立花桜子の秘密 ( No.1 ) |
- 日時: 2010/12/20 01:50
- 名前: とりさと ID:bjqDi9sg
最近、立花桜子は悩んでいた。 桜子には周りに隠していることがあった。桜子と他人との決定的な差異があるのだ。それは打ち明けるにはすこし大きすぎる秘密だ。だが、隠し事をして友達づきあいをするのに疲れてきていた。隠し事をするのが申し訳ないが、とても話せない。友達と仲良くなっていくにつれ、どんどん重荷になっていく。もしばれたらみんな離れていくのではないか、そもそもばれたら恥ずかしい。そんなふうに悶々としていた。 これから、どうしようか。 そんなことをぼおっと考えながら授業を受けていたら、ふとざわりと教室がざわめいた。 「……ん?」 桜子も校庭を見てみる。 そこには、男子生徒がいた。 彼はテラ(大地)をしっかり踏みつけ、仁王立ち佇んでいた。片手に拡声器を持っている。 クラスメイトの佐々木健二だ。入学当初からの友人でもあり、桜子の悩みに起因する秘密を知る数少ない人物である。 ちなみにいまは授業中である。 なぜか授業に出ていないと思えば、なにをしているのやら。健二の奇行に、授業が中断され生徒が窓際に流れる。 桜子は半眼で呟いた。 「なにやってんのかしら、あいつ……」 「授業をさぼって校庭に仁王立ちとは、なかなかの珍事だな」 となりの席の立花律子がからかうように呼びかけてきた。同じ立花姓であるのからわかるように、桜子の家族である。また良き友人でもある律子は、当然彼女の秘密を知って受け入れている。 「律子、あれ何かわかる?」 「とりあえずアホがいるのはわかるな」 桜子にだってそれくらいはわかる。 何をするつもりか知らないが、すぐに教師が止めに行くだろう。この教室も一時ざわついていたが、先生が教壇の上でクラスの騒ぎを治めかけていた。 「我らが父親並みのアホだぞあれは」 「我らがっていうな。あんたと違ってあのキチガイとは血ぃ繋がってないし遺伝子も受け継いでないから」 「でも父親であることは確かだろう……そういえば昨日健二にお前があのことで悩んでるのを相談しただろう? 桜子が帰った後、なんか『桜子のうわべをはいでやるよ』とか意味深に笑っていたが……はてさて」 「え、なんか不吉なんだけど……」 健二はお節介だし、自分が正しいと思ったことには迷いを持たずに行動する。時としていまのように暴走することもある。 不安の面持ちで見ていると、健二は拡声器を構えた。何をするかも何の根拠があるかも知らないが、健二は自信満々の笑みである。 「全校生徒のみなさーん、聞いてください!」 学校全体にひびきわたる音量だ。 そして、校庭の中心で健二は叫んだ。 「立花桜子は、ロボットです!」
半年ほど昔の話である。 桜子が目を覚ますと、そこには見たことのない表情をした白衣の男がいた。 「ひひひ、起きたかい君ぃ」 白衣の男が丸縁眼鏡をくいと持ち上げる。 「……えっと」 声が漏れる。 実をいうと桜子はいま目覚めたばかりだ。この白衣のマッドサイエンスがつくりだしたアンドロイドだからである。いま起動したばかりの桜子が見ているものはすべて初めてみたものであり、見たことのないものだ。 けれども基本的な常識や知能諸々とキャラ設定は事前にインプットされているので、目の前の男がそうそう見ることができないほど怪しげで狂ったような笑顔を浮かべているのはわかった。 「……あんたがわたしの生み親の立花好悦博士?」 「ひひ、そうだよ」 違うといいなーと思ってたのだが肯定されてしまった。 「ひひひ、ねえ君ぃ。まずは君の特殊機能から説明しようじゃないかぃ」 「普通は基本機能から説明を……」 「ひひ、基本機能なんて説明する必要はないよぅ。普通の人間となんら変わりないからねぇ。普通に学校に通えるぐらいに普通だ。ひひっ。実際、君には娘と一緒に受験をして高校に通ってもらうつもりだからねぇ。なに、高校受験ぐらいなら勉強しなくても突破できる知能はインプットされているから安心してくれぇ!」 「……」 娘がいるのか。ご愁傷さまとしかいえないなと思ったが、考えてみれば桜子も立花好悦の娘であるのは変わらない。 「だから特殊機能だよぉ。君の服のボタンはスイッチになっているんだぁ。君が押さなきゃ反応しないようになってるよぅ。ご覧」 普通の人間と同じと言うのは地味にすごいことではないだろうか。自分の体だと実感がわかないが。 とりあえず桜子は言われた通り見てみた。ブレザーの制服なのだが、何故か色違いのが三つ混ざっている。黄色と赤色と青色。 「ほらぁ、色が違うだろぅ。黄色のボタンはロケットパンチのへぶう」 黄色いボタンをぽちっと押したら腕が飛んで立花博士の顔面に直撃した。 「へ?」 桜子、思わず呆然。そうしている間に、飛んで行った腕が勝手に戻ってガチャコンとくっついた。 