そう言えば、前回傑作選をやって、はや一年ですね。 二回の原案としては、自薦していただくか、参加表明をして頂いて、と。 そこからその作者様の作品から他薦して頂くという手順を考えてます。 そろそろ正式に起案を出しますので、興味のある方はご一読してください。-------------------------------------------------------------------------------- ●基本ルール 以下のお題や縛りに沿って小説を書いてください。なお、「任意」とついているお題等については、余力があれば挑戦してみていただければ。きっちり全部使った勇者には、尊敬の視線が注がれます。たぶん。 ▲必須お題:「吹雪」「残高百五十二円」「たゆたう」 ▲縛り:「今回のお題で前編を書き、次回お題で後編を書く(次回からの参加者については、この縛りはありません)」 ▲任意お題:「春雷」「でっへへへへ」「なんかすごいのきた!」「負の感情」「朧げ」「あいつはモンブラン」 ▲投稿締切:2/20(日)23:59まで ▲文字数制限:6000字以内程度 ▲執筆目標時間:60分以内を目安(プロットを立てたり構想を練ったりする時間は含みません) しかし、多少の逸脱はご愛嬌。とくに罰ゲーム等はありませんので、制限オーバーした場合は、その旨を作品の末尾にでも添え書きしていただければ充分です。 ●その他の注意事項 ・楽しく書きましょう。楽しく読みましょう。(最重要) ・お題はそのままの形で本文中に使用してください。 ・感想書きは義務ではありませんが、参加された方は、遅くなってもいいので、できるだけお願いしますね。参加されない方の感想も、もちろん大歓迎です。 ・性的描写やシモネタ、猟奇描写などの禁止事項は特にありませんが、極端な場合は冒頭かタイトルの脇に「R18」などと添え書きしていただければ幸いです。 ・飛び入り大歓迎です! 一回参加したら毎週参加しないと……なんていうことはありませんので、どなた様でもぜひお気軽にご参加くださいませ。 ●ミーティング 毎週土曜日の22時ごろより、チャットルームの片隅をお借りして、次週のお題等を決めるミーティングを行っています。ご質問、ルール等についてのご要望もそちらで承ります。 ミーティングに参加したからといって、絶対に投稿しないといけないわけではありません。逆に、ミーティングに参加しなかったら投稿できないというわけでもありません。しかし、お題を提案する人は多いほうが楽しいですから、ぜひお気軽にご参加くださいませ。 ●旧・即興三語小説会場跡地 http://novelspace.bbs.fc2.com/ TCが閉鎖されていた間、ラトリーさまが用意してくださった掲示板をお借りして開催されていました。 -------------------------------------------------------------------------------- ○過去にあった縛り ・登場人物(三十代女性、子ども、消防士、一方の性別のみ、動物、同性愛者など) ・舞台(季節、月面都市など) ・ジャンル(SF、ファンタジー、ホラーなど) ・状況・場面(キスシーンを入れる、空中のシーンを入れる、バッドエンドにするなど) ・小道具(同じ小道具を三回使用、火の粉を演出に使う、料理のレシピを盛り込むなど) ・文章表現・技法(オノマトペを複数回使用、色彩表現を複数回描写、過去形禁止、セリフ禁止、冒頭や末尾の文を指定、ミスリードを誘う、句読点・括弧以外の記号使用禁止など) ・その他(文芸作品などの引用をする、自分が過去に書いた作品の続編など) -------------------------------------------------------------------------------- 三語はいつでも飛び入り歓迎です。常連の方々も、初めましての方も、お気軽にご参加くださいませ! それでは今週も、楽しい執筆ライフを!
