Re: 郵便受けの中に食べかけのプリン小説の巻 ( No.5 ) |
- 日時: 2011/09/18 00:48
- 名前: 湊 ID:UzAbcBjg
朝刊を取ろうと郵便受けを開けると、そこにはプリンがあった。 よくよく見ると、食べかけだった。 誰のいたずらだ! 憤慨した僕はもちろん速攻ゴミ箱へと捨てた。 次の日の朝、郵便受けを開けるとまたプリンがあった。 やはり食べかけだった。 しつこい! 憤慨した僕はやっぱり速攻ゴミ箱へと捨てた。 三日目。 そこに食べかけプリンは存在していた。 僕は食べかけプリンを冷蔵庫に仕舞った。 四日目。 はたして、やはり食べかけプリンはいた。 仕舞おうと冷蔵庫を開けると、昨日のプリンがいた。 夢じゃないかもしれないと思った。
テーブルの上の散らかったビールの缶を片付ける。 毎晩のように飲酒が続いていた。 最近彼女に振られ、飲まないとよく眠れなかった。 これだけ続くと、酒のせいで変な夢でも見てるのかもしれないと思ったのだ。 現在も夢の中なのかもしれないが。 振られたこともいっそ夢だといいのに。 携帯のメールの履歴を見る。 「もう、別れよ……?」 夢じゃなかった。 じゃあ、食べかけのプリンはなんだろう。 僕はとりあえずお袋に電話をかけてみた。 一人暮らしで心配だからと、お袋はたまに合鍵で家に入っては色々なものを冷蔵庫に入れて行ってくれる。僕がプリンを好きなことを知っていて、必ず切らさないように補充していく。僕とプリン。それは切っても切れない関係。……なのかもしれない。……なのか!? お袋の答えはもちろんノーだった。いや、僕もそうだろうと思っていたよ。一応確認しただけなんだ。 もしかしたら彼女かもしれない。僕のプリン好きを知っているのはあとは彼女くらいだ。もう一度付き合いたいとか、そんな、素敵な夢みたいなことがあるかもしれない。 五日目、僕は郵便受けを見張ることにした。玄関の隅に隠れてじっとして一睡もせず、そこにいた。朝がきた。 五日目。プリンは郵便受けに来なかった。 なんだよー! そっから、ぷりぷりしながら酒を飲みいつの間にか眠ってしまった。起きると、昼を過ぎていた。朝刊を取ろうと郵便受けを覗きに行くと、食べかけプリンはあざわらうかのようにそこにいた。 ガッデム! 六日目。今度は昼間で粘ってみた。プリンは来なかった。夜になって、起きて、郵便受けを開けると、やはりいた。 そうだと思いましたよ、うん。 七日目。決戦の時。振り回されるのはごめんだ! というわけで、僕は防犯カメラを設置した。 朝郵便受けを開けると、食べかけのプリンはそこにあって、僕は防犯カメラを回収して、それを見た。 犯人に愕然とした。 そこに映っていたのは、僕だった。 そういえば朝刊を取りに行ってプリンを発見していたのだが、取りに行った朝刊はいつもそこにはなかった。大抵、自分が寝てるそばにあった。一度はトイレに置いてあることもあった。 彼女が言っていたことを思い出した。 あなたって泥酔するとすごくプリンを食べたがって、でも、一口食べるともういらないって子供みたいなことを言うのよね。 真相はこうだ。 酔っ払って冷蔵庫のプリンを一口食べた僕は、もういらないから仕舞おうと思い、仕舞おうと思った矢先、朝刊が読みたいと思い、郵便受けから朝刊を取り出す時郵便受けを冷蔵庫と勘違いして仕舞っていたのだ!(たぶん) お袋に冷蔵庫のプリンの補充をやめてくれるよう断ると、食べかけプリンの襲来はぴたりとやんだ。 プリンの襲来の謎が解けると、別れてしまった彼女のほうへと意識は向いた。彼女が自分にとっていかに大事な存在だったのか、思い知らされる。どうにかして戻れないものか。そもそも、なぜ別れることになったのかよくわかっていなかった。彼女がものすごく怒っていることだけしか分からなかった。意地になって理由を聞けずにいたが、聞いてみよう。もう何度目かの深酒の朝、朝刊を取りに行こうと玄関を抜けながらそんなことを思った。 尻のポケットに入れっぱなしにしていた携帯から着信音が鳴った。 彼女だった。 「元気?」 僕は正直に苦笑をにじませながら答える。 「あんまり」 「そう」 彼女の声は少し嬉しそうだった。 間が開く。僕はと言えば、これが何の電話なのか分からず戸惑うばかりだった。 彼女のほうが再度口を開いた。 「こたえてる?」 「もちろん」 「そう」 また会話が途切れる。でもそんなに悪い雰囲気ではない。彼女のほうがまた口を開いてくれた。 「うん……」 なんだか言いにくそうだ。それでも彼女は続けてくれた。 「うん。プリンなんだけど……」 「プリン?」 「そう、プリン」 彼女は僕の様子に気づいたように足す。 「もしかして覚えてない?」 「たぶん……」 困ったような声を出すと彼女は別れ話の真相を教えてくれた。 「あなた、私が、『プリンと私どっちが大事なの!?』って聞いたらプリンって答えたのよ……?」 なんだ、それ! そんなことで! と思ったが、そういうなんでもないことが大事だったりするよね。禁煙と変わらない。タバコと私どっちが大事なの、ならありえる。タバコがプリンであったっていいはずだ。うん。悪いわけがない。僕が彼女を傷つけた事実に変わりはない。プリンは大好きだけど、彼女のほうがもーーーっと大好きだ。 「それ、覚えてないんだけど、僕、プリンやめるよ。だから戻ろう?」 彼女の涙ぐむ声が聞こえた。それが答えだった。 電話を切って、朝刊を取るためにまた郵便受けのほうへと歩き出す。郵便受けを開けるとそこには、食べかけの焼き魚が置いてあった。 えっ!? 二度見したとき、恨めしそうな声が聞こえた。 「にゃあ~」 見れば郵便受けの上に猫が乗っている。いつもは郵便受けの中にすっぽりと収まっている朝刊が今日は少しはみ出していた。はみ出している部分に、油がついている。 謎は全て解けた! 食べかけの焼き魚を泥棒してきた猫が、郵便受けの上に乗っかり、ゆっくり食べようと口を開いたところ、魚は落下してしまい、はみ出した朝刊が受け皿となり、郵便受けの中に落ちた。そんなところだろう。 謎なんて解けてしまえばそんなものなんだろう。 僕は郵便受けから食べかけ焼き魚を上に乗っている猫の前へと出してやり、朝刊を取るとそのまま家へと戻る。 携帯からメールの着信音が鳴る。 『プリンと私どっちが大事?(笑)』 謎なんて解けてしまえばそんなもの。 『プリンと焼き魚より、君のほうがすごく大事だよ』 即座に送って、携帯をポケットに突っ込む。 今日からはお酒のお世話にならずにすみそうだ。
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