き、気の利いたサブタイトルが浮かばない。 それにしても、お題の組み合わせがなんというか、いい感じですね。ホラー風と見せかけて、ユーモラスな香りがただよっている気がしなくもないです。 ということで、みなさまぜひふるってご参加くださいませ!--------------------------------------------------------------------------------●基本ルール 以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。▲お題:「操作」「へちま」「椅子」▲縛り: 「何かが連鎖する話にする(何かは任意)」▲任意お題:「お、おまえだったのか」「祟りじゃ」「あっけらかん」「細工」▲投稿締切:3/6(日)21:59まで▲文字数制限:6000字以内程度▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません) しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。●その他の注意事項・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要)・お題はそのままの形で本文中に使用してください。・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。●ミーティング 毎週土曜日の22時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。●旧・即興三語小説会場跡地 http://novelspace.bbs.fc2.com/ TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。--------------------------------------------------------------------------------○過去にあった縛り・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など)・舞台(季節、月面都市など)・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど)・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど)・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど)・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など)・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など)-------------------------------------------------------------------------------- 三語はいつでも飛び入り歓迎です。常連の方々も、初めましての方も、お気軽にご参加くださいませ! それでは今週も、楽しい執筆ライフを!
最近しきりに悪魔が訪れるようになって迷惑している。 悪魔といっても小さくて、せいぜいこぶし程度の大きさだ。真っ黒い体をしていて、こうもり羽をはばたかせ鋭い牙をのぞかしている辺りはそれらしくもあるけれど、性格によるのか、威厳もないし怖くもない。ただうっとうしいだけで、奴が来るとげんなりさせられる。 悪魔が来るのは、手段はわからない。どうやってか、空中にふいと現れる。基本、こちらの都合などおかまいなしに現れるから腹が立つ。今夜だってそうである。私が一人ささやかな晩酌を楽しんでいる時に来るものだから邪魔で仕方がない。「なにをしにきたのですか」「ほう、酒なんて飲むのか」 こちらの問いなんてまるで意に介さずに言ってくる悪魔に、こめかみが引き攣る。そのさも意外だという口調に、手にある日本酒をぶっかけてやろうかと短気になったが、それは勿体無いのでやめておいた。「ええ、飲みますよ。いま飲んでいるのは日本酒ですが、ビールやカクテルやサワーも飲みます。ウィスキーなら氷を入れて水で割りますし、焼酎なら米や麦より芋が好きですね。ただ、ワインは嫌いです。高いやつならばともかく、安いワインは不味いとしか言いようがないですからね。それに、あの渋みはそうにも好きになれません」 半ばやけっぱちになって、まくしたてるように言う。「なんだ、酔っているのか」「酔ってなどいません」 呆れたように言う悪魔に、据わった目を返す。心外である。なぜだかこいつの発言はいちいちいらつく。正直、大嫌いである。この悪魔が来るのを阻むことができれば何としてでも止めてやるのだが、虚空から現れる奴にどう対処すればいいのか、その手段が思い浮かばないのがますます業腹である。「で、なにか用ですか」 言外にさっさと帰れという意図を込めて言う。「願い事はあるか」 私はそれには答えず、ゆっくりと悪魔をにらみつける。悪魔は堪えた風もなく宙に浮かんでいたが、しばらくすると虚空に消えた。「ちっ」 品がないのは自覚しつつ、あからさまな舌打ちをする。結局、なにがいいたいのか分からない。 そもそも、何だって悪魔が私のところに来るのかもわからない。当たり前だけれども悪魔を召喚するような怪しげな儀式などしていないし、それなりに真っ当に生きているから、悪魔に目をつけられるような悪行も憶えがない。だというのに奴めはほぼ毎日訪れてくる。訪れてきてはどうでもいい話をして、その後に決まって「願い事はあるか?」聞いてくる。もういい加減にしてほしい。 私には、悪魔に頼むような大層な願い事はないのだ。 とある日のことである。休日で特に予定もなく一人で部屋にいたのだけれど、高校のときの友人から、買い物をするからぜひ来い、一人では淋しいとメールを受け取った。暇をしているところに懐かしい友人からの招集がかかったわけだけれど、どうも面倒である。しかも命令形になっているのが気に食わない。そして金がない。行く要素があまりにも欠乏していたので無視しようかと思ったが、ふと、このまま一人で部屋にいると真昼間から悪魔が来る気がして、それは嫌だったので、行ってやろう、と返信を送った。 軽く身支度をすませ、なけなしの金を持って出かける。家を出ると、九月を過ぎたというのにまだ暑い。時期的に残暑も終わったはずなのに、さんさんと日が照っている。時折、寝坊な蝉の声が聞こえるぐらい夏が残っている。いくらか気が滅入ったが、約束してしまったからにはしょうがない。いまからでも断ろうかと思わなくもなかったが、とりあえず仕方がない。 待ち合わせ場所に着くと、友人が本を読んで待っていた。おーいと声を掛けるとようやくこちらに気付いた。 しばらく二人で適当な店を巡っていたが、どうも友人の様子がおかしい。一応繕ってはいるが、何やらやけに機嫌が悪そうなのだ。雰囲気が重く、会話もあまり弾まない。たまにふっと表情を消して黙り込む。そういえばこいつは不機嫌になると、その発散で買い物をする癖があったな、と思うが、不可解なことに友人は品を見るだけで何も買おうとしない。どうしたのか、よく分からない。高校を卒業してから、そんなに密な付き合いはしていないので分からなくとも当然なのだけど、やはり気にかかる。わざわざ呼び出したくらいだ、そのうち相談してくるだろうとしばらく放ってみると、案の定、とある古着屋に入ったところでぽつりと漏らすように呟いてきた。「疲れた」 服を見ながら言う友人の言葉に何となくぎくりとしたのは、あの悪魔のせいだろう。「どうした?」「疲れた」「……」「疲れた。疲れた。疲れた。疲れた。疲れた。疲れた。疲れた」 ほとんど無表情で繰り返す友人に、私は黙ってうなずいた。 そのまま店をまわって、結局二人とも何も買わずに別れて帰った。友人は別れ際に一言「ごめんね」と付け足して、私はやっぱり何も言わず、ただ笑って答えた。 