Re: 即興三語小説 ―「城塞」「工房」「日曜日」 ( No.1 ) |
- 日時: 2016/10/17 19:05
- 名前: マルメガネ ID:LuB30Zlw
疑心暗鬼
ミッドランドの王都であるミッドガルドの城下は大変な騒ぎとなっていた。 町の場末にある石工から鍛冶工にいたる諸工房はひたすら兵器の製造を手掛けていて、日曜日もへったくれもない状態。 町の場末よりはるかに望む王城は、城塞とすべく増築が急ピッチでなされていた。 それにはギルドの石工そのほか農民に至るまで駆り出され、怪しげな魔法使いや錬金術師は火薬の製造に駆り出されて、のほほんとした日常はきな臭い空気に置き換えられた。 さてしも、どうしてこうなったか、といえば、この国、つまりミッドランドは西に軍事大国のミリティア、東に多民族大帝国のオルティアが控え、その中間に挟まれていて、常にいずれかの国に侵略を受ける危険があった。 くしくも、軍事大国ミリティアからの使者が来て、多民族国家のオルティアを討つべく加担してほしいとの国王に親書が渡された。 ミッドランド国王のシルビア女王はその親書を開き見るなり、破り捨てた。 次の日にはオルティアから使者が来て、ミリティアを討つべく加担してほしいとの親書がシルビア女王に渡されたが、シルビア女王は怪訝な顔をして却下した。 いずれの使者も驚愕し落胆して帰っていった。 国を守るには…。 それが発端だったのだが、あまりの過酷さにギルドの親方たちは怨嗟の声をあげた。 「ミリティア、オルティアの王死すべし」 緊張が高まったある日、ミリティアの国王が変死を遂げた。パンツいっちょで、青銅の杯を手に、畑に埋まっていたのである。 ミリティア国内においても不穏分子がいるらしく、もっぱら国王は暗殺されたのだという噂が広まった。 それはミッドランドにも届いた。 オルティアは喜び、ミッドランドは警戒感を強める。 そして国交が途切れ……。 王城の城塞化は完了し、もはや要塞となり果てた。 国民総動員で来るべき日に備えた種々の兵器もそろった。 ミリティアが五万の兵を動員して攻め込んできた。 それを狙ってオルティアがミリティアに十万の兵を動員して襲撃した。 不意を突かれたミリティアは半数の兵を引き揚げさせた。それでも二万五千あまりの兵である。 対するミッドランドの兵は一万人ばかり。 なにがなんだかよくわからない三国戦争がここに始まったのであるが、ミリティアの騎兵隊が攻め込んできたとき、ミッドランドの砲術長が叫んだ。 「われわれとしたことがうかつであった。新型の大砲の弾を作るのを忘れておった」 しかし、その大砲が巨大な大砲であったためにその視覚効果は抜群で、騎兵隊が引き返した。 そのミッドランドの巨大な大砲の存在は、オルティアにも及んで、オルティアも驚いて攻めて来なかった。 むしろ、ミリティアのみを攻め続けていた。 ミッドランドはその間にも作り忘れた大砲の弾丸を怪しい錬金術師を総動員して作らせ、中に毒を仕込んだ。 その毒は強烈で三十年は草木も生えないという手の込んだ毒だったし、なによりも開発した錬金術師が死ぬ有様。 あんなこんなで月日は流れ、何がなんだかよくわからない三国戦争は終結したが、勝者はどの国でもなかった。 三国とも疲弊して、立ち直れなかったのである。 猛毒の大砲の弾丸は使われることもなかったが、忌まわしいものとして地中深く埋められ葬り去られた。 ミリティア国王の変死の件に関しては、酒に酔っぱらって下着一枚で城を飛び出し、たまたま畑に掘られた穴に落ちた衝撃で頓死したというのが真相らしく、その事実は三国が滅び去ったあと、残された文献によって明らかにされたのだった。 歴史家は言う。 ほんの些細なことで、ことは非常に大きくなるものだ、と。 _____________________________________
思いつくまんまに書いたのでこれといったオチはないです。
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