ゴロゴロ、ピッシャーン。 六時間目の授業が終わると突然に雷雨が襲ってきた。 掃除の割り当ての中庭に出ようとしていた俺達は、慌てて渡り廊下の屋根の下に避難して雨が通り過ぎるのを待っている。 雨煙のため朧げに見える遠くのビルの傍らに、次々と雷が落ちていく。 春雷――それはまるで昨日の部長の怒りと同じだった。『おい勉、新歓用の作品を全然書いてないじゃないのよ!』 我が『文部』は、文を読み、文を書き、文を愛する部活だ。四月になって入学してきた可愛い一年生を勧誘するために、魅力的な作品を書けと部長に言われている。 ――それにしても、先週は季節はずれの吹雪だったのに今日は雷雨かよ。 雨が通り過ぎるのを待ちながら、先週はこの中庭が一瞬であったが一面雪景色になったことを俺は思い出していた。 ――まるで女心だな。 先週の部長の心もまた吹雪だった。なぜなら先週は、新入生が一人も見学に来なかったからだ。イライラした部長は部員に向かって負の感情を爆発させ、一層の作品作りを命令した。 ――そうだ、このネタで俳句を作ってやろう。 俺は竹箒を柱に立てかけると腕を組んで雨空を見上げる。するとむくむくとアイディアが浮かんできた。「たゆたうの女心と春の空」 これで新入生が勧誘できるとはとても思えないが、とりあえずノルマは達成だ。俺がほっと安堵すると、先生が中庭に顔を出して今日の掃除の中止を告げた。 雷雨のために俺達のクラスのホームルームは他のクラスよりもかなり遅くなってしまった。その最中、部長からメールが届く。『勉、遅い! 何やってんのよ?』 俺はケータイを机の中に隠しながら返事を書く。『まだHRなんだけど』 するとすぐに部長から返事が届く。『きたよ、きたよ、新入生。なんかすごいのきた!』 マジ? と思いながら俺はケータイの上の指を動かす。『すぐ行くから』 ホームルームが終わると、俺は直ちに部室に向かった。 文部の部室に着くと、中から聞きなれない黄色い声が聞こえる。どうやら新入生は女の子のようだ。 俺が勢い良くドアを開けると、部長の前に座っていたその黄色い声の主がびっくりしたように立ち上がりこちらを振り向いた。 背は小柄だが、染めたのか地毛なのか分からない黄色の長い髪をツインテールにまとめていた。スカートもかなり短い。これが新入生なのだろうか。なんというか、見た目だけでもすごいヤツだ。「遅かったな、勉」 部長が俺に声をかける。すると、その黄色いツインテールはペコリと頭を下げた。「はじめまして。庭野玉子といいます。よろしくお願いします!」 ――庭野玉子? まさかこれが本名ってのは冗談だろ? 待てよ、ここは文を書く部活じゃないか。新入生と言えどもペンネームを用意していても不思議ではない。「はじめまして。玉子さん……というのはペンネーム?」「いえ、本名です。玉子だから、中学校の頃は卵(ラン)って呼ばれてましたっ!」 このテンションの高さも只者ではない。すごいのがきた、という部長のメールは本当だった。 ――文部(もんぶ)の卵(ラン)かよ。 一瞬、俺はオヤジ的なダジャレを言いそうになったが、慌ててその言葉を飲み込んだ。こんな新入生に初日からバカにされるのは御免だ。「それで、ランちゃん、でいいのかな、今までどんな作品を書いていたの?」 俺は椅子に座りながら玉子に質問する。「ミステリーなんです」 ほう、この風貌とは間逆のジャンルとは興味深い。「どんなミステリー? 本格派? それともラノベ風とか」「数字遊びが好きらしいよ。ラン、悪いがもう一度勉にも説明してやってくれ」 部長が言うと、玉子は目を輝かせながら俺の方を向いた。どうやら"数字遊び"という言葉に反応したようだ。「今書いている話はですね、『一吾一絵』という双子が出てくるんです」「一期一会?」「字は違いますけど」 そう言いながら、玉子は机の上のあった紙に『一吾、一絵』と名前を書く。 どうやら一吾が兄で一絵が妹の双子のようだ。「それでですね、先輩。ある日、妹の一絵が死んでしまうのです。なんと手には小銭を握り締めて」 玉子は俺の前で右手を握り締め、それをゆっくりと開く。「握り締められていたのは、彼女のお小遣いの残高百五十二円三銭。