家に帰って一息ついたが、どうも友人のことが気にかかって何をする気も起こらない。もっと親身にすべきだったろうかといまさらながら悩んでしまう。とはいえ、ただ言いたいだけという友人の気持ちも何となく分かるのだ。何かを言って欲しくはない。ただ、どこかに吐き出したいだけなのだ。だからあまり会うこともない私を呼び出したのだろうし、そういう気持ちは理解できるから、これ以上突っ込んでいくのもはばかられる。「何か悩みでもあるのか」 突然に背中から声をかけられて、文字通り飛び上がるほど驚いた。振り向くと悪魔がいて、こいつに驚かされたかと思うと必要以上に腹が立った。「ない」 殊更素っ気無く言うが、堪えた様子もない。こいつを見ていると何故だか気分が悪くなる。だから私は悪魔から少し視線をそらした。「何か悩んでいるのではないのか」「私の悩みじゃないよ」 再度の問いかけに、顔をしかめて返答する。悪魔が来たということは、と外を見やると、いつの間にやら夜になっていた。「人のものを抱えて、難儀な」「うるさい。勝手だろうに」 とがった口調で吐き捨てる。 悪魔は少し間違っている。抱えているわけではないのだ。抱えてやるほど助けにはなっていない。そんな自分を自己嫌悪しているだけなのだ。「そういうのを抱え込むというのだ」 何も言っていないのにまるで心を読まれたような、わかった風の口調で悟されて、ますます仏頂面になる。何故よりによって悪魔なんかにそんなことを言われなければならないのか。「願い事はあるか?」「ない」 ちらりと友人の顔がかすめたけれど、そうはっきり言い切ると、悪魔は宙に溶けるようにして消えた。それを確認してから、ふうとため息をつく。 窓から空をのぞくと、星はなかったが丸い月あった。今夜は満月だったか少し驚き同等に得した気持ちで思う。夜空に一点の満月が浮かんでいて、私はそれにしばし見とれた。 外は、風と雨が支配していた。昼が半分過ぎた程度の時間で薄暗く、轟々とうなる風に乗った雨音が、この年になっても少し恐ろしい。意味もなく心がさざなみだってわけもなく不安になったりするのだけれど、それを押さえ込めるぐらいの分別はある。 こんな日にまさか出かける気にもならず、私は部屋でじっとしていた。部屋の中は動くのに不便なぐらい暗くなっていたけれど、電気をつけるのも億劫で、机に頬杖をついてぼおっとしていた。雨戸を閉め忘れたので、窓越しに外の様子がみえる。硝子が濡れているものだから少し景色が歪んでいる。雨がざあっと鳴って家の周りを囲んでいる。空気が重い。雨音を聞いているうちに、何か閉じ込められているような圧迫感が強くなってきて、やはり少し恐ろしい。 今日は、家に一人である。 座っているのに堪えられなくなって立ち上がった。そのまま部屋を出る。暗かったので、床に放ってあった何かにつまづいた。確かめるの面倒なので、そのまま蹴飛ばしておく。廊下、リビング、姉の部屋と順繰りにまわっていったが、特に何もなかった。人気が無く、そのくせ雨音が溢れてしんとしない。唸りを上げる風音がちっとも落ちつかない。 居間に落ちついて、テレビをつける。それからゲームをしようかと思い立ち、ごそがそと設置する。コントローラーを操作し、次々と色とりどりのスライムを消していく。ボス戦までいって、しかし私はコントローラーを放りだした。 ことん、と寝そべる。床はひんやりしている。ざあざあと雨が降っている。どんどんとスライムが積まれていく。あっという間にゲームオーバーになる。私はそれをみている。 無性に、誰かといたかった。 その日、悪魔は来なかった。 一本のへちまが落ちていた。 台風が去った次の日のことだ。庭先に落ちていたそれは、前日の暴風に飛ばされたのか、あちこち傷んでいるもののよく完熟していた。拾いに外に出てみて、ふと気付く。 涼しい。 もはやうだるような熱気はなく、軒先につるされた風鈴に頼ることをせずとも十分に涼気を感じる。台風にその湿気を巻き取られたのだろうか、空気も、覆いをひとつ取り払ったような清澄さが肌に心地良い。いつのまにやら蝉の声が聞こえず、虫も夜の鈴虫へと姦しさが移ったようだ。暦にあるものと違い、季節には明確な境があるわけではない。だが、台風一過の晴天を仰げば空が高い。軽やかに風が吹く。 秋なのだ。 私は部屋で茫っとしていた。どの位そうして居たろうか。そう。私は部屋の椅子に座ってぼんやりしていた。そうしていると、浸浸と、何かの音が聞こえる。いつからそれがあったのか、私にはよく解らない。近いのか遠いのかすら判然としない。一人でいると音は際立つのだけれども、それでも見えない。恐ろしいような、薄ぼんやりとした予感があって私はそれが嫌だった。けれども見極めてみたくて、私は部屋で待っていた。感覚を研ぎ澄ますでも無く、ただぼんやりと待っていた。ふと外が真っ黒になっていることに気が付いた。今は暗くなるには少しばかり早過ぎる。それに、暗いわけでなく黒いのだ。黒い霧が辺り一面を覆っている。奇妙である。不可解な現象で、如何したものかと考えていると悪魔が現れた。何時もの様に何ら前触れもないが、今更驚く事でもない。こいつだろうか、と思ったがどうも少し違う気がする。外が黒くなった原因は知らないが、私が待っているものはおそらく別のものだ。もう少し待とうかと思い、悪魔のほうを見る。珍しく、悪魔は何も喋らない。ただこちらをじっと見つめてくるだけで、だから私も悪魔をじっと見つめていた。そうしているうちに、悪魔がだんだん大きく膨れてきた。そこらに置いてある家具やら何やらを呑み込んで障害にせず、だんだんだんだん大きく膨らんでいった。私はそれをじっと見つめていた。見極めたかった。膨らんだ真っ黒な悪魔の身体が目の前に来ても逃げようとは思わなかった。不思議と心は平静で、何の感情もない。私は悪魔に呑まれた。呑まれる際、何の衝撃もなかった。悪魔の中には何にもなかった。多分そのおかげだろうと見当が付いた。ただ座っていたはずの椅子が急になくなって、思い切りしりもちを付いた。勢いの割に痛みはなかったが、やや憮然とする。立ち上がり辺りを見渡してみたが、黒いくせに暗くはなく、ただ広くがらんどうな所である。他に呑まれたはずの物もないのが少し不思議だった。私一人があった。そこへ、ふっと悪魔が現れた。身体の色が背景に溶け込んでわかりにくかったけれど、確かに悪魔だった。ここは悪魔の中なのに何故、とは思ったがそれはどうでも良かった。「願い事はあるか?」 いつものように悪魔が訊ねてきたのに、私は何だか胸が詰まってしまった。「何もない」「何かあるだろう」「知らない」「お前自身のことだ」「見えない」「逸らしているだけだ」「聞こえない」「耳を澄ませ」「触れない」「手を伸ばせばいい」「だって」 何故だか、涙が滲んできた。これ以上は言いたくなかった。悪魔は、それを許さなかった。なんて酷いのだろう。目の前にいるのは、間違いなく悪魔だ。「私には、何にもない」「そうか」「希望も目的も好きなものも嫌いなものも、何にもない。それに気が付いた時、戦慄した。何もないということが、あんなに恐ろしいとは思わなかった」 ひどくひどく空虚な穴が、ぽっかりと。 自分の中にあったのだ。「私は、何かになりたかった。自分の中に何かを確立したかった。けれども、よくわからなかった。何かになるための方法も、そもそも何になりたいのかも。よくわからないまま時間ばっかりすぎていって、世間では充分大人と認識されるような年齢になっても自分が何になれたのかよくわからない。職を持って働くことが何かになることだと思っていたけれど、そうじゃなかった」 結局、私にはわからなかったのだ。私の求めていた何かに、私はなれなかった。私は、自分のことがどうしようもなく嫌いで、自分のことをどうしようもなく諦めていた。「私は、どうすればいいんだ」 すがりつくように、訊いた。願い事を叶えてくれるはずの悪魔に、私はそう訊いた。 悪魔は。「詰まらんな、お前は」 けらけらけらと。 悪魔は笑っていた。ひどく満足したように笑っていた。「もう、用はない」 消えていった。 私は、元に戻った部屋で一人呆然と突っ立っていた。「知っているよ、そんなことは」 どこまでも空虚な部屋で呟かれた言葉は、薄く広がって消えた。-------------------------------------------------------------- 繋がりないし、半端に終わってる……。しかもお題と縛りの使い方がひどい。反省してます。
