夜更けの三語SHOW♪ ( No.1 ) |
- 日時: 2011/11/07 00:12
- 名前: tanaka ID:TRpI9nSU
お題は、「冷たい風」「バッハ」「肉まん」です。
「麻酔を打ったから、もう痛みは感じないわね」 昼野は朦朧とした意識の中、彼女の言葉に頷いた。 「私はバッハよりも、悪魔に魂を売ったと言われるパガニーニが好きなの、サルヴァトーレ・アッカルドの演奏に心躍るの、それで我慢してね」 静かな小音から壮大に広がるバイオリン協奏曲、開いた窓からの冷たい風か、麻酔で揺れ動く昼野の心をも魅了していた。 リズムに乗って料理を作る彼女、全ては昼野に食べさせたいが為に、最高の材料を用意していた。 昼野が所望したのは肉まん。それもただの肉まんでは無かった。 一度きりの肉まんを昼野は彼女に望んだ。 昼野の手足をチェーンソーで削ぎ落とす彼女。血しぶきが壁一面に降り注いだ。 昼野の手足をミンチにする為、臼を用いきねで叩き、すり潰した。 それを自家製の生地に包んで蒸す事三十分、残ったミンチはハンバーグにすると決まった。 自分の欲望から手足を失った昼野に彼女は食べさせる。 熱々の肉まんに感激のあまり、昼野は涙を流し頬張っていた。
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Re: 夜更けの三語SHOW♪ ( No.2 ) |
- 日時: 2011/11/07 00:26
- 名前: 昼野 ID:ve/tlAUw
僕はiPhoneにぶち込んだ、バッハのマタイ受難曲を、イヤホンで聞きながら、街角を歩いていた。とくに何処へ向かう目的もなく、歩いていたのである。 灰色の住宅街が並ぶなか、僕はバッハの旋律を聞きながら、涙を流していた。バッハを聞くことで、自分の心がどれだけ汚れていたかを、その時、理解した。そして糞まみれに汚れた心を、浄化されるようだった。 季節はもう冬であった。冷たい風が吹き荒れていた。僕は頬を伝う涙を隠すのと、寒さとでコートの襟に、首をうずめるようにした。 それにしても、僕は音楽を聞くことで涙を流すほどに、心が汚れているのだろうか。具体的な事は何一つ思い出せないが、しかし僕は今年で30歳であり、それなりに世間や社会との接触をしてきた。そうして、自然と、自分でも気づかないうちに、汚れているのだろうと思った。でも、僕は十代の頃の無垢な魂には、もう戻れない。しかし、それでもいいと思った。バッハの音楽がしてくれた事は、汚れを汚れであると自覚させてくれた事だ。僕は、その罪を背負って生きていくし、今後も罪を犯すだろう。しかしそれは生きる上で、仕方のない事だ。何よりも生きることは大切だ。しかし何処かで罪を罪であるとの意識をもち続けようと思う。 僕はそう決意して、寒気が猛威を振るうなか、寒さを癒すために、コンビニで肉まんを買って食べた。その温もりに自然と涙が出た。それはバッハの音楽がもたらした涙とはまた別の類いの涙であった。
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夜更けの三語SHOW♪ ( No.3 ) |
- 日時: 2011/11/07 00:48
- 名前: tanaka ID:TRpI9nSU
お題は、「冷たい風」「バッハ」「肉まん」です。
些細な事で彼は彼女と口論になった。 一言で言えば、音楽性の不一致。二言目を当てるなら、価値観の違いとも言える。 「音楽の父とも言えるバッハ、クラシックは唯一無比の音楽よ、現代人も魅了するんだから、聞いた人は素直に感動するわ」 「クラシックは確かにいいけど、所詮は過去の遺物だよ」 「ひどい、どうしてそんな事が言えるわけ? 過去の偉大な作曲者達を愚弄するのね」 「愚弄するわけじゃないけど、過去ではそれが限界って事だね」 「よく分からないけど、ちゃんと説明出来るの? 寒いから窓閉めて」 「ハイ」 こたつから出て窓を閉める彼。冷たい風は無くなった。よっこいしょとこたつに戻り。 「そうだね、簡単に説明すると、この現時点でも、音楽は進化し続けているよね、音楽と言うよりも、機材だね、過去には電気がなかったってのは一目瞭然だよね」 「当たり前でしょ」 「僕が思うにそれが凄く勿体無いと思うんだ、確かにクラシックは素晴らしい、だけど、偉大な作曲者達に、今の最高の機材を使って貰ったらどうなるんだとね」 「それは… 所詮は空想よ」 「空想と言われればそれまでだけど、今やパソコンで打ちこめば、子供でも音が出せる。