Re: 即興三語小説 ―「煮えたぎる」「湖」「かき氷」 締め切りは8/6に延長します ( No.1 ) |
- 日時: 2017/08/06 21:10
- 名前: マルメガネ ID:4b5Sh0Ac
その湖で異変が起こったのは、ある年の夏のことだった。 毎年冬には全面凍結して、その氷が切り出され、翌年の夏まで氷室に蓄えられ、かき氷として夏祭りで出されていたのだが、その異変の起こった年の夏には湖の底から赤茶色の泥が噴きあがり、有感、無感の地震が多発して、湖の周辺の草木が枯れるという事態に発展した。 その事態を受けて、地質調査団が各大学の地質学者、学生を含めて結成され、調査が行われた。 ときにはやぶ蚊集団に襲われ、測量ポイントを失うなどトラブルが続出したが、調査の結果、その湖は太古の昔に巨大噴火を起こした火山のカルデラであると判明した。 調査団が湖から去ったあと、再び地震が起こり、湖水爆発が発生し、毒ガスが周辺に流れ出し、甚大な被害が出た。 「十数万年以前の火山の名残であるが、時を経て、活動期に入ったと言わざるをえない」 調査団の団長を務めたヤマノ教授が記者会見でそのように述べ、騒動となった。 地震活動はさらに活発化し、設置された地震計によってそれらの記録から、巨大地震に匹敵する規模のエネルギーがあったと推測され、世界各国の地震学者、火山学者の注目が集まった。 湖底からの赤茶色の泥、そして湖水爆発、毒ガスの流出。それ以降も周辺の地殻変動も認められ、夏の終わりごろに、その湖の南端の浅瀬で噴火が発生し、大量の火山灰が噴きあげられた。 煮えたぎる湖水と放出される岩石、そして火山雷。 生けるものはことごとく死に絶え、死の湖となり果てた。 その後も噴火活動は続き、やがて噴火口は湖の中心に移り、南端と中央に火山体が誕生した。湖は面積を縮小し、大きく成長を続ける火山がその半分を占めた頃、噴火活動が止まった。 「火山活動が停止したが、地下のマグマだまりの状況においては依然供給が続いており、カルデラ周辺の隆起も引き続き継続しているものと思われ、状況下において巨大噴火の恐れもあると考えられます」 ドローンやその他機材を駆使して観測を続けていたヤマノ教授が指摘する。 この時点でその湖は全くの死の湖となり果て、有毒ガスや熱湯が噴出する地獄そのものの様相を見せ始めていた。 それから一年が過ぎ去った。 湖は静穏になったが、湖水温度は四十度以上を示し、酸性度は高くなり、噴火してできた二つの峰は静かに水蒸気を上げているだけだった。 その状態が打ち破られたのは、その二か月後だった。 強い火山性地震が立て続けに発生し、カルデラ湖周辺が騒がしくなった。 湖水の水温が急激に上昇傾向を示し、晴れ渡った空に向かって二つの峰が噴煙を噴き上げた。 再噴火である。 その噴火はとどまることを知らず、停止することもなかった。 周辺地域は巨大噴火の前兆ととらえ、自治体による強制避難命令が発令された。 そして……。 二つの峰の噴火がいよいよ激しくなり、ついに湖底からも噴火が始まり、噴煙の高さが一万メートル以上にまで達する大噴火に発展し、火砕流が全方向に流れ下った。 その巨大噴火は過去に発生したとされる巨大噴火に匹敵する規模であった。 すべてが灰色の火山灰に厚く覆われ、湖とその中にできた二つの峰は消し飛び、巨大なカルデラが姿を現した。 その影響は数十年にわたって続き、元あった集落など復興するにはかなりの時間がかかることが見込まれたのだった。
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