親子丼を作るためにオタク二人と主人公が戦いを挑む物語 ( No.4 ) |
- 日時: 2010/12/31 00:05
- 名前: ウィル ID:D5E4IsqE
三人の男が森を歩いていた。そして、その先頭を歩く篠崎ハヤトは参っていた。というのも、後ろを歩く二人のクラスメートの会話が、あまりにも不愉快だったから。 「つまり、けい《ピー》の面白いところは、あまりにも日常すぎるところなのデス。あまりにも日常デ、それが楽しいのデス」 「いやいや、けい《ピー》はアニメによる成功だって。特に第一期のOPはよかったです。二期は私的には少し残念だな」 「けい《ピー》に限らズ、二期に絶望する人は多いデス。絶望といえば、絶望《ピー》は面白かったデスガ、ほぼ同じ内容の勝手に《ピー》がアニメ化しなかったところをみマスト、ジャパニメーションにはやはり女の子の多さが必要になってくるのデショウネ」 「さっきからピーピーうるせぇっ!」 金髪碧眼、日本語ぺらぺらのエセ外国人、国籍はフランスなのに名前はトーマス。 もう一人は隼人と同じ日本人、鈴木二郎。 二人は先ほどから、ずっとアニメの話をしているため、効果音がずっと鳴り響いている。 「なら、隼人も一緒に話マショー。隼人はハ《ピー》が好きなんですよね。おっと、効果音が入ってこれだけだとわかりませんか? 涼宮ハ《ピー》ですよ」 「知るかっ! てか、俺はアニメなんて見ないって言ってるだろ!」 「またまた、入学式のあいさつで、『普通の人間には興味ない』なんて言うのは、ハ《ピー》にゃんファン以外考えられないって。あそこまで堂々と言える同士はめったにいないよ」 後から聞いた話だが、「普通の人間には興味ありません」というのは、とあるアニメのヒロインの名セリフらしい。 「言っておくが、俺は本気で言ったんだ。優秀な魔術師以外に興味ない。俺に近づくなって意味で言ったんだ。そこにお前たちが近づいてきたから優秀な魔術師だと思い、仲間になったんだ。なのにお前らは――」 「日本人の男性は姉萌えと妹萌えに分かれマスガ、二郎はどちらデスカ?」 「僕はやっぱり妹萌えだね。俺い《ピー》は全部ブルーレイに焼き付けて自己編集バージョンとノン編集バージョンとわけてるよ。あと、DVDは予約済み」 「さすがデスネ。私はお金がないのでブルーレイだけデスガ、いつか全部そろえてみせマス」 「まぁ、金のかかる趣味だからな。でも女に貢ぐよりはマシな使い方だと僕は思うよ。ヒロインは裏切らないよ。桐《ピー》たんは永遠に俺の妹だから」 「うるせぇぇぇっ!」 隼人は力の限り叫び、二人を黙らせた。 「だから、ピーピーうるせぇっ! てか、なんで学校もこんなシステムを作ったんだっ!」
三人が通う学校は日本にある。が、日本にはない。 という、まるでなぞなぞの問題のような言い方をするが、具体的にいえば、日本の位置からいける別次元に彼らの学校は存在する。 昔から、日本には妖怪が存在し、かぐや姫は月からやってきて、鬼が桃太郎に退治されたりしている。それらの多くは童話と呼ばれるものだが、中には事実のできごとが存在し、それらの話は、別次元に迷い込んだ人間、もしくは別次元からやってきた異世界の住人によるものであるらしい。 明治維新のさい、西洋の文化が伝わると同時に、異世界への行き来を制する手段が伝わり、妖怪や幽霊などの魔と呼ばれる存在は、創作物として人々の間に浸透していった。 そして、時代は流れ、異世界の扉をくぐる人間が現れる。 彼らは居世界の魔と交わる術を持つ者として、魔術師と呼ばれることになり、異世界に居る間、特別な力を使うことができることができるようになる。 それは第二次世界大戦時にさらに研究され、超能力研究として、日本だけではなく、ロシアやアメリカでも調べられた。 戦後、その研究は別の形となって残ることになる。
魔術師専門学校。
