Re: 即興三語小説 -つゆはまだあけない- ( No.1 ) |
- 日時: 2012/07/09 02:28
- 名前: 水樹 ID:jMqFvSqc
お題は、「カレー」「スイカ」「怒りの秋葉原」です。
短冊に願いを
梅雨の一時の晴れ間、 「天気も良いから秋葉原に行こう、ねえ、行こう行こう」 と殺人鬼にねだられ、早朝起こされた。時計を見たら三時半だった。雲一つなく、天の川が綺麗に輝くまだ夜中だ。 過去の三語に結構登場している、作者もすっかり忘れていた殺人鬼。筋骨隆々の身長二メートルオーバー、繋ぎの作業着でアイスホッケーのマスクを被っている。泣く子はさらに大泣きする外見とは裏腹に心優しい殺人鬼。なんやかんやあって僕の家に居候している。そのなんやかんやは作者もとうに忘れているだろう。さらに言えば、七十四回三語の使い回しに思い入れが全く感じない。
「君はそのまま寝ていいさぁ、既に準備万端だからね、全面的に信頼していいさぁ。このアイスホッケーマスクを被って寝てればいいさぁ、ああ、間違えた。アイマスク」 どんな間違いだと頭の中で突っ込みつつも、すぐに僕は眠りに落ちた。
移動中の振動で断片的に眠る僕。途中、英語だのフランス語だの中国語な人の声が聴こえ、なぜか飛行機に乗ってフライトする音を耳にした。不安がいっぱいでろくに寝られてないとも言えた。 「起きて、起きて、着いたよ。レッツ秋葉原なうなう」 アイマスクを取り、眩いばかりの光を眼に入れる。 「何これ?」 言葉を寸前で飲み込み、僕は酷く後悔した。公開処刑さながらな絵でもあった。 「いらっしゃいまし、殺害者様」 店員は全員筋骨隆々、アイスホッケーのマスクで繋ぎの作業着の上にヒラヒラのエプロン、他に客はいなく、被ってない僕だけが浮いている。今の現状の僕、これは確かに被害者だ。 冥途喫茶? いや、殺人鬼喫茶に違いない。ここは本当に秋葉原なのだろうか。夢なら今すぐにでも覚めて欲しいと心底願ってやまない僕がいる。 店長、オーナー、雇われ店長にマスクと呼ばれている殺人鬼がこの店の主だろう。飾られている歴代店長の写真が皆同じだった。突っ込むのに疲れた僕がそこにいた。 なので、適当に注文し適当に退散しよう。 お腹が空いたので僕はカレー、殺人鬼はスイカを頼んだ。 「今週は七夕イベントさぁ、この短冊にお願いごとを書いてね」 ここは本当に日本と疑うぐらいだが、言われるままに短冊に書いて窓際の笹に吊るした。 他にも短冊があり、見てみると、英検2級取りたいだの、とあるスプラッター映画の続編希望だの、三語映画化希望だの、破り捨てたい、焼き払ってもいいぐらいの短冊が多数あった。 「君は何をお願いしたんだい?」 「えへへ、恥ずかしいなぁ、ひ・み・つ」 マスクの下では頬を染めているだろう、殺人鬼に聞いて失敗したと思わず舌打ちしそうになった。 カレーを早々にたいらげ、午前中のイベントのハイライトの一つでもある、殺人鬼達のぬるっとしたダンスで気持ち悪さを覚えつつ、何とか乗り切った僕がいる。 固めた拳をどうにか緩め、怒りの秋葉原を後にし、僕と殺人鬼は家へと帰る。帰りは電車なんだ。 疲れた果てて僕に寄り添って寝る殺人鬼。僕の方が疲れているのに、 「ぐぅぐぅ、毎週登場したいな、酷評する人がいるものなら四肢を切断して人間こけしにしてやるからね、ぐぅぐぅ・・・」 どんな夢を見ているのだろう。それと同時に僕は思う、きっとそれが殺人鬼の願いだろうと。 三語の参加者が増えますようにと、想いを短冊に残し、停車駅まで僕も目を瞑る。
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