Re: 即興三語小説 ―「沼」「西部」「ウ-30」 ( No.1 ) |
- 日時: 2016/10/24 20:52
- 名前: マルメガネ ID:BLwDEpUg
ある都市伝説
立ち入ってはならない。 そう聞くと余計に立ち入ってみたくなるもの。 とある国の西部にはウ-30なる場所がある。広大な荒野に忽然と姿を現す都市の廃墟だ。 かつて軍国時代に秘密都市として、ひそかに建設された都市ウ-30。 ウ-30とは機密を守るためのいわば暗号名であり、正式な名称があるにはあったのだが今では誰も知る者はいない。ましてやその機密公文書すらも残されていない。 地図には当然記されることのなかったこの秘密都市で何が行われ、何がなされていたのか知る手掛かりは全く残されておらず、単に人が生活していた、という事実のみである。 では建設されてよりいつ廃墟となり、また生活していたその住人達はいずこに消えたのか。 すべては謎のままである。 ウ-30の近隣には、建設以前より存在する大きな沼がある。 澱み底知れない深さを持つこの沼は忌むべき象徴のようである。時にはあふれ出し、時には血のような泥と毒ガスを放出し、その周辺には毒気に当てられて死んだ動物の白骨体が転がっている。 あるとき、若い廃墟マニアが数人、どこでどうその存在を知ったのか、ウ-30の廃墟に足を踏み入れた。 意気揚々として、ピクニックにでも行くような気分で立ち入った彼らだが、誰一人として帰って来る者はいなかった。 当然大騒ぎとなって捜索願が出され、現地の警察あるいは陸軍の兵士までもが動員され、大体的な捜査が行われたものの、ようとして彼らの行方は分からなかった。 その失踪事件から数年が経ち、その事件すらも忘れられようとしていた時、ウ-30で痩せ枯れた老人が発見され、保護された。 その老人はかつて失踪した廃墟マニアのうちの一人であった。年齢的に二十代だったはずの彼は九十を超える老人になっていたのである。 「わたしは見た。こんな恐ろしいことがこの世にあるなんて」 そのように語った彼は数日後にこの世を去った。 いったい何を目撃したというのだろう。その真相は闇の中である。 禁忌を冒してまで彼らを駆り立てたものは何なのか。 ウ-30は何事もなかったように、昔日の面影をひっそりと残し続けている。 __________________________________________________________________________
ドキュメンタリー風の試作。 後味の悪いホラー小説には程遠いなぁ。
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