本来ならありえないけれども、専門学校だけれども、受験資格が中学校卒業している魔術師としての素養のあるものというものだけれども、卒業すれば大卒の資格が得られ、さらに東大卒という嘘の経歴が得られ、さらに願えば国家公務員になれるという。しかも、彼らは幹部コースにのる。 だが、それが事実である。 「というわけで、俺は将来日本を率いていきたい。こんなところで躓くわけにはいかないんだ」 俺は宣言した。それに対し、トーマスと二郎は真剣は表情で、 「アニメを見るなら、やっぱりネット環境は必須だけれども、それはクリエーターに対してどうかと思うんだ」 「確かに、日本の著作権問題には私も心を痛めてマス」 「わかってるな。さすがわが友。さっそく部屋で一緒に過去のドラ《ピー》ボールZのDVDを全部見よう! 改もいいが、Zもいい!」 「だから、ピーピーうるせぇっ!」 この《ピー》というのは学校のシステムの一つで、授業中の私語を防止するために取り入れたシステムである。だが、システム管理者の趣味なのか、なぜかゲームのタイトルやアニメタイトル、ゲームやアニメのキャラにしか反応しない欠陥品だった。ちなみに、アニメキャラと同名の生徒の名前を呼んでも鳴らないところを見ると、単なる言葉に反応するシステムではなく思考を読みとり、アニメ関係だと反応するらしい。 そして、その音はひどくうざい。 「まぁまぁ、慣れてしまえば楽なものデスよ」 「そうだぞ。そもそも、魔術師なんて、オー《ピー》……あ、あれは魔術しの“し”が、武士の士だったか。なら、スレイ《ピー》は……魔導師か」 「うるせぇっ! アニメの話題はもうやめろっ!」 何度目かの叫び声に、二人はようやく黙りこむ。そのころ、ようやく森が抜け、岩山が眼の前に広がっていた。 「ふぅ、ようやくか。さぁ、材料をとりにいくぞ」 今日の授業の課題は、学校の裏の森(埼玉県と同じサイズ)の中の材料で卵と鶏肉をとって、親子丼を作ること。それがなぜ魔術の修行なのかわからないが、とにかくそういうことで、鶏の住むという山にやってきていた。 「ていうか、本当にここに鶏がいるのか?」 隼人がうめくように言うと、後ろで二人が、 「親子丼のような簡単な料理を作るタメニ、こんな山に――まるでアト《ピー》シリーズの採取みたいデスネ」 「あぁ、面白いよな。俺もエ《ピー》のアトリエから遊んでるよ」 「だから、アニメの話題はやめろっていってるだろ!」 「いえいえ、これはゲームデス。PSデス」 「そうだぞ、これは女の子が錬金術士になって遊ぶという」 「黙れっ!」 隼人は二人を黙らせ、山を登ろうとする。岩山であり、道はないため登るのはかなり疲れそうだ 「ここは僕に任せて。浮かぶロープ、君に決めた!」 二郎が荒縄を取り出し、山頂に向けて投げる。すると、ロープの端は山の十メートル上の岩にくっつき、さらに二郎が手を離しても、ロープはちょうど地面から一メートルくらいのところに浮かんでいた。まさに浮かぶロープ。 「説明しよう! 浮かぶロープの原理は――」 「先週の授業で聞いたからもういい」 「デスね。私もアニメの説明やイ《ピー》さんの説明は好きですが、授業の話は好きではありまセン」 「うぅ、悲しい」 こうして、三人はゆっくりとだが、確実に山を登っていく。中腹にさしかかったところで、三人は休憩をとることにした。 「水でも飲みマスカ?」 水差しを持って、トーマスが言う。水差しの名前は無限の水差しといい、出した分だけ水が出てくる。原理としては、周囲の水の空気を集めて水にしているらしい。だが、水蒸気ではなく水の空気を水に戻すため、最初はかなり熱い。 「あぁ、助かるよ。それにしても、早く本当の魔術が使えたらいいのにな」 隼人は注がれた水に、氷滴と呼ばれる水薬を一滴入れる。すると、沸騰していた水が冷たい水にかわった。 熱いお湯に一滴たらすと冷たい水に、冷たい水に一滴いれると氷に代わるという薬だ。間違って飲んだら体が凍って即死するか仮死状態になる。 魔術師の一年生は、こういう簡単な魔法道具を使うだけで、俗にいう魔術、超能力の類は使えない生徒が多い 「じゃあ、そろそろ鶏を探すか。親子丼作らないとな」 とそのとき、影が動いた。 「あれ? あれって鶏?」 二郎が言う。トサカのようなものがみえる 「いえ、トカゲデスヨ」 トーマスが言う。確かに、トカゲのしっぽも見える。 そして、彼らの意見がどちらも事実であるから…… 「やばい、鶏ってこいつのことか! 逃げろ、岩陰に隠れる!」 隼人は駈け出し、近くの大きな岩の陰に飛び込む。二人もそれにならってやってきた。 「なんデスカ? 隼人サン」 「あれは……コカトリスだ」
