Re: 即興三語小説 -「猛暑日」「ミンクオイル」「フリーマーケット」 ( No.1 ) |
- 日時: 2015/07/28 22:52
- 名前: お ID:em0wnfps
三語で「作品」として完成させることは諦めました。どうせ、長くなりすぎるんで。というわけで、喩えるなら、「プロモーション用の粗筋(プロットとかトリートメントとかいうヤツ)」という方向性で。
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「金魚使いと幻想獣ハンターの少女」
彩良咲(さいら さく)は今、フリーマーケットにいる。 連れて着たのは義姉(あね)の梅乃。どうやら大学時代の友人が店を出しているのを覗きに来たらしい。そのお供である。 それにしても、暑い。 ぶらりと巡るうち、ふと、ある店舗で目が止まった。何だか不思議な物。何をするものか全く分からないのに、なぜか気になる。 手を伸ばそうとして、同じく伸びてきた手に気付く。伸ばした手と手が触れそうになる……とその時、 辺りの風景が一変した。今まで観ていた風景が消失して、全く別の光景が広がる。 ここは……どこだ? 「ちょっと、あんた誰よ」 すぐ傍から掛けられた怒声に眼を向けると、同じくらいの年頃の少女が睨み付けている。 「ていうか、それ」 咲の手に持つ物を指して、 「あたしが買おうとした……あれ?」 少女の手にも、同じような物が握られている。 「同じ物が二つ……あったかしら? ま、いいわ。あたし、これ買うから。あなたも買うの?」 と言われて、そういえば、お金なんて持ってないことに気付く。こいつは、困ったなと。 「この店にあったのは一個きりだから、それはお前さんの物だろうよ」 とやり取りを見ていた店主が助け船を出してくれる。良心的な店で助かった。 「あなたとは妙な縁を感じるわね」 手を振り駆けて行く少女を、咲はぼんやり眺めているしかなかった。眺めてる場合じゃなかったと気付くのは、しばらくしてからのことである。 * アムが住むのは、街の中心から少しばかり離れた小さな家が密集する地域。 昼間にマーケットで会った変な男の子のことを思い出しながら、その時買った物の手入れをする。素材は革のようである。ミンクオイルを使って磨き上げると、てかてかと光沢を放ち、良い感じに仕上がった。 その夜。 階下にわずかな物音。賊か……? と思った時には、すでに身体が動いている。 音もなく傍寄り、剣を抜く。剣先がわずかにかすめただけで躱されてしまう。しかも、手にした物を奪い返すことも出来ずに逃がしてしまうなんて! 「待ちなさい!」 裸足のまま駆け出すアム。けれど賊の姿は忽然と掻き消える。 と、そこにのこのこ現れたのは、 「あなたが犯人なの!?」 突然突きつけられた剣先に、どぎまぎしつつも、どうにか尻餅をつかずにすんだとほっとするのは、誰あろう、咲である。何のことか分からないと頭を振ると、疑わしい眼を向けられるも、事の顛末を語るアム。 「そいつ、捕まえたら信用してくれる? 行くところもなければ、お金もないんだ」 胡散臭そうにジト眼を突き刺すアム。 「まぁ、良いわ。捕まえられたらね」 「んじゃ、ま。来よ」 目の前に現れる一匹の金魚。夜風にそよがれ泳ぐ。 「綺麗な魚ね。妖精かしら」 およそ泳ぎの得意そうなフォルムとは掛け離れた丸っこい身体ながら、思わぬ速度で泳ぐ金魚を二人で追いかける。 見付けたのは、夜闇に紛れて駆ける六つの影。先回りできたのは、アムの機転のおかげだ。 「待ちなさい! あたしの物を返しなさい!」 返せと言われて返す盗賊もいない。乱闘になるも、さすが年若いとはいえ、街に数人もいない幻想獣ハンターであるアム。鮮やかな身のこなしで、相手の攻撃を躱しながら、その剣は確実に急所を突く。 一方の咲も、二人を相手にしても慌てず、落ち着いて一人ずつ打ち倒していく。 「意外とやるじゃない」 「まぁ、それなりに鍛えてはいるんで」 というものの、実際には相棒である金魚に助けられているのが大きい。 「さあ、返して貰おうかしら」 最後に残った首魁らしきに剣を突きつけ迫るアム。 「待ってくれ、これには事情があるんだ。最近、街は暑すぎると思わないか。お前たちが持つその二つの珠あれが、この暑さを納めることが出来る」 アムが、切っ先で首魁の頬を浅く斬り付ける。小さく息を漏らす首魁、けれどそれ以上喚かず、命乞いもせず、じっとアムの瞳を見詰める。 「嘘だったら承知しないわよ」 「案内しよう」 首魁に案内されて向かった先は、街の南にあるなだらかな山、アィゲストル山。ただし、深い樹海に囲まれて、容易くは近寄れない。 「暑いわね」 二人とも汗だくになるのを、首魁一人が平気な顔で先に進む。迷路のように入り組んだ樹海の樹々の間を、全て承知とばかり躊躇いもなく。 「着いたぞ。見よ」 山頂付近は巨大な窪みになっていて、今いる位置からは、それを一望することができる。そこにいたのは、 「幻想獣……それも、神獣クラス」 アムが息を呑んで黙り込む。 熱気をまというずくまる、巨大な獣。圧倒的な存在感、威風堂々としたその姿。 