Re: 即興三語小説 ―スタートダッッッッシュゥゥゥゥ― ( No.1 ) |
- 日時: 2013/04/08 16:32
- 名前: 蒼樹優汰 ID:Wj5CePJ6
「君のために」
昼の穏やかな光が、畳を照らし、病に伏す少年を照らす。彼は虚ろな目で自分の存在意義を考えていた。古くなって欠陥だらけの僕は本当に必要なのだろうか?
「調子はどうだ?」 ふすまを開けて長身の男が話しかけた。少年の表情に笑みがこぼれる。 「来てくれたんだサトルくん」 男は 「当たり前だろ」 と笑いかける。 「調子は…そんなに良くないかな」 と少年が答えると と男は寂しそうにそうか、と呟いた。少年はそれを見て。 「でも、やっぱり仕事をしていた時よりも気持ちが楽だなぁ。一日中、何もしなくていいからね〜」 と精一杯おどけて見せた。 「羨ましいなぁ暇そうで」 男は笑う、そして 「それじゃ俺のオススメのDVD借りてきてやるよファイト・クラブっていうんだけど」 「あー、あのブラッド・ピッド主演の映画?」 少年が明るく言う 「そうそう」 「あと、それってこの前、彼女さんと観て楽しかったって言ってたやつだよね?」 少年がニヤついて言う 「よく覚えてるな」 と男はまた笑う。ちらっと左手首の腕時計を確認すると 「じゃあ、俺は仕事に戻るから」 と言って立ち上がろうとしたが、少年に呼び止められた。 「待って」 「どうした?」 男が尋ねる 少年は笑顔を作る。そして思い切って聞いた。 「僕の代わりってどんな子?」 「いや…まだ…」 男は困惑気味に言った。 「えっ…!?それじゃあ僕が居ないせいで工場のラインは止まったままなの!?」 少年は驚く。 「まぁ、な。でも、お前が直ってから急いで一緒にやれば間に合うし」 男は動揺を隠そうと笑う、そして「それに新型ロボットなんて導入したら旧型ロボットのお前の居場所がなくなっちまう…」 と言った。
少年はその言葉から、迷惑をかけられ、遣われるはずの自分が、逆に迷惑をかけてしまっていることを知り大きなショックを受けた。それと同時に自分の使命を果たさなくてはいけないと強く思った。
「こんな真空管ラジオを大事にとっておく意味がわからないね」 少年は今までと表情を一変させ、冷たく言い放つ。 「何が言いたいんだ?」 男が、少年の変化に戸惑いながら聞く 「だからこんな古道具にこだわる意味がわかんないって言ってるんだよ」 「道具じゃねぇんだよ。お前は…。タケやんは…俺の親友なんだよ…。早く直して一緒に働こうぜ…?」 (サトルくん…。でも…メインエンジンに異常をきたしているから…もう本当に直らないんだよ…)
「サトルくん。僕はねぇ、君を一度足りとも親友だなんて思ったことは無いんだよ」 「え…?」 「僕は機械なんだよ?この25年間、人に仕えるロボットとしての使命を果たしてきただけさ」 「何言ってんだよタケやん…」 「僕が主人の君と同じ気持ちだと思っていたのかい?残念、不正解。僕は君に捨てられないように親友ぶっていただけさ」 「そんな」 「君が働き手に困ってた時に、僕は親友らしく、僕がやるよ、と言った。それは人に仕えるロボットとしてそれ以外に言う選択肢が無かったからだ」 「嘘だ」 「それなのに散々こき使いやがって、挙句の果てにまだ働かせようとするのか?」 少年は冷たい表情を作りながら心の中では悲しみに打ち震えていた。だが、男はそれに気づかなかった。 「…わかったよ。もういい。今まで悪かったな」 「全くだよ」 少年の声が震える。だが、男はそれにも気がつかない。 「俺が仕事を与えたのは、お払い箱にされそうだったお前を助けたかったからなんだ。工業用ロボットとして働いていれば周りも捨てようとはしないだろうと思って…」 (サトルくん…) 「だが、もういい。新型を購入する。余生だけでもお前の自由に過ごしてくれ」 そう言って男は立ち上がり、ふすまを固く閉めて、出て行ってしまった。 (これでいいんだ。これでこそ僕は本当にサトルくんのための最後の仕事が出来たんだ) 少年は唇を噛みしめる。 (なのにどうしてこんなに悲しいんだろう?僕、サトルくんともっと楽しく遊んでいたかったよぉ。サトルくんと笑いあっていたかったよぅ。ねぇ…神さまぁ…)
その夜、一体のロボットが視覚部に異常をきたした。眼から水のような液体が流れ出したのだ。そのまま、その液体はロボットの内部に流れ込み、ショートを起こしたことで、ロボットの機能を完全に停止させた。
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