「ほれ、もっと沖まで行っとくれ」「へいへい、人使いが荒いったらないぜ。まったくよお」 平助はぶつくさと文句を垂れながら、それでもゆっくりと船を漕ぎ出しました。お得意さんの頼みともあれば無碍に断る訳にもいきません。魚釣りのために小舟を出して一日仁八爺さんに付き合ってやれば、結構な収入になるのです。「それがお前さんの仕事じゃろうが。そう言えば、お前さんのへちまみたいな顔を見て思い出したんじゃがな」「誰がへちまみたいな顔だよ、失礼な爺だな」「お前さんこそ爺は失礼じゃろうが。まあいい、そのへちまの話なんじゃが、あれは体を擦るのに重宝するじゃろ」「年寄りの固い皮膚にはちょうど良いだろうな」 軽口を叩く平助を横目で睨みながら、仁八爺さんが竿の準備を始めています。「最近は妙に高くての。買い替えるのを躊躇してしまう」「すぐに駄目にしちまうほど固いのかい、爺さんの背中は」 適当な返事をする平助に、仁八爺さんも特に何かを言い返したりはしませんでした。所詮は退屈な時間の埋め草です。「うむ、ここで良いぞ」 船を停めさせて満足げに釣り糸を垂れる仁八爺さんの隣で、平助は座り込むと後ろに両手をついて空を眺めます。お天道様がまだ上を目指している最中の秋空を、雀がさっと横切って行きました。「……ま、ほとんどはこうしてぼんやりしていられるしな。楽な商売だ」 大あくびをしながら呟いてうつらうつらしている平助に、「平の字、船を漕いどる場合じゃないっ……手を貸せ」 突然、仁八爺さんが騒ぎ出します。平助は苦笑を浮かべながらも竿を一緒に握って力を籠めました。「つまんねえ駄洒落だな、爺さんよお……っと、こ、こりゃでかいな」 平助も仁八爺さんも必死になって竿を引きます。引っ張ったり引っ張られたりする度に船が大きく揺れ、今にもひっくり返りそうです。「うわあっ」 仁八爺さんのその声は、悲鳴にも歓声にも聞こえそうなものでした。 平助はほくほく顔で往来を闊歩しています。その懐が平助には珍しいほど暖かだからでしょうか。「へへ、魚のことになると気前が良くなる爺さんだからな。へちま代をケチってたくせによ」 先ほどの釣りで仁八爺さんは大きな秋刀魚を釣り上げて上機嫌になり、いつもより二朱ほど余計に船代を弾んでくれたのです。おまけにそれで満足したのか、まだ昼までも大分あるというのにそこで今日の釣りは終わりになりました。 こういう時の平助の行き先はひとつです。平助はひょいと小料理屋の中を覗き込むと、「よう、もうやってるかい」 そう声をかけます。その声に、忙しく動いていた尻が振り返りました。「あら、平助さん。ごめんなさいね、ここの掃除が終わったらすぐに開けますから」 鼠地に梅小紋の袷、藍海松茶の昼夜帯といった飾り気のない恰好の若女将は、にっこりと微笑みながら平助に答えました。「お、おう。かまわねえからゆっくりやってくんな」 少しだけ伸びかけた鼻の下に手をやりながら、平助は顔を引っ込めて店の外に出してある長椅子に座りました。本来は順番待ちの客が腰かけるものなのですが、最近はあまり使われている様子がありません。「女将、最近はどうだい」 店の外に出てきて暖簾を整えている若女将に平助が問い掛けます。若女将は少し困った顔をしながら、「あまり流行ってないんですよ。これからいくつか値上げも考えなきゃならないっていうのにどうしましょう。平助さんがよく注文してくれる糠漬け、高くなる前に味わっておいた方が良いかも知れませんよ」「糠漬けもかい。そいつはちょっと困るな。なんだってまたそんなことに」 平助が渋い顔をしました。「糠が値上がりしてるんですよ。今漬けてある分が終わったら……」 若女将は頬に手を当てて溜め息を吐きました。釣られるように平助も溜め息を吐いて、「そうかい。ま、糠だってちょっとずつ減るもんだしな。しかし糠が値上がりしたり、へちまが値上がりしたり、世知辛い世の中だなあ」 そう呟きます。若女将はぱちんと手を打ち鳴らしながら、「そうなんですよ。へちまが値上がりしたのがそもそもの原因だってお話で」 よくわからないことを言いました。「へちまと糠に何の関係があるってんだい。糠は米から出るもんだろ」 合点がいかないという顔で平助が眉を寄せます。若女将はそんな平助に説明を始めました。「へちまを買い占めた商人がいるらしいんですよ。それで、僅かに出回っていたへちまが値上がりして」「おう、そこまではわかるぜ。知り合いの爺さんもそんなこと言ってたな」「そうなると今度はその代わりになるものの値上がりが始まって」「……ひょっとして呉絽(ころ)かい」 呉絽とは堅い繊維の織物で、へちま同様に体を擦るのに用いられることのあるものです。「……ええ。そうしたら次に豆の粉や米糠が値上がりしてしまって」 豆の粉や米糠は、石鹸が普及するまでは体を洗うのに用いられていました。「……どこのどいつだ、そのへちまを買い占めた野郎ってえのは」 いつの間にか立ち上がっていた平助が、怒りにまかせて勢いよく長椅子に腰を下ろすと、平助の世界が突然ぐらりと傾きました。「な、なんだぁ」「あらあら、平助さん大丈夫ですか。お怪我はありませんか」 若女将に手を差し伸べられ、何が何だかわからないままに引き起こされるとようやくその理由がわかりました。長椅子の片側の脚が折れています。平助はそこから滑り落ちたようでした。「こ、こりゃすまねえことを……」「いいんですよ、もうかなりガタが来ていましたもの。平助さんが座った時がたまたまで、遅かれ早かれこうなっていたでしょうから」 転がる脚を拾い上げ、あっけらかんと笑いながら若女将がそう言いました。屈んでいるせいで白い胸地がちらりと覗き、顔を背けながらも平助の視線はそこに吸い込まれています。ちょうどそこに、近所に住む大工の熊二が通りかかったのに気づいて若女将が立ち上がりました。「熊二さん、ちょっとちょっと」 声をかけられて、熊二が若女将の方を向いてバツの悪そうな顔をしました。名前の通り熊のように大きな体が、心なしか小さく見えてしまいます。「あ、女将さんか。悪い、最近は仕事が少なくて店に寄れるような懐具合じゃねえんだ」「いえ、そうじゃなくて……お仕事を頼めませんか」 熊二はそれを聞くと安心した顔になって、「おう、そういうことなら。何でえ、雨漏りでもしたかい」 腕をぐるぐると回しながらこちらに近寄って来ます。「この長椅子なんですけどね、脚が折れてしまって」「ぽっきりいってるな。女将さんの頼みだから手間賃は負けとくが、木材がちょっとなあ……」 長椅子を眺め回して頭をぼりぼり掻きながら、熊二が困った顔をしました。「木材がどうしたんだい」 平助が横から嘴を差し込みます。熊二はお前いたのか、という顔をしながら、「いやなに、近頃は高えんだよ。雨漏り直すだけなら適当な板っ切れでも間に合わせられるが、椅子の脚ときちゃあそういうわけにもいかねえからな」 腕を組んで難しい顔をします。「おいおい、木材まで値上がりしてやがんのか」 平助が素っ頓狂な声を上げました。「何だか知らねえが、最近は人足の合羽に使う呉絽が値上がりしてやがるらしくてな。木材の運搬なんて人手あってのものだから、余計な費用が嵩むとか何とかで……俺ぁ他の値上がりにかこつけた便乗値上げだと思うがね」 熊二が材木河岸のある遠くの川辺を睨みつけながら、そう言いました。「呉絽ってことは……やっぱりへちまか」「へちまがどうしたってんだ」 平助の呻きに、熊二が怪訝そうな顔をしました。若女将がその熊二に頭を下げます。「でも直さないわけにもいきませんから、熊二さんお願いします。高くつくのは仕方ありません」「……わかった。ちょっとひとっ走り、木材の調達に行ってくらあ」 言い残して駈け出そうとした熊二の腕を、平助が捕まえて言います。