Re: 即興三語小説 -ラノベ黎明期にこうなるとはだれも思うまい- ( No.1 ) |
- 日時: 2014/08/24 14:28
- 名前: お ID:.i3AhU5A
【クラッシュ】【月曜の足音】【地球儀】
深夜に呼び出された佳人が、指定された場所に着くと、静流はすでに来ていた。 町の一番大きな公園で、一キロ四方以上の広さがある。その入り口近くの自販機コーナーは、二十四時間開放されていて冷暖房完備という、絶好のだべりポイント。テーブルと椅子が十組ほど並び、奥の角には小型だがテレビがあり、見る者のない深夜放送を垂れ流している。深夜とはいえ、ここに誰もいないのは不思議なくらいだ。 「遅いぞ、佳人」 そのテレビに近い奥の席にどかりと座り、ごっつい三角眉毛を逆立て、十円玉ほどもある鼻の穴をぷくぷく広げている静流。実に暑苦しい。まるで淑やかな美少女のような名前だが、その実体は町一番の暑苦しい男子高校生だ。そのむさ苦しさは他県にまで知られているという。 「すぐに来たんだけどね」 呼ばれたのが十分前。佳人の家からここまで歩いてそのくらい掛かる。 「朝から呼び出していただろう」 「用があるって返事したよね」 静流からの呼び出しは朝から数回あった。いずれも所用を理由に断ったが、あまりのしつこさに、最後のにだけいやいや従ったのだ。 「まったく日曜の朝っぱらから何をしてるんだ」 「いや、日曜だからこそ予定とかあるよね」 「ふん、三股女教師のマンションを順に回るとか、高校生の予定とは思えんな」 「世の中にはそんな人もいるんだね」 攻める静流、躱す佳人。 「で、こんな夜中に僕はなんで呼び出されたんだろうね」 正直なところ、早く眠りたいと佳人は思っている。いくら体力の有り余る高校生とは言え、さすがに体力的にきつい。 「【月曜の足音】が聞こえてくる」 唐突に言いだした静流に、佳人は「は?」となる。 「ていうか、現在、月曜の午前零時二十三分、なんだけどね」 静流が佳人を呼び出した時点で月曜になっていたと。 的確すぎる指摘を受け、静流の鼻がひくひく開閉している。 「月曜の足音が聞こえてくる」 聞かなかったことにしようと繰り返す静流。 「要するに、この土日で面白いことがなかったから、腹いせに僕を呼んだと」 そういうことだねと佳人に迫られ、まぁそうだと認める静流。 「もっと有意義な休日の過ごし方を考えなよ」 佳人の嘆きはもっともだろう。 「うるさいな、これを見ろよ」 とテーブルの下から取り出した物。 「【地球儀?】 どうしたのさ、そんなもの。どこからパクってきたんだい? 駄目だよ、他人様の物を勝手に持って来ちゃ」 「失礼だな、拾ったんだ。捨ててあったんだよ」 疑いの眼差しを向ける佳人。 「そんなことはどうでも良い」 と斬り捨てる静流。 「良くはないだろうけど、ま、良いか」 「これを使って、何か遊べないか」 「……」 互いに顔を見合わせる。 言った方の静流も、言われた方の佳人も微妙な表情を浮かべ、相手の顔を伺っている。 「で?」 「で、と言われても」 佳人は席を立ち上がり、自販機で缶コーヒーを二つ買い、一つを静流に渡す。 「ま、これでも飲みなよ」 一連の遣り取りを無かったことにしようとする佳人の優しさであろうか。 「ふむ」 と言いつつ受け取る雫。プルタブを開け、何を思ったから、地球儀にコーヒーをぶっかけ、 「『神の大洪水』」 とか言い出す。 「滅びよ、人類! 特にリア充、リア充共よ、死にまくれ」 とか、キメ顔で言い出すあたり、かなり危ない。 「静流、君は……」 もはや病院に行くしかないのかと佳人が思いかけた時、テレビの画面が急に切り替わる。 『大変です、南米某国で空から大量の茶色く濁った水が降ってきて、街は水に押し流され壊滅状態。しかもその水、コーヒーの香りがしてしかも異常なほど甘ったるいのです!』 二人して静流の手元のコーヒーの缶を見る。『Premium-coffee 超ゲロ甘』と書いてある。なんて商品名だ。次いで、地球儀のコーヒーのかかった場所。 「南米、某国ってこのあたりだよね」 まさかと乾いた笑いを漏らす佳人。 「ぐ、偶然だよね」 一方、何を思ったのか、静流は残ったコーヒーを飲み干し、ぐしゃりと缶を圧し潰す。静流の握力は、実はシャレにならないくらい強い。