思うに、偉大な作曲者達は、人が演奏出来る範囲でしか曲が作れなかったと思うんだ。過去の時点では最高でも、現代ならって、そう思わない?」 「思わない」 「イテッ」 彼の足を蹴り、ぱくりと肉まんを頬張る彼女、いつもの会話、結局結論は出ない。今日は音楽の口論、昨日は映画の口論、こたつに入って肉まんを頬張ると、全てはどうでもいい話題になってしまう。 「肉まんも飽きたから、明日はおでんがいいな」 そんな二人のこたつでの会話。
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エロなしグロなし♪ ( No.4 ) |
- 日時: 2011/11/07 00:44
- 名前: 弥田 ID:DUEu0/u2
少女は肉まんを食べていて、ときどき美味しそうに顔をほころばせる。僕はその内容物について聞くこともなく、少女のやわらかい臀部の下で、じっと椅子になったままかたまっている。動くと鞭がとぶから、みじんとも動かないままかたまっている。 「おいしいよ」 と少女は言う。きみも食べる? と差し出されたのを、舌で舐めて、それ以上はどうしようもない。それだけで胃が痙攣して、内臓がもつれてこんがらがったような、肺の空気がどろどろと溶けて粘液と化したような、強い吐き気をおぼえて苦しい。 瞬間、空気の裂ける鋭い音がして、右のももが熱く焼ける。遅れて冷ややかな痛みが来たので、ようやく鞭でたたかれたことを理解する。 食べないの? と少女が聞く。今度は鼻先にまで差し出されて、なんとか囓ろうとするのだけれど、くちびるに触れたとたん硬直する。吐き気が苦しくて、ふたたび鞭。いぎ、と痛みに声が漏れ、それでもどうしても身体が拒否するので、ただ左右に首を振っている。 「食べれないんだ」 の言葉にうなずく。じゃあ、いいよ。と少女は笑って、肉まんにかぶりつく。ほ。と安堵した隙に、キスされて、十分に咀嚼した肉の塊が、唾液にまみれて、口移し……。思わず飲みこんでむせるが、げほげほと咳き込むばかりで吐き出せない。からえずきばかりして、嘔吐の感覚が静かに繰り返される。 少女が笑っている。哀れげにひきつる僕を見て、くすくすと少女が笑う。みるからに楽しげで、バッハなんかを鼻歌いしながら、やたらに鞭をせなへと振り下ろしてくる。臀部がもぞもぞと動いて、そのたびに、素肌と素肌がこすれあう感覚。熱さと冷たさと、吐き気とやわらかさと、繰り返される連続がからえずきして、死んだ誰かの肉だけが、胃の中でじっとかたまっている。 「おいしかった?」 首を振ると、少女は笑うのをやめ、愛しげな目つきをする。 「じゃあ、もう一口食べようか」 ちいさく赤い唇がかみつく。白い生地はどこか女の肌にもみえて、それがきもちわるい。先ほどここで泣いていた彼女も、そういえばこんな色をしていた。いまはもう、じっとかたまっている。 少女の顔が近づいて、口内でよくこねられたのが、ふたたび、……。 再度はげしくからえずきしていると、ふいに冷たい風が吹く。開け放された窓から流れ込んできて、火照った素肌を撫でていく。 「交代だね」 「交代だね」 と、僕らは言う。 「なにがしたい?」 「えっと、うんこはもういいや。もっと優しくて気持ちいいのがいい」 「そっか」 少女の手足を縄でしばると、身動きも取れないようで、じっとかたまっている。芋虫のようにうごうごしながら、小首をかしげる。 「なにをするの?」 「ないしょだよ」 鞭をあてると嬌声があがって、あとは熱にうかされたまま、風を待ちつつ、少女と永遠に繰り返す、夜。
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GO TO THE STORE ( No.5 ) |
- 日時: 2011/11/07 01:18
- 名前: ラトリー ID:E11ilF6o