「ちょっ、ちょっと待った」「何でえ」「仕事が終わったらここで酒呑ませてやるから、もう少し負けてやってくれねえか」「……女将にいいとこ見せようって腹か」 にやりとしながら、熊二が平助の脇腹を小突きます。「違えよ。あの椅子が壊れたのは俺のせいだからな」「わかったわかった。そういうことにしといてやるから、酒を忘れんじゃねえぞ」 もう一発、強めに平助の脇腹を小突いてから、熊二がどすどすと音を立てて材木河岸へと走って行きました。「違えってのに……あ、痛てて……」 脇腹をさすりながらそれを見送った平助は、「女将、糠漬けくれ。それと酒も」 若女将を促しながら暖簾をくぐりました。「ここのところ爺さんが姿を見せねえと思ったら、まさか寝込んでるとはなあ……」 ぶつぶつ呟きながら往来を歩いているのは平助です。ここ何日かは客らしい客も来ず、川面に映る自分と睨めっこをするのに飽きた平助はちょっとした思い付きから知り合いの店を訪ねることにしました。「よう、ちょっと見繕って欲しいんだけどよ」 挨拶もそこそこに、平助は店主の弥六にそう持ちかけます。「誰かと思ったら平助さんかい。今度の貢ぎ物は何処の女にするつもりだい」「……俺が今までにいっぺんだってそんなことしたのかよ」「いいや、ないね。で、何を見繕えばいいんだい」 弥六は涼しい顔でそんなことを言い、平助に促します。出鼻を挫かれたせいで、平助は少し言い出し辛そうにしながら、「いやその、女に贈り物をしたいんだがな」 そっぽを向きました。頬が心なしか朱に染まっています。「へええ、本当に女かい。半年も遅れて春が来るとはねえ」「ち、違えよ馬鹿っ。詫びの品を贈りたいんだよ、小料理屋の女将に」「……一体、何をやらかしたんだい。ま、いいや。予算はどれくらいだい」 平助が持ち合わせを告げると、弥六は渋い顔をします。「女に送るってことは細工物とかかんざしってことになると思うんだけどね。駄目だめ、そんな金じゃウチの品物は譲れないよ」 すげなく首を横に振る弥六に、平助が食い下がります。「そう言うなよ。少し前に来た時には手が届くくらいのものがいくつかあっただろ」「あの時よりはいろいろと値が張るようになったからねえ。どうしても細工にこだわりたいってのなら、向かいの店で新粉細工でも買って行ったらどうだい」 新粉細工というのは餅状に蒸した米粉に細工を加え、動物や魚などの形にしたものです。黒蜜をかけて食べるのが良しとされています。 確かにお詫びの品としては、値が張り過ぎない新粉細工の方が適当ではあるのですが、明らかに馬鹿にした弥六の物言いに平助もこのまま引き下がる気にはなれません。「安く仕入れるくらいの腕もないなんざ、目利きの商人が聞いて呆れるぜ。何でもかんでも値上がりしてるこのご時世に、変わらない値段で売ってこその一流だろうが」 平助が毒づくと、弥六は面白くなさそうな顔をします。「へちまが値上がりして、あとは芋蔓式に高くなってるからねえ。ま、へちまを買い占めたのはウチなんだけどね」「何だって」「おっと、口が滑った。言ってしまったからには仕方ないが、へちまの相場を操作して一儲けしようと思ってね。もっと資金があれば他に関連して値上がりするものも買い占めて濡れ手に粟の銭を稼げたんだが……へへ、まだまだへちま相場は上がりそうだ」 悪どい笑みを浮かべる弥六を見て、平助は胸の内で吐き捨てます。(お、おまえだったのか) 思いがけず黒幕に行き当たり、平助はどうしたものかと頭を悩ませます。「なあ、米糠が値上がりしてるのは知ってるか」「まあそりゃあ、値上がりしてても不思議はないねえ。たいしたうま味もないから手は出さないけど」 頭の中で算盤を弾きながら、弥六が答えました。「おかげで糠漬けが高くなっちまってな。俺の船のお得意に釣好きの爺さんがいるんだが、こいつが今は寝込んでてな」「ああ、あの爺さんかい。そう言えば近頃は姿を見ないと思ってたけど、臥せってるのかい」「おう。その爺さんが毎夜毎晩、うわ言でこう呻いているらしくてな。『死ぬ前に糠漬けが食べたい、冥土の土産に糠漬けを……』だと」 平助のしわがれた声真似を、弥六は一笑に付しました。「そいつはお気の毒に。しかしね、儲ける好機に儲けようとしない商人なんていやしないよ。そんなやつは商人失格だ」 弥六の悪びれない言葉に、平助は腹立ちを抑えるのに苦労します。「なあ、死にかけた爺さんの儚い望みのためにも、へちまを手放してやっちゃくれねえか」 手を合わせて頼み込む平助からはもう視線を外し、商品の整理をしながら弥六は、「しつこい男だね。そんな情けをかける理由なんてどこにもないよ」 しっしっと追い払う仕草さえしながらそんなことを言いました。「このまま爺さんが死んで祟られても知らねえぞ。ひょっとしたら今頃はもうおっ死んでるかもな」捨て台詞を吐いて店を出て行く平助には目もくれず、弥六は入れ違いに入ってきた客の相手を始めました。 平助が弥六の店を訪れた日の夜のことです。月明かりも頼りない薄曇りの空の下、弥六の屋敷の部屋にはぼんやりとした灯りが点っています。「……笑いが止まらないね」 銭勘定をしながら、弥六が忍び笑いを漏らしています。それらをしっかりと仕舞い込んで、そろそろ床に就こうと立ち上がった弥六が雨戸を閉めようと庭に目をやった時、違和感を覚えてそのまま動きを止めました。 庭の漆の木と雲の隙間からは痩せた月がわずかに顔を覗かせています。風もなく、物音もない静かな夜です。「気のせいか……」 呟いて、雨戸を閉める手に力を籠めた弥六はその途中で顔を強張らせました。「あ……」 その後には絶叫が続き、屋敷の使用人が駆け付けた時には泡を吹いてひっくり返っている弥六がいた……というのは町で噂になっているのですが、本当のところはどうだかはっきりとはしません。 ただひとつ確かなのは、その翌日に突然へちまが大量に市場に流れ、へちまの値はもちろんのこと、引きずられるように他のものの値も下がったということです。「……ああ、暇だ暇だ。暇だから昼間っから酒でも飲むか」 客の来ない船を放り出して、平助は若女将の小料理屋を訪れました。「よう、もうやってるかい」 店の中を覗き込む平助に気づくと、若女将の尻が振り返りました。「たった今、掃除が終わったところですよ。どうぞ中へ入ってくださいな、平助さん」 手招きされて、平助は座敷に上がるといつものように糠漬けと酒を注文します。 お銚子とお猪口、きゅうりとにんじんの乗った皿を盆に乗せて、若女将が平助のところへやってきました。「平助さん、糠漬けの値上げはしなくて済みそうなんですよ」 お酌をしながら、若女将が平助の耳元で静かにそう言いました。「へえ、そりゃよかった。米糠の値上がりが終わったのかい。これであの爺さんも安心して天国に行けるな。って言っても、でかい魚を釣った時に腰を痛めて寝てるだけだから死にゃあしねえだろうが」 お猪口を干して平助が笑いました。仁八爺さんは家に帰った途端に腰が痛いのに気が付いて、そのまま寝込んでしまったのです。興奮していたせいで直後は痛みに気づかなかったのでしょうが、釣り好きもここまでくると立派です。「なんでも、糠漬けを食べさせろと恨み言を呻く幽霊が、へちまを買い占めた商人の屋敷に出たとかいう噂で……漆の木の上に現れた幽霊に肝を潰したその商人は青くなってへちまを手放したそうですよ。本当のところはどうなんだかわかりませんけど」 若女将がほっとした表情で空いたお猪口に酒を注ぎながら言いました。「へえ、祟りってやつかね。怖い話もあるもんだな」 ぱりぱりときゅうりを齧りながら、平助は気のない返事をします。「……平助さんの仕業でしょう。あら、仕業はおかしいのかしら。この場合はおかげかしらね」「知らないね」「あらあら、そうなんですか。お顔が少しかぶれているように見えるのはきっと気のせいなんでしょうね」「布団を干すのをさぼったせいで蚤が湧いてな。まったく痒いったらありゃしねえ」 ぼりぼりとにんじんを齧りながら、平助はそんなことを言いました。いつもより糠漬けの量が多いことには気づかない振りをしています。「ああ、そうだ。女将、この前の椅子を壊した詫びにはちょいとケチなもんだが、これ」 新粉細工の詰め合わせを差し出しながら、平助はお猪口を口へと持ってゆきます。「あら、そんな気をつかわなくても……せっかくですから、今お出ししますね」 包みを持って奥へと引っ込んでゆく女将の尻に平助は、「おいおい、酒に甘いものは合わねえって。店を閉めたらゆっくりとつまんでくんな」 そう言って、ここの糠漬けでも持って仁八爺さんの見舞いにでも行くか、などと考えながら良い音を立ててきゅうりを齧っているのでした。----------------------------------------任意お題まで全部使ってみました。縛りの消化が甘いかなあ、と思います。書いている最中に何故か時計の読み方を忘れてしまいました。一時間以上は「たくさん」です。 数の数え方も忘れてしまいました。六〇〇〇文字以上は「たくさん」です。……ごめんなさい。
