Re: 即興三語小説 -「冬支度」「中毒」「コーヒーに罪はない」 ( No.1 ) |
- 日時: 2015/11/06 18:39
- 名前: マルメガネ ID:4b5Sh0Ac
晩秋ともなるとめっきり冷え込んできて、そこはかとなく冬の訪れを感じるようになった頃。 ケイは簡素なタツキの家の整理をし、夏物と秋物をしまい込み、冬物を出して冬支度を始めた。 家の主の隻眼のタツキが屋根に上り、薪ストーブの煙突掃除をしている。 もはや年代物というよりは骨董品に近い薪ストーブが何時焚かれるのか、ということに彼女は冬物を出しながら心待ちにする。 雑然とした部屋の物をすっかり片付けて、冬のそれらしい装いに変わってゆくにつれて、季節の移ろいとはこういうものなのだ、とさえ彼女は思う。 やがて屋外で煙突掃除をして煤で顔を真っ黒にした彼が屋根から降りてきて顔を洗う。 「煙突掃除お疲れ」 そう言ってケイがサイフォンのアルコールランプに火を点し、コーヒーを沸かし始めた。 二人は重度のコーヒー好きであり、コーヒー中毒患者とさえ囁かれるが、 「コーヒーに罪はない」 と豪語している。 「今日は、キリとモカのブレンド?」 顔を洗ってきたタツキが聞いた。 「当たりよ」 そんなやり取りをする。 装いを冬に変えた部屋に、キリマンジャロとモカのブレンドの香りが漂い、二人は至福のひと時を過ごす。 「あと少しで冬だなぁ」 「うん。そうだね」 ケイが眼帯をしたタツキをまじまじと見つめて答える。 人恋しくなる季節はもうじき、いやすでに始まっていることを、マグカップを傾けた彼は感じた。
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