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RSSフィード [41] 郵便受けの中に食べかけのプリン小説の巻
   
日時: 2011/09/17 23:19
名前: 片桐 ID:WXVvW6ag

今日はまた趣向を変えて、冒頭をある共通の出来事から始める小説、というのにチャレンジしてみます。その出来事とは『郵便受けの中に食べかけのプリンが入っているのを見つける』です。そこから物語をスタートさせて作品を仕上げてください。

締め切りは今からだいたい一時間。多少遅れても問題ありませんよー。
楽しめそうなら、どなたでもご自由にご参加ください。

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Re: 郵便受けの中に食べかけのプリン小説の巻 ( No.6 )
   
日時: 2011/09/18 00:51
名前: 桜井隆弘 ID:pdiTfW/k

 会議を終えた綾は、残り十メートルほどの家路に着いた。会議といっても重要な会議ではない、井戸端会議だ。十メートル走を終えると、一足先にゴールした娘の加奈が待っていた。
「ごめんね加奈、待たせちゃって」
 綾はそう言いながら、おもむろに郵便受けを開ける。中は空だった――いや正確には、食べかけのプリンがポツンと置いてあった。
 綾は即座に加奈の手元へと視線を移し、そこにプリンが無いことを確認する。
「こら、加奈ー。こんな所にプリン入れちゃダメでしょ」
 弱弱しい目線を上にして、加奈は答えた。
「だって小さいおじちゃんが食べたいって言ってたんだもん」
「小さいおじちゃん……?」
 加奈はまだ幼稚園児だが、来年にはお受験を経て私立の小学校へ進学する予定だ。将来はバリバリ働くキャリアウーマンにするつもりで、綾は今まで育ててきた。間違ってもナントカ星から来て、果物の馬車に乗ってますなどと言うキャラに育てる気は無い。新宿のデパートにひとたび出掛け、試食のおばちゃんに「お嬢ちゃん、どこから来たの?」と問われれば、「チバ」と答えられるくらいには教えてある。
 それ故、加奈の言葉はいささか衝撃的だった。綾の中で、小さな憔悴と混乱が湧き起こる。
 だが、そんなことに加奈はお構いなしだ。
「見られると恥ずかしいんだって。だからフタして隠してあげたの」
 綾は、加奈に可愛らしさを微塵も感じられなかった。いよいよ育児の危機だ、将来の破滅だ。
「あっそう。おじちゃん、美味しかったって?」
 加奈の手を引いて歩き出した綾は、半ば投げやりにそう尋ねた。
「うん、ありがとうって言ってた」
 その答えに、綾は自ら質問したことを悔いた。

 家に帰ると、テレビを見ながら寝っ転がっている夫の幸成が見えた。大体、父親がこうだらしないから、娘もいい加減になるのだ――綾は思った。
「ハハハハ」
 自分を嘲笑するかのような幸成の声に、綾は段々苛立ってきた。
「あなた、休みの日くらい加奈の相手してあげたらどうなの?」
「うるさいな、休みの日くらいゆっくりさせてくれよ」
 すぐに応酬する幸成に、綾は更に腹が立つ。
「自分のことばっかり優先して、私も加奈も結局ないがしろにされてるじゃない」
 綾の言葉に、幸成は体を起こした。
「じゃあ、お前は俺を大切にしてるのかよ。大体、結婚指輪は見つかったのかよ?」
 その言葉は、幸成の取って置きの攻撃だった。結婚指輪を失くしたという落ち度は、綾にとって致命的な急所だ。
「ママー!」
 ふと台所の方から、加奈の声が聞こえた。
 これはまさに救いの声だ――綾は気前良く反応して、幸成の前から退却する。

「加奈、どうしたの?」
 冷蔵庫の前に加奈が立っていた。
「見てー」
 加奈はそう言って、足元を指差す――冷蔵庫の陰に見えたのは、ダイヤの指輪だ。
「え、加奈が見つけてくれたの!?」
 加奈は首を横に振って答える。
「小さいおじちゃんが見つけたの」
 その言葉に、綾は何とも言えない説得力を覚えていた。
「プリンのお返しだって」
 綾は加奈に可愛らしさを感じて、優しく頭を撫でてやった。そして指輪を拾い上げ、左手薬指にはめると、再び戦場へと赴く。

「あなた、ちょっと加奈と遊んであげてよ」
 再度の宣戦布告だ。
「だから……それはお前が指輪見つけた後だな」
 そう言い終わるや否や、幸成の目に光線が走る。
「そ、それは……」
 微笑む綾。たじろぐ幸成。


 それから時々、綾は郵便受けにプリンを入れて、フタを下げるようになった。
 小さいおじちゃんには、まだ出会えていない。

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