Re: 即興三語小説 ―「大都会」「赤煉瓦」「ガガググゲルバフェツ」 ( No.1 ) |
- 日時: 2017/06/21 23:24
- 名前: マルメガネ ID:8dQp0wRM
ここは大都会カイフ。 かつては百人にも満たない小さな半漁半農の一地方の村でしかなかったが、国土防衛政策により、海軍基地とその軍港が整備され、鎮守府と鎮台が置かれると急速に発展し始め、貿易港が開港し、鉄道も整備されると物流の拠点にもなり、いまでは数百万人以上が暮らす大都市へと変貌を遂げた。 のんびりした風景も環境もがらりと変わって、多くの人が行きかい、喧騒に満ちて活気にあふれている。 人と物とがあふれ、集まるこの大都会であるが、その陰では暗闘が続いていた。 都市の発展にともなって人口が増加すると犯罪も増えていき、とりわけ一大流通貿易拠点になっていることもあって麻薬などの違法薬物の密輸が後を絶たず、治安当局としても悩ましい問題となっていた。 ある日、治安当局は麻薬密輸グループの情報を得て、その行方を追っていた。 何人かの局員を捜査員として動向を探っていたのだが、若い捜査員が 「ガガググゲルバフェツ」 と、謎めいた暗号を発信したのを最後に失踪した。 彼が発信した暗号は何なのか、彼はいったいどこへ失踪したのか。 情報部局の暗号解読班がその解読に当たっていた。 「どうも、これはエウロパのゲルマニウム国の言葉っぽいな」 「それが引っ掛かりますね」 暗号の解読を進める部局の職員に焦りがみえる。 「解けた。これは、ゲルマニウム国出身のレンガ建築の大家であります!」 「そんな、珍妙な名の人がいるものか」 「ええ、伝説のマイスターですが実在しました。少なくとも、この町が誕生した頃、訪れて建てたとされる赤煉瓦の倉庫があります」 「それか。するとあのノスタルジア通りの赤煉瓦倉庫群とその一帯である可能性が高いということだな」 「おそらく…」 暗号解読は一気に進んだ。 「ところで、暗号未解読のガガググゲルバフェツ、の解読はどうなったかね?」 治安局長と一緒に来た情報部局室長が暗号解読作業を進める部下に聞いた。 「ああ、あの未解読の暗号ですね。いま、ようやく解読したところです」 その部下が室長に答えた。 「その結果は?」 「赤煉瓦倉庫に囚われた。アジトは赤煉瓦倉庫。でした」 「ことは急がねばなりますまい。直ちに、その情報をもって我々は行動を開始する。情報部、暗号解読班に感謝する」 治安局長が命令をその場で下すことを決断した。 そして、治安特殊部隊に出動命令が下され、命令を受けた治安特殊部隊は貿易港に近いノスタルジア通りに面した寂れ果てた赤煉瓦倉庫群に向かって進んだのだった。 そのものものしさに、付近の住民、訪れた観光客などが驚いたが、事情を察すると遠巻きにそれらの作戦を見る。 「突入せよ!」 「おうっ」 治安部隊と治安特殊部隊が赤煉瓦倉庫に強制突入を実行する。 不意をつかれた麻薬密売グループおよび麻薬密輸グループは応戦に転じ、激しい銃撃戦になったが、一斉逮捕された。 その倉庫の奥に失踪した若い捜査員が監禁されているのが発見された。そうとう手酷いことをされたらしく、衰弱していて半死半生だった。 救急隊員が駆け付け、ドクターヘリで市内の国立医療センターへ搬送された。 この一件は各報道機関が一斉にトップ報道して、治安部隊および治安特殊部隊を称えた。
数か月後。 逮捕された麻薬密売、麻薬密輸の各グループの裁判が始まり、逮捕後の捜査もあってすべてのことが明るみに出た。 そして裁判の結果、元の薬物取締法違反に監禁暴行などが加わり無期懲役が確定し、その後の控訴があったが棄却され、鳥も通わぬ絶海の孤島であり「嘆きの島」とも称される煉獄島の収監施設に送られた。 「よくわかりましたね。あの暗号」 一時は集中治療室に収容されていた若い捜査員が一般病棟に移された後、見舞いに訪れた仲間に言った。 「一番の手柄は君だよ。あれがなければ、こうにはならなかったさ」 彼の一番親しい仲間はそう言ってくれた。 「あと数か月みたいだけど長いな」 「ああ。待っているよ。数か月なんてあっという間さ」 そんなやり取りをして、その仲間は病室を去って行った。 痛々しい姿のその若い捜査員は深いため息を漏らし、目をつむったのだった。
________________________________________________________________ 久々の投稿です。相変わらず生煮えの高速執筆となりました。
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