これが何を意味するのかわかりますか、先輩?」 そして玉子は俺の目を覗き込む。 俺はここぞとばかり得意の推理を披露する。「一絵は古銭マニアだった」 三銭という古銭を持っているなんて、よほどのマニアに違いない。「先輩、なんでそっちに発想が飛ぶんですか? これは数字遊びなんですよ」「だそうだ」 部長も口を挟む。 ――いや、俺の反応は普通じゃねえか? しかし部長は、余計なことをしゃべるなと言わんばかりに俺を睨みつけた。新入生によっぽど逃げられたくないらしい。 俺は仕方なく、玉子のために数字遊びっぽい推理を展開してやる。「百五十二円三銭……、つまり『一五二三』ってことだね」「そうです。ダイニングメッセージなんですよ」 ――いや、それはダイイングメッセージだから。 恐る恐る部長の顔を見ると、相変わらずのキツイ眼差しで俺を押さえ込む。「一五二三、一五二三。つまり犯人は一吾兄さん(一五二三)!」「ピンポーン、ピンポーン。大当たりでーす、先輩」 玉子は嬉しそうな顔をする。その顔はなんとも可愛かったが、あまりにも無邪気なはしゃぎぶりにちょっと頭に来た俺は矢継ぎ早に質問してしまう。「それで犯人の動機は? 凶器は? 犯行の時間や状況は? それでその後の展開は?」「でっへへへへ。まだ考えてません」 しらっと答える玉子に、俺は呆れ果てた。「そういうのを考えるために、ランちゃんはこの部活に来たんだよね」 すかさず部長がフォローする。すると逆に玉子が俺に質問してきた。「そうなんですよ。先輩、何かいいアイディアは無いですか?」 こんな新入生なんて思いっきり苦労すればいい。 そう思いながら俺は考える。 ――コイツに書くきっかけみたいのを与えてやれるものはないか。しかもキツイやつ。 すると、一ついいアイディアが浮かんだ。「じゃあ、こういうのはどうだ?」 俺は玉子と部長の顔を交互に見ながら提案する。「毎週土曜の夜に、小説のお題を決めているインターネットのサイトがあるんだよ。チャットでミーティングをしながらね。そこで決まったお題を使って、続きを書くってのはどうだ?」「へえ、そんなサイトがあるんだ」 先に反応したのは部長だった。「なんだか面白そうですね」 玉子も興味津々だ。「ちなみに、先週のお題は『野ざらし』『立春』『八百』だった」 すると玉子と部長から笑顔が消える。「死体は野ざらしですか……」「立春で人は殺せないよね」「だからそれは先週のお題だって。次回のお題はどうなるか、全く未知の世界だ」「うわあ、先輩、ドキドキしますね。まるでガンツ玉みたい」「大丈夫なの、勉。凶器とか、犯行動機とか、チャットでそんな話題が出るとは思えないんだけど」 部長が心配そうに俺の顔を見る。「いざという時は俺がチャットに入って何か提案するよ。ミーティングは誰でも参加できるみたいだから」「じゃあ、頼んだわよ」「お願いします、先輩。私もお父さんのパソコンを借りて、チャットの様子を見てますから。いいお題が提案されたら、私この部に入部して作品の続きを書きます」 キラキラした瞳で後輩に見つめられたら俺も後には下がれない。 こうして期待の新入生、庭野玉子の文部への入部は来週に持ち越しとなったのである。(つづく)---------------------------------------------------さて、週末のチャットでどんなお題が出されるやら。後編、いや書きかけのミステリーの運命をかけて、不安と期待の入り混じった週末を迎えます。皆さん、お手柔らかに。(追記2/19:結構大きなミスがあったので、修正しました)
