ハンバーグには痺れ粉を ( No.7 ) |
- 日時: 2010/12/26 00:15
- 名前: 千坂葵 ID:QNP4Vrrw
「聖なる夜?頼むからそんな反吐が出るようなこと言わないでくれ。第一、“性”なる夜の間違いだろう」 お前らしくもない、そう彼は続けると、歯並びの良い白い歯を見せた。そんな彼に、顔をしかめる様子を見せるも、本人が気付く気配は全くない。 「骨折なんかしてなければ、きっと今頃ベッドでギシギシ、女の子とハァハァだったのに」 「あんたの性器に、ギプスの永久装着を命じるわ」 冷めた表情で言い放った言葉に、彼は嬉しそうに笑う。二次元の世界の迷子には、どうやらこのつれない態度すら、お楽しみに変わるらしい。 本来ならば、彼と一緒にクリスマスを過ごすなんて、数日前の私なら考えられなかった。まず、そんな展開が頭に浮かびすらなかっただろう。 恋人と二人で過ごすクリスマスに、憧れだのときめきだの、そんな甘ったるいだけの砂糖菓子に、元々興味はなかった。 今年クリスマスってあったっけ?それって、千年に一度、某有名RPGに出てくる赤いおっさんの類似品が、空から落っこちてくる日でしょ?どうせなら髭は黒にしようよ、中途半端だなぁ。 こんな救いようのない思考を飽きもせず、頭の中で張り巡らせるのが、例年だ。 そんな私が今、他人様の家の台所で、自分の心の形によく似たハンバーグを焼いている。 誰のために?そんな野暮な問いは、ひき肉にしてしまいたい。
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「こりゃまた歪な形のハンバーグだなぁ」 嫌味ったらしい笑顔の中にあるあどけなさに、こちらの表情も緩む。嬉しそうにケチャップをかける姿は、まるで幼稚園児のようだった。 「メリークルシミマス!いやっふぅ!」 ハンバーグには赤い文字で“リア充爆破”と、彼の本音がぶちまけられている。 今日という忌々しい日を消化するように、ハンバーグを頬張る彼。精神年齢五歳児の口元には、生き生きとした赤がこべりついていた。 ○
「ありがとな」 いつになく真剣な声色に、私は目を見張る。そこに幼い彼はいなかった。 くしゃり。こぼれた彼の笑顔。くしゃり。撫でられた私の頭。 私は、感情を麻痺させ、氷のような表情を見せる。それでも彼は絶えず、そんな私を溶かすように笑いかけるのだ。 彼が私の心を、サーチライトで探し当てる日は、そう遠くはない気がした。
お題が上手く活かせなかった、なぁ。
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