ユッグドラシル ( No.1 ) |
- 日時: 2014/05/11 22:19
- 名前: RYO ID:A.2D.9JA
ここはユッグドラシル、書庫だ。 見上げると天井すら見えない遥か彼方から、柔らかな白い光が降り注ぐ。円柱の内壁面にずらりと書籍が並び、光の彼方に続いている。見下ろしても、それは同じことで、不意にどちらが上なのか、下なのか分からなくなる。一体何冊あるのかも計り知れない本たちの背表紙に上下がないなら、この空間に上下の意味はないだろう。いや、上下と勝手に思っているだけで、本当のところは右左というだけなのかもしれない。 とはいえ、貸し出しの指示があれば瞬時にその本のところまで私は行くことができた。それは私の意志ではなく、勝手にその本のところに行っているだけでしかない。この仕事について、しばらく、勝手に本が自分の手元に瞬時に来ていたような錯覚を覚えていた。が、よくよく考えて見たら、もし勝手に本が手元にくるのなら、この書籍がずらりと並ぶ光景に意味はないだろう。もしかしたら、その意味に気がついた瞬間にこの書籍の映像ができたのかもしれない。自分が瞬時に書籍にところにいくのか、書籍が自分のところに来てくれるのか。さして意味はない。なんたって、このユッグトラシルにもう何年も貸し出しの指示はないだから。 気がつくと私はゆっくりとぐるぐるとこの書庫の中を登っていた。一冊一冊のんびり確認していた。それはもう何十年も昔からのようにも思えたし、つい今思い立って始めたようにも思えた。無限の時間というのは、時間の意味さえ無くしてしまうのだろう。もっともいくら時間が無限にあったとしても、この書籍をすべて確認し終えるには不屈の精神でも必要だろう。どんなに優秀な司書であろうと、文字通り不屈の。 ゆっくりと昇っていく最中に、気がつく。書籍の背表紙がさまざまな色彩を持っていることに。白い光に反射してルビーのように輝くものもあれば、ゴールドの題字が鈍く光を吸い込んでいたり、深い青は深海を思わせてくれた。見下ろすと、赤も青も緑も、多様な色彩がそこかしらに輝いて目をくらませる。自分にしか見ることができない世界だった。見上げてみても同じ。どこまでも続くことも同じ。天井も底もない。世界のすべてを記録して、広がり続けるユッグドラシル。その司書が私だ。司書は私だけかもしれないし、ほかにいるかもしれない。とりあえず登り続けてみることとしよう。広がり続けるこのユッグドラシルの終わりはこないだろうが、いつか私と同じ司書に出会うこともあるかもしれないし、呼ばれて瞬時に飛ぶこともあるかもしれない。 ここはユッグドラシル、書庫だ。
--------------------------------------------- 多少SFチックな感じで読んでもらえると幸いです。 50分くらいです。 色彩的なものを意識してみました。
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