Re: 山場を越えた道行は収束にむかい。とかいいつつ、三語。 ( No.6 ) |
- 日時: 2011/03/07 23:58
- 名前: 李都 ID:GqGBh7eg
「生まれる線」
ふと、私に目ができた。口ができた。耳ができた。首が、肩が、腕が、胸が……最後に足の爪ができた。綿毛のようにあたたかく、這いずりまわるように気持ち悪い、くねくねとした、どくどくしたなにかが私を形成していった。 まっすぐな線が私のつま先から延びていた。寸分違わない真っ直ぐな美しい透明な線だった。その線を隔てて右と左ができた。 右からはもわっと熱気が伝わってきた。とても高い塔が見えた。その上には強い光があって、その下には濃く長い影が延びていた。雄たけびが聞こえたかと思えば、歯を食いしばって泣く声、何かがぶつかり合う音、楽しそうに狂気的に笑う声が聞こえた。楽しそうだと思ったけど、恐ろしくなる音もあった。ときどき胸のあたりに重く圧し掛かる何かを感じた。 左からは華やかな香りがした。時々ツンと嫌な匂いがした。こちらには大きな深い穴があった。穴からはこぽこぽと水音がした。きらきらと水の玉が跳ねている。その水玉の中で時折紅が見えた。囁くような優しい声が聞こえたと思えば、金切り声が、陰湿な声が、高笑いが、物を壊す音が、甘美な喘ぎ声が聞こえた。艶やかで美しいと思ったけど、恐ろしくなる音もあった。ときどき胸のあたりをぐしゃぐしゃに潰す力を感じた。
私はどちらか選ばなくてはいけないのだ。知っている。この線を見た時から知っている。 どちらも楽しいのだろう。嬉しいのだろう。でも、どちらも苦しいのだろう。痛いのだろう。 さて、どうしたものか。とりあえず、転ぶまでこの線の上でも歩いてゆこう。どちらでもいいけど、どちらがいいとは言えないから、私は選ばないことにする。だから、あなたたちが選んでほしい。私はあなたたちのためにそこに行くのだから。
「おめでとうございます」 血と消毒液と汗と電気の匂いで頭がくらくらする。痛みの中で夢を見ていた。ぼやける視界の中で目しか見えない白い女が私に話かけている。 「よく頑張りましたね。元気な……の子でしたよ」 紅いそれを怖々抱きしめると、あたたかくてまた私は眠りに落ちた。
******************************** 昔似た作品を書いた気がする この話題好きなんだなあと思う
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