受け継いだ仕事 ( No.4 ) |
- 日時: 2010/12/25 23:55
- 名前: 水樹 ID:rrR7sH62
「豆炭」「誰のために」「サーチライト」「麻痺」「クリスマスってあったっけ」から三つ選びました。
「わしは体力ともに限界だ、引退を決意した。南の島で隠居する。人に何を言われようがもう決めた事だ。後はお前に託すとしよう。今回はお前一人で達成してみせろ、見事成し遂げたら一人前と認めてやる。後を継がせてやるからな」
親父の時代とは違う。 今はコンピューターの自動セキュリティが完全に管理している。侵入するのも無謀と言っていい、ただし今から侵入するのには。 男は半年前から侵入に成功していた。セキュリティの一員として家の警護の職を得ていた。 真面目に働いていれば信頼も得る。時代に遅れない為勉強もした。管理システムを一人でもこなせるようになっていた。給料も結構良かった、別に後を継がなくてもいいなと息子は思った。こんな事、誰の為になるんだ? このまま安定した生活が続けばいいじゃないかとささやかな幸せを噛みしめていた。 当日、息子は選択を迫られていた。 親父の代で終わらしていいのだろうか、今時、こんな仕事は時代遅れもいい所だ、今は安定した生活が第一だ。時間が刻一刻と迫ってくる。無情にも時は進む、男は決断をしなくてはいけない。 「ああ、畜生ッ! こっちからこんな仕事は願い下げだ。このままいつも通り自分の仕事に専念しよう」 悪態を吐きつつも、律義にこなそうとする自分の姿勢に嫌気がさしてきた。これも血と言う訳か。男はため息を深く吐いた。 男はいつもの見回りをする、振りをしてとある部屋を目指す。荷物を持っていて隠れようがなかった。 「お前が持っているのは何だ?」 監視カメラ越しに見られ、警備主任にイヤホンで言われる。 「ご主人様が明日の早朝まで移動してくれとのアンティークです」 「結構重そうだが、手伝おうか?」 「これが驚く事に物凄く軽いのです、すぐ戻るので他を見ていて下さい」 「OK」 上手くやり過ごした。 メイド、執事、皆が寝静まっている。廊下に敷かれている高級絨毯を踏む、ギュッとなる 足音が耳に入るたびに、緊張を生み、尿意を催す錯覚が起きる。なぜ、今日この日じゃなくちゃいけないんだろう、いつもの疑問はこの仕事に専念する為に思わなかった。 広い豪邸、部屋の把握、下調べの準備は万全だった。 カメラの死角も完璧だった。警備主任のつまみ食いの時間と同時にカードキーを通し、部屋に侵入。後はただこの荷物を置いておさらばだ。 「お兄ちゃん、どうして私の部屋に居るの?」 この家の主人の娘、五歳の女の子はこんな時間まで起きていた。荷物は咄嗟に廊下に投げた。 「ああ、何か物音が聞こえたからね。怪しい人がいないか見に来たのさ、安心して布団に入って寝ようね」 「お兄ちゃん、その人捕まえちゃだめだよ。その人はサンタさんだからね、見逃してあげてね」 男は女の子を布団で寝かし、照明を消す。暗闇の中、手にあるサーチライトを上手く照らし、どうにか荷物を、無事に女の子に知られないように部屋に置くことに成功した。 一人での初仕事、言いしれない疲れが男を襲う、神経、身体中がしばらく麻痺し硬直する。 女の子の欲しい物、とうに絶滅したペンギンのぬいぐるみ、二メールはある巨体でモフモフだ。 それが女の子の希望の品だった。 この時代、サンタを本当に信じている子供は一人だけになった。たった一人のクリスマス。 受け継いだ仕事は一年に一回。 この子供が大人になるまでは続くだろう。 そのまた子供が信じてくれることを祈りながら、男は闇夜に姿をくらます。 聖夜の帳に、シャンシャンシャンと忘却の音をたてて。
新サイトおめでとうございます。 これからも隙を見ては参加させていただきますね。
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