本当に久しぶりにミニイベントを行います。今回の題目は、「真夏を舞台に告白シーン(恋愛にかぎらず)を入れた小説を書く」というもの。文字数無制限。一応の時間設定は、本日の22時40分までです。時間はいくら超過してもいいですが、時間内に書いた方が感想は確実にもらえると思います。そういうことで、スタートです。
夏! 花火大会に夏祭り! を! 私可憐は毎年一人で過ごしてきた! ……けど今年は一人じゃないっ。大好きな彼がいる。「って、手にフィギュア握ってんじゃないよ可憐」 ともちゃんは豪快にあたしの頭を殴ってフィギュアをひったくった。痛い。「だってともちゃん、今年も彼氏出来なかったんだよ? でも夏は来るんだよ?」「だよ? じゃねーよ。二次元から帰って来いアニオタ」「琉衣君かっこいいもん~」「そりゃね、女の子向けに作られた美少年キャラクターですからね」「いたたまれないんだよ、あたしは」「いいじゃん、私幸せだよ?」 琉衣君のグッズ買いに、東京まで行って水着だって買ってきた。 琉衣君ったらいい体してるんだあ~。 二次元に入れないから、あたしは二次元からやってきてくれた彼のグッズをたくさん集めて持ち歩いてる。デートデート!「本当は、あたしと彼氏作って夏祭り行こうって言ったじゃん! 常夏の海でスイカ割ろうって」「うん、ともちゃんには彼氏出来たけど私にはできなかった。しかたがないよぉ」 だから、もうあきらめて。ともちゃん。 私には琉衣君がいるから、何にも心配しないで遊びに行ってきてよ。「嘘つき」「え?」「好きな人がいるって顔してる」「いないよ」 だから気が付かないで。「告白してよ」「いないってば」「あたしの彼氏、可憐も好きになっちゃったんでしょ? ずっとあたしの顔見てそらしてばっかで……イケメンだしやさしいもんね。仕方がないよ……あきらめる気なんでしょ?」「……うん」「……? なんか納得いかない表情だね」「ううん、そのとおりだよ」 そうしておいたほうが、きっとともちゃんは私のことが好きなまま。 私は琉衣君のフィギュアを奪い返してにっこり笑った。「だから、あきらめる代わりに琉衣君を愛しちゃいます」「それは駄目、男の子紹介するから」「そんなの意味ないよ、かないっこないもん」「そんなにあたしの彼氏が好きなの?」 困ったようにともちゃんは笑うから。「んー」 私はもう少しともちゃんを独占したくて笑うのです。 告白。 私はともちゃんがこの世で一番好きです。 彼氏を作ろうとして、ともちゃんに彼氏ができてわかったの。 誰にも渡したくなんかないって。 でもその気持ちは私だけのもの。「今は琉衣君のほうが上かな?」「もーふざけないでよっ」 今はまだ、直接言えない。 秘密の告白なのです。
盂蘭盆会 祖母の新盆を迎えたその日はかなり暑かったように思う。強烈な西日の熱気が籠り、クーラーさえも効かない仏間に親類縁者が集まっていて、生前の祖母の話を繰り返しながら、僧侶の到着を待つ。 そのうちやって来た僧侶が仏前に座り、盂蘭盆会の供養が始まった。 朗々と唱え上げられる読経と念仏の声。叩かれるリンの音色。立ち込める香の匂い。 慣れない正座と暑さと人いきれで、読経が終わり、念仏が終わったあとは立つ気力さえもないほどぐったりし、疲れ果ててしまった私は、六畳ばかりの仏間に身を投げ出し横になった。「あんた、大丈夫かね?」 心配した母が覗き込んで言う。「ちょいと疲れただけじゃ」 私はそう答えておいた。 そのそばで、従兄弟の子が素っ裸で風呂から出てくると、ただでさえ暑い仏間を走り回り、バスタオルを持った従兄弟が追い回している。「おっさん。ごめん」 従兄弟が追い回していた子をバスタオルで包み、謝ってきた。「ええで」 私はそう言って目をつむった。 夕べには地区の盂蘭盆会の供養があり、それに参加する。 別の僧侶が経を唱え、御詠歌が歌われ、焼香する。 日はまだ高かったが、とりわけ暑かったためか夕立がきそうなそんな曇り空になっていて、あの強烈な西日の日差しに比べれば幾分過ごしやすくはなっていた。 