青い空にふわふわと雲が浮かぶ。のどかな昼下がり――加藤司はアパートのベランダで、ぼんやりどうして葉子が自分を振ったのか、考えていた。 司が坂下葉子と別れたのは、二人が高校の卒業した翌日だった。別れを切り出したのは、葉子の方だったから、司は振られたことになる。他に好きな人が出来たというのが、その理由だった。葉子があんまりあっさり言うものだから、司は春雷が遠くでなったような錯覚さえ覚えた。たゆたう葉子への想いを、どうせ別の大学に行くことになってたんだし、遠距離になるんだしと、司は新生活の準備をしながら、懸命に自分を納得させようとして、できずに今に至る。 司が葉子と付き合い出したのは、高校三年の夏のことだった。予備校で同じクラスで席が隣だったことがきっかけだった。「へぇ、加藤君もK大希望なんだね。私もなんだ」 模試で希望大学を書き込んでいるときに、そう葉子が覗き込んできた。「ねぇ、模試が終わったら、二人で自己採点してみない?」 ちょっと周りを意識しながら、そう持ちかけてきた葉子は、どこか緊張した様子だった。「別にいいけど……」 司は他の予備校生よろしく、少しでも参考書に目を通そうと考えていて、まさかそんな誘いがあるとは思ってもなくて、とくに意識もしていなかった葉子が頬を少し赤らめていたのが、妙に可愛らしく見えた。 受験勉強の合間に、一通りのことはやった。夏祭り、誕生日、クリスマス、バレンタイン――それでもやっぱり、受験勉強の合間。 単純に、張り合いが欲しかっただけなのかな? 司は雲に向けて息を吐く。それでもこのもやもやが散ってくれることはない。 大学生活も始まって、早一月。希望どおりの大学で、希望どおりの学部である。そう希望どおりの――葉子も希望どおりの大学に進学していった。葉子との間に何かがあったわけじゃない。単純に成績の伸びに違いがあっただけだ。秋までは司の方が成績は良く、葉子の方が悪かった。それが冬に入ると、司の成績は落ちていき、反対に葉子の成績が急激に伸びた。結果として、司は志望校を変更することを選び、葉子もよりレベルの高い大学を選ぶことになった。そう希望どおりに。「浪人して、同じ大学行こうかな?」 司が葉子にそう言ったとき、葉子は一瞬、やたらと困った顔をしていた。 今にして思えば、あのとき、もう葉子の気持ちはなかったのかもしれない。もともとは、俺の方が成績が良くて、そこに葉子は惹かれたんだろうし。 実際、二人で勉強するようになって、葉子の成績は少しずつ伸びていった。司としても、自分が教えることで、葉子が伸びてくれるのは嬉しかった。それがときに自分の勉強を疎かにすることになっていたとしても。 ただ、こうなると、なんか葉子に利用された感じがないわけでもない。 そんなことはないことは頭では分かっていても、振られたタイミングがタイミングなだけに、感情の整理はつかない。負の感情が複雑に入り混じる。成績を追い抜かれたことで、多少なりともプライドが傷ついたのもある。あるいは、「俺より成績が良くなったってことで、俺に魅力は感じなくなったってことか」 羨ましいと思っていたところに来て、追い抜いたら、途端に、かっこ悪くなったのだろうか? その止めは進学先の違いか。そう思えば合点は行く。合点は行くが、「そんなものだけで、付き合っていたとは思いたくはないよ」 司は葉子に振られて幾度となく至った結論をまた翻して、再びスタート地点に戻ってきていた。そして、思う。「せめて、葉子と同じ大学だったら、別れずにすんだのかな?」 司は今日何度目かの溜め息を、空に向けて吐いた。「好きな奴ができたってんなら、そいつが誰か教えろよ!」 そう葉子に詰め寄ることができれば、もう少しはっきりした答えが聞けたのかもしれない。「そんな根性は、俺にはないか」 司は自嘲した。「あーこれからどうするかな……腹減った。昼飯、食わねぇと」 司は白い壁に掛けてある時計を見る。もう二時前で、起きたのが十一時過ぎだったとはいえ、いい加減空腹を覚えた。 世間はゴールデンウィーク。大学に入学したときは実家に帰るつもりだった。が、司の通帳は、残高百五十二円。懐は吹雪いていた。こうなってしまったのも、大学のサークルの新歓コンパに誘われて、やけくそで出まくってしまったからだったりする。「新しい出会いとは言うけれど、結局出会いはなかったし……」 コンパの席が思い出される。散々先輩に飲まされて、金だけ払わされた気がする。で、肝心の新しい出会いという奴は、なかった。いや、正確には、一年の男は男同士で固まり、一年の女の子は女の子同士で固まり、その塊に先輩が間を割って入って、サークルへの本気の勧誘が始まって、「あんまり覚えてないな……」 司は溜め息を吐く。