自動ドアが開くと、外の冷たい風とうってかわって暖かな空気に歓迎される。 最寄り駅から自転車を飛ばせば十分とかからない道のりだが、十二月も半ばをすぎると冷えこみが厳しい。夜型人間の俺にとって、深夜のコンビニ通いは自宅の節電と暇つぶし、それに食材補充をかねたうってつけの習慣になっていた。 寒さで空気が引きしまっているのを感じる。こんな日はバッハの曲がよく似合う。そうだ、『シャコンヌ』がいい。ヤッシャ・ハイフェッツが一発で録音を成功させた、きしるようなバイオリンの音色。頭の中で存分に響かせながら、俺は店内に足を踏み入れた。 レジに店員の姿はなく、こうこうと明かりのともった内部は静まりかえっている。奥のほうで、がさごそとかすかな物音が聞こえるばかりだ。 深夜二時をすぎて、さすがに客は俺一人だけということか。近所の連中の早寝早起きぶりには驚かされる。これからが楽しい時間だってのに。 トイレを通りすぎ、食品コーナーへと向かう。予想通り、全国どこでも見かけるダサい制服を着た男が、陳列された商品を前に忙しそうに手を動かしていた。ろくに洗濯もしていないのか、制服は黒ずんだしみでひどく汚れている。俺が近づいてくるのにも気づかない様子で、ぶつぶつと何かつぶやいていた。 「まずは飲み物を入れ替えて……お弁当はその次……で肉まんとおでん温めて……あ、店長にも報告しとかないと」 張り合いがない。俺はやすやすと男の背後に立ち、懐から愛用のサバイバルナイフを取りだした。男の背中に突きつけつつ、もう一方の手をすばやく首筋に回す。 「おい、金を出せ。レジへ行くんだ」 男は暴れ出さなかった。両手を上げ、歩き始める。トイレの前まで来たところで、ぴたりと足を止めた。しきりに俺の顔を見ようと首をひねろうとするが、そうはさせない。いかにサングラス、マスク、帽子で固めていようが、余計な目撃証言は命取りだ。首に回した手をきつくからませ、早く歩くように背中へナイフを押しつける。 「何してんだ。さっさと行け」 「でも、店長に報告しないと……」 「報告とかどうでもいいだろ」 「レジ、開けられないんですよ。鍵は店長が持ってて、今はトイレに入ってるんです」 やれやれ、使えないバイトを脅してしまったもんだ。店長から鍵を奪い取ったら、こいつもそのままトイレに押しこんでおくか。 男をドアの前まで歩かせ、脇の壁に押しつけて、すかさずノブに手を伸ばす。わずかに開いたドアに足を引っかけ、蹴り開けた。 「……あ?」 トイレの中には、血まみれで和式便器に顔を突っこんでいる人間がいた。いや、あったと言うべきか。 いつの間にか、首に回していた手から男の感触が消えている。もう一方の手にあったナイフも。直後、腕に鋭い痛み。手を引こうとしたら、冷たい指先でがっちりと捕えられた。 「ここ、店長一人で切りまわしてたみたいですね。危ないですよね」 背後から男の声が聞こえた。さっきまでとは別人みたいな、愉快でたまらないような響き。頭の中で、『シャコンヌ』がクライマックスへとさしかかる。悲劇から救済へ。苦悩を突きぬけて歓喜へ。それは誰のための旋律? 戦慄? 「コンビニごっこ、楽しかったなあ。強盗さんとも遊べて満足、満足。あとはちゃあんとやっつけて、さっさと家に帰ろうっと」 最後に感じたのは、背中の皮膚に食いこむ愛用のナイフの尖端だった。
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Re: 夜更けの三語SHOW♪ ( No.6 ) |
- 日時: 2011/11/07 01:31
- 名前: nigo ID:iBitOkto
唇を指先でいじくるとちくちくと痛む。それが少し心地いいような痛みだったので、しばらく続けていた。 秋の冷たい風が吹いてきたので、僕は首に巻いたマフラーを口元まで持ち上げた。ささくれた唇が毛糸に引っかかってまた少しちくちくする。 唇を舌でなめてから、あらためてマフラーを持ち上げる。毛糸の中に吐いた息の温度と湿り気がたまって暖かい。
彼女は白っぽい灰色の暖かそうなダッフルコートと、これもまた暖かそうなもこもことしたブーツを履いていた。手袋をはめた両手は後ろに組んで、少しうつむきがちに歩いていた。 「そのブーツ、かわいいね」と僕が言うと彼女は、 「ありがとう」と言った。それで会話が一旦途切れる。帰り道はあまり会話が弾まない。 落ち葉をくしゃくしゃと踏みしめながら、二人してだまって歩いている。会話もなく、歩くスピードは彼女の歩幅にあわせているから、僕はゆっくりと流れるその時間を少しだけもてあましている。 もうすぐ日曜日が終わる。僕たちは自分たちの町に帰る。次に会えるのは、きっとしばらく先の週末だ。次に会うときはもっと寒くなっているんだよな。なんてことを、駅に向かって二人で並んで歩きながら僕は考えていた。