そのひしゃげた缶を掌の中で弄び、おもむろに振りかぶると、 「『メテオ【クラッシュ】』!」 と言って、 「やめやめやめ」 全身を使って止めに入る佳人。 「何をするんだ、地球を破壊する気か」 「何を言っている、オレが壊そうとしたのはそこの地球儀だぞ。それとも何か、お前はその地球儀と、このオレ達がいる地球が同じだとでも言うのか」 「それは……」 未だに、狂ったように何か喚いているテレビ画面をちらりと見る。まともに内容を聞く気にもなれない。とは言えけれど、そんなことがあり得るなんて事、 「とても信じられない」 とは言え、容認するほどの胆力もない。 「どこにあったのさ、これ」 「アンティーク屋の裏に捨ててあった」 「的場さんとこの?」 「そうだ」 この辺りで変わり者で有名なアンティークショップを経営する青年。年齢不詳、経歴不明、見るからに怪しい人物。ただ世界各地を回ったらしい彼の話が面白くて、二人は時々店を冷やかしに行く。 「返そう」 佳人が妥協を許さない強い口調で言う。 「返すのか?」 問い返す静流に、 「返す」 きっぱり断言する佳人。 アンティークショップ的場は歩いて五分程のところにある。 相変わらず何とも形容しがたい変わった店構えだ。裏に回る。と、人の気配がある。それになんだか、やけに暑い。 店の裏は広い空き地のような庭になっている。そこになぜか焼却炉がある。なぜそんなものがるかは不明だが、確かにある。今この瞬間も、当の的場が、そこにゴミらしきを放り込んでガンガン燃やしているのだから間違いない。 「何してるんです?」 思わず訊ねる佳人。 「まぁ、見たままだけど。あ、その地球儀、持っていったの君らか」 「済みません、静流が勝手に持って来ちゃったらしくて、返しに来たんですよ」 静流がじろりと佳人を睨む。事実に違いないが名を出すことはないだろうと目で言っている。 「良いよ良いよ、どうせいらないものだからね、あげるよ」 「いや、僕らも結局どうして良いか分からなくなって」 「ははは、確かにかさばるからね。じゃあ、貸して」 と手を延ばす的場に、静流が地球儀を渡す。 「えーっと、それ、どうするんです?」 厭な予感がして佳人が訊ねる。 「そりゃあ、いらないものだからね、燃すよ」 佳人と静流が慌てて止めようとするが、時既に遅し、地球儀は的場の手を離れ、焼却炉の中へ…… 「なあ、なんだか暑くないか」 静流が訊ねる。 「確かに暑いね」 この深夜に、かんかん照りの太陽に炙られているように、いや、もっとそれ以上か。しかも、気温はまだまだどんどん上昇し続ける。 「これは、何かおかしいぞ」 と言って空を見上げ、三人同時に絶句する。 「太陽が落ちてくる」 囂々と燃え立つ巨大な炎の塊が、空から降ってくる。 「おしまいだ」 的場がぽつりと呟いた。 そして体中の水分を奪われ、骨と皮だけになってその場に崩れる。 佳人も、静流も、…… * ……というところで目が覚めた」 昼休みの体育館裏。裏というと日陰で湿ったイメージだが、ここは陽当たりも良く、かつ程好く教員の目が届かない。立地の良さにも関わらず、人の集まらないところも良い。格好のだべり場所である。 「オレの壮大な想像力が見せた夢だったわけだが」 「そうだね、首尾一貫して夢オチだとしか考えられなかったね」 佳人は苦笑い。三限目四限目ぶっとおしで寝てると思ったら、そんな夢を見ていたのか。 「何か問題でも?」 「いや、別に。君がいかに欲求不満かと言うことが知れたくらいかな、リア充を葬るために地球を滅亡させてしまうくらいに」 「ふん、リア充爆発しろ」 静流が憎々しげに吐き捨てる。 「ところで、こんな物があるのだけど」 と佳人がポケットから出したのは、ミニチュアの地球儀。なんだか、偶然だねと笑っている。 「おい、まさか」 「さて、どうだろう」 と、そこへ、 「やあやあ、二人揃って昼食かな?」 と空から降ってくる声。二人が所属するクラスの誇る元気娘、木下彩香。勢いよく駆け寄り、そして見事な跳躍で二人の頭上を……越えない。佳人の隣の空いた場所に着地……、 「おい、待て。そこは拙い」 「え?」 言われてもどうにもならないだろう。美しい曲線は、もう既に行き先を決定されている。
ぐしゃ
(。・_・)ノ
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