合掌するたびに思うのは、生前の祖母に何かしてあげることができなかった、という後悔だけだった。ただその中で、死ぬ前に一目見られた、会うことができた。これが唯一の慰めかも知れない。 地区の盂蘭盆会供養が終わり、また熱気の籠る家に戻るのかと少しうんざりしながら戻ると、ようやくクーラーが効き始めていて、おばさん達が夜の支度を始めていた。 子供たちは仲良く遊んでいる。「古いばぁばはどこへ行ったん?」「仏様の国へ行きんさった」「ふーん」と子供の反応。 時として子供の問いに答えられない私がいる。「ばぁちゃんね。あんたが良うしてくれる、って喜んでおったよ」 叔母がそう言った。 たいしてそんなことはしていない、と思っただけにそれは意外な言葉だった。それは祖母がなかなか伝えられなかったことだったのだろう、と思う。
「どうしてこの街には壁があるの」父に問うたびに、ベルタの父は遥か遠い時代に存在したベルリンの壁のことを思い出すかのように語った。父が他界する頃、ベルタはシェルターの壁を見ながら色々と思案するようになった。空には突き抜ける青、小鳥のさえずる姿、椰子の木が揺れる紫の木陰、リュウゼツランの花。ベルタは知っている。今の歳、2014年の16歳になるまでに、この世界が沢山の『影』という物質に追われ、人が住めない世界になってしまったことを。外の世界に時々鹿が現れても、雨が降ってもそれに触れることが出来ないことを。人口は激減し、ドイツ人も、アジア人もいなくなった。ベルタが知っているのは電子端末の外側に居る男の子だけ。その子は、外の世界との唯一の接点だ。空中に浮かぶ半透明の端末より、彼は手なづけた黄色いインコを手のひらに乗せるとベルタによく語りかけた。「やあ、こちらは快晴だよ。気温もとても良いし、ダニロもよく僕の真似をするよ」彼はの話は脈絡がない。気温と動物のみならず、食べ物とペットの話を同時にした時、ベルタは口元を抑えて笑ってしまった。少年は笑われている意味もわからず一緒に笑った。どこにでも居るわけでもなく、ここにいると不遇になってしまうかもしれない笑顔。素敵なはにかみ。かわいいエクボ。ベルタはそんな少年のことを思いながら『世界の果て』と呼ばれる場所に立って、一人良く外の景色を見つめた。少年はその場所を知っていて、向こう側から端末も用意せずに木の上に登ると、こちらの展望台へと向かって手を降った。少年の無茶な行動にベルタが不安そうな顔をすればするほど、少年は満面の笑みで得意そうに、曲乗りでもするかのように手を離して騎士のように会釈してみたりしてみせた。ガジェットの不協和音が響いた。たった5人しかいない学校の先生がベルタに注意をしたいという。彼女のホログラフィック端末に『世界の果て』の情景が映し出され、少年のデータが映しだされた。ベルタの先生は言った。「このような異分子を入れてしまっては、今なお核の問題と『影』の謎が溶けるまでに、間違いでも起こったらどうするのですか」ベルタは黙った。黙りながらも心の奥底で先生のアバターを睨みつつ思った。「あのこはそんなこじゃない。ここの秩序を壊さないようにもしてくれたし、私をいつも笑わせてくれるいいひとだ」ガジェットの向こう側でいつもどおりの世界秩序と、常冬の世界でのCo2発生装置、そこではたらく従業員や免疫機構のことを聞かされる。シェルターの世界は免疫機構の崩壊と遺伝子異常をもたらす危険な区域だ、と。そこに人の感情が挟まれる予知はない。生活との維持と身体の安全と非暴力とありきたりな日和見。そうベルタは思う。浸水が始まった、とある人が言った。老朽化が進んでいる施設のある場所から汚染水が流入して、今まさに農業用水を汚染している最中だという。ニュースでは汚染水のセクタを切り離せばどうにかなるというが、問題は『影』だという。液状化して雪崩れ込んでいるかすら検出できず、人体に侵入して発生した時には既に遅い。