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RSSフィード [80] 「誕生」する物語
   
日時: 2015/01/11 18:46
名前: 片桐 ID:WTZkbyas

こんにちは。
連休はミニイベントのチャンス! ということで、今日もやります。ええ、やりますとも!

今回のテーマは「誕生」です。
「誕生」をテーマにこれから90分(八時半まで)で作品を仕上げてください。
なお、「誕生」だけでは話が思い浮かびにくいという方は、以下の任意のお題(作中に使う使わないは自由のお題)盛り込んだ話を考えてみる、というのもありです。
任意お題 「嵐」「ハズレくじ」「なめくじ」「乳首」

投稿は、このスレッドに返信する形でお願いします。
その際、トップ画面からミニイベント板に入ってください。そうしないとエラーが出るようなので。また、修正・削除のため、パスワードは忘れないようにしてください。出遅れた、イベント時間は過ぎているけど参加したい、という方はそれでもかまわないので、ぜひこちらに投稿してくださいね (*^^*) 。

それでは、七時になったらスタートですー。

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Re: 「誕生」する物語 ( No.4 )
   
日時: 2015/01/12 01:20
名前: きか ID:Jli51YcQ

みそっかす、そう呼ばれて生きてきました。
優秀な兄たちと、残りもののハズレくじばかり掴まされて生まれてきた俺。
優秀な家族の唯一の失点。
生まれてくる場所を間違えた取り替えっ子。
兄たちを知る大多数の人は、どうして兄たちと同じようにできないのかと、まず苛立ちを俺にぶつけてきます。
不真面目だ。もっと真面目にやれ。手を抜くんじゃない!
けど、その熱意は次第に諦めになり、最後はいつも同情の眼差しに変わるんですよ。
俺だって、努力しなかった訳じゃないし、諦めていた訳でもない。
けど、兄たちと同じようなことをしたくても、俺がやると良くて不格好、ほとんどが失敗で、どうしてかうまくいかない。
『どうして。』
母親から泣きそうな表情で尋ねられても、理由なんて、俺にだってよくわからないんだからどうしようもない。
一生懸命やったし、うまくいかない原因についてだって、同じくらい一生懸命考えた。
俺も家族の一員なんだと認めて欲しかったから、俺なりに頑張ったつもりです。
頑張って頑張って頑張って……。
なのに、どうしてもうまくいかない。
同情されると腹がたちました。
憐れみの視線が憎かったです。
なのに、仲良くなればなるほど、そうした目を向けられることは増える。
それが嫌で周囲と距離をとるうちに一人でいる時間が増え、そのうち俺はいつも一人でいるようになりました。
だって、一人でいるのは楽だったんですよ。
期待されることもなければ、ため息をつかれることもない。
心当たりのないことで叱られることもなかったし、無理に頑張れと励まされることもなかった。
俺は失敗作だから、だからなにもかもうまくいかない。
それは仕方のないことで、どうしようもないこと。
なのに周囲は勝手に期待して、勝手に失望し、ため息をつきながら同情し励ます。
早く学校を卒業して社会人になって、ここから遠くにいくことだけを夢見てました。
誰にも比較されず、失望されない、そんな場所に行きたかったし、そんな場所で生きたかった。
それだけが、当時の俺の望みだったわけです。


インターネットがある時代に生まれてよかったと、心底思っていますよ。
ネットは、現実ではまだ逃げ出せなかった俺に、擬似的な逃げ場を提供してくれました。
混沌とした情報の海のなかでは、俺はなにものでもなく、なにものにもなれた。
HNしか知らないやつらだったけど友達もできて、一緒にバカがやれるのが嬉しかった。
えっと、リアルについて話すことはほとんどしなかったです。
けど、漫画やゲーム、好きな芸能人に流行りの話題、そんなのにまじって、時々冗談混じりで愚痴がこぼれました。
世知辛い世の中。報われない人生。
でも誰も、くだらない、もっと頑張れなんて言わなかった。
だから救われた。
正直、オーバーヒート気味の現実からここまで逃げて、ようやく受け入れられたような気がしました。