「猛暑日が続くのは、このせいだったのね」 「狩るの?」 「まさか! 信仰の対象にすらなるような神聖なモノよ」 「じゃ、どうする?」 と、アムが首魁を見遣る。 「方法があるのね」 静かに肯く首魁。 「この熱は、神獣の代替わりの時に起こる。うずくまる神獣の腹の下には、次代の神獣の卵があり、それを暖めつつ、神威をそちらに移している。本来ならさほど時を経ずに終わるところが、しかし、此度は足りないものがあって、それが伸びているのだ」 なるほど。そして、足りない物というのが、 「これ、ね」 アムが鞄から取り出す。咲もポケットから。革製の、何だかよく分からない代物。特に何の付加機能もなく、使い道も分からない。 「うむ。それが、ラゲストゥララのココロ。雌雄の神獣の心の核を、自らの最も丈夫な部分の皮を剥ぎ取って包んだ、生命そのものと言っても過言ではない」 「これを、彼女に渡せば良いのね」 と神獣を指すアム。 「そうだ。だが、問題もある。神獣は今、非情に過敏になっていて、近寄る者全てを敵と見なして攻撃するだろう。それを躱すことが出来ても、最大の問題は、ラゲストゥララのココロを卵の上に置かねばならないことだ。つまり、聖獣の意に反して身体を持ち上げさせねばならないが、並大抵の力でできない」 首領の言葉は聖獣の継承を成し遂げる唯一の方法であり、けれども、絶望的とも言えるものだった。 「一メートル、いえ、五十センチ隙間を作れれば、あたしが掻い潜ってみせる。けど……」 「身体を少し浮かばせれば良いんだな」 女の子にそうまで言われて覚悟を決めないわけにもいかない。咲とて男の子だ。 「問題は、どれだけ呼べるかなんだけどね」 精神(こころ)を「世界」と同調し、そのさらに裏側へ浸透させていく。そこにいる、盟友たちに届くよう、声を挙げる。 「来よ」 何度も、何度も。 「来よ、来よ、来よ!」 そして、溢れ出す色彩の嵐。無限とも思える色彩の奔流は、認識しきれないほどの金魚たちの群。それらがぐるぐると聖獣の周りを巡り、ある種の結界めいたものを構築する。 「やるじゃない」 アムが目を見張る。 「そりゃ、どうも。けど、そんなには保たないよ」 「任して!」 斜面を軽やかに滑り降りるアム。まるで空を翔る鳥のように。 「今!」 風の精霊の加護を得て、全力ダッシュで突っ込むアムの身体が、神獣の巨躯の下に消える。 「もぉ、良いかぁい?」 暢気に聞こえる咲の声に、余裕はない。 「もぉ、良いよねぇ?」 「もお、良いよ!」 瞬間、聖獣の咆哮というべきか、それは美しい旋律の歌声。そして、眩いばかりに煌めく光のイルミネーション。それはあまりに神々しく、神秘的で、圧倒的にまで美しい光景だった。 いつの間にか、首魁の姿はなく、一世代を終えた聖獣も消えていた。後には、 「かぁわいいぃ」 子猫ほどの小さな獣。けれど、その知性あふれる瞳、堂々とした風貌に、神々しいまでの気品は、紛うことなく聖獣のもの。 「やったね」 アムが振り向く。誰もいない山の風景。 「お見事」 咲が振り向く。 そこは、フリーマーケットの会場。人でごった返すも、暑さはさほどではない。 挨拶する間もなかったことは心残りだけど、帰って来れたことにほっとする。 「記録的な超大型台風が突然、消滅したんだって」 どこへ行っていたんだとぷりぷり怒る梅乃さんの言葉に、まぁ、そういうこともあるのかなと、妙な納得をする咲だった。
(。・_・)ノ**********
四百字詰めにして、11枚ほど。所要時間はだいたい7時間。休みを一日潰してしまった。そんな感じで。
ちなみに…… 上記トリートメントの元となるプロットがこれ。(正確にはプロットと呼べるのかは分かんないけど)
序 ・主人公、フリーマーケットに行く ・主人公、異界転移 ・主人公、ヒロインと出会う ・主人公、革製品を入手する ・ヒロイン、革製品を入手する ・ヒロインの革製品が盗まれそうになる ・ヒロイン、撃退し後を追いかける ・ヒロイン、見失いかける TP1 ・ヒロイン、主人公と再会する ・主人公、盗賊の追跡を手伝う 破 ・ヒロインら、盗賊団に囲まれる ・乱闘、苦戦しながらも辛勝 TP2 ・盗賊の首領から事情を聞く 急 ・二人の持つ物が目当ての物 ・猛暑をもたらしていた幻想獣が消える ・現世において巨大台風が消える
その元になるいわば、ブレーンストーミング的なモノ…… ・真夏のフリーマーケット ・幻想世界のフリーマーケット ・ミンクオイルで革の手入れ ・幻想生物の革 ・幻想生物の革製品を売るフリマ ・幻想生物を狩るハンター ・魔法のミンクオイル ・幻想生物の革を専門にする盗賊 ・ハンターと商人と盗賊 ・盗賊の意外な正体と目的 ・幻の幻想生物の革を巡る物語 ・商人で冒険者でハンター ・革製品の窃盗団 ・幻想生物の幼生 ・幻想生物の居座るせいでの猛暑日 ・幻想生物の革に様々な機能、物により金属よりも貴重
ちゃんと書けば、多分、100枚くらいにはなるんだろうなぁと思いつつ、多分、いつか、そのうち、書きますよ。……きっと、おそらく。
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