コカトリス。トカゲと鶏とをあわせたような姿の生物。架空の生き物といわれるが、異世界に実在し、コカトリスが見たものは岩になるという。 「なんで、あんなものがここにいるんだ?」 隼人がうめくようにもらすと、二郎は冷静に 「いや、確かに一年生向きだよ。コカトリスはヒトを岩にする。岩になった人は先生が元に戻すことができるから死ぬことはない。だから、ある意味じゃ安全なんだけど、岩になったら困ることが一つある」 「なんだ、それは……」 神妙な面持ちで隼人が訊ねる。 二郎は静かに口を開いた。 「先生が来るまで三日、僕は明日の深夜アニメの録画予約をしていない」 「Moi aussi(ワタシモデス)!」 「そんなことかぁぁっ!」 二人の、真逆の叫びが岩山に響いた――それが引き金となった。 コカトリスが、金切声をあげて、こちらにむかって突進してきた。 「僕が囮になる! 隼人、作戦を考えてくれ」 「おい、二郎!」 言うや否や、二郎が岩陰から飛び出し、別の遠くの岩陰へと隠れる。それで、コカトリスはそちらに向かうはずだった――が、 「え、おい! こっちだ!」 二郎が叫ぶが、コカトリスは一向に方向を変えず、隼人二人に向かっていく。 「くそっ! 聞け! ご《ピー》様二宮君、まほ《ピー》、フル《ピー》パニック、伝説の《ピー》お伝説」 不快な効果音が山中ひびきわたった。それに反応し、コカトリスが向きを変える。 それをみて、二郎も移動をしながらさらに叫び続ける。 「生徒会の《ピー》存、スレイ《ピー》ズ、ギャラク《ピー》エンジェル」 「どうして同じ出版社のラノベのアニメばっかり言うんだよ、あいつは」 隼人がうめくように言うが、同時に考えていた。 こちらの道具は浮かぶロープ、氷滴、無限の水差しだけ。 「無限の水差しの熱湯をかけるというのはどうデスカ? コカトリスは変温動物ですから有効デスヨ」 「いや、かけるまえに岩にさせられる。氷滴を食べさせるのも同じだ」 「うぅ、八方塞がりデスね」 三つの道具。これらがあるのには理由があるはずだ。倒せない相手に対して先生は課題を出さない。 「……一つだけ手がある」 俺は生きてるロープを反対側の岩になげた 「二郎! このロープの下をくぐってこい!」 「わかった! 鋼殻の《ピー》オス」 二郎は叫びながらロープの下をくぐる。 「でも、こんなロープ、コカトリスなら十分に飛び越えられるぞ」 「それでいいんだよ。トーマス、いけ!」 「わかりまシタ」 コカトリスが威嚇の声をあげながら、おいかけてきて、ロープを飛び越えた。その着地点も確かめずに。 「凍ってる!」 二郎が思わず叫んでいた。そう、水差しの水を地面にぶちまけ、氷滴で凍らせた。 コカトリスはそれに足をとられ、思わずその場に転ぶ。 「いまだっ!」 隼人はそこで氷滴を一粒投げた。 それはコカトリスの口に入り、コカトリスは寒さで動けなくなっていく。 「よし、終わった」 勝った。そう思った瞬間、コカトリスは悲鳴をあげて、こちらにやってきた。 しまった、こんな近距離で見られたら、 「危ないデス!」 隼人が伝えた最後の手段。 透明度の低い氷を作りだす。それは鏡のように光を反射し、そして――
気付いた時、コカトリスは岩になっていた。
「勝った」 「ええ、勝ちましタネ」 「あぁ、勝ったよ」 勝利の余韻にひたる三人。 「二郎、トーマス、助かった、二人のおかげだ」 「いえ、隼人サンのおかげデス」 「隼人、ナイス判断だ。おかげで録画予約ができる」 「じゃあ、チームワークの勝利ということで、コカトリスの卵をさがして、あと肉を――」 隼人は気づいた。 「肉……石になってるじゃん」
こうして、三人の最初の課題は失敗に終わった。 一応、コカトリスを倒したことで及第点扱いだが。 「俺の課題がぁぁぁっ!」 「録画予約間に合いそうだぁぁぁっ!」 「よかったデス!」 三人の叫び声は山に響き渡った。
後日談 「そういえば、よくあのアニメのタイトルが同じ出版社だとわかりマシタネ」 「俺、ラノベだけは読むからな」 「やっぱりあなたも仲間デシタカ」 「二郎には黙っとけよ」
|
|