ウィルス性か薬害か、放射能か、空気感染かも切り分けができない。こればかりはどうしようもない、という風に、解説AIとニュースキャスターは談話した。ベルタは端末へとアクセスし、少年の所在を確かめた。少年は『内側が』不穏な空気に包まれていることを知らない。ダニロは「ベルタ好き、ベルタ好き」と繰り返している。少年は恥ずかしそうにインコ、ダニロを空に舞わせた。「今ダニロが言ったことは忘れてね」ベルタはインコという生物がいまいち理解できず、少年の言われるままに頷いた。その時、ベルタの端末画面に奇妙な服を着た男たちが映った。少年は観る間に口をふさがれてその男たち羽交い締めにされる。必死にもがく少年に対して名前すら聞いてなかったことを思い出しながらも、ベルタは叫んだ。「ちょっとあなたたち、その子を放しなさい!」画面から少年の顔は消え、端末を閉じて『世界の果て』に急いだベルタは息を切らしながらそこから林立する熱帯植物を見た。あれほど鮮やかだった常夏の世界が、不気味にうねって見える。目を凝らせど少年の姿も、片手で木を掴んで会釈する姿も見当たらない。何かとてつもない事が起こったように思えて、ベルタは呆然とその場にへたり込み、延々と続く緑の世界を見続けるほかなかった。少年の罪は不正アクセス罪と言われた。ベルタの端末に涙がこぼれ落ち、ホログラム像が歪んだ。少年は数日後に釈放され、胸躍る気持ちと不安な気持ちでいっぱいになりながら、あの時のようにベルタは走った。果たして、少年はそこに居た。日に焼けた風貌は既に無く、薄白い肌で陰鬱な顔をした少年がそこに居た。ダニロはそこにいない。ベルタは呼吸を整えると身の安否やダニロのことを聞いた。少年は言った。「君の世界は地獄のようだね。僕の身体を切ったりつけたり、免疫とか、良くわからないことを言って色々と切り離していったんだ」彼が肩付近の服をめくったそこには、焼けただれたような跡があった。数日後、ベルタは教師のアカウントに対する侵入コードを不正入手すると、そこから公共施設、政府関係者と次々とBOTを仕掛け、少年の情報と自分の情報を世界から切り離した。その日、少女と少年は世界から消えた。その情報には「ベルタ、影に感染、予想死亡日数」と書かれており、少年にも同様の日数が記されていた。ベルタはどうしてか、それを観て微笑んだ。データを消去したその足で端末を汚染区域に忍び込んで廃棄すると、『世界の果て』へと向かった。彼はそこに居た。世界の果ての、望遠のガラスの淵に、立って風に吹かれて居る。この間と違い、笑顔も戻って、ダニロも戻ってきているようだった。ベルタは少年名前を聞いた。そして少年の口から出てきた名前はとても無邪気で、美しい響きを持った素敵な名前だと思った。ベルタがガラス越しに目を閉じ、そっと少年の手とかさな合わせると、少年もそうした。ガラスの向こう側で重なる唇に体温は伝わらない。ベルタの頬に涙がつたい、目をつむったまま少年に唇の動きを伝えた。「好きよ。ずっと」
雲ひとつない青空。外はおそらく灼熱地獄。夏真っ盛りの8月に僕はアルバイト先のコンビニで、例の目と口しか開いていないニット帽を首まで被り、包丁を持った男とレジのカウンター越しに対峙していた。店内には他に誰もいない。いや、バックヤードに、もうひとりアルバイトの坂本がいたと思うけど。そして僕は大いに混乱している。どこまで乗ればいいのだろう?「つまり……てん、いやあなたは娘のためにこのようなことを?」 包丁を持ってはいるが、すでに力が抜けたように刃先は下を向いている。”強盗に押し入った男”はシクシクと泣いて自分の罪を告白しているのだ。「ぐすっ……そ、そうなんです。娘は、この町のどこかで……僕はせめてもの、結婚資金にお金をそっと渡したかった……ぐすっ……苦労を苦労をかけて」 物心付く前に出て行ってから一度も会っていない娘が結婚すると風のうわさで聞いたホームレスさん、か。なるほど。ありそうな話だ。でも、この後、僕はストーリーをどのように持っていけばいいのだろう。