なんのために散財したのか。とりあえず飲み会の相場が四千円くらいと分かったのが、司の収穫だった。 突然、何か食えと腹が鳴る。「仕方ない。出るか。金ないけど」 司は遅い昼食を取りに行くことにした。空に流れる白い雲が千切れていった。 大学近くの飲食店は安い。その上、数も多い。和洋中何でもござれである。もっとも、大学生になったばかりでは、どこが安いのかも分からないし、ましてや一人で飲食店に入るというのはそれなりの度胸がいる。司もその例に漏れない。コンビニでカップ麺でも買うことも考えたが、すでに飽きてしまっている。司は飲食店が建ち並ぶ通りまで歩いて、先日行った一杯四百五十円の豚骨ラーメン屋に入ることにした。ラーメン店なら、一人で入ってもそんなに抵抗感がなかった。内心、こういう休みの日こそ、大学の生協は学生の健康面と経済面を考えて開けるべきだろうに、と呟いていたが。 司がラーメン店を選んだのにはもう一つ理由がある。ずらりと並んだ漫画である。じっくり時間を潰すには、もってこいだ。ついでに、替え玉も、学生価格の五十円と格安ときた。 司がラーメン店のガラスの引き戸を開けると、なんとも言えない特有の臭いが漂っていた。「いらっしゃい」 と、じゃが芋も連想する頭の店主がにっこりと司に笑いかける。司は軽く会釈して、キョロキョロと店内を見渡す。店内は、赤いテーブル席が三つに、カウンターが八席とそんなに広くはない。昼時を外しているこの時間帯では、客もテーブル席に三人いるだけだった。司はカウンターに座ることにして、歩き出したときだった。テーブル席に座っていた女性客と目が合う。何か引っかかって、司は立ち止まる。一瞬の間があった。「あっ! なんかすごいのきた! やっときたわよ! うちのサークルの期待すべき新人、一号が!」 テーブル席の他の二人も振り返る。「あなたは、確か……そう、加藤君ね。よく来てくれたわ!」 女性は興奮気味に司の名字を言うが、当の司には何のことか良く分からない。「こんな奴いたか?」「さあ?」 残りの二人は顔を見合わせて首を傾げていた。「酔っ払っていたあなたたちの記憶なんて、最初から当てになんかしてないわよ」 その女性客は得意げに言う。 中学生か? いや……大学生か? 司は訝しがった。というのも、百四十センチくらいの小柄だったからだ。彼女の栗色のウエーブの掛かった長い髪は、表情を変えるたびに揺れた。 なんか怪しいから、無視しよう。 司はそう心に呟いて、三人の座るテーブルの横を通って、まっすぐカウンターに向かおうとする。「ここまで来て、その態度はないんじゃない? 良いからこっちに来なさいよ」 その彼女はしっかりと司の左手を掴んで、にっこり司を見上げていた。その笑顔はクリッとした瞳を輝かせて、なんとも嬉しそうで、楽しそうで、司は思わず見とれていた。 それが司と坂崎智世との最初の出会いだった。―――――――――――――――――――――――――――――――――――締め切りに、間に合った(笑さて、久しぶりに司君です。皆覚えてますか?司と智世の出会いの部分を、三語っぽく適当に作ってみます。というわけで、続くきます。後編のお題はこれから選出します(ぁ2/22 21:33 一部修正
雑居ビル内にある、木崎事務所とだけ表札のかかった、何の仕事をしているのかさえ分からない部屋の前に置かれたドンブリを回収し、少年は帰路につく。帰路と行っても、ただ階段を下りるだけ。部屋の中からはいつものように機械をいじる音だけが聞こえている。 少年――如月吹雪の働いている店はその雑居ビルの一階にある、しがないラーメン屋(?)だった。「おう、吹雪、帰ったか」 そう言い、吹雪を出迎えたのは、ラーメン屋(?)の店長、五十六歳独身の如月熱斗。吹雪の父だ。 その父と、客らしい少女を見比べて吹雪は改めてラーメン屋(?)の(?)について再認識する。なにしろ、その小学生くらいの白いワンピースを着た、白髪の少女が食べていたものは、プリンアラモードとお子様ランチ(ハンバーグにチキンライスの山、ポテト)であり、ラーメンはおろか中華料理の影すらなかった。 