Re: 即興三語小説 ―夏の終わり、秋の始まり―「ハローウィン」「圧力鍋」「牛すじ」 ( No.1 ) |
- 日時: 2015/09/14 22:20
- 名前: お ID:UmXT6j9I
さーせん。またもや粗筋です。まとまらんものを、むりからまとめました。あまり良い出来ではないとおもわれます。 =============================== 無題 蒹垂 篤梓
* 都会の片隅、社会の荒波に揉まれ疲れた者ばかりが集まる屋台街に、少年は透明な液体を傾ける。少々、気分を高揚させる成分が含まれているようだが、健康に害のあるほどではない。アテにしているのは、すじ肉の煮込み料理。牛すじといえばそれに相違ないが、特殊といえば特殊である。 「この店のミノタウロス肉は評判だからな。一度来てみたかったんだ」 と隣に座る、少年と同じと年頃の連れが言う。数年前からの知己で、親友というには信用がおけず、単に知り合いというには付き合いが深い。腐れ縁というのが一番しっくりくる。 「そのすじ煮込みも美味そうだな。こっちのもつの土手鍋風と少し交感しよう」 店主が取り皿を出してくれる。よく気の利く店主である。が、顔は怖い。かなりの迫力がある。それも、 「うちのミノタウロス肉は、他ではちょっと味わえませんよ」 という店主の頭はどう見ても牛そのもの。どう返事をしたものか、咄嗟に言葉が浮かばない。 「よく間違えられるのですが、我々は牛頭と呼ばれる種族ではありますが、牛ではありません。所詮ミノタウロスなど牛が人っぽく振る舞っているに過ぎませんが、我々はあくまで人系種族で頭の形が牛に似ているだけなのです。なので、ミノタウロスなど牛の肉にも抵抗はありません」 ……なのだそうだ。 さておき。数年来の知己である彼から知らせが届いたのが今朝のこと。指定してきたこの場所で会ってみると、思い出話もそこそこに頼みごとをされた。 彼は工作系の魔法が得意な半人前の魔法使で、師匠は既に亡く、才能のまま野放図に新しいモノを生み出して暮らしている。そんな彼の邸に警備用として配置される、彼自作の自立型自動人形ジャック・オ・ランタンというのがある。話というのは、その首が何者かに刈り取られ、持ち去られたのだと。いかに生命なき自動人形とはいえ、穏やかならぬ話である。厳しい条件交渉の後、少年は彼の頼みを引き受ける。 まず訪れたのは、梟男爵の「無限書庫」。あらゆる次元のあらゆる書物が集まるといわれる。 「何かヒントになるような書物はないかな」 「探させてはおくぞな、ほぅ」 次に訪れたのは、少年が知る限り最高の情報屋。「傀儡師」と呼ばれるのは、その正体を掴ませないところから。今は球体関節人形の娘の姿でいる。 「南瓜女の方はすぐに分かりましてよ。ワタクシがお連れいたしましょう」 果たしてそこは、草木の一つも生えない、荒涼とした大地であった。南瓜を被った、ナイスバディがいる。そういえば、ハローウィンの只中だったか。 「その南瓜頭、返して貰いたい」 「拾ったものではあるが、いたく気に入っている。所有権を主張するなら、それを納得させてみよ」 構えを取る姿勢も堂に入っている。肉体言語で語らうことを至上とする人のようだ。勝負は瞬殺でカボチャ女の勝ち。けれど、 「君らの本気は見せて貰った。言い分を認めよう」 「拾ったって言ったけど?」 「確かだ。正確な場所までは思い出せんが」 「振り出しに戻ったか」 そこへ一羽の梟。梟男爵の手下である他ありえない。届けてきたのは一巻の巻物。冒頭『譬えば……』と書き出される。 「日記であるが、それらしい部分を抜き出し意訳しておいたぞな、ほぅ」 「なんで旧字体なのさ」 「時代的な雰囲気が出るぞな、ほぅ」 「読めないよ」 「学のない魔法使いであるな」 「ほっとけ」 というやり取り。やむなく、梟が全文読み上げることに。 「『約束の神精』か。……とすると裏で糸を引くのはアイツか」 「続きを読むそな、ほぅ」 書かれているのは、ある種の研究レポート。彼の言う『アイツ』の潜む場所の推測が述べられている。 「オレには良く分からんな。分かるか?」 「おおよそはね。ただ、僕らだけじゃ行きつけない」 「どうする?」 「ウチの師匠にでも頼んでみるかな」 とある片田舎の、どこにでもある石造りの家に、その魔法使いは住んでいる。少年の師匠というが、実際に会うことは稀で、普段は通信教育である。 「その鍋にお入り」 老婆の魔法使いが指すのは、コンロに置くにはやや大きめの圧力鍋。 「魔法の圧がかかって、どんなものもそのままの性質で小さくする。ブラックホールの最深領域ほどのサイズにまでね」 極小領域に隠れた別次元にあいつらは隠れ住んでるのさと言う。 しかし、だ。 「無理ですよ、師匠」 コレに入るためには、コレには入れるほどに身体を縮めてからでないと無理そうだ。 「じゃあ、そっちのズンドウでいい」 投げやりに示されたのは、ラーメン屋が豚骨を煮込むような寸胴鍋。確かにこれなら少年ら二人くらいなら納まりそうだが、 「圧力関係なくね?」 「細かいことをお言いでないよ」 そんなこんなで、小さく小さくなった二人は、素粒子がひと抱えもあるような微小世界にある、別次元への入り口にいる。 そこは真っ白な空間だった。 「お前が生み出すモノは、私のこの美しい世界の秩序を乱す」 真っ白な肌、限りなく球体に近い身体に、名残のような手足、そして顔らしき器官の集まりが乗っている。 「てめぇの考えは法理主義とは程遠い。ただの独裁、いや、それにも及ばないただの駄々っ子だ」 「ま、アンタの世界でもなきゃ、アンタが定めた秩序でもないしね。ただの妄想だよ」 「生意気な小僧ども。我は『契約の神』。お前たちに関わる約束事を消し去ることも出来る。お前たちの存在ごと、なかったことにしてやる……なぜ、消えない」 「それが妄想だっていうのさ。アンタは単に鍵の形の一つを見付けたに過ぎない。合い鍵を作られたなら、錠前を変えればいい。それだけのことさ」 「そんなことを、一体誰が」 「さぁ、誰だろうね」 「ならば力尽くで。私がこの世の多くのことを知っていることに変わりはない。力の集め方もな。後悔しても遅いぞ、小僧ども」 「そういうの、多分無理だと思うよ。だって、ほら……」 少年の指す先。不敵に嗤うのは、カボチャ女にも負けないゴージャスボディの、こちらはちゃんと頭のある紛うことなき美女。 「ワタシが来たからには、「自称神」ごとき好きにさせるものかよ」 「いつの間に」 「敵の陣地に入りこもうってのに、何の手段も講じずに来るわけないじゃないか」 「さて。おまえさんは、他の契約系の自称神から訴えが来ている。契約を弄ぶモノとしてな。よって、勇者機関としてお前を引っ立てる。神妙にしろ」 原寸の世界に戻ると、カボチャ女が待っていた。 「頭が見付かるまで、君たちと一緒にいるのがいいと、この人に言われた」 と魔法使いの師匠を指す。 「お前たち未熟者は二人で精精半人前。それにこの娘を足してちょうどいいくらいだろうさ」 ということで、奇態な仲間たちとの奇妙な共同生活が幕を開ける。
(。・_・)ノ
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