三語?え?八語の間違いじゃなくて? ( No.4 ) |
- 日時: 2011/01/01 00:23
- 名前: 千坂葵 ID:ese3TxLs
本題から入ろう。家の前に女が倒れている。 簾のような黒髪で顔を隠し、ドアの前でもたれかかっている女の姿は、ちょっとしたホラーだ。一週間遅れのサンタクロースからのプレゼントとして受け取るにも、タチが悪すぎた。 布切れのような薄地のスカートから、堂々とはみだしている肉付きの良い足に目が行く。ストッキングを着用している様子もなく、つきたての餅のような真っ白い足が、ただだらんと転がっていた。 数分の間、見とれてしまった自分に喝を入れ(勿論茫然としたという意味合いが強いが)、その女を起こそうと試みる。しかし、いかんせんチキンな僕は、かける言葉が見当たらない。体を揺らして起こしてみようとも考えたが、他人様が見た時に、変質者扱いされる気がして、なんとなく気がすすまない。 それに、彼女に誤解され、悲鳴でも上げられたら。そう考えると、余計気がすすまない。 「罷り間違って、マウントパンチなんか喰らいたくないしな……」 現実味のない状況で、現実味のない独り言を呟く。そして僕は、ポケットから携帯電話を取り出し、家にいる妹に電話をかけた。
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「お風呂上りだったのに。お兄ちゃんのせいで湯冷めしちゃったじゃない」 「仕方ないだろ。緊急事態だったんだから」 そう言いながら、石鹸の香りを漂わせる妹に感謝しながら、酒の匂いをまき散らしている女を、僕は布団に寝かせた。 これは、今からちょうど一週間前、女の子が道端に落ちていますように、なんて卑猥な祈りを神様に捧げた、僕への罰であろうか。あぁ、そうだ。きっとそうに違いない。 「……この人、確かうちの隣に住んでる大学生さんじゃない?ゴミ捨て場で見かけた記憶があるんだけど」 妹の言葉に、あぁ、確かにそうかもしれない、と記憶が定かではないうちに、賛同する。 「一度話したことあるけど、近くの大学の文学部って言ってたっけなー。文学少女でも、そんな姿で乱れちゃうのね」 ククク、と笑う妹の声がした。僕は、もう一度女の顔をまじまじと見つめる。何故か目に入るのは、その異様な肌の白さだけだった。 「おーい、そろそろ起きてくれませんかねぇ」 ぺちん、ぺちん。冗談混じりの声と共に、女の頬を軽く叩く。 すると、あーら不思議。白雪姫で言うなら、王子様がお姫様に接吻をした直後の状況が、僕の目の前に颯爽と訪れた。 「お兄ちゃん?どうしたの?」 妹の声は聞こえない。売れない芸人が、ルンバで腹踊りをしている映像が、四角い画面越しに僕の視界に入った。
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「見ず知らずの方の家の前で……あんな醜態を。本当にごめんなさい」 女はそう言いながら、床に頭を付ける。大学生が自宅警備員である僕に、土下座をしている姿は、“シュール”という言葉以外に、該当するものが見当たらなかった。 その姿を見て、苦笑いする妹。僕は、無理矢理笑顔を作り、言葉を返す。 「まぁまぁ。見ず知らずって言っても、お隣さんなんだし。気にしないでください。ほら、頭をあげてくださいよ」 「そうそう。こういうことも、人生に一度くらいありますから」 一度でもあってたまるかよ、と、僕は心の中で高らかに叫ぶ。 顔を真っ赤にして、うろたえているお隣さんの姿を見ると、そんなことは口が裂けても言えないのが、現実である。 「……あの、何があって、こんな大晦日に、あんな姿で酔っぱらってたんですか?」 興味本位でそう尋ねる妹の頭を、僕は軽くこづく。本当なら、多少叱るフリでもした方がいいのかもしれないが、正直なところ、その理由は僕も聞きたかったのだ。 「……今日、彼氏にフラれちゃって。一人じゃさびしくって、ホストの方と一緒にお酒を飲んでたんです」 突然、どんよりとした空気が、家中を占拠した。僕と妹は顔を見合わせる。普段は饒舌な妹も、この急な展開に飲まれてしまったようだ。 「あ、でも気にしないでください。すっごい優しいホストの方だったんで……あ、その人、片桐さんっていうんですけど、彼のおかげで吹っ切れたんで」 えへへ、と続けるお隣さんは、痛々しく笑う。 この空気に耐えられなくなった僕は、僕らしくもなく、状況をぶち壊す一言を放った。 「今年の締めくくりに、蕎麦でも食べに行きましょう」 二人が大きく目を見開いて、僕を見ると同時に、除夜の鐘が遠くで響くのが聞こえた。ふと時計に目をやると、当たり前のように十二時を過ぎていた。 僕は時計の針を戻したい衝動に駆られるも、この騒々しさと共に、新年を迎えることを決意した。
むちゃくちゃすぎる自分に拍手。相当時間オーバーしてます。 次の三語は表現を大事にして書こう。これ抱負。
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