[31] 凱旋(仮)
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- 日時: 2011/08/17 00:28
- 名前: 弥田
ID:TynBFfRQ
八月十六日
きょうこわかったことなどを書きつらねる。 きょうも鳥がとんでいた。雀、カラス、昼過ぎに街外れで鳶、K宅へむかう途中の田んぼに中鷺。鷺は脚がながい。それからすこし不恰好におもえる。いつもながらカラスは飛ぶのが下手だ。その辺を歩いているのも大儀そう。 人家が多いとどうもなにかに押込められているような気分になる。祝日なので街に出ても人が多い。どこへいっても人がいる。K宅へつくと少し落ちつく。見知った空間。 ものを食うとき箸をもつ、持ったときの手の、指の、箸のうごきがきみわるい。 食卓で正面に座ったひとのこともあまりみたくない。目の端が充血していたりして、こちらをたまに覗くのが(眼球がうごいている)のがこわい。 こわいものが多い。 ビールをごちそうになる。500ml缶三本。 2ℓパックの日本酒からコップに二杯。 夜帰宅している途中、自宅間近の道路。道路標識が、みあげる頭上を、まるで映像かなにかのように通り過ぎていったので(通り過ぎたのは自分だが)やたらにおそろしかった。 盆の墓参りにまだいっていない。盆は過ぎたがはやくいこうとおもう。 線香を買うこと。 それにしても鳥が飛ぶというのはほんとうにおそろしい。 K宅へ行く途中、××町のトンネルをぬけた階段でトカゲをみた。尻尾が光っていた。薄黄緑色の尻尾が蛍のようだった。意識して踏むと、トカゲは尻尾を切り離し、雑草へと消えて行った。抵抗するように身をよじる尻尾を摘まんで、胸ポケットに入れる。K宅へと私は足を速めた。
あいつはまだか、どこで道草をくっているんだ? 畜生、あいつが憎い、憎い、憎い、憎い、僕の憎悪は満ち溢れている。あいつはぼくにしたことを忘れているのか? あんな事をしておいて僕に会おうだなんて、僕はあいつを待ちわびながら、Tシャツに隠しているナイフを素早く刺す練習を怠らない。酒のつまみはそうだな、あいつの臓物を火であぶって、塩をまぶして平らげよう。
「こわいもの? うーん、精神異常の殺人鬼、かな」 と、Kは言う。手みやげの光るしっぽは、ポケットに仕舞われたきりだ。四つ脚の卓の上には、カップラーメンがふたつ。片方は私に、片方はKに。塩気があって、温かくて、酔った頭によく沁みた。 「あとは、そうだな。モノリス、かな」 「ものりす」 言葉を思わず反復する。モノリス。そうか、そういうのもあるのか。 「特に飛ぶモノリス、だな。こいつはこわい。ひたすらにこわい」 「とぶものりす」 なるほど、の意でひとつ頷く。そういうのもあるのか、おもしろい。 「昨日見たよ。ぼくには、あまり怖くなかったけれど。そうだな、同じ飛ぶのなら、鳥の方がこわい」 「へえ、そういうのもあるのか。おもしろいなあ」 「まったくだ」 カップラーメンをすする。Kもすする。その隙に彼の瞳をうかがうと、端がわずかに充血していて、それがじっとこちらを見ていて、瞳孔が、きゅう、と音たてて収縮する。はっとして目をそらした。 沈黙とも唸り声ともつかない、気まずい時間が流れて、誤魔化すように口を開いた。 「黒と、緑と、あと、あとは、そうだ、白だ。黒と緑と白と、そんな色をしたモノリスだった。それが浮いていたんだよ。鳥はいなかった。だから安心して見れた。一〇分か、もうちょっと長かったか、それくらいの時間が流れて、僕の視界の端から端まで、音もなく過ぎていった」 少し早口だった。もしかしたら聞き取れなかったかも知れない。
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