Re: 即興三語小説 ―梅雨入りはまだ先― ( No.1 ) |
- 日時: 2013/05/26 22:30
- 名前: しん ID:6XVGcwaE
カツーン、カツーン。 一人の男が、地下へと降りていく。 顔はつぶされたように、頭が平らで、片目は眼帯で隠されている。 背は曲がり、片手は杖をつき、もう片手には和蝋燭がはいった提灯。 男は、有名な人形作りの名人であった。 それはまるで本当に生きている人間かのように精巧で、驚かせていた。 その人形は恐ろしいことに、髪までのびる。
この暗がりにつれてこられたのは、いつだっただろうか。 そんなことは、まったくわからない。 全く日のはいらない場所なので、地下だと思われる。 そして、時々、不気味な片目の男が、あらわれる。 今もまた、男があらわれた。 一切身動きはできない。 身体をさわってくるが、何もできない。 縛られているわけでもないのに、何もできない。 ふむ、ふむと、小さな声をあげながら、丹念に身体をさわってくる。 最初のころは、あまりに気持ち悪かったのであるが、段々と心地よくなってきているのが、また恐ろしい。 この男が人形作りをしていることは、喋っている中身で、なんとなくわかっていた。 ああ、きっと人形はこうやって作られているのだろうか。 男にあうたびに、自分の意識が強くなるたびに、実感できて恐怖がどんどん胸の奥でひろがっていく。 逃げ出したい。 けれども、ここを出てどこへいけばいいというのだろう。 一体ここがどこだかすらわからない。 このまま、人形が完成するまで、ここで閉じ込められて、その後どうなるかなんて考えたくもない。 だけども、その日にちはどんどん近づいてきているのはわっきりとわかる。 かれの手つきが、次どの部位を作成してくるのかをはっきり教えてくれる。
嗚呼これで最後かもしれない。 さようなら。
片目の男と紳士が喋っていた。 黒い装いに、シルクハットにヒゲ、そしてぶら下げた懐中時計。 まるで自分が紳士だと喧伝するような格好だった。 「これですか。全く見事なものだ」 「ええ、傑作です。今度こそ、と思うのですが。やはり完成していないようだ」 「そうですか、では」
暗がりから出された女は、車へ移され、運ばれていく。 ああ、わたしたすかったんだわ。 あの暗がりから抜けれたのね。 神様ありがとう。 これから、変態貴族に弄ばれる未来と知らない人形は、今を喜んでいた。 人形に魂が宿るという奇跡に気付く者は、まだいない。
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