逡巡した後、そっとレジの鍵を回した。カシャンと音を立てて出てきたお札と硬貨を見やり、僕はそこにある全てのお札を取り出す。「持って行ってください」 そのまま男の手に握らせ、力強く頷いた。男は目を見開いて戸惑いを隠せないようだ。「で、でも」 ――いいんです。僕からのお祝いですよ そう、かっこ良く決めようと思ったら、バックヤードのドアが勢いよく開いた。「だめよ!だめだめ!」「ちょ、どうした?休憩中だろ?」 出てきても、特別手当は出ない。だが、そんなことは気にしないのか坂本は必死な表情で男の前までくると、突然のアッパーを食らわした。男は飛び上がり尻もちをつき、お札は舞った。僕は混乱している。「い、いたい……な、なにをするんだ」「お父さん……」「ま、まさか、とし子?なのか……!?」「そんなお金もらってもうれしくないわよ」 いままで聞いたことのないくらいの大声で言い捨てた坂本は、こぼれた涙を乱暴に店員用のエプロンで拭き、座り込んでいる男を引っ張り起こした。「私は、お父さんが生きていてくれただけで……嬉しい」「と、とし子!」 美しい笑顔だった。坂本にこんな表情ができたのかと僕は心から驚く。男もその笑顔に当てられたのか、口をわなわなと震えさせ、涙からは大粒の涙があふれだす。「お、おれ、自首する」「お父さん!」「そして、出たら働くよ……そしたら、そしたら紹介してくれるかい?君の大事な人を」 坂本はかすれた声で「もちろんよ」と呟き、何度も頷いた。それに勇気づけられたように、男は猫背だった背筋をピンと伸ばし、灼熱地獄の外へと歩いて行った。「坂本さ、よし子だっけ?」「何言ってんの。店長の芝居があんまりにも心にきたから、私も入ってみたかったの」 坂本は、すっかりいつもの無表情に戻っている。「でも、あれさ」 その坂本の表情が、少しばかり崩れた視線の先を追うと、店長が眠そうにコンビニに入ってくるところだった。「いやーごめんごめん、道混んでてさ〜すぐ準備するから。ほら、コンビニ強盗練習。今日だよね?て、え?なんでお金ばらまかれてんの」「…………」「…………僕はなんとなくそうかな、と思ってたよ」 困惑した店長と無表情の坂本。今日も雲ひとつない青空をガラス越しに眺め、あのおじさんが無事定職につくことと、その娘さんの幸せをぼんやりと願った。
陽は沈みかけているというのに、頬にあたる風がぬるい。最高気温は四〇度を越え、夕刻となった今でも、気温は多分、体温とさほど変わらないくらいだろう。マンションの屋上にただ突っ立っているだけだというのに、背中に脇に汗が染みだしてくる。だけど、手の平にまで汗をかいているのは、暑さのためだけともいえないのかもしれない。 わたしはひどく緊張している。冷静さを保とうとする自分と、そんなことはできるはずがないという自分が、猛烈な勢いで競り合っている。 わたしは今日、生まれて初めて「彼」と話す。 直接会うわけではない。ただ通話するのだけのことだ。でも、電話で話すのとはわけが違う。 わたしたちは、お互いの小指から伸びる赤い糸を使って、意志の疎通をする。「運命の赤い糸電話」という呼び方は好きになれないが、それ以上に相応しい呼び方も思いつけない。それは確かに、運命的な相手と通話するものなのだから。「彼」たぶん間違いなく、私にとって最愛の人になるはずの人なのだろう。 だけど、だからこそわたしは、彼にある告白をしようと心に誓った。 話しをするのはこれで最後にしましょう。赤い糸を、この縁を切りましょう、と。 そのために、わたしはゆっくり息を吸い、そして吐く。もう一度だけ心を整理する必要があるのだ。「彼」に心から納得してもらうために。 そういうものなのよ、というのが母の口癖が嫌いだった。 コーヒーが苦いのも、車が走るのも、八時に寝ないといけないのも、そういうものなのよ、ということらしい。それは同時にこれ以上聞くなという意味を持つらしく、幼いわたしがなお何かを尋ねようとすると、母は渋い顔で、ママを困らせないの、と突き放すようにいうのが常だった。