Re: 即興三語小説 ―「熱風」「翼」「目薬、189円」 締め切り8/20に延期します ( No.1 ) |
- 日時: 2017/08/13 21:58
- 名前: マルメガネ ID:Z/kWDvQA
日差しにきらりと銀色の翼が輝く。堂々とした銀色の機体。 高度一万五千メートルの上空を飛行する一機の大型戦闘爆撃機。そして、そのあとから多数の戦闘機が群れを成して追尾している。 「機は目的地付近上空を飛行せり。雲一つなし。快晴」 大型戦闘機の通信員があわただしく基地に無線を飛ばした。 やがて、その大型戦闘爆撃機は銀色の機体を輝かせてさらに高度を上げ、その向かう先に町が見えてきた。 その町の周辺は黄土色の砂漠地帯が広がっている。 「熱風作戦実行せよ」 「了解」 「各機に告ぐ。これより熱風作戦を実行す。それぞれに散開せよ」 無線のやり取りが続く。 下方から、高射砲、高角砲の射撃があり、攻撃が仕掛けられた。 「許せ」 ベテランの機長が弾倉庫のスイッチを押した。 「機長!! 迎撃ミサイルです。我々に向かって接近中であります」 「慌てるな」 機長が落ち着き払って部下に言った。 開いた弾倉庫から長大な爆弾が放たれ、それはゆっくりと後方へと落下していった。 大型戦闘爆撃機は向きを変え、迎撃ミサイルを紙一重でかわすと、はるか彼方へ姿を消した。 高度一万メートル以上を飛行していた大型戦闘爆撃機より投下された長大な爆弾は、すさまじい閃光を放って炸裂し、地上にあるものをことごとく破壊し焼き払った。 大型戦闘爆撃機を狙って撃墜しようとしていた地上部隊も、砂漠にあった町ももうそこにはなかった。
「スター国のグレートモスなる大型戦闘爆撃機による新型爆弾が投下され、軍事拠点消滅せり。なお被害については、目下調査中なり」 某国の公営放送局のアナウンサーが興奮気味にまくしたて、状況を伝える。 「もう、この国はおしまいじゃ」 憤慨気味に老人が嘆く。 老人が嘆くのには理由があった。 彼のその国では、政権を巡って対立が続き、内戦が起こっていた。そして、神の名のもとに、という過激な思想武力集団が疲弊した国内を蝕んでいたのである。 「じいさん。嘆かなくてもいいよ。やがて、東の果てから日が昇るように、救いの手が差し伸べられるから」 嘆く老人にそっと声をかけた若者がいた。 「ど、どういうことじゃ?」 きょとんとした老人がその若者に聞いた。 「夜が明けない日はない。また、日が沈まない日はない、ってことですよ」 若者はそう言って、さらに続けた。 「真実を見ぬ者は、やがて駆逐されるでありましょう。捕らわれ、無実の罪に問われた正しい人は解き放たれ、やがてその人たちの手によって国は再建されるでありましょう」 「あんたは、一体……」 老人がそう言いかけたとき、その若者はどこかへ立ち去っていて姿はなかった。 不思議なこともあるものじゃ、と老人は思った。 その後の某国。 泥沼化していた内戦の終結と台頭していた過激派集団の壊滅が図られ、なんの咎もなく無実の罪でとらわれていた人々が解放され、それまでの君主は世界の片隅に追いやられ、革新が始まったのだった。 「あの若者の言うとおりじゃった」 老人は、目が覚める思いがした。
「新型爆弾の威力はどうだったかね?」 スター国の最高機密にされている軍事研究所の所長が、天才とまで言われた若い科学者に尋ねた。 「ああ、それは絶大でしたが、もう必要はないと思いますよ」 そっけなくその若い科学者が所長に答えると、目薬を差した。 「目薬 189円。そんな安物で効くのかねぇ」 「それはその人次第でしょう。 国家予算に匹敵する軍事費をかけて研究しますか?」 若い科学者が皮肉を込めて所長に言うと、所長はむっとした顔をした。 スター国が開発した新型爆弾は、その彼が研究して開発したものだった。 核兵器に匹敵する威力を誇る通常爆弾だったが、のちにそれはスター国にとって禍と各国から誤解を招いただけだった。 研究所から自室に戻った若い科学者は、某国で憤慨して嘆いていた老人を思い出した。 たまたまその場に、調査のために居合わせていただけのことだったが、老人が今はどうしているのか気になって仕方がなかった。 そして彼は考える。 できうることならば、もう一度会ってみたいな、と。 そう願いながら、彼はそっと目を閉じ、ため息を漏らした。
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