Re: 即興三語小説 ―休日出勤万歳― ( No.1 ) |
- 日時: 2013/02/19 02:38
- 名前: 水樹 ID:.YPZTFdo
もうすぐホワイトデーだなと、さりげなく彼女に何が欲しいか聞いてみたら、 「蹄鉄」 ていてつ? 普段聞き慣れない言葉を彼女は返してきた。 「低血圧でもなく、天津甘栗でもなく、天体望遠鏡でもなく、そう、蹄鉄が今、一番欲しいの」 低血圧はあげられない。蹄鉄なんて何処で手に入るんだ? どうして欲しいのかと理由を尋ねたが笑顔ではぐらかされた。彼女の笑顔に弱い僕。それでも、彼女が馬を飼っているとの情報は持ってはいない。休日にホースシューズで一緒に汗をかいた記憶もない。高層ビルの屋上から蹄鉄を投げて死傷者が出て、ニュースにしようとも思えない。彼女の部屋には蹄鉄など皆無だった。 彼女が欲しいと言うのならその願いを出来るだけ叶えよう。 早速アマゾンで検索する。意外とあるもんだ、しかも安い。僕は躊躇なく注文しようとカートに入れるが、どこか腑に落ちない。彼女はどこの馬の足だか分からない蹄鉄など欲しいのだろうか、いや、僕が汗だくになって作ってプレゼントした方が喜ぶに決まっている。いや、そんな苦労はしたくはないな、どうしよう。そうだな、うんと悩んだ振りをして、真心を込めて包装して、プレゼントしよう。うん、そうしよう。 蹄鉄の他にCDと小説を注文した。 品物が来るのが楽しみだ。
春も近付くと積もらないみぞれが地面に染み込む。日が暮れるとまだ冷え込むが、僕の足取りは軽い。彼女の喜ぶ顔が目に浮かぶ。ようやくこの蹄鉄を渡して、理由が聞けるからだ。 今は浮かばないけど、三月十四日にはきっと、スッキリしたオチも思いつくに違いない。ハンマーを持った彼女と血みどろの展開は嫌だな。久し振りの三語だし、忘れた振りしてほったらかしにしても笑顔で許してもらえるに違いない。
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