Re: 即興三語小説 ―第101回― 川面に浮かぶ桜の花びら ( No.1 ) |
- 日時: 2011/04/05 13:32
- 名前: Zodiac ID:eWFG2r4o
~~雨夜の出会い~~
「本当にあるのかな?」 ふと、暗闇の中から声が届いた。少し間があった後に気づく。彼女の声だ。 暗闇のせいか、それともこの目的のために今まさに動いているという状況のためか、僕は意識がいまいちはっきりとしていなかった。 「さあ」 そっけなく言う。考える余裕が無かったせいだ。 言葉を選ぶのも考えたが、あまり今の自分の状況を感じ取られたくはなかったから間髪いれずに答えた。 少し遅くなった足を再び速める。 もっと、もっと、はやく、はやく――――たどり着けるように、見つけることができるように。 彼女もそれに合わせるように、足を速める。 僕も彼女も、心は同じようだった。 まだ春の初めということもあってか、傘を持つ手はとても冷たくなっている。 長ズボンだって雨のせいでびしょびしょだ。彼女だって自分と似たような状況だろう。 それでも僕達は歩みを止めるようなことはしなかった。 「そろそろ、日が変わるね」 「へえ」 ポケットから携帯を取り出し確認する。彼女の言うとおり、時計は既に夜の11時を指していた。 ふとふもとの方を見ると、そこではまだお祭り騒ぎでにぎやかな様子が見て取れた。 その光景は、自分達の状況と真反対だ。だけど、僕達に後悔は無かった。 「行くよ」 「ええ……だけど私達、本当に見つけることが出来るのかしら」 何を、とは言わずとも僕には分かった。 「絶対に見つかる。見つけてみせる、その桜を」 蒼桜の木。 昔からこの村に伝わり続けている伝説だ。 老人曰く、その桜を見ると幸運になれるらしい。 とても単純だ。だけどその単純さが僕達を引き付けた。 その興味心は実際、僕達の体をここまで動かした。 この4月14日の僕達の村にある祭りの日にだけ、この山の頂上で桜を見ることが出来るらしい。 「にしても、この伝説を信じてる人が僕以外にもいるなんて驚いた」 暗闇に慣れてきた目で彼女を見る。 「まあ、ね。あるなら見てみたいじゃない、蒼桜」 うっとうしそうに長い髪を払いながら、彼女は答える。 それはとても偶然だった。夜の八時、僕は迷わずこの山につながる山道に足を踏み入れた。そこで彼女とは出会ったのだ。 彼女から話を聞く限り、僕と彼女は同級生らしい。 まあこんな小さな村に高校生がいたら、同じ学校だと考えるのが普通か……なんて短絡的に僕は考えた。 というわけで、僕達はここまで一緒に歩いてきたのである。 もう山頂近くまで来ているはずだ。 そう考え、もう筋肉痛でパンパンになっている足をさらに無理やり前へと進ませる。 男の自分がこうなのだから彼女は大丈夫なのかと少し不安になるが、助けるような余裕はなかった。自分の弱さに嫌になる。 だけど。 「手、掴まって」 「え?」 「そっちのほうが楽だと思うから」 『困ってる娘がいたら、助けてあげるといい』 ひい婆様の言うことは聞いておいたほうがいい。 「そろそろだ」 彼女に言うように、自分に言い聞かせる。 「ねえ、何であなたは幸せになりたいの?」 山頂に近づくにつれ坂が滑らかになってきたところで、彼女はそう問うた。 「非常識なものが好きだから」 今回は、迷うことなく答えることが出来た。まごうことなく本音だ。 「そう」 「君は?」 「わからない」 木々によってさえぎられていた月明かりが差し込んでくる。そのおかげで、久しぶりに彼女の顔を確認することが出来た。 『わからない』そう言いながら笑う彼女はとても魅力的で―― 「おっと」 「何?」 「吸い込まれるとこだった」 頭に?マークをつける彼女だったが、それ以上詮索してくることはなかった。 なぜか?理由は簡単。 「きれい」 ポツリと彼女はつぶやく。 そこに、あった。 「ほんとうに、あった」 呆けたような声で、僕もつぶやく。 それは、大きな桜で、ほのかに蒼くて、神秘的で――――綺麗だった。 「あった、本当にあった!!」 まるで小さな子供のように、彼女はその神秘的な木に駆けて行く。 正直言うと暇つぶし程度でしかなかった。あれば面白いなあ、程度にしか考えていなかった。 だけど、それは実際にあった。その事実が僕の何かをこみ上げていく。 目の前にある光景がとても綺麗で。 木の事だけを言っているわけじゃない。その大きな木の幹の元で踊るようにはしゃぐ彼女を見て―― いつしか、僕の頬には暖かいものが流れていた。 僕らしくない。自覚はある、だけど涙を止めることはできなかった。 「なにしてるの?もっと近くで見ようよ!!綺麗だよ?」 彼女はいつの間にか僕のすぐ目の前まで来ていて、僕の手をとって走り出した。 彼女にはばれないように涙をぬぐう。 「あった!あったんだ!!」 僕達は夢中で叫び続けた。後になって聞いたことだが、この声は下の祭りのところまで聞こえていてらしい。