客の注文さえあればアフリカ料理でも作る、それが熱斗の心意気というものらしいが、客の無茶な注文のたびに店のメニューが増えていき、今では九百種類以上もの品揃えがある。しかも、それぞれに値段設定をしているため、会計をするのも一苦労だ。 まぁ、幸いというか、不幸というか、会計で順番待ちをするほど客足はよくないが。「……ぷはぁ、ごちそうさまなの」 少女がケチャップのついたご飯粒をほっぺたにつけるというべたな食いしん坊キャラを演出してごちそう様宣言をする。「お子様ランチとプリンアラモードでいいのか?」「うん、ごちそうさまなの」 親父に訊いたつもりだが、少女が返事する。「……八百四十八円になります」 レジで金額を打つ。「わかったなの」 そういい、彼女はおサイフケータイ用のところに手を置いた。「……おい、何のつもりだ? そこは携帯電話を置くところで……ん?」 瞬間、レジが壊れたかと思った。 なぜか機械が作動し、レシートが出てくる。 残高百五十二円という言葉とともに。「……なぁ、お前……」「お前じゃないの! ミライなの!」「ミライ……その手、開けてみろ」「はいなの!」 ミライと名乗る少女は、そういい小さな両手を大きく広げる。 そこには何も握られていない。当然、磁気を発するようなものもなにもない。「どうなってやがるんだ……イテッ!」 吹雪が自問して少女の手をふれた瞬間――静電気が音をたてて発せられた。「親父、外も暗いから、この子を家まで送るよ」「おう、お前にしては気がきくじゃねぇか」 ミライの使っていた食器を片づけながら、熱斗が「送ってやりな」と了承する。「あぁ……確かに気をつけないとな」 吹雪はそういい、ミライの横顔を見降ろした。「なぁ、ミライちゃんの家はどこにあるんだ?」「うぅんと、メゾン吉岡の三○三号室なの」「メゾン吉岡? それってどこにあるんだ?」 そう訊ねながら、自分でも携帯のインターネットで検索を入れる。「えっと、調べてみるの」 調べる? どうやって? と吹雪は思ったとき、携帯に検索結果が表示された。「吉岡駅から北に三百メートル。おしゃれなガーデンアートがあなたを出迎えます」 それは確かに携帯情報ページに表示された言葉だった。だが、それを発したのは吹雪ではなく、ミライの声。携帯電話をのぞき見したのかと思ったが、少女は目をつむっている。 どうやら……間違いないらしい。「どうやって調べた?」「えっと、インターネットを使ったの」「……携帯電話もパソコンも無しで……か」 吹雪は笑っていた。 理論はわからないが、少女はおそらく、電波を送受信し、情報を脳内でイメージ化している。当然、暗号された、しかも電波という情報は普通の人間には届くことはない。 例えば、ラジオというのはラジオ局から発せられる電波がラジオという受信機を通じて初めて音となる。電波のままでも音として認識できるのなら、一日中耳元で騒音が聞こえて寝ることすらできないだろう。 だが、吹雪の考えが正しければミライはそれと同じようなことをいとも簡単にやってのけたことになる。「そんなの……精人にしかできるわけがない」「せいじん? バル○ン星人なの?」 そんな蝉とザリガニをあわせたような宇宙人は関係ない。 精人とは、精霊を身に宿した人間のことをいう。一般には知られることのないその存在だが、火の精霊を宿したら火を、水の精霊を宿したら水を使うことができる。 そして、ミライはおそらく、その小さな身体に電気の精霊を宿しているのだろう。雷の精霊ともいえるかもしれない。レジで自分の身体に特定の磁気を発することで精算をしてみせたり、自分の身体で人間インターネットとなったりしている。そして、何よりあの強力な静電気。「フォッフォッフォッフォッフォなの」 バルタ○星人のまねをするミライ。彼女は精人の意味を知らない。なら、彼女の両親は知っているのか? この精人がどういうものなのか。「じゃあ、とりあえず送ってやるから……」「やぁ、これはこれは、ラーメン屋のお坊ちゃんじゃないですか。偶然ですね。