Re: 即興三語小説 ―連休何してた? ( No.1 ) |
- 日時: 2012/12/02 19:57
- 名前: サニー ID:8xHqzTcA
今日は、キタキツネのクロとコンの話をしたいと思う。 僕が彼らに出会ったのは、20年前の8月の中ごろのことだった。小学6年生だった僕は、4年生の妹の早紀と一緒に東北にある祖父の家に2週間ほど泊まっていた。 祖父は、2年ほど前に祖母を亡くし一人で暮らしていたので僕たち2人の訪問をすごく喜んだ。凄腕の猟師だったらしい祖父は、今はもう引退をしており小さな畑と古い日本家屋が彼の財産だった。 小さな畑では、トマトやきゅうりなどの野菜が栽培されていた。幸いピーマンは、栽培されていなかったが僕が苦手なことを知ると祖父は、来年はピーマンを栽培して待っていると笑っていったものだった。 そんな祖父の畑は、柵や網で囲まれている。山が近いから動物が下りてきて野菜を食べるのだと祖父は、教えてくれたが、いくつかの食べられた作物を見る限り囲いの意味は、薄そうだった。 「お山の食べ物は、おいしくないの」 妹が祖父に首をかしげながら聞くと祖父は、笑って妹の頭を撫でた。 「味の問題じゃない。そこに食い物があるかどうかなんだよ。あいつらは、食欲のままに生きているんだ」 言い終わると祖父は、昼飯にしようといって軽トラックの荷台に僕と妹を載せて定食屋につれていってくれた。 クロとコンとの出会いは、祖父の家での過ごすようになって1週間が過ぎようとした日のことだった。僕がいつものように昼食の前に畑に野菜を採りにいくとどこからか声が聞こえてきた。声の方へ近づいていくとそこには、箱形の罠にかかり怪我をしたキタキツネがいた。罠のわきには、罠の中のキツネと同じくらい大きさのキツネと親のように見えるキツネの二匹がいた。 キタキツネ達は、僕の足音に気が付くとそれまでとは、違う鳴き声で鳴くようになった。そして僕がゆっくりと姿を現すと外にいた二匹は、山の方へ逃げていってしまった。逃がしてやりたかったが罠の開け方がわからないので、畑の方へ戻りトマトを一つ採ってきてキツネの前に置いてみた。キツネは、食べる様子がない。 家の方に戻り祖父に罠を開けてもらうように頼んだが祖父は、聞き入れなかった。 「あいつらは、畑を荒らしに来たんだ。同情してやる必要はない」 祖父は、僕が何を言っても聞きいれる様子がなかったが、早紀の一言で状況は、変わった。 「殺しちゃうの、可哀そうだよ。ねえ、おじいちゃん。怪我が治るまででいいから面倒見ちゃダメ?」 祖父は、病気を持っているとか人にはなつかないとか色々なことを言って妹をたしなめようとしたが最後には、あきらめて怪我が治るまで面倒を見ることを約束した。 罠の方に3人で向かうとまたあの2匹がいた。妹がその光景を見て「わぁ、双子とお母さんだ」と言うと祖父が苦い顔をした。祖父によるとキツネは、一度に何匹もの子供を産むので双子になることは、ないのだそうだ。つまり目の前にいる双子の兄弟も本来は、三つ子や五つ子だったのだろう。 怪我をしたキツネは、クロと名付けられオリの中で怪我が治るまで面倒をみることになった。僕は、キツネだからコンという名前を付けたかったのだが妹がどうしてもひかなかった。 「お兄ちゃんの名前は、もう一匹の方につければいいよ」 仕方なく僕は、もう一方の子ぎつねをコンと名付けることにした。 クロは、三日もするとすっかり元気になり山に帰された。後ろ髪を引かれるそぶりも見せずに一目散に山の方へ向かっていく。畑で聞いたものと同じ鳴き声でクロは、鳴いていた。 その後は、クロやコンの姿を見ることがなく祖父とのお別れの日になった。軽トラの荷台に乗ろうとすると鳴き声が聞こえてきた。妹は、「クロだ」と鳴き声の方へ向かったがどこかおかしな気がした。 畑の方へ行ってみるとそこには、クロとコンそして母キツネがいた。しかしどうも様子がおかしい母キツネが明らかに双子を威嚇していた。双子が母親に近づこうとすると母親は、飛びついて牽制をした。 夏の終わりは、キツネにとっての親離れの季節である。この時期を境に母親は、子供を自分の縄張りから追い出そうとする。祖父によるとこれが厳しい自然を生き抜くための知恵なのだそうが、ほんの一週間ほど前までのことを考えると信じられなかった。 自分が親になった今なんとなくではあるが、母キツネの気持ちが分かったような気がする。わが子を愛するがゆえに優しくするのは、真の意味での愛情でない。それは、ただ子に愛されたがための親のエゴにすぎないのだ。 僕は、あの母キツネのように厳しくなれるのか時々不安になる。自然の美しさというものは、あのように純粋だからこそ感じるものなのかもしれない。
1時間と50分でしたorz コンでキツネは、少し安直ですね。 今にしてロリコンにしとけばよかったなと思っています。
|
|