もしかしたら、母のそうした態度が、今のわたしを作ったのかもしれない。わたしは誰かの顔色をみて話すことばかり上手くなり、言い換えればいつも本心を隠す人間として育った。 だけど、そんなふうに育っていたわたしでも、どうしても納得できないことがあった。ある日、朝起きて、自分の小指から伸びる赤い糸を気づいたわたしは、慌てて母にかけ寄って、これは何かと尋ねた。悪い病気にでもかかったと思ったのだ。母は、案の定、ひとつ頷き、そういうものなのよと返した。そんな一言でわたしの不安が消えるわけもなく、わたしは今度ばかりはと母にしつこく喰いつき、納得いく答えを求めた。ようやくわかったことは、赤い糸は七歳くらいになると、自分が将来結ばれる相手との間に繋がるようになるということ。そして一五歳になる頃には、相手と完全に通じ、世界のどこに離れていても、糸を通じて意思疎通ができるということだった。 わたしは早熟だったらしいが、半年もしない間に、周りの子たちの小指にも赤い糸が伸び始めていると気づいた。それは、あまりに色が薄く、眼を凝らしてもすぐに見えなくなるほどのものだったけれど、風にそよぐわけでもなくいつもどこか――いや、かの人がいる方へ向いて伸びていた。 十歳を越えると、一日のうちに交わされる会話の何割かは赤い糸のことになる。 曲がりなりにも運命という名を冠された糸だ。ほぼ間違いなく、自分と最適なパートナーへと繋がるものらしい。ほとんどの子はその「運命」を受け入れ、そのなかで自分がどれだけ有意義に、効果的に、効率的に生きるかを考えはじめる。 そんな中、ただわたしだけが、会話のなかに入っていけずにいた。 そうあることが決められた生き方。他に選択肢を考えてもみない生き方。 言葉にできない息苦しさが感じられてならない。 自分だけがそう思っているようで、ひとたび何かを口にすれば、いっきに周囲から浮いてしまうことがなにより怖かった。しかし、他の子たちがわたしの異変に気づかないはずもなく、いつしかわたしはおかしな子というレッテルを貼られ、からかいの対象になっていった。 渇いた喉に唾を溜めて送り込む。「彼」話すその時は、刻一刻と近づいている。もちろん事前に約束をしたわけではない。 ただ近いうちにそれはくると数日前に感じ始め、今日になって間違いなく夕方頃にはその時が訪れるのだとはっきりわかった。 指に静電気のようなものがはしったとき、ついにその瞬間が訪れたのだと知った。 おもむろに赤い糸が伸びる右手の小指を眼のまえに持ってくる。 どうやって話せばいいんだろうと考えたが、自然と口元に小指が当てられた。「はじめまして」 わたしは糸に話かける。それは即座に「彼」に伝わっていく。その感覚までありありとわかった。わたしはついで小指を耳元へもっていく。「はじめまして」 男の子の声が、確かに、聞こえた。 それまで高鳴っていた胸の鼓動がさらに速まるのを感じた。 なんて、なんて心地よい声なのだろう。わたしはずっとこの声を求めていた気がする。ずっとこの声を聞いていたい。そうはっきりと思っている自分が、確かにここにいる。 きっと話をつづければ、「彼」がいかに素晴らしい人か分かるだろう。「彼」との未来を即座に想像し、子供の数まで考えはじめるのかもしれない。 だけど、わたしはそれに抗いたい。 気づいたときには、涙が流れていた。彼の声がまた届く、「ごめん、実はきみにずっと言いたかったことがある」 わたしは何をいうこともできず、黙って聞いていた。「僕は、きみと一緒に生きていこうとは思わないんだ。別に他に好きな人がいるわけでもない。初めて話すきみを嫌いになるはずもない。ただ僕は、自分が生涯愛する人は自分の力でみつけたい。それがどれだけ馬鹿な考えかってことはわかっている。だけど、どうしようもなくそうしたい。そう生きたいんだ。赤い糸を切る方法がひとつだけあるってきみも知っているだろう? それは、お互いが同意のもとで糸を切ると誓い、糸に左手の人さし指の爪を当てること。