「電車は何時?」 「まだ後一時間くらいあるかな」
「まだちょっと早いかな」 「うん。そうかも」 会話が途切れる。こんなふうな短い会話を何度か続けた。 合えない時間が愛を育むのさ、なんて誰かが歌っていたけれど、そんなのは嘘だ。と僕は思う。 日曜日の商店街は閑散としていて少し寂しい。だからこんな気持ちになっているのかもしれない。夕方の五時にはスピーカーで商店街に音楽が流れた。多分バッハの曲だったと思う。このあたりの子供たちはそれを聞いて家に帰るんだろう。きっとずいぶんとおしゃれな子供たちに育つんだろうなと思ったけれど、人通りの少ない商店街に流れるその音楽は僕の気分をさらに寂しいものにさせる。寂しい商店街だな、と僕は思った。それから、何かしゃべってくれないかな。なんてことを僕は彼女に対して思っていた。
僕らは黙り込んだまま、犬を連れた女の人と、自転車に乗った人と、ゆっくりと杖をついて歩くおじいさんとすれ違った。シャッターの下りた商店の壁には「肉まん」と書かれたポスターが貼られていた。 「肉まん」と僕はつぶやいた。彼女は何も言わなかった。
昨日の夜は楽しみだったけれど、楽しい時間も、終わってしまえばこんなものなのかな。楽しみだった分、別れ際が寂しくなるのかも知れない。なんてことを考えながら、僕は冷たくなった指先を上着のポケットの中にしまった。
そんな風にして、楽しいことだとか、幸せな時間には、みんな終わりがあるのだろうか。なんでもみんな、楽しかった分、その反動で寂しい気持ちになるのだろうか。 それから、僕たちは後何回くらいこうやって並んで歩くのだろうか、なんてことを計算してみると、このペースでいけば一年の間に十数回程度という計算になった。だから、こういった気持ちがきっと一年の間に十数回程度はやってくることになるはずだ。何もかもがずっとこのままだったら。 そんなことを考えて、僕はどうしようもなく寂しい気持ちになった。
だから、何でもいいから何かを言わなきゃいけないな、と思った。せめて駅に着くまでの間に、何か一つでも楽しい話をと。でもどんなに考えても、うまい話題が何も思いつかなかったので、僕はまた馬鹿みたいに彼女の服装を褒めることにした。 「その手袋、あったかそうだね」と僕は言った。 「一つ貸してあげようか?」 彼女は右手にはめた手袋をはずすと、僕に向かってそういった。 毛糸の中にはまだ手のひらの温度が残っていて、僕は暖かいな、と思った。
それから僕たちはまた黙って二人で歩いた。手袋をはめていない方の、あいた手をつないで。次はいつ会おうか、なんて話をしながら。
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感想です ( No.7 ) |
- 日時: 2011/11/08 00:30
- 名前: nigo ID:NxbwY0P.
tanakaさん むむ、一作目、サディスティックな作品ですね。いろんな意味で! 個人的には二作目のほのぼのとした感じがとても素敵です。寒いから窓閉めて、で一旦会話が途切れるところがなんとも言えずかわいらしくて好きです。仲良く喧嘩。ほのぼの素敵です。
昼野さん エログロなしの作品ははじめて読ませていただくかもしれません。自分は汚れていると考えている主人公がその汚らしさと正面から向き合っていく、前向きなお話ですかね。深いテーマだと思います。もう少し前後があったほうが読み手としてはうれしいかなと思いました。
弥田さん エロなし、グロなし、これは罠ですね。生々しい描写と不思議な二人の関係が妖しい魅力を醸し出しています。あいかわらず文章もお上手です。でもやっぱりえっちいと思います!あと肉まんの材料!
ラトリーさん これだけの時間でしっかりと落とす作品を作られるのは、さすが、お強いです。バッハの使い方も素敵です。シャコンヌを検索して聞いてみたのですが、後半からの展開ともぴったりはまっていて、おしゃれで上手だと思いました。おしゃれ上手! 自作 夕方五時にバッハが流れる寂しい感じの商店街って、そんなもんあるかーい! いや、あったらかっこいいかも知れませんが。強引ですね。くそー。
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