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RSSフィード [21] 別に上手いことなんて言えないけど三語
   
日時: 2011/04/03 22:42
名前: 弥田 ID:novjWFqo

「サックス」「ソックス」「セックス」です。かたかなにまけないにほんじんのいじをみせつけてください。
とりあえず日付が変わるまでで。

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遅刻なんてまったく気にしてないぜ-、と言うとさすがに嘘になりますごめんなさい。 ( No.4 )
   
日時: 2011/04/04 01:13
名前: 弥田 ID:P4BE6jWk

 サックス、ソックス、セックス。の、リズムにのって一歩、二歩、三歩。わたしは路地を飛び跳ねるようにして歩く。サックス、ソックス、セックス。ぶつぶつと呟きながら、右足を出し、左足を出し、また右足を出した。ひどく薄暗い通りだった。空にまで届くような高い高い塀ばかり続いて、他にはなにもなかった。どうしてこのような場所を歩いているのか、それは分からなかった。
 足音がやけに響く。暗がりが霧のようにたちこめている。あの塀の向こうにはなにがあるのだろう。考えてもわからなかった。獣が低く唸るような、工場の稼働音のような、ある決まった周波数の音が轟き続けて飽和していた。
 サックス、ソックス、セックス。わたしは歩く。歩き続ける。右足を出す。左足を出す。そのたびに、視界の底になにかがちらつくのだった。下を見た。それは脚だった。太ももの付け根までが剥き出しになって、それは脚だった。それまでそうとは気付かなかったが、わたしは全裸だったのだ。ただ紺色の靴下と真っ赤なナイキのスニーカーだけを身につけていた。他はなにひとつつけていなかった。歩くと脚の筋肉の機微がよく見て取れた。陰影のコンストラストの移り変わりが美しいと思えた。裸の脚がこんなに露骨に性的だとは、いままでずっと知らなかった。持ち主であるわたし自身を誘惑するほど、その脚は魅力的であった。
 ずっと裸でいられたらいいのに。そう思った。恥ずかしくなんてない。どうせ、みんな脚しか見ないさ。この薄い乳房も、濃い陰毛も、地味な顔立ちも、なにもかもが意識の隅に追いやられて、わたしの実在は脚だけとなることだろう。美しいものは醜いものを駆逐する。そうして二本の脚は人々に監視され、より美しくあるよう気を張り詰めて演技している。上半身であるわたしはそれを眺めながら、ずっとへらへら笑っていればいい。乳房も、陰毛も、顔立ちも、みんなにへらと表情崩して、呆けたような輪郭線で宙を漂っていればいい。それでいいのだ。それでいいのだ……。
 サックス、ソックス、セックス。取り憑かれたように、わたしはひたすら呟いている。同じリズムで足音が響く。
 ふいに行き止まって、袋小路にでた。向かって正面にただひとつ、小さな扉があった。いや、別にちいさくはなかったのだ。しかし塀の途方もない巨大さと比べて、それはあまりにもちっぽけに見えた。
 わたしはドアノブを握った。右に左にぐるぐると回してみる。鍵はかかっていないようだった。数瞬だけ逡巡して、思い切って開けてみた。扉の向こうは一枚の鏡だった。よく磨き上げられた、綺麗な鏡だった。そこにはマネキンが映っていた。無表情でこちらを見ていた。薄い乳房、濃い陰毛、地味な顔立ちがのっぺりとして不気味だった。
 マネキンは本来脚のある部分がもぎとられていた。そこから生身の脚が生えていた。とても形のいい脚だった。
 にへら。と笑おうとして、うまくいかなかった。なんだか頬の辺りが硬直してしまったようだった。もう一度頬の筋肉に力を込める。しかし、やはり笑えないのだった。泣きそうになりながら、わたしは、何度も何度もくりかえし笑おうとした。そんなわたしの様子を、鏡に映るマネキンが虚ろな瞳で見ていた。

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