「ねぇ、こんな実験を知っている?それは命令と服従に関する実験なんだけど」 詠美はそう言って、ヒールの音をこつこつと響かせながら僕の前を行ったり来たりした。 僕はといえば、両手足をしっかりと据え付けの頑丈な椅子に固定され、目には布を巻かれていたため、そんな彼女の表情を窺い知ることはできなかった。しかし開け放たれた耳でもってその朗々とした声と足音ははっきり聞き取ることが出来る。彼女は今まで接してきたなかで一番生き生きしているように思えた。「その実験の被験者はね、こう命令されるの。『今からあなたには隣の部屋にいる他の被験者に罰を与える仕事をしてもらいます』って」 ふいに足音が止まり、代わりに何か機械を操作する音が聞こえる。「隣の部屋の人は問題を解くのね。簡単な問題よ。で、もしその人が問題の回答を間違えたら、あなたはその人への罰としてボタンを押さなくてはならないの」 こういうふうに、と彼女が小さく言い添えた瞬間、僕の体は小さく跳ね上がった。びりりとした感触が、微弱な電流が体に流れたことを伝えた。そして戦慄が背中を伝う。これは電気椅子なのか。「しかも素晴らしいことに、与える罰は徐々にエスカレートさせなければならないの。少しずつ電圧を上げるの。そういうレバーがあってね」 かちゃん、というささやかな音が恐怖を掻き立てる。そういうレバーの音とはこういう音だろうか。「でもね、隣の部屋の人っていうのはね、本当はサクラなの。本当は電流なんか流れていないんだけど、被験者がボタンを押す度に叫び声をあげるのよ」 僕はその様を想像してみる。自分がボタンを押す度に見えない隣人が叫び声をあげる。 「普通、隣からそんな声が聞こえたら、被験者はボタンを押すのをやめると思うでしょ?」 でもね、と女は嬉しそうに笑った。「人は命令にはなかなか逆らえないの。いや、逆らわないのね。いいことか悪いことか自分で決断するのってとっても労力がいることだもの。あなたも分かるでしょ?」 うふふふふ、と含み笑いが部屋にこだました。と、彼女の足音が急に止んだ。「……ん……そろそろ時間ね。ふふ……楽しい実験の時間よ。隣に被験者がやってくるわ」 ふいに、頬に冷たい感触がした。びくりと身を引くと、追いかけるように氷の感触が輪郭をなぞった。彼女の手だ。「ようは、隣人が出す問題に正解し続ければいいのよ。安心して、簡単な問題だから。さもなければさっき言った通りあなたの身体に流れる電流の電圧が高くなるだけ。あとはあなたの優しい隣人が正しい正義感でもってボタンを押すことを拒否してくれればいいわね。被験者に声は聞こえるようになっているから、精一杯哀願するといいわ」 言って、彼女は冷たい手を引いた。感触が消えると僕は言いようのない不安に襲われた。彼女は本気で言っているのだろうか?「……な……ぜ……」 からからに乾いた喉で、その一言を言うのがやっとだった。「なぜ?」 詠美は不思議そうに問い返した。本当に心外、というような声だった。「なぜ、ね。そうね、私昔からサイエンスが好きなの。その中でも特に実験が好き。カエルの解剖、ヘチマの栽培、スチールウールに火をつけたり……ね。そんな中で私はこの実験に強い興味を抱いたの。ミルグラムの実験って言うんだけど」「……だからやりたくなった……?」 僕の言葉に一瞬の沈黙が下りた。何故だかとても怖い沈黙だった。「……そうね……本当は……この実験の結果を棄却したいのかも。本当に心のこもった哀願なら……人は倫理と正義でもって人を守れるのだと……」 それは、切羽詰まった、と表現するに足る声だった。しかしそれも一瞬のことだった。「余計なことを言ったわ。でも、これは復讐でもあるの。貴方達に対する。私の」 ……そう、彼女をいじめていた僕らへの。「いじめって首謀者じゃなければ許されるのかしら?私分からないの。だから、貴方達自身で裁いてもらおうと思って。貴方は確かに誰かに命令されてやっただけかもしれないけど、私はそれでも傷つくのよ。それを身をもって感じてもらおうと思って。分かった?」 言うや、彼女の足音は遠ざかっていく。「……っごめんっ!!悪かった!!全部僕が悪いんだ!命令されてなんて言い訳にしかならない!本当にごめんなさい……!」「もう遅いわ。実験は始まってしまった。いい結果を期待してるわ」 がちゃん、と無慈悲な音がして重い扉が閉まる音がした。彼女への謝罪はもはや届かなくなった。身をよじってもいくら力をこめても椅子はびくりともしなかった。僕は恐怖に気が狂いそうになりながらとにかく声を上げ続けるしかなかった。「ああ、死んじゃった」 突然詠美が現れて、さして残念じゃなさそうな声を出して言った。 私はがたがたと震える両肩を自分で抱いた。「……し……死んじゃったって……?」 恐る恐る尋ねると、彼女は首を傾げる。さらりと長いストレートヘアが肩を流れる。「言葉のとおりよ。あなたが電流を流したから、死んじゃった」「……うそでしょ……」「何で嘘をつくのよ。ここに『危険』って書いてあるでしょ?叫び声だって聞いたでしょ?」「……う……嘘よ!それにあの試験官が『続けなさい』って言ったんじゃない!!」 彼女はまた可愛く首をかしげた。「ええ、言ったわ。でも別に彼はあなたを脅していたわけじゃないわ。あなたが辞めると言えば、彼にはそれを止める力はないんですもの」「嘘よ!!!」 私は力いっぱい叫んだ。信じられるわけがなかった。私が押したボタンで人が死んだですって?「なんなのよ!!だいたい、なんであんたが出てくるのよ!!これはただの心理学の実験じゃなかったわけ!?」「あら、れっきとした実験よ。私が計画したんだけどね」 彼女はそこで端正な顔の眉をすっと寄せた。「でも残念ね、私が欲しい結果は出なかったわ。……ああ、でも実験っていうのは統計学的に信頼できるだけの試行を重ねないとね。……今回の実験協力者は残念ながら役に立たなくなってしまったけど……」 急に、激しい力で私の両腕は後ろにねじりあげられた。「痛いっ!!」 身をよじって肩越しに後ろを見ると、実験の指揮をしていた男が私の腕をきつく拘束していた。「何するの!!?」「今度はあなたが生徒の役ね。安心して、簡単な問題を解くだけだから。……間違ったらちょっとお仕置きがあるんだけど」 さっと頭から血の気が引くのが分かった。「私たちがあなたをいじめていたから恨んでいるのね!?でも、これって人殺しじゃない!!」 その言葉には彼女の冷たい一瞥しか返ってこなかった。「今度の被験者……教師役はクラス委員長の結城よ。まじめな人ね。ふふ、生真面目な彼の中で倫理観と規範に従う心理、どちらが勝るのかしらね。興味深いわ」 一転して艶やかな微笑みが美しく、怖かった。 耐えきれず絶叫が身の内から湧き出る。殺される!!めちゃくちゃに足をばたつかせてそこらじゅうを蹴ったり噛みついたりしたが、いつの間にか私は意識を失い、気付けば金属の固い椅子に両手足を固定され、目隠しをされて座っていた。「さあ、次の実験を始めましょう」 彼女の朗々とした声が部屋に響き渡った。---------------------------------------長らくごぶさたしておりました、もげです。しかも遅刻してしまった……。また仲間に加えていただけると嬉しいです。……しかしなんだってこんな黒い話になってしまったんだろう?
