Re: 虹色戦隊TCレンジャー! ( No.4 ) |
- 日時: 2012/05/20 23:18
- 名前: 星野日 ID:FBM17ugk
桃色 ******************* 春の音擦れ *******************
分厚い靴底にふまれて、雪が音をたてる。 右足、左足、右足、左足、…… 「なーいなあ……」 呟きは、雪の中に吸い込まれてしまった。ときどき遠くで、樹に積もった雪が落ちる音がする。 銀世界という言葉を考えた人はすごいと思った。色も温度も、そして感触さえたしかにこの山は銀世界なのだ。 「早く見つけないと」 汗を拭いて、左足、右足、左足、右足、…… まったく。雪が憎らしいくらいに光を反射して辺りを照らすのに、目的のものが見つかる気配がない。 辺りを見回しても目的の蕾は見つからなかった。
見つけたいのは、ハルノオトズレ。
晴れだというのに、吐く息は白く凍る。 まったく、誰がはじめようと思ったのだろう。 冬の終りに蕾を付ける樹がある。その蕾はハルノオトズレと呼ばれ縁起物と扱われた。村の年少者たちはこの時期に山に入り、冬が終わる前にハルノオトズレを見つけ出す。そんな習慣が村にはあった。 見つけて持ち帰るわけでもなく、村にあったと報告さえすれば良い。嘘をついても誰にもバレることはない。 だからこそ本気で見つけろと、父が言っていたのを思い出す。 左足、右足、左足、右足、左あっ……転んだ。頭から雪に突っ込んでしまった。 立ち上がり、髪、フード、顔、胸、腹と雪を落としていく。あ、鼻水でてる。……銀世界なんかに負けてたまるか。 見つけたと嘘をついてしまおうか。 誰かがハルノオトズレを見つければ、今年のこの行事は終わり。明日から雪山に入る必要はない。 「はあ……そんなのできないよなあ」 だけど、他のみんなが真剣に探そうとしているのを知っているから。嘘を付くことが一層後ろめたく感じてしまう。
山は気まぐれで、日が落ちるのが早い。道に迷わないように、もしも天気が崩れるならばその前に村に帰らなければならない。 少し早かったかなと思いながら下山すると、やはり山に入った者のうちで最初に戻ってきてしまったようだった。だからといって咎められたりはしないのだが、自分がほかよりも頑張っていないように感じでなんだか嫌になる。 「おかえり。どうした、難しい顔をして」 と、通りかかった隣の家のじいさんが話しかけてきた。 「べつに。今日も見つからなかったし、明日も山に入らないとなって嫌になって」 じいさんが笑った。 「えらいぞ、自分で見つける気まんまんだな」 「ち、ちげーよ」 このじいさまは人をからかうのが好きで困る。
次の日もハルノオトズレは見つからなかった。 右足、左足、右足、左足、……おっと。転びそうになった。ふ、雪め、そうなんどもかからないぞ。 昨日歩いていない場所、一昨日歩いていない場所。そして仲間がまだ歩いていない場所。 今日はこっちの山を。見つからなければあっちの山を。 右、左、右、左、…… 歩くのに慣れてくると、ときどき動物が木々の向こうから伺っているのに気が付けるようになった。 雪が積もる針葉樹をよく見ると、リスやムササビが隠れている。
次の日も、次の日も見つからない。 今日も見つからないで終わるかな。 諦めとかではなく、それでも山を嫌いになれず許せるかなと思えるようになった。 木から落ちた雪がころころと転がってできた小さな跡。それとは紛らわしいが、確かに違う小さなあしあと。 白しかない世界だったと思っていたのに、気がつこうと思えば色々なものがある。 銀世界、誰が言い出したのだろう。良い言葉だと思う。空を見あげれば青い。緑色の樹木と、毛皮色の動物たち。雪の落ちる音、風の音、自分の鼓動。こんなに山はキラキラしていたのだ。 右、左、右、左、…… そして、ようやく見つけた。 雪が積もらないように樹に守られた根元に、鮮やかな色のハルノオトズレを。
「お、ようやく見つけたぞ。お前か」
じーっと見つめて。それから微笑みかけた。 鮮やかな樹緑色にまもられて、中心が可愛らしく色づいている。 綺麗な色だな、と思った。
===================== 「桜色」というお題をもらって、この言葉を作中に入れるのはなんかまけた気分になるのであえて入れない……!! 花が桜色とかではなく、この小説の雰囲気から桜色っぽいものをかんじとれたらいいな!いいな!
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