「な、なにをするんだい!」 「って、そりゃこっちのセリフだ! 乙女に何て機能つけてくれてんの!? あんた頭大丈夫!?」 「ロケットパンチは男の子の夢じゃないかぃい!」 「はあ!? じゃあ男に造りなさいよ! わたしは女よ!」 ぎゃーすかと言い合う。桜子は名前の通り女の子に造られている。 「ていうかわたしアンドロイドなの!? ロケットパンチとかロボットじゃない!?」 「ひひひ、些細な事さぁ。ちなみに赤いスイッチを押すと全人類の夢、目からビームが――」 「試さないわよ! 死ね! まじで死ねこのキチガイ! 変態! 変質者!」 「おやぁ、やらないのかぃ。ひひっ、まあいいよぅ。そして青いボタンはお約束の自爆スイッチなのさぁ! 半径五十メートルは吹っ飛ばせる特製品だよぅ! ひひっ、女の子にだって自爆したい時があるだろうぅ?」 「普通はない!」 「それは君が生まれたてだからだよ!」 「嘘つけ! 関係ねーわよそんなの! ないけど今すぐ押してやるわよ死ねぇえ、このマッドサイエンティスト!」 その日に立花博士が爆死しなかったのは、ひょっとしたら奇跡なのかもしれない。 ただ、その代わりといってはなんだが、立花博士はその日の晩に全身打撲で入院した。
そう。何を隠そう桜子はアンドロイドだ。 立花姓で学校に通っているため、律子とは双子の姉妹で通していた。まったく似ていないが、似てない双子と言うことでむしろ有名だった。 「なにやってんの、あいつ……」 校庭の中心で叫ばれた告白を聞いた桜子は、イスからずり落ちペタンとへたりこんだ。まわりでクラスメイトがざわざわとしていた。一様にみんな桜子を見ている。 バレた。 桜子は確信した。なにせ健二が大声で暴露しやがったのだ。みな、ロボットを見る目で桜子を見ている気がする。 はずかしい。 湯気を立てかねないくらい顔を真っ赤にした桜子はのろのろと青いボタンに手を伸ばす。 「もういやだ……せっかく隠し通してたのにあの男はなんなんだ……押してやる、いまの告白聞いた全校生徒を巻き込んで自爆してやる」 「やめるんだ桜子」 がしっと律子が右腕を掴んだ。 「落ちつくんだ。お前の自爆スイッチはあのマッドサイエンスがすぐ傍にいてかつ私がそこにいないときに押してもらわなければへぶう」 右ストレートを喰らわせた。 「ぐっ……別に目からビームであの父親を焼き払ってもぐふう」 無言で殴って蹴った。目からビームは乙女として、人としておしまいなので決してやる気はない。やったこともない。やる予定もない。クラス中から「え、できるの!?」とばかりの期待の視線が集まっている気がしたが、断じてやらない。 「あんたが、あんたがそういうこというから!」 「お、落ちつくんだ桜子。今回のことに私は関与していないぞ!」 「だまれ二世!」 「い、いや、そもそも周りに知られて何が問題なんだ? カッコいいじゃないか! アンドロイドだぞ! ロボットだぞ!」 律子のこういう嗜好は父親譲りである。 「右腕がロケットパンチなのと目からビームが出るのと自爆装置が埋め込まれていることよ! そんなの知られたら死ぬほど恥ずかしわよ自爆したくなるわよそもそもロボットなのかアンドロイドなのかはっきりしろよ!」 「全部君の特徴じゃないか!」 「わたしは普通に女子高生したかったのよ!」 さんざん殴った後、暴力の嵐は止まった。 「はあ……はあ……どうすればいいのよ」 肩で息をする。ちなみに律子はボロ雑巾のようなありさまで床に転がっていた。 「まあ、悪くないんじゃないか? これからはロボ桜子として学校中の注目を浴びることに……」 「だまれボロ雑巾!」 「ふぶう」 踏みつけてとどめを刺す。 とうとう沈黙した律子を蹴飛ばし、桜子は窓際に歩み寄った。 落とし前をつけなければなるまい。 「そうよね……あいつが全ての元凶……」 暗い目をした桜子はゆっくり狙いを定め、スイッチを押した。
最大出力で発射されたロケットパンチは健二の顔面に直撃し、桜子の気を少しばかり晴らす一助となった。
その代わりそのロケットパンチで、「立花桜子って誰だか知らないけど……ロボットだなんて下手な冗談だよな」と苦笑していた全校生徒教師に「立花桜子がロボってまじなんだ!」という認識の塗り替えがなされた。
立花桜子のロボ桜子として大注目される学校生活が、佐々木健二という少年のお節介によっていま強制的に幕開けとなった。
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だいぶ遅れましたが、放りこんでおきます。 縛りが一個抜けていますごめんなさいわたしには無理でした。 二時間ぐらいで、3500文字くらいです。
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