ある日、好きなものについて語ろう、と仲間の誰かが言ったんです。
『お前らの得意分野って何よ?』みたいな感じで。
『オレまじで食い物についてなら話せるわ』というやつがいれば、『じゃあこっちはアニメかな、○○とかマジ神』と続き、本とか映画とか時計とか音楽、車に電車に模型にフィギュアと次々にネタがでてきて、それがすごく楽しそうで。
だから、俺も、と続けようとして、ふいに手が止まって気付かされました。
得意とか、好きなもの、が何一つ思い浮かばない、ってことに。
愕然としましたよ。
確か、興味があることならあった気がします。
けど、俺が誇らしげにそれを自慢しても、兄たちは大した手間もかけず、俺よりもっとスマートに、それをこなしてみせる。
俺はただ圧倒されながら、立ち尽くして見守るだけ。
不思議ですよね。
ただ見てるだけなのに、ずっと長い間そうしていると、自分がすごくちっぽけなものに思えて、何もかもにもう手が届かないような気がして、手を伸ばすことすら辛くなってくるんですよ。
俺はそれをどうにかして誤魔化したくて、興味がなくなったと嘯いて、俺にも家族にもそれ以外のみんなにも、なかったことにしようとしました。
元々本気じゃなかった。
だから辛くなんてない。
もう興味なんてないんだから。
そしてそれはうまくいって、いつしか本当に、自分自身、何に興味があったのかさえ思い出せなくなった。
つまりは自業自得なわけです。
何かに執着したことをしめすようなものはないか、部屋を見回しても、目にうつるのはわりと物がなくシンプルな、だけどありきたりでよくありそうな、それだけの部屋。
特に目を引くものもなければ、引っ掛かりを覚えるものもなく、しばらく真剣にその何かについて考えてみたものの、ふいになにもかもめんどうになって、俺は丸投げして周りに聞いてみたんです。
『なあ、俺の得意分野ってなんだと思う?』
しばらくあれこれ下らない冗談でまぜかえされた後、オチのように、
『あーまあ妥当なトコで落ち着けるんなら、絵じゃね?』
誰かが言いました。
『イラスト系じゃなくて普通な感じのやつ。こないだ落書き大会したとき、普通に上手いって感じしたからそれで。』
まわりもそうだそうだ、なんかうまかったし、才能あるんじゃね、と同調していくその様子を見ながら、俺は一人固まっていましたよ。
あれはなんと表現したらいいんですかね。
身体中が沸騰して、恥ずかしくてたまらなくなる、あの感じ。
はじめてでした。
俺だって、誉められたことがないとはいいませんよ。
けど、大抵の場合、その後に『だからもっと頑張りましょうね』と言葉が続きます。
頑張らなければならないこと前提での誉め言葉。
努力は認めても、それ以上のものではないという線引き。
だから、無条件で何かを誉められた、しかもそれが、少なくとも俺の方からは親しみを覚えている仲間に、ということが、恥ずかしくて照れ臭くて居たたまれなくて、……嬉しかったです。本当に。
そりゃ上手いって、確かにあのときも言われましたけど、お世辞とか冗談だとばかり思ってて、悪いけど、信じてませんでしたから。
幸せってこう言うことを指すのかって思いました。
認められることがあるなんて思ってなかったから、嬉しくて嬉しくて、ただ嬉しくて。



それで、俺は自惚れて、こうして画家になったわけです。
ね、俺という画家が誕生したのは、ただ誉められたことが嬉しかったから。
それだけなんですよ。
言いたいことですか?
もしも子どもが何かに興味をもったら、無条件で誉めてあげて、ってことぐらいですかね。
自信がついて調子に乗り、手に職をつける俺みたいなやつもいるんですから。
それで生活できるようになるなら、安いものだと思いませんか?

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