それで赤い糸はこの世から消える。正直にいえば、僕はきみとこれ以上話して、きみを好きにならない自信がないんだ。だから、どうか、わかってほしい」「彼」の言葉を聞いて、ああ、確かにこの人は私にとって最適な相手なのだと知った。他の誰より、気が合って、支え合うに足る相手。彼はまだわたしの本心を知らない。私も同じ気持ちでいると知らない。もし話してしまえば、もっとお互いのことを知りたいと思ってしまう。それはきっと避けねばならないことだ。 わたしはふたたび口元に小指をあてる。「わかった。切りましょう。この糸を」できるだけ愛想なく言ってみたつもりではいた。わたしはきっと後悔するだろう。きっと惨めな気分を味わうだろう。 「ありがとう。きみという人と話せてよかった」 いや、たぶん、「彼」も知っているのだろう。わたしが「彼」という人と同じ考えで生きている人間だということに。わたしたちはどこまでも似た者どうしなのだから。 だったら言葉はもういらない。 わたしは小指から伸びる赤い糸に左手の人さし指の爪をあてた。 それはあまりにあっけなく、音も立てずにきれて、伸びていた糸もすぐに空気に溶けていった。 気づけば夕陽が完全に沈み、夜空に幾つかの星が瞬いている。いつか「彼」と別の形で出会うことがあるのだろうか。それさえ含めての運命なのだろうか。抗い抗った先に、余計なことなどしなければ良かったと思うのだろうか。「彼」もまた同じ気持ちでいるだろうか。いや、今は考えるのはやめよう。 今なお熱い身体さえ、すべて夏の暑さのせいにしておこう。ーーーーーーーーーー遅くなってすいません。長くなってすいません。描写薄すぎてすいません(夏っぽさはどこいった・・・)。でも、楽しかったです。
はなのさん会話文が活き活きとしていて良かったです。コミカルに始まって、気になる展開となり、最後には意外な事実が分かる。切ないなかにも、主人公の女の子が前向きさがあって、読後感も良いものでした。一方気になる点は、会話主体で、その場の景色、空気を感じにくいことかも。もっとも、早書きが前提だったので、あえてこういう書き方を取られたのかなとも感じます。楽しく、甘酸っぱく、切なく、そしてほんのり温かい作品でした。マルメガネさん正直にいえば、マルさんのはいつもワンシーンだけで終わって、物語性が弱いという印象がありましたが、今回のはとても良いなと思いました。物語性があるから、ということとは違って、描写から浮かび上がる生活感がいい。「そこ」を強く感じることができました。とても味わい深いものだと思います。まあ一方で、僕のような物語を求める人間には、まだ印象として残りにくいかもしれない、ということは伝えておきたいです。ROMさん二転三転する展開がが良かったですね。オチは多少強引ながら(伏線もなかったような)驚きだけでなく、登場人物のその後に思いを馳せることができるような感じになっていて、読後感も良かったです。また、流行語も入っていて、にや、っとさせられたところも好きでしたw。文章は急いで書いたこともあってだろうと思うんですが、ちょっと読みにくかったです。>夏真っ盛りの8月に僕はアルバイト先のコンビニで、例の目と口しか開いていないニット帽を首まで被り、包丁を持った男とレジのカウンター越しに対峙していた。これ、普通に読み進めると、「僕」がニット帽を被っている、というふうにまず読めました。つづきを読めば、すぐに状況は理解し直せるんですが、スムーズに読める感じではなかったかなと。もっとも、急いで書いたからという部分が大きいと思いますが。海 清互さん 椰子と冬やっぱり一読して思ったのは、情報量の多さに圧倒されたということ。SF的(?)な語彙、イメージの応酬で、よく即興でここまで盛り込むなと驚かされました。まま、小説としては駆け足で、説明的になっている感はやはり否めないと思います。