木の下に座り込んだ僕達は、静かに永遠とも取れる時間を桜を見てすごした。 「わたし、ね」 静寂を破るように彼女はつぶやく。 「幸運になりたいとかそういうことじゃなくて……見てみたかっただけなの。神様の存在を」 「神様?」 その言葉には聞き覚えがあった。 多紙町。僕達の住む小さな町だ。 多紙という言葉の由来は、多い神というところから来ているとも言われている。 実際、僕のひい爺様のころには神様はいたらしい。 ――とても幸せな時間がそこにはあったって。 「うん。しろ様って言う神様と、その子供の蒼とふゆ。全部で3人いたらしいの」 「へえ、いまはどこに?」 「この山の中にまだ住んでいるらしいわよ?ただの言い伝えだから信用できないけど」 初めて聞く話ではない。実際、お父様はふゆという神様に出会ったことがあるらしいし。 信じられない話ではない。 「で、この桜と神様の存在ってやつにどういう関係が?」 半分答えがわかっているようなものではあったが、形だけたずねておく。 「蒼桜。これって蒼って神様の神権のせいだって言われているらしいの」 「そっか」 「そっけない返事ね」 「答えは見えていたようなものだったから」 「ふーん」 それ以降、再び静寂があたりを取り巻く。 少し肌寒かったので、パーカーのポケットに手を突っ込もうとして気づく。 「あ」 「なに?」 それは偶然にも2本あった。 「コーヒー。ブラックだけど飲める?」 「うん」 少し冷たくなったコーヒーを手渡す。 渡そうとした瞬間に少しだけ、手が触れた。 とてもつめたかった。 「桜にはコーヒーが似合うらしい」 「それ、誰から聞いたの?」 くすくすと笑いながら彼女はコーヒーを飲む。 「それって、とてもおしゃれかもしれない」 そう言って、彼女はもう一口飲む。 「苦い」 うぇーと舌を出して顔をしかめる。 「飲めないんじゃないか」 「飲める。ただ、苦手なだけ」 強がりだ、と僕は彼女をからかう。 思えばこんなに充実しているのなんてとても久しぶりだ。 「充実するのは今じゃなくて、これから先ずっと」 心を読むかのように彼女は笑ってそう言った。 「え?」 「じゃあね!」 彼女はそういって駆けていってしまう。 数秒後、すぐに彼女は闇の中に消えて言ってしまった。
後日談。 少し気になったのでこの伝説について、家の図書館じみた倉庫で調べてみた。 「はあ」 小さくため息をつく。 ――そういうことだったのか。 どうやら、聞いていたのと伝説は違ったらしい。 古い歴史書らしく所々かすれて見えなくはなっているが、要約するとこうだ。 『祭りの日、山の頂上へ男と女の2人で行くと蒼桜の木を見ることが出来る。その桜を見た2人は永遠に愛で結ばれるだろう』 なんてくさい伝説なんだ。僕は再びため息をつく。 そしてもうひとつわかったこと。 祭りも終わって、憂鬱な気分で学校に来た日のことだ。 「ねえ!」 唐突に彼女はやって来た。 「ずっと待ってたんだよ?十和田君!!」 花開くような笑顔で君はそう言った。 よそよそしい呼び方に少し違和感を覚える。 「何で名前知ってるの?というか……君の名前は」 「忘れちゃった?昔は一緒に遊んでたんだけどなあ」 「えっ?」 「わたしの名前、忘れちゃった?」 悲しそうな彼女の顔。突然のことに頭が混乱する。 必死で思い出そうとするが、出てきそうで出てこない。 「ごめん……教えてもらってもいい?」 「もう……名前、ここにあるでしょ」 彼女は胸元を指差す。 そこには『中平』という苗字が書かれていて、 「ゆかり。覚えていない?」 彼女は昔のままの笑みで、そう笑った。 その笑顔に釣られるように僕は口を開く。 「忘れてるわけ、ないじゃないか」
----------------------------------------------------------------------- 初めてですがよろしくお願いします!! 今回は約3000文字程度で、2時間程度で書き終えました。 ひどい文章力ですが、ぜひ読んでやってください
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