二○一×年。 静岡県浜松市にて、幅が三十センチを超える超扁平なへちまが発見された。場所は、へちまたわしを作っている農家の農園内。突然変異と考えられるが、農家ではその種から超扁平たわしを増やすことに成功した。 扁平へちまをたわしと同じ方法で乾燥させると、幅三十センチ、長さ五十センチのへちまマットが誕生した。農家では最初、バスマットとして売り出してみたが、売り上げはさっぱり。困った農家は、やけくそでトートバッグを作ってみた。しかしそれが大ヒット。『柔らかくて膨張性があるわりにはかなり丈夫で手触りもよい。そして、バッグの中身がチラチラと見えるのもお洒落』 女性雑誌でそう紹介されたのが決め手だった。へちまトートバッグはバカ売れし、超扁平へちまの在庫はあっと言う間に無くなった。 それと同時にへちまという自然素材が見直され、次々とへちまを使った商品が開発される。遺伝子操作も行われて、新種のへちまも作り出された。 いわゆる、へちまブームの到来だ。 どんどんと巨大化したへちまが生み出され、その硬さも自在にコントロールすることが可能となった。強度を増したへちまはいろいろなものに細工され、ついにはロッキングチェアーまで作られることになった。 そして、ブームに乗ろうとへちまの栽培に乗り出したある製薬会社の研究所で事件は起きた。「お、おまえだったのか。研究室に忍び込んだ奴とは」 警備員から不審者を見かけたという通報を受け、俺は研究室に泊まりこんで見張りを続けていた。そして三日目の夜、研究室に侵入したそいつを捕まえたのだ。「そうですよ、先輩。お久しぶりです」 そいつは三ヶ月前に会社を辞めた後輩だった。名を浩次という。正体がばれて開き直ったのか、あっけらかんとした浩次の受け答えに俺はつい頭に血が上ってしまった。「なんだその言い草は。お前一人のために俺達の時間がどれだけ無駄になったと思ってるんだ」 浩次が忍び込んだ研究室は、会社の命運をかけてへちまの遺伝子操作を行っている実験室だった。極秘情報が社外に漏れたかもしれないという危機に、俺達当事者は東奔西走するハメになったのだ。「どうせ俺は、もうすぐ消えてしまう身なんです。先輩、ここは慈悲深く見逃してくれませんか?」 噂によると、浩次が会社を辞めたのは深刻な病気が見つかったからという。「も、もうすぐ消えるって、お前、どういうことなんだ?」 病気のことは聞いてはいけないと思いながら、俺は聞かずにはいられなかった。すると浩次は急に笑い出す。「あはははは。先輩、俺は末期ガンなんですよ。あと数週間の命なんです。ここで見逃してくれないと先輩のこと呪いますよ。祟りじゃってね」 病気ってそういうことだったのか。しかしここは素直に見逃すわけにもいかない。そんなことをしたら俺達は明日の晩も張り込みをしなくてはならなくなる。「そんなお前が何で研究室なんかに忍び込むんだよ。何か研究でやり残したことでもあるのか?」「まあ、そんなもんですよ」 浩次は少し辛そうに息を吐きながら椅子に腰掛ける。病気というのはまんざら嘘では無さそうだ。「いや、やはりお前を見逃すわけにはいかない。申し訳ないが、明日の朝まで休養室で監禁させてもらう。いいな」「……」 浩次は何も答えず、ただ研究室の天井をぼんやりと眺めていた。 我が社ではへちまブームに乗って遺伝子操作による巨大へちまの開発を行っていた。そしてその過程にてある重大な発見をしたのだ。 ――巨大へちまから取れるへちま水は、若返りを本当に実現する。 もしかしたら浩次は、そのへちま水を自分の病気に使ってみたかったんじゃないだろうか。 浩次を監禁した休養室のドアを見ながら、俺は考える。明日の朝になったら浩次に直接聞いてみよう。そして、会社のお偉いさん方に彼の扱いを委ねたら、俺の役割はとりあえずはおしまいだ。彼が警察に突き出されようが、慈悲深く見逃されようが俺には関係ない。その後は家に帰ってぐっすり眠ることができる。 少し安心した俺はついうとうとしてしまい、休養室での物音に気がつくことはなかった。 朝、俺が休養室のドアを開けると、浩次は死んでいた。棚にシャツを引っ掛けて首を吊っていたのだ。 浩次の死は穏便に処理された。警察は、ただの自殺ということで彼の死を扱ってくれた。忘れ物を取りに元の職場を訪問した彼は社内で倒れ、運び込まれた休養室で病気を苦にして自殺した、という俺の証言を信じて。 あれから四ヶ月。 実験室の巨大へちまは二メートルぐらいの大きさにまで生長していた。これは世界最大の大きさだ。「浩次。お前はいったいこの部屋で何をやっていたんだ?」 彼の死後、俺は彼のアパートの掃除を手伝った。そして部屋の片付けをしながら、彼が最期に何をしようとしていたのかを探った。しかし結局何も分からなかった。「このへちまから取れるへちま水は、お前を救えたかもしれないのに……」 俺は巨大に育ったへちまを優しくなでる。すると突然手から伝わってきた得体の知れない違和感に俺は腰を抜かす。「何!?」 へちまに密着させた掌から、ドクドクという心臓のような鼓動が伝わってきたのだ。「ま、まさか……」 へちまの中から『祟りじゃ』という声が聞こえてくるような気がした。彼が残した最期のあの声で。----------------------遅刻しました。2100字くらいです。夜の9時くらいから断続的に書いたので2時間くらいでしょうか。なにかあらすじみたいなものが出来てしまいました。意味不明かもしれません。
あの人が沈んだ顔をしている。椅子に深く座って、ぼんやりとテレビを、NHKを見てる。残念だけど、リモコンを操作するつもりはないみたい。私はNHKは嫌いなのに。だってつまらないから。あれは成長に良くない。笑いも少ないし。やっぱり成長に必要なのは、笑顔よ。笑顔に勝るものはない。 それをあの人は教えてくれた。そんなあの人の笑顔を奪ったのは私。 あの人の奥さんがなくなったのは、先月の話。奥さんは多分、私のことが嫌いだったと思う。はっきりと聞いたことはないけど、間違いないと思う。女のカンってやつ? だって、ねぇ、そりゃ同じ屋根の下、一人の男に、二人の女がいれば、仲良くできるわけがないじゃない。もっとも、私はあの人に奥さんがいても構わなかった。あの人が私に笑顔を見せてくれたら、それで良かった。 それなのに奥さんは、私に包丁を振りかざして、切りつけてきた。 その日は、太陽が燦々と輝いていて、空は澄み渡るくらい青くて、白い入道雲が空を青さを胸いっぱいに食べたみたいにふくれて、夕方には爽快な雷とともに、夕立でも来そうだった。 奥さんはそんな天気はきっと分からない、心が貧しい人だったと、今なら分かるわ。ううん、夕立まで予測できるなんて期待したらいけなかったのよ。とにかく私は奥さんから切りつけられたわけだけど、何をするすべもなかったわ。なされるがままだったわ。悔しいけれど。私はそれでも良かったのよ。だって、あの人は、奥さんを愛してたんだから。信じてた。