いや、この世界に偶然ではないことなど一つもないですから、わざわざ偶然というのもおかしいですね。それこそ、呼吸をするたびに、私は呼吸をしていますと宣言するようなものですから」 声をかけてきたのは、一人の三十歳くらいの男。無精ヒゲに、ぼさぼさに伸びた髪、よれよれの白衣を見る限り、オシャレとは無縁の人間だ。「……木崎さん?」 ラーメン屋のある雑居ビルの四階の木崎事務所に一人住む木崎。一週間前に引っ越してきてから吹雪とは時々顔を合わせる程度の付き合いをしている。「これはこれは、可愛らしいお嬢さんですね。可愛らしいといっても、生まれたての子犬や、水槽の中をたゆたう小さな金魚に対していう可愛らしいではなく、将来魅力的な人間になるであろうことをみこして言う可愛らしいです。あ、でも私はロリコンではありませんから、今すぐに貴方に対して発情するということはありませんよ」「こんにちは……じゃなくてこんばんはなの!」「やぁ、こんばんは。飴食べますか? 飴は効率よく糖分を接種するには最適な手段だと思っています。幼少期、糖分は脳の栄養と言われ、毎晩一個食べていたのですよ。まぁ、実際のところ砂糖のとりすぎは低血糖を引き起こしますね。過ぎたるは及ばざるがごとしとはまさにそのことですね。それを知っていても糖分を補給しなくてはいけなくなる。糖は一種の麻薬のようなものだと私は思いますよ」「わぁい、グレープ味にアップル味もらいなの! レモン味はいらないの! すっぱいのはぺっぺなの!」「あはは、実は私もレモン味は嫌いです。そもそも、飴を食べるということは前述したとおり糖分を補給するためですから、わざわざ甘みと反発するようなものを食べたいと思わないのですよ」「これは奇遇ですね、なの!」 口に飴玉二個を一度に頬張り大喜びのミライと、嫌いといっていたレモンの飴を口に入れる木崎が笑いあう。妙に気があったらしい。「あの、そろそろいいですか? 俺達行かないと……」「どこに行くっていうの?」 再び来訪者。だが、今度の来訪者は歓迎できるという雰囲気ではなさそうだ。 その来訪者の女性は、木崎と同じような白衣を着た二十歳くらいの女性。大学生にもみえるが、何より問題は彼女の所持品。「玩具、じゃないよな」「えぇ、もちろん本物よ」 彼女がこちらに対し構えていたのは、拳銃だった。「おまわりさんには見えないんですけど……刑事さんですか?」「その子を渡しなさい」「……ミライ、知り合いか?」「えっと、研究所のお姉さんなの」 ミライが怯えた様子も見せずにそう答える。研究所――嫌な思い出がよみがえった。「木崎さん、その子をつれて逃げてください」「……わかりました。この状況を見る限り、それが一番よさそうです。ミライちゃん、アイスクリーム買ってあげよう」「わかったなの。アイス欲しいの! すぐに戻るのっ!」 少しおびえた様子の木崎と全く緊張感のないミライ。「待ちなさいっ!」「っと、相手は俺だっ!」 追いかけようとする女性の前に吹雪が立ちふさがる。「どきなさいっ!」「どかないね。そもそも、拳銃なんて打ったら、警察がすぐに――」 その瞬間、激痛が吹雪の足を襲った。「なっ」 消音機を使ったらしい。撃たれた、と感じた時にはすでに吹雪はその場に倒れていた。「私は迷わないって決めたの」 女の言葉とともに、吹雪の体温はどんどん下がっていく。寒さのあまり痛みもなくなり、まるで自分の身体が氷になったかのような錯覚さえある。 だが、それは紛れもない事実で――「……待ちな」 吹雪はそう声をかけた。しっかりと両足で立ちあがり。「そんな……貴方……まさか」 吹雪の足の傷はすでに血が固まってふさがっていた。ただし、かさぶたができたというようなものではない。吹雪の足から漏れ出た血が凍って塞がっていた。「貴方も…………」 信じられないといったような口調で女は呟く。「貴方も……精人」「……大人しくしろ」「だめよ。私はあの子を連れ戻さないといけないから」「…………」 そういい、彼女は拳銃を至近距離で吹雪に向けた。だが、吹雪は冷静に銃を握る。 瞬間で冷えた銃の恐怖で、反射的に彼女は銃を手から離した。 