who is king ( No.1 ) |
- 日時: 2017/06/18 20:57
- 名前: みんけあ ID:6ZCG8fPQ
Who is king
お題は、空気 下手な設計図 十三分の一 です。
六月の中旬、梅雨が近い証拠に空気中の湿気が身体に纏わりつきじめじめ感が否めない。 いつも不快な研究室がさらに心地悪さを伴っていた。 「教授、この下手な設計図で何が出来るのですか?」 「下手とは失敬な、それは出来てからのお楽しみだよ。安心したまえ、君はただこれを作ってくれればいい。危険な事は… ゴホン、無きにしもあらずは虎子を得ずだよ」 「分らない事言って、誤魔化してますよね? 安心出来ませんよね? 僕は忙しいので帰ります。研究の成功を祈っています」 立ち去ろうとする僕に、 「ちょ、待ちたまえ、今のは冗談、半分だ。バイト代を弾むから、尚且つ成功した暁には報酬も出そう。今なら君の欲しがっていた。九月二十日のライブ、クイーンのトリュビートバンドのチケットも進呈しようじゃないか、この工作での休みの単位も保障しようではないか。どうだね?」 教授の必死さに悪い予感しかしない。 「この素晴らしい研究を是非とも成功させましょう!」 かくして、よく分らない研究の礎に僕はなってしまった。
まずは百円ショップで材料を買いそろえる。四千円で十分だった。 夏休みの工作さながら、僕は三日三晩、十分な睡眠を取り、バイト代を稼ぐため、一週間かけて完成させた。この一週間、有名な物理学者や、数学者が夢に出たぐらいだった。 スーパーの袋に入るぐらいの設計図通りのヘンテコな装置? 物体を教授に見せる。 「設計図通り作りましたが、何ですかこれ?」 「ああ、これ自体には全く意味は無いんだよ」 「え?」 「本当に必要なのはこのゴミ、いやこの装置を作った君の脳内を調べたいのだよ」 「僕の脳波ですか?」 「脳波ではなく、脳内だ。この一週間君は夢を見たかね?」 「そういえば、有名な学者さん達が何故か夢に現れましたね」 「ほう、その人達の名前は?」 「フェルマー、アインシュタイン、ラマヌジャンですね。生八つ橋やトマトカレーで晩餐しながら、王様ゲームをしましたね。全くもって意味が分らないです」 「ほう、王様ゲームか、かなり興味深い」 「そこに興味を持つんですか?」 「さてと、この異物は置いといて、さっそくこの薬を飲んでベッドに横になって貰おうか、安心したまえ、ただの睡眠薬だ。君が目覚めた時、研究は大成功だ」 「薬の効果で目覚めたら報酬の事を忘れる、なんて事は無いですよね?」 「も、勿論だとも、ささ」 水の入ったコップを渡され、一錠の薬を流し込み、僕はベッドに横になる。 即効性なのだろう。途端に意識を奪われる。
朦朧とした意識を覚醒させる。身体が重い。それでも何とか上半身を起こす。 「やあ、おはようさん」 「ああ、教授、おはようご… ちょ、何なんですかこれ!?」 目の前には、縦長のガラス? ケースに薄緑色の液体に浸かっている裸の僕が横に並んでいる。 「驚くのも無理はない、何せ君が眠ってから五百年経っているからね」 「五百年!? ライブ終わっているじゃないですか! どうしてくれるんですか!」 「驚くのそこなんだ。でも君のおかげで研究、人類は未来永劫なる発展を遂げたんだよ」 「まあ、終わった物はしょうがないですが、取り合えず説明を聞きます」 「君が物わかり良くて助かるよ。どこから話せばいいのかな。そうだな。まず、この研究で人の意識を実態化させる事に成功した。それにより、この世界は君の意識下の中であり、人類の意識下でもある」 「さっぱり分りません」 「王様ゲームを覚えているかい?」 「あの夢の中での学者さん達ですね」 「そう、最初の実態化は君の夢の中の学者達だ。過去の叡智を実態化させる事により、人類は行きつく所まで来たんだよ」 「やっぱり理解できません」 「だよね。私の後ろに君の分身がいるだろうこれが世界を構築させているんだよ」 数えると、横に十二体並んでいる。気味が悪い。 「この世界は十三分の一である僕の世界と言うことですか?」 「そうとも言えるし、そうとも言えない。無から宇宙を創造出来た今、これは私の意識下であって、君の意識下でもあるし、人類の意識下と言える。全ては無であって、全てはあらかじめあると断言できるんだよ。無であり有限」 「何が何だかさっぱりです。でも、もし僕が願えば本能寺の変で信長が生き残る歴史も作れるんですか?」 「おお、やっと理解したようだね。そう、何とでも出来るんだよ」 「じゃあ、五百年前に戻って、全てを忘れて普通に暮らす事も出来るのですか?」 「勿論」 そう僕は軽く願うと、景色が引き延ばされ光沢を帯び一点に吸い込まれて行く。願わくば、教授が僕に優しくなっていればいいなと。
「おはようさん。遅くなってすまないね」 「こちらこそ、寝てしまって、用事は何ですか?」 「ああ、日頃私の研究に貢献してくれる君にサプライズがあってね」 教授は封筒を差し出す。開けて見ると。 「これって、クイーンのライブチケットじゃないですか? しかも二枚!? 万札が三枚? お小遣いですか? あれ、だけどボーカルって大分昔に… うう、頭が痛い」 「何を言っているんだい? 今でも現役バリバリのロックバンドのプレミアムチケットだよ。しかもスペシャルゲストがあのジョンレノン。僕の伝手で取ったんだよ」 何だかそう言われれば、僕は何て可笑しな妄想をしたのだろう。 「何だか教授が優しすぎて気味が悪いです。自身で人体実験でもしたのですか?」 「失敬だな。君以外にそんな事するわけ無いじゃないか。ほら、彼女が待っているんじゃないのかい?」 「僕に彼女なんて、あれ? 今日は…」 一瞬、五百年以上眠ったかのような揺らぎが全身を震わすが、スイッチを押し、再起動したかのように、理解し何事も無く戻る僕がいた。 「教授、ありがとうございます! 行ってきます!」 僕は研究室を颯爽と飛び出した。
「行ったか。ふむ、興味深い。本人の意識下の中で無限に世界は存在する。本人を中心の点とすると円か球の範囲で世界は構築されている。シュレーディンガーの猫のように、一定の距離を置くと全ては無に還る筈なのだが。私の意識に左右されているのか? これが私の望む世界なのだろうか。なるほど、ふふ、貴方に左右されていると言うわけだ。消したら消える。出せば現れる。実に興味深い…」
自身でも分らないですw 分ってくれた方に感謝です。
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