Re: 即興三語小説 ―「食い意地」「毒タケ」「昇進」 ( No.1 ) |
- 日時: 2017/10/01 16:32
- 名前: マルメガネ ID:ZsQ851Mw
役職に就くための昇進試験が終わり、飲みに出た若手の三人組。 「試験が終わった。ぱぁっと行こうぜ。ぱぁっと」 お気楽係長こと楠木が言うと 「そだね。どこ行く?」 と、何度目かの試験を受けながらも、あまりぱっとしない雑木が言う。 「じゃぁ、もう寒くなってきたし、鍋でもいいんじゃないの?」 と、あまり乗り気じゃない乗鞍が言う。 「じゃぁ、それで…」 行く先が決まったあと、彼ら三人組は鍋専門店に入った。 とりあえずのビールで乾杯し、そしてその店の大将おすすめのキノコ鍋が出てくると、食い意地に任せ、それをがっつく三人組のさまはあさましいこと限りなし。 「んまい。このキノコうまいわぁ」 「豆腐よこせ。とうふぅぅ」 などと言いつつ、六人前はあった鍋は瞬く間に空となり、酔いもほろ酔い加減でその打ち上げは終わった。 帰りの駅にたどり着いたとき、その異変は起こった。 「どうした? 乗鞍」 「は、腹が痛ぇ…。あぁっ。も、漏れる。ごめんよ」 血相を変えてトイレに走り去る乗鞍。 残る楠木と雑木も唖然としていたが、だんだん気分が悪くなってきた。 そして、彼らもまたトイレに駆け込み、吐くやら下すやら、散々な目に遭った。 「だれかぁ~。トイレで人が倒れてますぅぅ~」 青ざめて動けなくなってしまった三人組を発見した女の子が助けを求めに走った。 彼らが目を覚ましたのは、病室の中だった。 最初はどうしてこんなところに、と思っていたが、医師から話を聞くうちに、そういえば、ということでそれぞれに事情を話すと、医師は 「どこのお店で食べたんですか?」 と聞いてきた。 「ええとですね。駅前の繁華街の鍋料理店ですが」 と、楠木が答えた。 「出されたものは?」 「キノコ鍋です。具材は大将にお任せでしていました」 ありのままに雑木が話すと、医師は、 「これは、キノコ中毒ですね。あなたたちの状況からしてそうみられましたので、その結果を保健所に連絡をしておきました。おそらくは立ち入り調査対象となるかもしれません」 医師がそう言った。 彼らの症状はいずれも軽くて済み、その日のうちに退院できた。 「○○保健所が××鍋料理店に立ち入り検査を実施。そして、店主が無断でキノコ採取を行い客に提供していたことが発覚…」 何日かして、電光掲示板ニュースが伝えていた。 「じゃぁ、俺たちが食ったのは毒タケ?」 「わからないけど、それにしてもひどいよね」 「ああ、あのうまかったキノコが毒だったとは…」 それぞれにがっくりする三人組。 昇進試験は、いずれも落第し、それも追い打ちをかけた。 そして、彼らが立ち寄った鍋料理店は、噂が噂になってありもしないでたらめな情報が流れ、客足が遠のき、そして潰れた。 張り紙が締め切られたシャッターに貼られているのがむなしく、秋風が確かにそれをめくり吹き去っていくのみだった。
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