Re: 即興三語小説 -別に誰が悪いわけでもない 9/7に〆切延期です- ( No.1 ) |
- 日時: 2014/09/07 22:41
- 名前: 片桐 ID:atKaeYS2
「ねえ、ケンちゃん、これ、似合ってるでしょ?」 そう細切れにいうと、ハズミは銀色に光るピアスのついた耳たぶをこちらに向ける。ピアスチェーンまでついていて、思わず、うおっ、と声を出してしまった。 「なによ、その反応。傷つくなあ」 その言葉と裏腹に、ハズミは、あははと肩を揺らして笑う。その耳の後ろから、汗がひとすじ垂れて、公園の地面にぽつり染みを作った。 九月下旬、夏のクソ暑い日に、ふたりで公園に出かけていた。 とても小さく――貧弱なボキャブラリでは猫の額という形容しか浮かばないくらいに――ブランコとシーソー、そして砂場が数メートル間隔で並んでいるだけの、団地にあるおそまつな公園だ。 行こうよ、と誘ったのはハズミで、こちらがなぜと問うことさえゆるさぬままに、昼過ぎにはふたりでふたつならんだブランコに腰掛けていた。 「今更驚くこともないじゃん。朝からずっとついてるでしょ、これ」 ハズミはピアスチェーンに手を伸ばし、人差し指に絡みつける。 「それはそうだけど、やっぱり違和感はあるよ」 そうだ、違和感はある。ピアスといえば、おしゃれアイテムとしても上級者向けで、身体の一部分に穴を開けてしまうもの、いうなれば覚悟がいるものだろう。だけど、眼のまえにいるハズミといえば、ピアス以外はいつも通りの恰好、上はTシャツ、下は短パンなのだ。サンダルを履いた生足は魅力的だけれど、一見すると、いたって普通の、化粧っけのない中学生のそれだ。 「違和感か。いいね、そういう言葉待ってたよ」 「何かあったの?」 「まあ、一昨日親父にぶん殴られはしたかな。それがムカついて、なんかやってやりたかったんだよね。反抗期ってやつなのかなあ」 「でもさ、学校はどうするの? 大沼にこっぴどく叱られるよ。最悪停学だってあるかもしれない」 もちろん、こんなことを今さらいってどうなるものとも思っていない。ハズミがそういうことさえわからない馬鹿だとも思わない。親父に殴られたからだと彼女はいうが、「殴られた」にもまた原因があるだろう。ハズミをあまり刺激しないように言葉を探していると、ブランコが軋みをあげた。見れば、ハズミの乗ったブランコが、激しく前後している。 「人生なんて、ララーラーララララーラー」 「なんだよ、その歌?」 「さあ、なんだろう、一度どこかで聞いたことがあるってだけの曲だよ」 口ずさみながら、ハズミもブランコを激しくこぎ、その弧を大きくしていく。古いブランコの支柱が、さらに軋みをあげていた。 「ねえ、なにがあったか、本当のところを教えてくれない?」 軋みに負けないように、問いかけてみる。ハズミだって、意味なく僕を誘ったわけではないだろう。幼馴染の僕だからこそ、聞いてもらいたいと思う何かがあったのだと思うのだ。 「もうすぐ、母さんの命日なんだよ」 いわれて思い出した。四年まえのこの時期、ハズミの母親は乳がんで亡くなった。 「でさ、親父に墓参りのことを話そうと思ったわけ。でも、あいつったら、今別の女に夢中らしいのよね。どんな約束かしらないけど、明日からご旅行だそうだよ」 ハズミの気持ちはわかる。自分の立場に置き換えたら、反抗の意志をしめしたくもなるだろう。でも、同時に、思うことだってやはりある。 「だからって、そんなことをしても、何の解決にも……」 「わかってるよ。でもさ、なんかこう、カウンターを入れてやりたかったんだ」 「カウンター?」 「そう、親父のことだけじゃなくてさ、なんていうんだろう、もっと大きなものに。わたしに、人生ってこんなものだってあきらめさせるそんなどうしようもない流れに。私は負けないぞって叫んでやりたかったの」 「その第一歩ってわけ?」 「そう」 「ガキだね」 「ガキだよ。でも他に何も思いつかなかったんだもん……」 それからしばらくの沈黙がつづいた。 こちらからは見えないが、ハズミはたぶん泣いている。 「ハズミ、靴飛ばししよう」 僕は思わずそう口にしていた。 「子供の頃によく一緒にしたやつ? いいね、わたしの伝説の右足がうずくわ」 「なんだよ、それ」 僕らはそれから、靴飛ばしに興じた。どっちが遠くへ飛ばしたかなんて、真剣にいい合い、怒り合い、喜び合った。ガキのように、ガキとして。
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何も決めずに本当に一時間で書きました。 出来は見ての通りで、書きなおそうと思ったけれど、あえて失敗例としてあげておきます。 ひとついえることは、楽しんで書けたということ。 なんとなーく、書くのが辛そうな人が多く感じますが(かくいう僕がそうですが)、 時には完成度なんて気にせず、勢いだけでやるのもありかな、と。
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