あの人が愛し、信じていた人だったから、私は奥さんから何をされても全然平気だった。どんな痛みも平気だった。 奥さんがどうして私を憎んだのかは、今も私にはわからない。気が触れたと言えば、誰も疑わないでしょう。それくらい、私に襲い掛かる表情は、この世のものとは思えないものだったけれど。嫉妬というものは、やはり度が過ぎてしまうとこんなにも恐ろしいものになってしまうのかしら? 分からないでもないけれど、そんな暇があるのなら、私はこの手であの人を抱きしめたいと思うのだけど。 あの人と私は、まだ一年程度の付き合いでしかないけど、ちゃんと通じてたと思うの。だってあの人はゆっくりその身をかがめて、奥さんにも言わないことを私によく語りかけてくれた。「今年の新人にろくに使えない。叱れば辞めるし、誉めれば付けあがる。やれやれ」「女房はどうして、私の大変さが分かってくれないのか。私とて、女房が家のことをしっかりやってくれていることは分かる。分かるが、こうも文句を言われてはな」「たまたま帰りが遅かったくらいで、浮気を疑われるとは。これでもあいつ、一筋に生きてきたつもりなんだがね」 あの人はときどき、私の前で泣いてた。悔しそうに。私に掛けられる言葉なんてなかった。手を伸ばせば慰めになったかしらと思うけど、伸ばしても私の手が届くことなんて、あるはずがなかった。 奥さんはその日、あの人にその包丁を向けた。もともとは私に向けられたものを、あの人に向けた。気が触れて私に刃を向けた奥さんを、あの人は止めただけだったのに。あの人は必死に奥さんを止めた。奥さんも必死だった。破れかぶれに包丁を振り回した。あの人は奥さんを止めようとして、深手を負って倒れてしまった。今ならそう言えるけれど、そのときの私はあの人から流れ出る血から、気が動転してた。私は気がつくとその手で、立ち尽くす奥さんの首を掴んでいた。奥さんの恐怖で引きつる表情は、私を狂わせた。力を込めると、私の細い指先が奥さんの喉の奥深くに、くいっと入り込んだのがはっきりと分かった。奥さんの口から、「かはっ」と息が漏れたのが聞こえたけれど、そんなものにかまっている暇はなかった。だってこの手を離したら、奥さんはあの人をまた襲うに違いなかったんだから。奥さんの指先が私の手を引っかくけれど、私はその手を緩めることはしなかった。頭の片隅で、こうすることであの人は悲しむと知っていたけれど、あの人を守るためなら私はどんなことでもやるつもりだったから。奥さんの全身から力が抜けたのは、それから間もなくのことだった。 奥さんが逝って、私の中で何かが変わった。これまで抑えていたものが吹き出てしまった。あの人がかがんで傍にやって来てくれることが、私の至福となった。邪魔する者は誰もいない。 奥さんの代わりの何人かの女がやってきたけれど、私が全部追い返した。あいつらは私を気持ち悪いものでも見るように見ていた。この私を。だからこそ許せなかった。昨日今日、来たものにそんな目で見られるなんて、耐え難かった。私が手を伸すだけで、ことは済んだ。 それなのに、あの人はテレビでNHKを見てる。せっかく私と二人きりというのに。私には関係のないことだけど、家の中はあっけらかんとしている。あっけらかんとしても、あの人が私を見てくれることはなくなった。もう私に語りかけてくれることもない。だから私は手を伸ばした。伸ばした手は、リビングの床を這い、壁をつたい、椅子の足に巻きつきながら、ゆっくりとあの人に届く。私はそっとあの人の首に手をかける。私はNHKは嫌いなのよ。「お、おまえだったのか?」 あの人から、そんな言葉がこぼれた。私は手をさらに伸ばして、奥さんにそうしたようにあの人の口まで犯した。私の緑色のそれは、あの人の奥歯にすりつぶされて、唾液と混ざる。それがなんともいえない私の至福のときだった。なんの細工ない。愛しいあの人と私は一つになったと感じた瞬間だった。私は至福のあまり、さらに手を伸ばして、ゆっくりとあの人の体に巻きつき始めた。指先の一本一本から、足先まで――体の奥がキュンと締めつられるように、あの人の体をその椅子ごとゆっくり締め付ける。変な音がして、あの人の左腕が変に曲がったけれど、構わなかった。少しずつあの人から力が抜けていくのがわかる。それが私は嬉しくてたまらない。 ああ、これで私たちはひとつになれるのね……。 そう思った瞬間、私の中で何かが弾けて、それは一気に全身を駆け巡って、あの人は私の胸の中で静かに逝ったの。 それから一週間くらいして――「祟りじゃ。これは祟りじゃ」 あの人の様子を見に来た近所のおばあちゃんが腰を抜かして言った。祟りなんて言われても私には分からない。だって、あの人は私に包まれて、私はこんなにも幸せで、おばあちゃんが祟りなんて言う必要はどこにも見当たらない。 おばあちゃんはあの人の代わりに、私にときどきお水をくれるから、私はとても好きだった。「これはへちまか? あのへちまなのか?」 どうしたの? おばあちゃん。いつもみたいにお水をちょうだいよ。私、乾いちゃってるの。ねぇ、いつもみたいにお水、ちょうだい。 私は緑の手をきゅっと締め付けるように伸ばす。――――――――――――――――――――何が、連鎖されたんでしょう?殺人が連鎖されたってことでお許しを。意味不明なところもあるでしょうが、想像力を最大限膨らませてください。逃げる作者です。ちなみに2時間くらいでした。
今回は五人の方(自分を含めて)が参加されていて、お題の使い方が皆さん違っていて面白かったです。とても勉強になりました。とりさとさん三語でこんな文学的な作品が書けるのはお見事です。へちまがもたらす季節感がなんとも良い味を出していると思います。>「詰まらんな、お前は」> けらけらけらと。この部分が良かったです。この作品を読んで、自分には悪魔が来るだけの価値はあるのだろうか、と考えてしまいました。脳舞さんこの作品は見事ですね。お題がものすごく自然に使われていて、話にも無理がなくて何より面白い。しかも、へちまから連鎖が始まっているのがいいです。>(お、おまえだったのか)この部分も脱帽です。使われ方がすごく自然だし。「祟り」が「祟りじゃ」だったら完璧ですが、これでもかなりの出来だと個人的には思います。もげさんアイディアがとても面白いと思いました。少し説明不足という感じがするので、枚数を増やせばもっと面白い作品になると思います。もしかすると、この十倍くらいは膨らませることができるんじゃないかと思います。>「言葉のとおりよ。あなたが電流を流したから、死んじゃった」本当に死んじゃったかどうか分からないところが恐いですね。もし死んじゃったとしたら、それは自分が手を下したというところも。さらに次の部屋に行くと、今度は詠美が縛られて、スイッチを押す羽目になるという展開が続くと、なにか連鎖っぽくて面白いかもと思ってしまいました。RYOさんこ、恐い……最初は、すっかり騙されてしまいました。「へちま」がこんな風に使われているなんて、圧倒されました。>「これはへちまか? あのへちまなのか?」最初は腰を抜かしたおばあちゃんが、その後で平然と水をあげている様子が少し?でした。「祟りじゃ」の使い方は、一番自然で良かったと思います。これは個人的な妄想ですが、「へちま」「椅子」「祟りじゃ」で最後のシーンを連想されて、この作品を書かれたんじゃないかと感じました。自作品今回はいい作品が多かったので、とても恥ずかしいです。ただ、へちまトートバッグのことが書きたかったんです。いろいろな方の作品が読めて、お題の使い方の勉強になりました。
