Re: 深夜の一時間SUN-GO ( No.4 ) |
- 日時: 2011/10/24 01:23
- 名前: 弥田 ID:MnToiO8k
夜、コンクリートがむき出しのままの狭い部屋で、隅のほうにあけすけと背をあずけながら、友人のことや先輩のこと、それから姉のことなどを考えているうちに、やがてひとつの風景が、茫漠とした寂寥に色濃く彩られた風景が、すなわち無限に広がる砂漠に、一匹のピンク・フラミンゴが一本足で立っている、という、そんな風景が浮かんでくる。 なにがそんなにさみしいのか、僕にはわからないけれど、とにかく浮かんでくる。 意味もなく携帯を触っているが、画面などは見ていない。誰かからメールがくるわけでもなく、ただ重みだけを感じている。アンテナを伸ばしたり、閉じたり、曲げたり、伸ばしたり、たわいもないことをしているうちに時間がだらだらとしてくる。極端に薄まって、遅くなる。一秒一秒が長くなり、思考が間延びする。感覚だけがやけに鋭敏で、フラミンゴの羽毛の一枚一枚までよく見て取れる。鳥は僕を見ている。姉もまた、僕を見ている。 姉は僕とは反対のほうであぐらをかいていて、週刊マガジンを黙々と読んでいた。読んでいるふりをしていた。ちらちらとこちらを見てくるのが明白だった。 ――あいつはいつだってそうだ。僕のことを視線だけでさそいやがる。自分ができることを全部把握した気でいるんだよ。高慢なやつだ! 遠くで犬が吠えている。電車の走る音と、だれかの足音と、ネオンサインの点滅と、外の世界は騒がしいのに、この部屋だけはやけに静かだ。物音ひとつしない。 フラミンゴが、姉が、僕をみている。まだ動かないでいられたから、ひたすらにアンテナをいじりまわしていた。貧乏揺すりなんかをしてみる。フラミンゴのと姉のと、ふたつの眼球はよく似ていた。押し殺した感情は、殺意にも似た微熱をともなって、心臓の一等やわらかい部分にまで至るのだ。血管系がひくついて、生温かな血液はよどみなく「充血」する。まだ動かないでいられたから、僕はアンテナをいじっている。 じれったいのか、姉が言葉を投げかけてきた。 「アンテナってさ、その、さ、似てるよね」 僕は無視する。 「伸びたり縮んだり、さ、つまり、フロイトなんかは、なんていうんだろうね」 僕は無視する。 「でも不思議なのはアンテナ自体は受動的な性質をもっているという事実だよね。ふふん、そのもの、というよりはむしろアンドロギュヌスなんかに近いのかもね」 僕は無視する。 「ねえ」 僕は無視する。 「ねえったら」 アンテナをひき伸ばすと、その時だけは気がまぎれる。先輩のことも、フラミンゴのことも、姉のことも、なにもかもが遠くになって、ただ延長するイメージだけが全部になる。僕はアンテナをいじっている。だけどそれもいつまでもつのか。僕はアンテナをいじっている。 なにがそんなにさみしいのか、僕にはわからないけれど、とにかくいじっている。
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