Re: 即興三語小説 -間違いは誰にでもある- ( No.1 ) |
- 日時: 2014/10/16 16:44
- 名前: 鈴木理彩 ID:zsD8jT1.
昼下がり、緑が多く外からも見えない自宅の裏庭で、ひっそりとコーヒーを飲みながら本を読む。それが、ここ数年で確立された少ない休日の過ごし方だった。どんなに仕事が忙しい日も、何日も徹夜が続くような時でも、この半日があると思えば不思議と頑張れる。そのくらい、この習慣はいつの間にか大事な部分を占めていた。 思えば、昔から本が好きな子供だった。最初に読むようになったきっかけはもう覚えてはいないが、いつからか気付けば本が小脇にあった。少なくとも小学生の時には本が好きで、中学に上がる前、将来何になりたいかと聞いた担任に小説家と答え、本気で怒られたことは不思議とはっきり覚えている。 長い受験戦争を終えて再び本を読むようになった頃にはさすがに小説家になろうという気は消えていたが、それでも本だけは手放さなかった。 しかし、やはり普段の仕事の疲れがたまっているのだろうか。本を読みながら微睡んでしまうことはよくあるが、それでも、ここまでのことはなかったはずだ。それとも、本の読みすぎで頭がおかしくなったのだろうか。向こうの世界では仕事に追われることはないのだろうか。それはそれでいいかもしれない、いっそこのまま二次元に……。 そこまで思いつめたところで、とうとう耳元でささやく「早く寝ちゃいなよー、」という不思議な声につられて深い肘掛椅子に身を任せた。
瞼にしみる眩しい日差しに誘われて薄目を開ける。まず目に飛び込んできたのは見たことのない不思議な森。そして、目の前で羽ばたく人差し指ほどの大きさの人らしきものだった。本当に頭がおかしくなったのか、それとも本にのめり込み過ぎてついに二次元に来てしまったのだろうか。まあいいそういうことならもう一眠りしよう。そう思って再び目を閉じた瞬間、微かな痛みと主に覚えのある声が聞こえた。あの誰もいないはずの家で、しきりに誘惑してきた声だった。微かな痛みでも、長く続けば煩わしい。あきらめて目を開けると、今度は鼻に乗って、棘らしきもので足元を刺していた。 「もう!せっかく連れてきたのに何でおきないんだよう!」 「……まずはそこからどけ。突っつくな」 「わあ!やーっと起きた!遅いよもう!」 マイペースなそれはようやく鼻から降りると、今度はじっと目を覗き込んだ。 「――今度は何だ」 「あれ?お兄さん、いやお姉さんかな?まあいいや、それより、僕のこと気にならないの?」 「夢だろ、いちいち気にしてられるか。ほんとに二次元に行けるなら、もうとっくにアニオタがたくさん失踪してるよ」 そう言うと、それはことり、と首を傾げ、次いで大きく頷いた。 「うん、じゃあまあそれでもいいや!あっあとやっぱり寂しいから自己紹介しとくね!僕はこの森に棲んでるピクシーで、リラっていうんだ!昔の楽器の名前でね、すごくいい音なんだよ!」 いい声とは程遠い子供特有の甲高い声で捲し立てると、リラはくるりと一回転してにこりと笑った。 「はい、それで、いきなりだけど本題に入るね!急で悪いんだけど、睡魔王を倒してほしいんだ!あっもちろん倒してくれたらお礼はするよ!僕の村で、おいしいハーブが取れるんだ!わざわざ遠くからも買いに来る人がいるほど有名なんだよ。それの料理、たっぷりご馳走するからさ!」 何度も口を挟もうとするも、そんな隙など見せずにそこまで言いいると、リラは「じゃあね!」と言ってくるりと背を向けた。慌ててそれに手を伸ばす。手の中で羽がぐにゃりと曲り、「ぴゃっ」と小さく悲鳴が上がった。 「もう、なにするんだよ!」 「それはこっちの台詞だ。少しは人の話を聞け。それで、なんだよその睡魔王って。あとその安物のRPGみたいな設定何とかしろ、こっちは勇者じゃねぇぞ」 「ああ、それね!睡魔を司る魔王、略して睡魔王!いばら姫って知ってる?ああいう感じで、その王様が起きるとみんな寝ちゃうんだ!一度寝ると、今度のハロウィンが終わるまでは目覚めないの。別に死にはしないけど、そんなに長い間ご飯が食べられないなんて悲しいよ!」 「そこか、問題はそこか!?」 「だってご飯だよ!?一日5回の一番の楽しみだよ!?」 「いや多いわ!というか、それなら勇者どっかから連れて来いよ」 「あ、勇者はいるよ?前は活躍したんだけど、全部終わって平和になってから、旅の道中で散々略奪した罪に問われて、まだ牢屋じゃないかな!」 「使えねぇなおい!ていうかそれくらいは許してやれよ!夢のくせにシビアだな!」 「だから夢じゃ、あ、それでいいって言ったの僕か。まあ、そんなわけであとはたのんだ!」 どこまでも人の話を聞かないピクシーはそれだけ言い残し、今度こそ手のひらから飛び出していった。あっという間に森の奥へと入り、影も形もなくなってしまう。 「――本、読むのやめようかな……」 しばらくして落ち着くとそう呟き、本日3度目の睡魔に身をゆだねた。
――to be continue……?
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