近所の公園のブランコに腰を落ち着かせている。コートの襟を立てて、寒さをしのぐ。 「おーい。鏡餅は供えたか?」 近所の家から声が聞こえた。確かに年の瀬なのだろう。仕事も休みに入った。だからこそここにいる。が、まったく年末年始の感じがしない。仕事が忙しかったからか? 確かに次々とやってくる仕事に追われていたのはあるが、それも毎年のことだ。先輩の言動にイラついて喧嘩してしまったためか? それはそれは馬鹿馬鹿しい。 ため息を吐きながら、これから毎年、こうなのかと思うと、俺の人生ってなんなのか。大学まで卒業して、それなりのところに就職して五年、仕事にも慣れて、やりがいもそこそこにある。とくに大きな不満もない。上司や先輩にときどき腹が立つことはあれど、そこそこにやっていける。その思いは今も変わらない。が、この実感はなにか? ブランコに揺れながら、家々の屋根に沈んでいく夕日を眺める。 定年まで、こんな感じなのかね。こんな人生のはずだったか? そう思ったら、目の前が真っ暗になりそうだった。脂汗が伝うようなひやりとしたものが、背中を走る。不満はないが、淡々と過ぎていく人生。それが悪いとは思わない。そこそこの人生でかまわなかった。が、この恐怖は一体何だ? こんなはずじゃなかった。なんとなく紅白を見て、年越し蕎麦食って、年末年始のはずだった。 正体のわからない恐怖を目の当たりにしているようだった。残りの人生これでいいのか? そう思いながら、それ以外の人生などない、そんな人生。 大きく息を吐き出す。 年末年始だから、そんな気分になってしまっただけだ。別に仕事が始まれば、いつも通り。 「高志君?」 不意に呼び止められて、顔を上げる。そこには小学校のときの同級生の奈緒子が立っていた。 「いつ帰ってきたの? 今何しているの?」 矢継ぎ早に質問してくる奈緒子。さっきまで悩んでいたことが、一気に吹き飛んで、何と答えていいのかわからないでいると、奈緒子の携帯が鳴った。一瞬顔をしかめて、奈緒子は携帯にでた。背を向けて二、三答えてから、奈緒子は向き直った。 「親から、早く帰って来いって。私、五日まではこっちにいるから、連絡頂戴ね」 奈緒子は一方的に連絡先を聞き出すと、夕暮れに消えていった。 何を期待していたわけじゃない。ただ、ほんの少し人生に何かが起こったような気がして、ゆっくりブランコから立ち上がる。 「そろそろ帰るか」 ついさっきまで悩んでいたことさえ、どこか馬鹿馬鹿しく思えて、笑っていた。
---------------------------------------- 90分くらいです。 久しぶりの三語でした。 やっぱり日々書かないとダメですね。 今年は少しでも書く年にしたくて頑張ってみたものの、暗くなった。 シドちゃんの話も考えたんですけどね。 それは、またそのうち
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No.4に対する返信 ( No.5 ) |
- 日時: 2014/01/05 23:06
- 名前: 青空 ID:TD/cKvkI
感想です。メランコリーな年末! お洒落な感じがします(--うーん。人間性が違うなと思い感心しました。
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Re: 即興三語小説 ―今年最後の三語ですよ― ( No.6 ) |
- 日時: 2014/01/05 23:42
- 名前: RYO ID:vmHa/4cM
感想です。 特大鏡餅は、バケツプリンへの憧れと似ている。
>青空様 短い中に三語まとめてあって、大変なご家族らしく、同情しました。 落ちから察すると、嫁さんの実家と思われるんですけども、 義母とのやりとりが実家っぽく、その辺は整えて欲しかった。
>マルメガネ様 ブランコの比喩がいいですね。ストレートに使った私としては、そのアイデアはなかったです。 ただ脂汗の使い方は、意味が異なるので、適して欲しかったところですね。あるいは、なぜ脂汗なのか、理由が欲しいところです。
>RYO 自作については特にコメントはないわ。 今の自分の思いをちょっと小説風にしただけですね。 ほんと、今年は年末年始って気分が全くなかったです。 年明けもう少し明るい話にしたかったですが、思いつかなかった。
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