脳が冷えた吹雪の思考はひどく冷静で、ひどく容赦ない。だから、吹雪はその拳銃を取り、彼女の頭にむけた。「……お前のような研究者がいるから、俺達は平和に過ごせない」「……平和に過ごせない? ミライを……あの子を連れ出して弄くりまわすのが貴方のいう平和なの?」「……何をいっているんだ?」 吹雪は彼女の言わんとすることが理解できなかった。次の一言までは。「……私は、何が何でもミライを助けないといけないの! 少なくとも、木崎のような研究者にはミライを渡せないわ」 その瞬間、吹雪は自分が行った、ミライを助けようとした行動が、ミライを最悪な運命へと追いやったことにようやく気付いた。------------------ 0:38 一部修正
RYOさん>葉子があんまりあっさり言うものだから、司は春雷が遠くでなったような錯覚さえ覚えた。「春雷」の使い方がうまいです。>結果として、司は志望校を変更することを選び、葉子もよりレベルの高い大学を選ぶことになった。そう希望どおりに。志望校を変更することになったのに、その前に「希望どおりの大学で、希望どおりの学部である。」とあるのは、ちょっと?でした。>とりあえず飲み会の相場が四千円くらいと分かったのが、司の収穫だった。RYOさん、もとい司さんの大学は都会ですね(笑)。僕の出身大学は田舎だったのでもうちょっと安かったです。田舎だとアパートも広いし、そこに集まって飲めば千円くらいで済んじゃいます。僕の受験勉強は全く逆でした。成績の良い、気になる女の子を追いかけて勉強しました。おかげで僕は志望校に合格。彼女も成績を落とさずにもっとレベルの高い志望校に合格しました。別に付き合っていたわけじゃないですけど。この作品は、以前RYOさんが書かれた作品のプロローグなのですね。その作品を読んでおくと、後編はもっと楽しめそうですね。ウィルさん>少年――如月吹雪の働いている店はその雑居ビルの一階にある、しがないラーメン屋(?)だった。「吹雪」って名前が女性っぽかったので、クライマックスで4人のセリフが交差するときに誰のセリフか分かりづらくなってしまって、ちょっと残念でした。>なぜか機械が作動し、レシートが出てくる。>残高百五十二円という言葉とともに。ここは上手いですね。精人という発想が面白いし、お題の消化も自然で見事です。このシーンで、ぐぐっとストーリーに引き込まれました。>「フォッフォッフォッフォッフォなの」このセリフが、脳内にて能登麻美子の声で再生されてしまった僕はやはりヤバイでしょうか?(笑)>瞬間で冷えた銃の恐怖で、反射的に彼女は銃を手から離した。瞬間に冷やす、というのがちょっと分かりにくかったです。いくら精人でも、銃の熱伝導を超えた冷やし方は無理かも。>そう言い、吹雪を出迎えたのは、ラーメン屋(?)の店長、五十六歳独身の如月熱斗。吹雪の父だ。RYOさんとウィルさんの両方の作品にラーメン屋が出てきたのは面白かったです。後編に出てきそうなお父さんの特殊能力に期待です(笑)自作品いやあ、必須お題の消化が全部無理やりでしたね(反省)。しかも任意の「でっへへへへ」と「なんかすごいのきた!」にかなり引っ張られました。後編、どうしよう。「ハンバーグ」「二度見」「あてもなく」ですか?「厳重に封印」とか「歪んだ秒針」とかは、ミステリー談義に使えそうですが……
遅れている感想です>可愛いあいつはモンブラン(前編) つとむューさん あくまで、この段階で。 描写がもう少しあると読みやすいように思います。 それにしても、ここで前編が終わるとTCのチャットが、かなり怪しく見えてしまいますが、ねらいでしょうか? これで作中に新しい三語ができるんでしょうか?>傷心の出会い【前編】 RYO 司君の恋のプロローグです。 失恋してたんですね、司君。 知りませんでした(ぁ >発電少女ミライ ウィルさん 設定が面白いですね。キャラクターも面白い。ただ説明不足な感じがあるので、読者が置いていかれているような感じもします。 後編でまとめていくか楽しみです。 簡単な感じで申し訳ありません。後編はまた後日読みますね。