Re: 真夏のスマイリーホラーイベント! ( No.5 ) |
- 日時: 2011/08/16 01:00
- 名前: 端崎 ID:yEsJqTK2
雪駄履きでぶらつく。あぜ道を。トリスの小瓶を煽りつつ。 虫と蛙の声がうるさい。じめじめと暑さがいやらしい。田んぼの周りから宅地へ抜けるころ、踵にちくりと痛みがはしった。小石かなにかが挟まったらしい。 立ちどまってぱたぱたと叩いてみても、なかなか取れない。もしかすると底革を留めている鋲がつきだしてきたのかもしれない。 酔うにまかせてふらふらと宅地を突っ切る。しばらくするとまた田んぼがひろがっていて、そこを道なりにゆくと山林公園の真下に出る。 公園は入り口から坂をのぼった先にあり、春には夜桜を見物するようなひとたちもいないではない。まばらにではあるが灯りもある。しかしいまいる坂の下には――そして坂の途中にも――灯火はいっさいない。 たいした大きさの山でもないが、生い繁った木々の影で、坂の先がまるでみえない。 なかからみるとどうなっているのか、ウィスキーを煽ったいきおいで踏み入ると、樹影に樹影がかさなって、暗さが次々に覆いかぶさってくるような気がする。 すこしはのぼったか、とおもってふりかえると入り口のあたりのうす明りはアーチ上にしなだれかかった木の影に閉ざされてしまいそうだ。 とても平気ではいられなくなって、その場で引き返すと家までまっすぐ帰り、寝た。
翌日は休日で、窓から入ってくる風が身体をなでてゆくようで心地よく、うだうだ二度寝を決め込んだ。 まぶたが眠気にまかせて落ちてくるのを感じていると、ふと、昨日の坂道に立っている自分の姿が浮かんできた。暗がりにこわがって、たまらず来し方を振り返ると、みょうなものがうごいてくる。祭りのやぐらのような、はたまた巨大なナナフシかなにかのような、棒きれじみた細長い脚のようなものを夢のようなうごきで運びながら、坂を音もなく、宙に浮いたようにのぼってくる。その、なにかの正面に、顔が浮かんでいて、それはどこか能面のように表情がないのだが、たしかに、ある表情が貼りついているのだ。――笑顔が。
はっとして跳ね起きると、風がしっとり落ちついていて、窓の外は夕方だった。 踵にするどく痛みが浮かび、よくよくたしかめると昨日痛んだ場所がぱっくり割れていた。 雪駄までしらべる気にはなれなかったが、もしかすると踵につきだしているのは鋲でなく、どうも牙や角めいた骨かなにかじゃないかしら、ともおもわれた。
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