リトライ作品 『小人と歌』 原作は弥田さんの『歌と小人』です。 ( No.32 )
日時: 2011/02/23 01:18
名前: とりさと ID:X3qIUvf.


 間違い探しの始まり始まりー

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 夜の道。田舎のあぜ道。あたりは薄暗い。めまいがしそうなほど広い田んぼのなか、月が、りんごのように丸い月が、ぼくを蒼く照らす。酔ってしまいそうなほど幻想的で、妙に心が弾む。どきどきしていて、飛びだしたくなる。それでいてなんだかさみしい。心に靄がかかっている。自分の気持ちがよくわからない。
 こういうときは、踊ろう。歌いたがりの歌うたいを見つけて、心ゆくまで踊りつくそう。
「そこのお嬢ちゃん」
 暗がりから、えいやと飛びだす。今日の歌い手は人間だ。ぼくの頭のてっぺんは、彼女の腰までしかない。
「歌いたいのかい?」
 彼女が口を開く前に、ぼくははたずねていた。いや、たずねるというには自信に満ちたような、そう、念を押すというような行為に近い。
 ぼくはことばを続ける。
「歌いたいんだろう? 言わなくともわかるさ。君は歌いたがっている。ぼくは緑のこびとだからね。それくらいお見通しなんだよ」
 ゴウゴウとした急流のような早口でそれだけ言った。それからゆったりとした踊りをはじめる。両手で大きく円を描くのが特徴的だ。
 躍っているうちに、彼女の表情が変化してきた。ふわふわした気持ちが膨らんでいる。それと一緒に、むずかゆい欲求も。歌いたいのかもしれない、と思っている。いや、歌いたいのだ。彼女は歌いたいのだ。だからぼくも躍りたいのだ。 躍るのだ。
「ねぇ、この踊りはなんていうの?」
「月の踊り。さぁ、きみもはやく歌いなよ。歌詞がわからなくても、メロディを知らなくても。思いつくまま気のむくままにさ。どうせ誰も見ちゃいないんだ」
 彼女は歌おうとした。けれども、なにを歌えばいいのかわからないか、口を開いて戸惑う。一番好きな曲にしようか。カラオケで上手に歌える曲にしようか。そんな風になかなか決められない。
 なんというもどかしさ。心の奥底では、歌を求めて、何かが、彼女自身が、荒れ狂っている。急流のような、乱気流のような、いやとてもたとえようもない。だから、ああ! なにも浮かばなくていい。思いつくまま歌えばいい。無意識に、彼女自身が歌えばいい!
 そんな気持ちが伝わったのか、彼女が大きく息を吸う。最初はスローな出だし。感情を抑えるように。固く、固く、じっくりと……。さぁ、前奏は終わった! 喉を震わして、ことばを使って歌おう。先の歌詞なんて考えないでいい。前後のつながりなんて気にしないでいい。一言一言、一文字一文字を大切にして歌うのだ。あぁ、いい気持ちだ! からだの中からもやもやが抜けていく。
「嬢ちゃん。なかなかいいじゃねぇか」
 抜けていくもやもやの変わりに、不思議な感覚が、心臓を中心にして全身に広がっていく。身体が、空間に溶け込んでいっているのだった。存在が消えていっているのだった。それでも恐怖は無い。いっそ一層に躍る。消えていく身体に反比例して、歌が高く澄んでいくのがわかる。もっと。もっと冴え渡るがいい! あのすまし顔の月に届くくらいに高く、ズタズタに切り裂いてやれるくらいに鋭く!
 だんだんとテンポが上がってきた。疾走感が、歌の中を、踊りの中を突っ切っていく。
 歌か、踊りか。先に転調したのはどちらだったろう。同時なのかもしれない。歌とぼくは同調し始めているのだ。
「歌とこびと」? そうだ。ぼくはもうここにはいない。いまここに在るのは、彼女の歌とぼくの踊りだけなのだ。それだけなのだ。
 もう、月はわたしを照らしていない。ぼくは薄緑色の踊りになった。
 蒼く明るい満月の夜。ぼくは少女と共に世界を祝福する。彼女自身の旋律となり、ばくは踊りをくるくる舞う。もっと高く透きとおっていこう。もっと鋭くなっていこう。みなを、全てを、ズタズタになるまで祝福してやろう!
 月が、りんごのようにまるい月が、冷たく地上を照らしている。

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 というわけで。極力文章を変えないリトライでしたー。