>ふぁいやー、あいすすとーむ、じゅげむ、ばよえーん! とりさとさん 悪魔と願い事と云えば、それを叶えて貰った代償に破滅する……というのがよくある話で、どんな破滅が待っているのか、あるいはどう悪魔を出し抜くのか、そんな予想をしながら読んでみれば予想外の展開に。 何もないことが怖い、というのはなるほど逆説的な意地の悪さで、そこを無遠慮に突くだけ突いて消え去ってしまう悪魔はまさしく悪魔ですね。悪魔の中に入り込むシーンでの改行のない文章の畳み掛けが、現実から切り離された世界への表現として面白いと思います。 へちまを季節の移り変わりの表現に利用したようですが、意地悪く云ってしまえば特にその必要がないように思えたことが気になりました。>復讐の実験 もげさん 有名なミルグラム実験をモチーフにした話ということが作中でも明示されていて興味深かったのですが、物語としてはもう少しプラスアルファが欲しいように思います。つとむユーさんがご指摘なされていますが、私も詠美が被害者になる展開があった方が縛りの観点からも物語としても面白くなったのではないかと思います。この実験そのものがまたさらに実験の中のものである(例えばスタンフォード監獄実験の一環であるとか)ような入れ子式の構造にしてみるとか……いや、何様のつもりなんでしょうか、私。>へちまは夜眠る つとむユーさんなんとなく森青花の「BH85 青い惑星、緑の生命」を連想したのですが、それよりはもっとホラーな香りですね。ご自身があらすじのようだと仰っておられますが、どちらかと言えば物語の序章といったような趣が。素直にホラーにするにはちょっと枚数が足りないというか、恐怖を掻き立てる段階が欲しかったように思います。「へちま」「操作」が上手く物語の筋に絡んでいる分、「椅子」と縛りが今一つ生かし切れていないような印象があって、ちょっと勿体なく感じてしまいました。>へちま RYOさん お題に「へちま」があって、あろうことかタイトルにまで使われているのに、まさかこんな登場の仕方をしてくるとは予想もつかず、発想にド肝を抜かれました。何故絞殺してしまったのにも関わらず、逮捕もされずに日々を送っているのかという疑問はあったのですが、そういうことだったとは……。 少だけ違和感があったのは「お、おまえだったのか」の辺りなのですが、そのセリフに至るまでにもっと何が起きているのかわからずに混乱するものではないか、などと思ってしまいました。それとも動くへちまと「あの人」は日常的に戯れていたのか……そう考えるとまた別種の怖さが湧いて来もしますね。>自作「祟りじゃ」の件ですが、思い切り勘違いしていました。それから、舞台が何時代なのかまったく書いていないことに今更ながら気づきました。江戸時代なら初期と後期のどちらでも問題ないような話ではありますが……。 久しぶりの三語参加、楽しかったです。
まずは先頃の大地震、被災者の方には心よりお見舞い申し上げます。地震後の混乱や電力の関係でしばらく自粛していましたがいいかげん感想は書かねば!とやってまいりました。>とりさと様 うーん、文学的で深いですね。空虚感がたまりません。 スライム付近の表現が特に好きです。 情景や音がリアルに感じられました。 あ、そっか、だからそのタイトル…!(気付くの遅)>脳舞様 うわお。すごいですね!面白かったです。 読み始めは地の文のですます調がまどろっこしく感じましたが、 読み進めるうちに、やっぱりそれが良いのだろうなぁと思いました。 小気味のいい物語でした。>自作 うーむ、ご指摘の通りです。どうやら時間と文字数制限に縛られすぎなようです。 もっと物語として成立するよう精進したいと思います。 さらに連鎖させる、入れ子式にするという指摘はまさに目からうろこ! ううむ、じっくり練って書いてみたいです。>つとむュー様 へちまの使い方がすごい…!ロッキングチェアーがすごく欲しいです。おしゃれ。 突然変異と遺伝子操作でへちまが一躍注目を浴びるというのが面白い設定ですね。 とくにへちまが普段地味な印象だけに(失礼)そのギャップがとてもいい。 最後のへちまには一体どんな秘密があるのか…想像力が掻き立てられます。> RYO 様 いいですね、なんだか昔の世にも奇妙な物語みたいな感じですごく好きです。 猫かな、金魚かな、と思ったけど、へちまでした。そうでした。 草木だって意思があってそういう振る舞いをするかもしれませんね。うふふ。 でも私、NHKは結構好きです(関係ない笑)また参加させていただけたらと思います。よろしくお願いします。
とりさと。 たまに書きたくなるこういう話、ものすごい時間かかりました。いつまは誤魔化している文章の下手さが目立ちますね。三語あっての話というよりは、話が先にあってそれを当てはめたような話でした。非常に反省。とりあえず、ぷよぷよやらせて連鎖の縛りから逃れようとしたのはありえないと我ながら思います。 脳舞さん。 何とも小気味よい時代劇! 面白かったです。ナレーションのようなですます調の地の文と、会話での軽妙なやり取りの対比が楽しくて、さくさくと読ませてくれます。 意外性はありませんが、それぞれ役どころがばっちりはまっていて、にやっとしてしまうような、期待をうらぎらない爽快さがありました。 もげさん。 実際にやったら心底怖い心理学。わたしもこの話を初めて聞いた時は、絶対ボタン押し続けちゃうだろうなと、思っていました。 心理学の実験をモチーフにしていますけれども、決して心理学の実験の話ではないのがいいです。人間って怖いですよね……。 されている側より、している側の心理を覗き込んでみたくなりました。 つとむューさん。 へちまで始まりへちまで終わってますね。お題から真正面に当たって行こうという心意気には感服します。 へちまトーとバックから若返るへちま水。明るい出だしとは打って変って、ちょっぴり恐ろしめな方向に落ちつきましたね。 最後は呪いでしょうか、それともまさかの転生……? RYOさん。 怖い! です。うつうつとした雰囲気が、すごいですね。迫力あります。RYOさん、この雰囲気で昼ドラばりのどろどろ愛憎劇を女性視点で書いてくださいお願いします! そして最後の尾を引く終わりかたも何とも言えません。二度読んでこそ楽しいというものがたり。大変おいしい斜述トリックでした。