それでも、この世界はいったいどういう成り立ちで生まれそこに存在するのだろうと、終始興味を持って読むことができました。なんていうんだろう、カロリーメイト的に、ぎっしり情報が詰まった掌編といった印象です。(って分かりづらいかなw)登場人物は、狙ってなのか、時間制約のためなのか、あまり生きた感じはしなかったように思います。でも、味がないというわけではなく、むしろこの世界観にあっているようにも思えました。最後らへんはまあこう〆るかなという予想通りのところに落ちついたので、贅沢をいえばこの世界だからこその〆であるとなお余韻があったかなと。あと、ダニロというペットがいいですね。以上、簡単ですが感想でした。みなさま、ご参加ありがとうございました。
出遅れましたが、感想をば。 はなのさん 会話文がいいですね。イキイキしています。展開もいいかと思います。女の子の気持ちも出ていると思います。 ROMさん コンビニ強盗ですか。そこは思いつきませんでした。二転三転して、いい結末になったのかな。後味すっきりします。 海 清互さん 情報量が多いですね。ここまで書いてみたい、と思いますが羨ましく思います。 最後あたりがなんだかちょっと切ない気がしますが、うまくまとまっていると思います。 片桐さん 夏の出会い、ということでしょうか。主人公の女の子の独白が多いですね。相手の男の子の心情も少し入れたら違ってきたかもしれません。 でもすんなりと読めました。 以上、拙い感想でした。
もともと体調を崩していたのに、さらに風邪を引いてしまいました。うぅ感想です。>はなのさん……ななめに王道ですね!女の子が可愛らしくて、夏のイメージからとてもキラキラしていて眩しかったです。思いを伝えられない切なさが独白だけでなく猫写として書かれたらもっと良かったのかなという気もします。テンポも良くてスラスラ読めましたが、あっという間に終わってしまって物足りなかったです。笑このノリで、ミステリやホラー長編を書いたらどうなるんだろうと興味あります。>マルメガネさん個人的にですが、今回の中で一番夏を感じ、今まで読んだマルメガネさんの文章で一番好きです(いや、全てをさかのぼって読んだわけではないのですが……すみません…)。短いのにイメージが頭に浮かんできて、空気まで感じられそうです。何気ない子どもたちの登場がいいですね。「生前祖母に何かしてあげることが出来なかった」「なかなか伝えたれない祖母」そのジレジレしたエピソードがのればぐっときたのかもしれません。>海 清互さん1時間でこの世界観を書いたのは驚きです。ひとつひとつの要素が興味深くて、ワクワクしながら読んでいました。ただ、私の読解力の悪さのせいか、ところどころ止まってしまう箇所がありました。長編で書いたら、解決される気がします笑 やはり、短さのせいであらすじっぽく、世界の全貌が見えないまま終わってしまった感があります。もったいない…!少年の情報と自分の情報を世界から切り離すとか……ベルタすごくないですか。何者ですか。ベルタと少年がこの世界でこの後どう生きていくのか、気になります。>片桐さん赤い糸があるけれど、それに従いたくないというのは面白い流れだなと思いました。相手と実際に合わずに終わるのも私には新鮮でした。母とのエピソードが唐突で、少し戸惑いました。「そういうものなのよ」でいつも終わらせていた母に”わたし”は最後までしつこく問うかなと。この母が納得いく答えを説明するかなぁと。なんとなく”わたし”は自分で地道に調べそうな気がしました。想像ですが笑この先のストーリーをいくつも想像させられる終わり方で、どうなるんだろう?と気になってしまいます。ハッピーエンドになってほしい期待感ありありです。片桐さん、マルメガネさん、感想ありがとうございました。皆同時に書き始めるのは初めてで、かなり焦った感がでてしまう文章になってしましました。でも、このプレッシャーに押されて書くのが楽しいですね笑今度また機会があったら、気をつけようと思います。